第17話 一志の憂鬱
仲睦まじい和と凪海。
その姿を見続け、悶々とする毎日。
一志は、十七歳の肉体と精神の暴走が始まっていた。
「壮夫。俺は今苦悩している。武道は性慾を調節することには有効である。
が、恋愛を調節することには有効ではない」
「なんだ世をはかなんで、戦争にでも行くのか?」
壮夫が言ってくるが、どこで戦争。ああまあしているな、日本以外なら。
「外人部隊か。それも良いかもな」
そんな話をしていると、晴美と水希がやってくる。
「どうしたの?」
「うん? ああ。一志の性欲が暴走しているらしい」
壮夫がさらっと暴露する、それも女の子に。
「ちょっと待て、おまえなあ」
「違うのか?」
「違わない」
すると、俺は机に突っ伏していたから気がつかなかったが、女の子二人の興味を引いたらしい。
「へー。一志君がねえ。君も成長するのだねぇ。お姉ちゃんは嬉しいよ」
その声を聞いて見上げると、双球の向こうに嬉しそうな水希の顔。
「誰が、お姉ちゃんだよ」
「お姉ちゃんじゃない。あんたより二ヶ月も早いのよ」
「ばばあ」
言った瞬間、嫌な予感がして頭を避ける。
ゴンと重量級の何かが、机を殴る音がする。
「痛いわね。なんで避けるのよ」
「痛そうだから。おまえ、家に来なくなったのに鍛えているんだな。良いパンチだ」
「そう。ありがとう。女の子に言う、褒め言葉じゃないけどね」
「良いだろ、水希なんだから」
「なによそれ。それでどうして突然発情したの? 前にあれだけ…… あっ。いや。そう、あれだけ興味がないようなことを言っていたのに」
見ると何故か、赤くなりながら聞いてくる。
「いやそれがな、家に最近通い出した大学生がさ、ラブラブいちゃいちゃなんだよ」
「へー。門下生で、そんな人が。変わっているね。あんたの所って、すぐ下の急所を攻めて、間髪入れず上を、喉とかの急所攻撃を持って、命を切れって言う感じじゃない。よく分からず通っていたけれど、結構あそこに通うと、危ない人認定されるんだけど」
「くだらん。そんな理由でやめたのか?」
「そうよ。中学校の時に通っているのがばれて、結構な不良達に怖がられていたのを知ったのよ。そんなのじゃ、おっ、お嫁さんにだって、行けなくなっちゃうじゃない」
「……ふーん」
「なによ、その間は」
「おまえは、俺に気があると思っていたんだが、違うのか」
そう言った瞬間、俺以外の三人が驚く。気があるというのは、興味があるという意味だったのだが。
「気がついていたのか?」
「うん? 何のことだ?」
「いや、水希がおまえのこと、好きだって言うこと」
「ちゃおぉ、壮夫くん」
あわてる、水希。
「ちゃおぉってなんだよ。そうなんだ、水希が俺のことを…… すき? 好きって? えっ…… すきぃ」
「そんなに繰り返さないで。そうよ、あれだけスキンシップだって、恥ずかしいのに頑張ったのに」
「出会って、秒でラリアットは、スキンシップとは言わない」
「ラリアットはしたけれど、その後、胸を当てながら、裸締めだってしたでしょう」
「タップしても、やめてくれなくて、幾度か死んだぞ」
「いや反応ないから、気持ちよくないかと思って、もっと力を入れたら。胸だって強く当たるし、気持ちが良いかなっと、思って」
そう言って、ぶつぶつ言い始める。
「水希、さすがにそれは、違うと思う」
晴美から、駄目だしが出た。
「えー。でも、他にどうするのよ」
「えっ。えっとそれは、ちょっと、雰囲気の良いところで、触って良いのよ。とか?」
晴美も真っ赤になる。
「まず最初は、キスから始めて、首筋とか、耳を甘噛みとかからね。盛り上がったら順番に下へ。かな?」
そんな声が聞こえて、皆が振り向く。
すると歴史総合、非常勤講師の三善あんず先生が立っていた。
「なっ」
「なっ、じゃなくて、もう授業始まっているし、ほら皆も注目中よ」
見ると、クラス中がこちらに注目をしていた。
「ほらね。それと、津久見水希さん。スキンシップは優しくね」
「あっ。はい」
そう言って、席に皆が戻っていく。
「じゃあ、授業を始めましょう。歴史総合なんてと思うでしょうけれど、人類はほとんどやることは変わっていないから、歴史を知れば、戦争が起こったときに常勝できるかもしれないわよ。会社の経営もそう。頑張って勉強してね」
そう言って、にこやかに授業が始まる。
「先生かっこいい」
思わず言葉が口を突く。そうして、一志は、地獄の門を開く。
運命のご都合主義な関係に、翻弄されることになる。
いや、一志の怪しい行動に気がついた、水希からのスキンシップと、言葉責めを、受けただけだが。
さてさて、主要な関わり合う人間達は、導かれるように集まり、絡み合っていく。
こういうのを、世では予定調和という。
それを、導くのは神か悪魔か、この時点では誰も知り得ない。
すべては、結果。それを成すことができないときには、何かが、やってくる。
その力は圧倒的で、下手をすると何もなくなる事もある。
大きすぎる力は、時に毒となる。
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