第14話 すべては、俺が悪かった

 彼、竹見君が言うには、俺が凪海の近くに来ると、金色のエネルギーが流れ込むようだ。そして、てんちゃんにも。


 そして、彼、もう一志でいいや。

 一志は、多く居る人たちのように、オーラが見え、最近、気を操るすべを見つけた。

 この方法は、彼の一門で伝わる秘伝書にも書かれていて、幼少期から訓練をしていたようだ。


 最近やっと習得し、モンスター相手に試し切りをしていたという話。

 この公園へは、烏たちと戯れている、凪海の声を聞きつけてやって来たようだ。


「その気というのは、多分俺の念と同じものだろうな」

「えっ、あんたも使えるのか?」

「ああ。石くらいなら切れる」

「本当なら、すげえ」

「本当だ」


 てんちゃんから、恭しく木の枝を献上される。


「その木の枝、特別な物なのか?」

「いや、その辺にあったものだろ?」

「左様でございます」

「だそうだ」

 てんちゃんが、馬鹿にした目で一志を見ている。


「さてと、渡されたはいいが、この公園の石はモニュメントなんだろうなあ。切るとまずそうだ」

 目の前に見えるのは、特産品のアワビと松茸の石像。


「良ければ、家へ来ます? 試し切りの物が用意できますし」

 なんだか、てんちゃん。烏天狗が睨むから口調を変えた一志だった。


「二羽とも、姿を隠せ」

「はっ」

 そう言うと、烏天狗の姿が消える。

「消えた」


「ほら、やたちゃんも、早く」

「ぬっ」

 凪海が言うと、仕方なく姿を消す。


「行こうか」

「こちらです」

 一志に付いて行く途中で、和が渡すポテトが消えていく。


 一志は気になり、見てみる。

 当然姿は見えないが、金色の光が和の横を移動している。

 ほー凄いな、ちゃんと居るんだ。

 一志は、感心する。


 烏天狗達の使うこの技。習得できないかな。色々と便利な能力だな。

 ぐふぐふと、表情が下種な感じに変わる。


 だって、多感な高校二年生。色々と興味はあるが、道場を営む家で生まれ育ち、女の子との付き合いは、あまりうまくない。

 すぐ横にいる、仲の良さそうな二人。

 距離感が、やはり違う。羨ましい。


 一志には気になっている女の子がいる。

 クラスで、あまり目立つ方ではないが、人当たりの良い美人。彼女の周りには仲良しグループがあり、なかなか近づけない。


 津久見 水希さん。グループは男二人に女三人。

 女の子三人、仲が良かったところへ、お調子者の秋山が声をかけた。

 お調子者だが、秋山はまるで秋の山に霜がおりているような、凜とした姿を見せることがある。危険な奴だ。


 津久見さんは、表に出て目立つようなタイプではなく、裏で輝く月のような人。

 表には、天上 晴美(あまがみ はるみ)さんが君臨している。

 多分だが、秋山は天上さんと付き合っている。

 願望だが。


 そんなことを、うだうだ考えていると、家に着いた。

 元々あの公園は、近所だし。


「どうぞ」

 二人と、目に見えないが二匹? を招き入れる。


 その瞬間。

 家の玄関へのアプローチ。いや、家全体の空気感が変わった。

 張り詰める空気というのだろうか?


 普段、部屋から出てこないじいさんが、玄関から飛び出してくる。

「結界が、共振をした。何が起こったぁ」

 そして、こっちを見て固まる。ええ、それはもう見事にビシッと。

 そして目だけが動き、口は開けたままで器用に言葉を紡ぐ。


「一志。そのお方達は、どなたかな?」

「さあ? さっき、そこの公園で知りあった方達です」

「むっ。それは、縁(えにし)という物じゃな。たいしたもてなしもできませんが、どうぞお上がりください」

 そう言って、じいさんが珍しくまともに応対をしている。

 普段は、見慣れない人が来ると、馬鹿にするか、腕試しをするのだが、そんなそぶりがない。


「ちょっと待って、気の使い方を見せて貰う予定だから、中庭へ行こうと思うのだけど」

「ふむそうか。ではこちらへ」

 そう言って、じいさんは玄関から出て降りてくる。

 そのまま、案内を始めた。


 丁度いた、門下生に声をかけて、巻き藁の準備をする。

 和さんは、もう枝を持っていなかったので、木刀を渡す。

「ちょっとお借りするよ」

 そう言って、木刀を持ち。完全に力を抜いた感じで、巻き藁に向かう。


 だが、その歩みの途中から、濃密な力が噴き出すのがわかる。

 見た感じに変化はない。だが、周囲の雰囲気が変わったことは、門下生にも分かったようだ。

 じいさんは、また固まったし。


 ふっと、脱力のまま、木刀を振り上げ振り下ろす。

 それだけで、巻き藁が三つに分かれた。


「こんな感じで良い?」

 さらっと聞いてくる。

 その余裕に、ちょっと腹が立つ。


「凄いな。木刀だぜ。先生より凄くないか?」

 何も知らない、門下生達が騒ぎ出す。

 だが本当に、親父よりも強いかもしれない。

 決まった型がないのか、かなり力ずくな感じがするが、それが動きの軌跡を予測させてくれない。見たところ、下半身にあまり動きが無く、格闘技で言う手打ちに近く、それであのスムーズさ恐ろしい。

 一志は和の行った試し切り。そのすごさに感嘆した。


「あんた、武道は素人なのか? 才能はあるのにもったいない」

「すみません。他の鍛錬はしたのですが。そっちまでは手が届きませんでした」

 いつの間にか再起動したじいさんと、和の会話。それを聞いて愕然とする。

 素人だったのかぁ。


「俺の感動を返せぇ」

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