第8話 数日後
「DNAの結果が出たわ」
妙につやつやした感じで、あんず先輩がやってくる。
PCRで、増幅して公共のデータベースでチェックをしたけど、マッチ率が低くてSDSつまり電気泳動を掛けると、四十二・四キロダルトンくらいの分子量にバンドが出るし六十六・二八七キロダルトンくらい位にもバンドが出る。鳥類に同じようなデーターがあったわ。
よくわからんが、鳥だったと言っている様だ。
そもそも、それの元は、鶏もも肉だ。
すこしして、匠先輩がやってくる。
ひどく疲れた感じだ。
「何かお疲れですね」
そう言うと、じろっと睨まれる。
「おまえのせいだよ」
分けの判らないことを言われる。
「何がですか?」
そう言うと困った顔になる。
「俺もよくわからんが、おまえを見て、あんずの女としての本能に火が付いたらしい。おかげで、昨日はずっとやっていた。俺は疲れた。寝る」
「なんだ、その理不尽は?」
そうぼやくと、すすすとあんず先輩が近寄ってくる。
当然、凪海がブロックをする。
「もう。少しくらい良いじゃ無い」
「駄目です」
「けち。そんなに良いの? お姉さん気になっちゃう」
そう聞かれて、凪海は真っ赤になる。
「そうですね。とっても良いです」
そう言いながら、てれてれ、もじもじしている。
「まーそんなに良いものを独り占め。やあねえ、奥さんたら。飽きたら誘ってね」
「飽きません」
凪海。きっぱりと宣言をする。
「そう? 残念。男と違って女は相手が変わると、随分違うわよ」
「ちょっと待って、変な方に凪海を誘わないで」
つい、間に割り込んでしまった。自分で、自分の態度に驚いてしまった。
そうか。嫉妬をするのか。自分の中でそんな感想が湧いてくる。
「そう言えば、和君はどんな力を持っているんだ?」
「今のところは、念ですかね」
「念? そりゃ昔懐かしのバンパイヤハンターか? 木刀で石でも切れるのか?」
少し笑いながら、匠先輩が聞いてくる。
「はい。切れます」
素直に答える。
匠先輩は驚き、ソファーからずりこける。
ズリ転けた際、悪さをしていたのか、あんず先輩の足首まで下着をずらしたようだ。
思いっきり頭をぶん殴られている。
匠先輩は、頭を抑えながら聞いてくる。
「それって、見せてもらえるか」
「ええ。大丈夫です」
すると何故か、隣の部屋から一抱えもある石が出てくる。
「あっ。それ、私の漬物石。苦労して見つけたのに」
「また持ってくるよ。ほら、三十センチメートル。何の変哲もない物差しだ」
そう言って手渡してくる。
すでに、幾度も試したことのある技。
気負うこともなく、スコンと石を切る。
下のテーブルには、触れることなく物差しを停止させる。
一瞬遅れて、ごろんと二つになった石が転がる。
「こんな感じです」
見慣れたせいか、凪海も驚いてくれなくなった。
目の前に居て、目を見開いている、先輩二人の反応が久しぶりで楽しい。
切断面を、指で触りながら、物差しでコンコンと石を叩く匠先輩。
「いや凄いな。見事に石の切断面。鏡面だぜ」
ふーん。という感じで、匠先輩が悩み始める。
「俺も赤のオーラで、力はあると言われていたんだが、これと言って力は無かった。だが、炎に関係のある力が、何かあるのだろうか?」
そう言いながら、真面目な顔をして、石をいじる。
やがて、何かを思いついたのか、パタンと切断面を机に伏せる。
その形だけで、先輩が思いついた、何かを理解する。
「僕は毒されてしまった」
つい口に出た。
「どうしたの?」
凪海がかわいく聞いてくる。
「いやさっき、何かを思いついたように匠先輩がな」
そう言って、石を指さす。
匠先輩は、隣の部屋へ行ってしまっている。
さて戻ってきたその手には、アクリル絵の具や新聞紙。
消しゴム。やカッターナイフ。
「やっぱり。おバカは放っておいて、喫茶コーナーでも行こう」
凪海の手を取り、部屋を出る。
匠先輩の、傑作は一時間ほどで完成したそうだ。
シャドウまで入れて、かなり気合いが入っており。先っちょは、触感を大事にして消しゴムで細かな造形で作られていたようだが、あっというまに捨てられたそうだ。
あんず先輩が、あるものとの共通点を見いだし、アクリルのため消そうとしたが色が落ちず、洗剤をぶっかけて雨ざらしにしたらしい。
匠先輩はリアルあんず先輩のものを、再現していたそうだ。
適当に割った石のため、大きさが立派だったことに、余計に腹が立ったらしい。
そして、数日後。
「おーい。あんず。おまえの胸が落ちていたぞ」
藤原会長が、抱えてきたのは例の石。
「どうして、私の胸と言えるのよ?」
「だってほら此処。六芒星のほくろ。昔からおまえ、見せびらかしていただろう。中学校くらいまで一緒に風呂に入って居たし」
そう言われて、がっくりと膝をつく。
あんずは思い出す。そう言えば昔こいつのことが好きで、興味本位で見せ合いっこしたっけ?
仲の良すぎた、幼馴染みほど、やばいものは無い。
まあ今だに、好きと言えば好きなんだけど、近すぎて兄妹に近いしなぁ。
幾度か、興味からエッチもしたけど、恋人へは発展しなかったし。
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