第21話 ダンジョンは、怖かった
「はい此処が問題の、ダンジョンでございます。開口部はビルの壁。普通なら、ビルの中へ入るだけなのだが、あら不思議。裏からは、普通の壁。表にはダンジョン。なあ、不思議だろ。本当に穴があいているんだぜ。あっ、おい待ってくれ」
会長がハイテンションで、変なことを言っているから、さっさと皆は中へ入る。そのうち、入り口にはゲートと壁を造るらしい。
「おう、試作品の剣。使ってみて感想をくれ。少し先調子の重量バランスだ」
「先調子って、釣り竿ですか?」
「似たような物だ。これは、ちょっと軽量版だから、凪海ちゃんが使ってみてくれ」
「ありがとうございます。それでも、ずしっときますね」
「帰る時には返せよ。捕まるぞ」
「「はーい」」
「おっ、中は比較的明るいな」
ダンジョン内は、薄暗い程度。
「あらぁ。雰囲気があるわね」
「「先生」」
「お疲れ、来たら誰も居ないんだもの、びっくりよ」
「えっ、今入ったばかりですよ?」
「えーそれなら、あそこ直線だから、さっき入ったばかりなら背中位見えそうだけど、影も形も見えなかったわよ」
「あーうん。そうなんだ。時間の流れが違う。時計を見てみろ」
会長が、豆知識を垂れ流す。
「本当だ、和の時計と、十五分も違う」
「十五分も遅れてきたのか、教師のくせに」
会長が突っ込む。
「まあ良いじゃ無い。追いついたし」
そう言って、はしゃぐあんずさんを見て、凪海がぼやく。
「あんずさんが、和になれなれしい」
「うん? 前からだろ」
「いえ、まるで一線を越えたように」
そう言って、クンクンと匂いを嗅ぎ始める凪海。
「何か匂うか?」
「和の匂い」
そう言ってじゃれつく。
「はしゃぐのは良いが、罠もあるから気を付けろ」
「あっ、それ」
会長が、無意識に触った壁掛けの燭台が、ガッコンと傾く。
「矢が五本」
注意喚起のため叫び、俺と、凪海が掴んだ。だが、先にべっとりと液体が付いている。
「これ毒ですよね」
「この袋へ入れてくれ。怪我はないな。皆注意しろ」
「危ないのは、おまえだろ」
今度は、匠さんから突っ込みが入る。
ちなみに入る前に、全員防弾のジャケットとヘルメット、それに防刃の手袋とブーツが支給されている。ブーツは釘の上に立てる強度がある。
そういやあんずさんの装備。ああ、匠先輩が預かっていたのか。
「第一ゴブリン発見」
一志が叫ぶ。
そう言った瞬間、何かを踏んだのだろう。ゴブリンの首がいきなり落ちた。
ゴブリンは、ぼふっと消えた。
「ワイヤーソーかな、その柱から飛び出て、反対側に落ちた」
反対側の柱には、ダストシューターのような穴があいている。
のぞき込みたくなるが、やばそうな気配がする。
借りた剣の先を、穴のふちにかける。
キンとかキシャとか言う感じの音がして、鞘にワイヤーが食い込んでいる。
「あぶねえ。予想以上に危ないぞ」
つい口を突いて出てしまった。
「よく自衛隊、全滅しなかったな」
「あーうん警察が、先に壊滅したから。一般市民が入って行方不明になって、探しに入って、半数死んだ。オフレコだぞ」
じゃあ言うなよ。心の中で突っ込む。
道は二手に分かれる。
と言うか、左は何もない部屋。入り口をぐるっと剣の鞘で触ってみる。
何もないようだ。さっきのようにゾクゾクがない。
さっきの穴は、見た瞬間ゾクッと来たからな。
右手の部屋に向かう。
左手の壁際に祭壇が祭られてある。
嫌な感じはないが、気になる。
部屋に入って、右手。祭壇の前は何も無く。奥にも何もない。
「やはりこの祭壇か。他には何もない」
剣でツンツンして、供物台を押してみる。
「がたつくから、動きそう」
「よく分かったな。正解だ」
会長が、嬉しそうに言ってくる。
「馬鹿会長。知っているなら早く言えよ」
「先に言ったら、楽しくないだろう。それと、開いたら階段があるが、一段目をふむと横から、パイプの尖ったのが出て、太ももをえぐられるからな」
しらっと伝えられる、衝撃の事実。
一段目を飛ばし、階段を降りる。
よく見ると、パイプが出る穴がしっかりとある。
直径三センチくらい。
「会長、情報は早めに言ってください」
「仕方が無いな」
「次は、飛び石対決!!」
「飛び石?」
階段を降りたところに、その廊下は静かに存在していた。
まあ廊下だから、うろうろされると困るが。
床は、石が敷き詰められた床。
「うーんと、六つ並ぶ右から二番目が一歩目」
信用できないから、剣で押してみる。
ガシャンと音がして、天井から針が降ってきた。
それも廊下全面。
後から来た人間がミスると、全員死ねる。
「あれぇ。右から二番目だろ」
会長が、首をひねる。
「それって、トラップの印じゃないの?」
「トラップ? ああそうか、和。右から二番目は踏んじゃあ駄目だ」
「そうですよね。ちなみに石に傷が付いたので、多分安全な物は分かります」
そう、さっき針が落ちてきたときに、落ちてこなかった場所がある。
あれがきっと安全地帯。
だが男は良いが、体の小さな女の子には辛くないか?
「次は、桂馬のすじ、左一の前に三でしょ」
「そうだが、そこはトラップだぞ」
「そうなんですよ。トラップの石が安全地帯なんです。その他は針が落ちてくる。そこを踏まずに行けば、行けそうですが、最後に無理が出る気がします」
「おう。よく分かったな。自衛隊壊滅状態の理由だ。最後二メートルくらい、どこを踏んでも落ちてくる」
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