第13話 神の国。日本。
世界中で、モンスターを撃破する狂った連中のビデオが、話題になり『神風(kamikaze)』や『特攻(tokkou)』がトレンドになっていった。
「日本人を怒らせてはいけない。見ろ、笑いながらモンスターを倒している。奴らは皆クレイジーだ」
確かに、動画公開サイトには、そんなビデオが上がり続けている。
中には、『特攻してみた』とかタイトルをあげて、オークに対し物干しざおの先にナイフを付け、それを持って自転車で特攻する者もいた。
意外とそれは受けて、『特攻シリーズ』が作られていった。
むろん彼は、ドンキホーテだと揶揄されていたが。
そんなことはさておき。
「局長。あのミノタウロスは非常にまずいです。七ミリのNATO弾では効き目がありません。ましてや、そのぉ五・五六ミリMINIMIは、オークにも少し辛いです」
「とは言っても、取り回し等を考えれば五・五六ミリだろう。確か装備重量で倍近かったはずだ」
「それはそうですが」
「ヘッドショット。頭に集弾するなり、工夫しろ。口を開けたときに口腔内に集弾をするとかな」
「分かりました。通達いたします」
防衛関係省庁で、そんな話になっていた頃。
「今回、開眼した力は良い」
木刀を持ち、自身で気と思える力を流し込み。光を纏った木刀で、直径四十センチメートルもある巻き藁を、軽くたたき切る。
この男。家が古武術の道場をしており、幼少から研鑽をしてきた。
モンスターが現れ始め、常在戦場だと祖父に言われて、嬉々として出現場所へ向かって行った。
竹見 一志(たけみ かずし)17歳。
今は、木刀を使っているが、むろん流派には無手や投げ、関節。すべて備えた、戦場古武術。
ある日、学校の帰りに、公園の近くを通りかかる。
すると、『きゃ』とか『やめて』とか言う声が聞こえた。
不埒者か?
そう思い、公園内に足を踏み入れる。
すると、大学生だろうか? ちょっと大人なお姉さんが烏にしてはおかしい。
一メートルを超える烏と、どう見ても怪しい。くちばしを生やし背中には羽が生えた生き物が、お姉さんの周りをクルクル回っている。
「大丈夫か? 今助ける」
そう言って、烏どもに襲いかかかる。
「何やつ」
烏がそう言うと、自身の翼をバサッと振るう。すると、羽がものすごい勢いで飛んでくる。
とっさに、木刀の入ったケースで払い、ケースが切り裂かれてしまう。
「ぬなっ。このケース高いのに」
木刀又は竹刀二本収納用、専用袋八千八百円なり。
隙間から、木刀を引き抜き烏たちと対峙する。
すると、気の抜ける声が聞こえる。
「ちょっと、やたちゃんもてんちゃんもやめなさい。めっ。人様に迷惑を掛けちゃだめ」
「しかし主。こやつの方が先に狼藉を行いまして、我らに対峙しようとしたのです」
「それはそうだけど、普通に見たら襲われているように見えるわよ。だから姿はかくしてと言ったのに。ごめんなさいね。この子達短気で」
凪海はそう言ったが、相手は構えを解かない。
「おまえ何者だ? モンスターを従えて」
体から、にじみ出る念。
むろん。和に比べれば随分とショボい。
「えっ。この子達は普通にペットで、私は普通に大学の二年生だけど」
「面妖な。人に化け、知識を付けたのか? もしかしたら、死食鬼の類いか?」
「違うってば。何この子」
「ええい。黙れ。人の言葉を使うな」
気を纏わせて、横に薙ぐ。
間合い的には完璧で、躱せる訳もない。
巻き藁のように、一気に切断をしたと思った。
だが、烏を押しのけ、もう一匹の面妖な妖怪。ちびっこいカラス天狗が木の枝で木刀を止めていた。
それも、圧倒的に細い枝。
「ふん!!」
木刀を切り返し、隙を見つけて押し込もうとするが、これから自分の振るう剣の軌跡が読まれているように、自身が何故か、その枝に向かって木刀を持って行ってしまう。
「なんだこれは。なぜ」
裏をかこうと、色々試す。
擦り上げてもみるし、突いてもみる。
だが突きでさえ、あろうことか細い枝で受け止められる。
このモンスター、一体何だ?
そう思いながらも、必死で打ち込む。
だが、届かない。
そんな時。
「お待たせ。おまえ達本当に食うのか? 完全に共食いだろ」
そう言って、男が一人その場へ入ってくる。
とてもじゃないが、人じゃない。
俺の、得た能力。
人のオーラと質を見ることができる。
そいつが来た瞬間。
女のほうも、きらめき始める。
金色の光。
これは、モンスターじゃない。
どちらかと言えば、神に近いのだろう。
足が震え、跪きたくなる。
烏天狗は、動きの止まった俺から興味を無くし、その男からコンビニの鶏の唐揚げを貰っている。
だが大きな烏のほうは欲しがらず、光もひどく弱い。
なんだこいつら?
「あんた達、一体何者だ?」
そう聞くと、男は振り返る。
「俺は、普通に大学の二年生だけど、君木刀を構えて危ないよ。こいつらはペットだ。見逃しておくれ」
平然と、そう言っているが、彼から出るプレッシャーはどんどん増していく。
やばい。あわてて木刀を片付ける。
すると、光とプレッシャーが止まる。
さっきまでは、息をすることさえ辛い状況だった。
「俺は、さっき言ったように、大学二年で、井崎 和。そっちは彼女で、出座 凪海。こいつは、ペットでてんちゃんと、通りすがりの役立たずな烏だ」
「なっ。むうう」
よく見れば、烏がしゃべっている。
「俺は、高校二年生。竹見 一志。なああんた達、本当のことを教えてくれ。その金色の光。オーラはなんだ? 普通の人間じゃないだろ?」
「いや普通の人間だろ」
彼はぼやっとした感じで、そう言ったが、俺には絶対信じられなかった。
そして、一志との出会いで、長年の謎が解けることになる。
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