第12話 世界の片隅で、初氾濫が観測される。

 カーテンを抜けた柔らかな朝日の中で、まどろみから覚め、目を開ける。

 昨夜新たな世界を開いてくれた、かわいい凪海がすぐ目の前に居る。

 足下から嫌な気配がするので、視線を落とすと八咫烏が相変わらず睨んでいる。

 

 完全無視をしながら、布団から抜け出す。

 着替えて、てんちゃんに意識を向ける。

 すると繋がりから、状況報告が流れ込んでくる。

 昨夜周辺で、ゴブリン数匹を退治したそうだ。


 軽くトーストし、おかずにスクランブルエッグにハム。

 コンソメスープ。

 コーヒーを入れながら、ネットを漁る。


 『シャーウッドの森から、モンスターの氾濫か?』

「なんだこれ?」

 イギリス、王室林シャーウッドの森を発生源として、昨夜二十二時頃から断続的にゴブリン、ウルフ、オーク、ジャイアント・スパイダー、スケルトン、アンデッドなどが、確認されて、三千体以上が周辺の町を襲った。


 バッドビーやエドウィンストーでは、住民や建物にかなりの被害が出ている模様で、今現在も警察や軍が駆除しているとのこと。


 原因としては、発生部分は国立自然保護区のため、駆除がおろそかになったのが原因ではないかと推察されています。また、これを受けて、各国では森林でのモンスター発生状況を正確に把握する必要があると警告されています。


 当初は、このように駆除忘れかと思ったが、実は大気中の闇の分布に斑があり、ある点以上の濃度になると、爆発的にモンスターが発生することが、知られることになる。


 これは、アメリカ、ニューヨークでのセントラルパーク騒乱発生時に確認された。

 前日までも、ちょろちょろとモンスターは発見されていたが、速やかに駆除されていた。


 ところがその日は、朝から晴れ渡っていた空に昼の少し前。シミのように黒い点が発生。

 そこから、垂れ下がる紐のように幾筋もの黒い霧は空から降りてきた。


 それが着地し、その場で霧散。

 周囲に、怪しく黒い世界が発生をした。

 その霧の中から、奴らは現れ始める。

 それこそ、湧き出した。そんな表現がぴったりだろう。


 あっという間に湧き出すモンスターは、その数を増し周辺を埋め尽くしていく。

 あまりの多さに、警官では対応できず軍が投入される。

 だがあちらこちらからの同時発生により、市民が避難できず、軍もうまく対応ができない。

 しびれを切らし、発砲をした銃弾により市民が怪我をする。

 そして軍と集まってきた市民が撃ち合いになり、騒然とした状態になる。

 情報が錯綜し、人種差別が原因だとか色々な話が出て騒動は広がっていく。


 当然その間にも彼らは湧き出し続けていき、どんどん被害は広がっていく。


 そして、封じ込めに失敗して、橋を渡らせてしまう。

 そして騒ぎが起これば、いつもの焼き討ち状態で、ショーウィンドーが破壊され品物が盗まれ始める。


 そして、隠れていた人たちもモンスターの被害にあっていく。

 見事な悪循環が発生した。

 一九九二年のロサンゼルス暴動を彷彿させるような内容に、モンスター被害が加わり被害は拡大していった。

 また、ゾンビ映画が影響して、噛まれた人が自暴自棄になり暴れたことも被害を大きくした。

 今現在、ゾンビウィルスは確認されておらず、噛まれても他の菌による感染症により発熱。または怪我が主な症状となっている。


 そんな事件は、世界中各都市で発生する。


 むろんアジアでも発生し、インドで発生したときは、人口密度の高い北部では被害がかなり多く、さらに新種。身長が三メートル近いミノタウロスが参戦をしてきた。

 彼は強かった。

 個人携帯対戦車弾。スウェーデンのサーブ社AT-4以外を歯牙にも掛けず、ひたすら人々を殺しつくした。

 また古代ギリシャ神話に従ったのか、彼の持つラブリュス(大きな斧)は凶悪で、車のボディなど紙のように切り刻まれてしまった。



 そんな、世界の状況の中で、モニターを見つめる研究者が一人。

 衛星から撮られた画像の中で、単位面積二十五キロメートル四方を確認し、モンスターとそれ以外を二値化してカウント。

 過去から、最近までプロットしていくと指数関数的グラフが得られる。

 イギリスから始まり、最初は数日で一件だったその発生は、どんどん増えていく。


 期間は短く、同時発生数は倍々で増えていく。

「これは、やばいことになる」

 ある研究者は、大統領のシンクタンクに情報を渡し、ある研究者は、出現予測を立てようと必死になる。


 そんな感じで、世界が焦っている頃。

「モンスターは出ても、魔石もないしダンジョンも発生しない。駄目だよな」

「ああ。魔王もいないしな」

「きっと魔王がいないから、俺に限界突破スキルが降ってこないんだよ」

「そうだよ。ジョブもねえ」

「ジョブは、教会に行って貰うんじゃなかったのか?」

「あー。教会は変更じゃなかったか?」

 ファミレスの一角で、そんな会話がされている。


 この国でも、先日氾濫は起こった。

 だが何故か、驚異的スピードで鎮圧された。


 見つけた瞬間、ネット上で情報が共有されて、すでに作られていたいくつかのクランがオフ会と称してサバゲーのノリで集まった。


 強敵ミノタウロスはロープを足下に張ったりボーラを投げたり、強者はパワーショベルにパワークラブという爪をつけミノタウロスを撃破していく。

 某会社の双腕機が戦っている姿は動画で公開されて、一気に有名になっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る