第5話 謎の集団

 奥へ行くと、古い文献や書物が山積みになっている部屋。

 その一角にドアがあり、中にはロッカールーム。

「さあ、どちらが良い?」

 にこやかに差し出されるのは、狩衣と水干。

 顔は笑顔だが、目が笑っていない。

 着ないとわかっているな。と、言う感じが伝わってくる。


「じゃあ狩衣で」

 狩衣と水干は裾を袴の外へ出したのが狩衣。

 水干は上位 の裾を袴に着込めて着用。

 よく見る陰陽師は狩衣。


 諦めて、着替え始める。

 ただ、どうしてじっと見ているのかが判らない。


「君、家業は神官とか住職さん?」

「いえ。普通のサラリーマンのはずです」

「ふーん」

「何かあるのでしょうか?」

「いや。そう聞けば、意味ありげに聞こえる?」

「あーまあ、そうですね」

「ふむ」

 そう言って、メモを取り始める。

 『マル秘。かっこいい言い回しとポーズ集』とタイトルが付いている。


 ああ。こういう奴いたなあ。


 そう言ってごまかしたが、実はこの時。部長は僕のオーラを見ていたらしい。

 金色の光が煌めいていると後に語ってくれた。

 ああ、部長って一応凄い人だが、駄目な人という点は間違いない、駄目な人なんだよ。

 言葉の中に、我らは選ばれし者とか、封じられた力がと言う言葉が混ざる。


 困ったことに、それがたまに本当だったりするから困る。

 九割ほどはその場の雰囲気。後一割が当たる。


 着替えが終わり、さっきの部屋に戻るが、途中に積んである本達は、日本史関係とと妖怪関連。陰陽師関連。自己啓発と能力開発。神道と仏教。厨二病のセリフと決めポーズ大辞典。潜在的超能力開発。マインドコントロール。詐欺の常套句と論破法。催眠術入門。等々。


「あのう、聞いても良いでしょうか? このサークルって、一体何が目的でしょうか?」

「目的? ああそうだね。元々は、日本史研究会だったんだ。僕の名前も藤原だし、子どもの頃から歴史に興味があってね」

「へー。藤原さんなんですね。名前」

「そうだよ。言ってなかったかな?」

「ええ、聞いていません」

「おかしいな。ずっと、念を送っていたのに」

 本気だろうか? 冗談だろうか? 判断が難しい。


「それでまあ、高校時代から友人だったあんずと、このサークルを立ち上げてね。だけど、立ち上げるときにすでに日本史研究会が在ったから、陰陽師研究サークルとして立ち上げた。つまり、真の姿は日本史研究会なのだよ」

「元々あった、日本史研究会に混ざるのは考えなかったのですか?」

「あいつら、おかしいんだよ。発掘までするんだぜ。一度参加をして、そこを踏むなとか、くそ熱い中、地面に這いつくばって作業をして。最後お疲れさんで解散なんだ。ちっとも楽しくなかった。言っていることも、今は縄文が熱い。人類最古の文明だぁーって。おかしいだろう」

「まあ、なんとなく」


 そう言いながら、最初の教室に戻ると、凪海とあのコスプレ女の子達が居なかった。きっと、俺と同じでコスプレ中か?


 そう考えていると、奥の準備室と書かれた部屋から三人が出てきた。

「どう? 彼氏。彼女の玉藻前コスは?」

「うんいい。同じ格好だと、際立つなぁ」

 つい素直な俺は、言ってしまった。


 ミニの着物を着ている人は、どちらかと言えば童顔で、背も低い。

 もう一人の玉藻前コスをしている人は、背も高く大人っぽいが、胸とお尻ばかり大きくバランスが悪い。

 凪海は、修行しているのでメリハリがあるし、バランスが丁度良い。

 彼女贔屓だろうか? 僕はそう思い。ついそのまま口にしてしまった。


 当然だが、室内に緊張が張り詰める。

「そうそうよね。彼女さん、若いし体も締まっているし」

 もう一人の、玉藻前コスの人が感想を述べる。なんとなく声が震えているけれど。


 藤原さんが、この空気の中、声を上げる。

「まあ。なんだ。自己紹介をしよう。俺は代表の藤原 文仁(ふみひと)。藤原不比等から名前を取ろうとして、父さんが母さんに殴られ。文仁になった。4年生だ」

 藤原さんは身長百七十センチメートルほど、痩せ型でめがねを掛けた一見真面目そうな人に見える。イメージは、非常識な超人達の織りなすテニス漫画の部長のようだ。ツーブロックで、目にかかる程度。


「俺は、阿倍 匠(たくみ)だよろしく。飲み会ならいつでも誘ってくれ。以上」

 阿倍さんは、僕とおそろいの狩衣を着ている。身長は百八十センチメートルを越えているだろう。

 がっしりしたスポーツマンタイプ。だが、髪は少し長く後ろで結んである。


「私は、三善 あんず。よろしくね。このサークルの補佐。このコスは、不知火ね」

 彼女は、身長百六十センチメートルないくらい。童顔な感じで、かわいい部類だろう。髪型は、顎先までの前下がりボブ。


「あーえーと。私は、大友 遙子(ようこ)二年。よろしく」

 彼女は、身長百六十五センチメートルくらい。胸とお尻がめだつ体型。男にとっては魅力的だろう。だが、コスの着物の影響かバランスが悪く見える。髪型は肩ぐらいで毛先がクルクルしているヌーディーカラーだろう。


「僕は、井崎 和(いさき なぎ)です。新入生です」

 この時は、身長百七十五センチメートル。六十五キログラムくらいだった。

 髪型は、この時は軽くパーマをあて鼻先くらい前髪があった。ツーブロックで普段は流しているが、滝行時には結んでいる。

 そうじゃないと、痛いんだよ。禿げそうだし。


「私は、出座 凪海(いずくら なみ)です。和と同じ新入です」

 この時、凪海は百六十二センチメートル。体重は秘密だそうだ。カップもBだとか。髪型は、ナチュラルレイヤーボブだが、後ろで結べるくらい。滝行の時は後ろで束ねるから。


「それじゃあ。今日は二人の歓迎会だなあ。二人は付き合っているの?」

「「はい」」

「おおう。即答だね。じゃあ店を決めようか?」

 そう言って、部長達が相談し始めている。


「ちょっと待って。参加すると、決めていませんが」

「良いのかい? 君達困っているのだろう? 不思議分野は僕たちが専門だよ」

「…………」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る