第22話 ダンジョンの意地悪
「幸い頭を直撃しなければ、即死はないが、かなり苦しいらしい」
会長の話を聞いて、皆想像したようだ。
鉄の棒。串刺し。
皆の表情が、うわあとなる。
「まあ、このスイッチを踏んで行こう。真ん中に串の跡が無いのが正解だ」
飛び石を踏む。周りに串がガッシャンと落ちてくる。
また、飛び石を踏む。周りに串がガッシャンと落ちてくる。
理屈は分かったが、ものすごくストレスが掛かる。
自分以外が踏み始めると一層それに拍車が掛かる。
「先に進んで」
「行きます」
踏み。ほいガッシャン。
皆が、一斉に踏み出せば良いが、タイミングがずれれば、串刺し。
そのため、一歩一歩の牛歩状態。
向こう側まで、距離的には、六メートルくらい。
そして、やっと石畳の切れ目が見える。
だが、嫌な感じがする。
切れ目の所、串の跡が途切れ、その一枚先。石の質感が変化し妙にそろった合わせ目。やばい気がする。
一,二,三。おおよそ九十センチメートルの所に、また妙にそろった目地がある。
「どっちだろう? まあ、向こう側だろうな」
「どうした和。早く行け」
「ちょっと待ってください。此処に罠があるでしょう?」
「うん? 何も書かれていないぞ」
剣の先で叩いてみるが、変化は無い。
一か八かで、手前側三十センチの所を踏みつける。
そして、後ろのガシャンという音を無視して、一つ先の石に剣で力を掛けてみる。
すると、なんということでしょう。バッカンと床が抜ける。
のぞき込むと、先の尖った杭が下から立っている。
それを見た瞬間。お尻の穴がきゅとなる。
微妙に細いのが、苦しめる気が満々だな。
抜くことはできず、死ぬまで苦しめそうだ。
後ろに居る、凪海に説明をする。
「次に踏むのは、この手前側のみだ、その先九十センチメートルは、落とし穴で底から串が生えている。気を付けろ」
そう言いながら、落とし穴の向こう側。
床が怖い。
九十センチメートルの距離が、微妙に確認するにはじゃまだ。
そんな事をしていると、背後の階段上部でゴブリンの叫び声が聞こえる。
かわいそうに、あのゴブリンは、日夜ずっと罠に掛かっているのだろうか。
他に居ないのが不思議だが、居るとのんびり謎解きもしていられない。
そうして、横に凪海が立ち、次にあんず先輩と、並ぶたびに不安がやってくる。
俺なら、重量で罠を発動させれば一気に殺れると考える。自分の中で、色々考えてそれがさらに恐怖を生む。
駄目だ、可能性はある。早急に向こう側を確認する。
何とか手を伸ばし、剣の先で床を叩く。
変化は無い。
背負った修行装備Bを投げてみる。
どさっと、落ちたが変化は無い。
ええい。男は度胸。
落とし穴を飛び越えて、向こう側へ。
無事に着地。周りを確認する。
同じように、凪海も荷物を投げてから、こちらへジャンプ。
皆を待つ間に、周辺をチェックしまくる。
突き当たりの壁。その両側に通路がある。
最初に壁を見ると、例の丸いパイプ跳びだし用の溝がある。
どうあってもここは、串刺しをしたいようだ。
駄目な石にマジックで、×を書いていく。
調べて進むと、謎の空間を残し一回りする。
「どうだ? 先はあったか?」
匠先輩が聞いてくる。
「いえ。この壁。此処が通路によって囲まれているだけです」
「ああ。いかにも、何かがありそうだな」
わいわいと言っていると、皆が無事渡ってきた。
「何とか無事だな」
何故か会長が仕切る。
「この先は?」
「うん? 無いぞ。この距離で、自衛隊は重症者多数で帰った」
「じゃあ探査ですね」
「よろしくな」
うん。気楽なものだな。
通路に囲まれた、うち側の謎空間があるだろう壁を重点的に見ていく。
こっち側の壁には、パイプの出てくる穴が無い。
やはり中は、空間があるのか?
ええ。調べました。
だが何も見つからない。
「ねえねえ。良くある秘密通路で、落とし穴の途中に抜ける通路があったりするじゃない。この落とし穴、そんなのは無かったの?」
遙子先輩が、思いついたようで聞いてきた。
「見た感じありませんでしたけれど、逆から、つまりこっちから向こうは見ていないですね」
「開いてみるか」
そう言って、匠先輩が足を乗せるが開かない。
「こちら側が、蝶番の方なので、向こう側へ力を掛けないと駄目かもしれませんね」
「良し、まかせろ」
勢いよくそう言って、会長が向こう側へジャンプし、勢い余って向こう側へ倒れる。
突いた手の脇や、体の脇に上から落ちてきた串がかすめる。
体は動かさず、叫び声を上げる会長。
「あれは、怖いだろうな」
「まあ。そうでしょうね。会長。何かありますか?」
「ちょっと待て、落とし穴の方を開いてみる」
そう言って、手を床に突く。
ばっこんと床が開く。
こっち側から見ても、通路っぽいのは無いな。
「そっちから見て、どうですか?」
へっぴり腰で、のぞき込む会長だが、何もなさそうだ。
「ないなあ。開いて、ぶら下がった床の向こうにあるとしても、こっちからじゃ見られないしな」
そんな話をしていると、凪海が教えてくれる。
「さっき、その落とし穴が開いたときに、向こうでも音がしたよ」
「それだ!!」
罠を踏まないように、反対側まで進む。
予想に反して、謎空間では無く。奥側に対して入り口が開いていた。
だが少しして、通路は閉じてしまう。
「ねえ、和」
「はい。何でしょう?」
「ドキドキした?」
そう、今何故か横にあんずさんが居る。
「何のことですか?」
「送った、しゃ、し、ん」
「そりゃ、ドキドキしますよ」
「そう。それは良かった」
そう言って、嬉しそうな顔をして皆の方へ戻っていった。
なんだね一体? そんな事より今は通路。
「会長、もう一度開いてください」
俺は叫ぶ。
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