第11話 凪海のかわいいペットと、かわいいペットな凪海
「この八咫烏。絞めて良いか?」
「えー、ちょっと待って、かわいいじゃない。きちんと言うこと聞くし」
眉毛をへにょっとさせながら、凪海が訴えてくる。
「確かに、おまえの言うことは聞くし、言葉もしゃべる。だが、おまえにじゃれつきながら、俺を足蹴にするんだ。こいつは」
そう言うと、八咫烏は凪海に甘えながら、こちらをちらっと見る。
その目付きは、ざまあみろと言う意思が感じられる。
「もう。やたちゃん。和は私のご主人様なんだから、あなたにとってもご主人になるでしょ」
ご主人様。凪海の何気なく言ったその言葉を聞いて、俺の中で何か心に響くものがあった。
「しかし、主様。こやつは、単なる下等生物。主様が敬うような者ではありませぬ」
「またぁ、そんなことを言って。そんなことを言うから、絞めようなんて言う話になるのよ。うん? どうしたの? 和」
凪海はこちらを見て、俺の変化に気がついたようだ。
「さっき言った、ご主人様。……良い。俺の胸に刺さった」
「ええっ。……ご主人……様?」
「うん。なんだか、ゾクゾクする」
そう言うと、凪海は赤くなりながら、提案をしてくれる。
「じゃあ、二人っきりの時は、ご主人様って呼ぶね」
それを聞いていた八咫烏が、凪海と俺の間に立ち塞がる。
「なりません。良くない感情を、こやつから感じます。きっと、ろくな事にはなりません」
物差しに念を纏わせて、平べったい方でペシッと潰す。
「ぎゃあ。こやつ暴力を。私を叩きました。ええい。かくなる上は、主様仲間を増やしてくださいませ。こやつを、成敗してくれる」
「なんだ、仲間が居ないと駄目なのか? おまえが、俺を倒すという選択肢はないのか?」
挑発をするように、笑いながら問いかける。
「なっ。言わせておけば、我は争いには向かぬ。ただ導くのみ」
「その導きでは、俺と凪海を別れさせるように、する事となっているのか?」
そう言うと、ちっ、という感じで顔をそらす。
「おまえは、主のしもべじゃ。我らと共に、付き従えば良いのじゃ」
「烏の奴は、そんなことを言っているがどうだ?」
そう言うと、凪海は考え始める。
その時、凪海の頭の中では、執事然とした和が、側に控え。優雅にお茶をする風景が浮かんでいた。
「あー。それも、良いかもしれない」
「凪海。何を考えたか知らないが、よだれが出てる」
そう俺に言われて、いきなり現実に戻る。
ハンカチでよだれを拭い、本当に出ていたことに驚く。
「とりあえず、コス用衣装を買うか?」
「うん。執事服買って」
「んん? メイド服だろ?」
「あっ。そうだね」
そう言って、ポチったら、なぜか巫女装束と狩衣がやって来た。
「なんだこれ?」
「わーこれ。コスプレ用じゃない。本物だ」
そこに、烏が割り込む。
「我の力により、よこしまな考えではなく、正しき道に導かれたようだな」
とりあえず、そんな烏の戯れ言は捨て置き。
二人とも、これを着てと不埒なことを考える。
凪海の顔がだらしない。
最近、なんのということはないが、非常に良くなったらしい。
体内で念を錬って、身体強化を使っているのが良いのだろうか?
吹き上がってくるエネルギーが、繋がっているところから、凪海の体へ流れ込むようだ。その感じが凄く良いらしい。
そして、ある日。
烏にねだられ、鶏もも肉でチキン南蛮を作ってみる凪海。
きちんと変化をして、一メートルほどの小さな烏天狗が出て来た。
「なんだか、すこし人間に近付いたな」
そう言って、見ていると、俺と凪海二人に対して跪く。
「主様。この世界に創造いただきまして、ありがとうございます。粉骨砕身務めさせていただきます」
恭しく挨拶をしてきた。
「おう。おまえはかわいいな。凪海、こいつの名前を決めてあげよう」
「あっ。烏天狗みたいだから、てんちゃんは、どう?」
「ありがたき幸せ」
そう言うと、烏天狗の体が、まばゆく白く光る。
「ふむ。素晴らしい。お館様、いえ旦那様。お認めくださり、ありがとうございます。力の繋がりが有り、この無尽蔵とも言える力の流れ。むっ、ですが、少し控えて頂かないと、私が絶えられません。お早く。繋がりを絞ってくださいませ」
そう言いながら、ジタバタし始めた。
すると意識の端に、か細い繋がりを見つける。
「これを、さらに絞るのか」
何とか、意識を集中して、ラインを細くする。
「ぬおっ。ありがとうございます。生誕した瞬間に、亡き者にとなるところでした。まだ過分なれど、修行で何とかなりましょう」
そう言って、腰に手を当てふんぞり返る。
そう言えば、烏がおとなしいな。……と、思ったら、目を丸くして固まっていた。
「どうしておまえ、後から生まれたのに」
愕然としながら、烏がてんちゃんに問い始める。
賢いてんちゃんは、烏の言わんとしたことが分かったのだろう。
おまえはどうして、主様と繋がっておらんのだ?
「主様となら、繋がっておる」
じっと烏を見て、ふっと笑う。くちばしだから、分からないけれど多分。
「繋がっておらん。そちらの主様は、我らを産み育てるお方。力は旦那様から頂かねばならん。おまえは繋がっておらん。いわゆる半人前じゃな」
烏だから、顔色は分からないが、真っ赤になって怒鳴る。
「そやつなど、主の優しさに付け込む穀潰しではないか。どこに従う謂れが在る」
そう、言い切る。
それを聞いて、てんちゃんはあきれたような顔をする。
「おぬし、ひょうっとして、力が見えておらぬのか? 旦那様からの、まばゆいばかりの神気を。ちょっと待て、わしが一時的に分けてやる」
そう言うと、てんちゃんから、烏に向かい金色の光が飛んでいく。
「馬鹿野郎。加減をせぬか。弾けてしまうわぁ」
「それしきの力で、はじけるか? ひ弱な奴め」
てんちゃんがそう言ってあきれたとき、烏は固まっていた。
やがて、ぷるぷると震え始める。
「うそだ。そんな馬鹿なぁ」
そう言って、あわててぴょんぴょんと跳ねて布団へ潜り込む。
毛布の上からでも、ガクブルが見える。
烏が来てから、威嚇をするものだから、数日御無沙汰だったが、やっと静かになったその夜。メイドではなく、ペットな凪海はかわいかった。
隠れてそれを覗き、悔しがる烏だが、まだ俺とは繋がっていない。
多分心の安寧と、得られる力の葛藤で悔しがっているのだろう。
周辺警戒は、てんちゃんがやってくれている。
力が有り余り、寝られないそうだ。
どこかで、狼の遠吠えが聞こえる夜だった。
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