第4話 修行の成果

「あれぇ」

 そんな声を上げるのは、当然凪海。


「うん。きっちりパワーアップをしたな。明鏡止水はどこへ行った?」

「お散歩かなあ?」

 おなじみの、すっとぼけた台詞が出てくる。


「買い物をするときには、何も起こらなかったのにな」

「うん。でもこれじゃあ、食材にも触れないよ」

 そう、買い物から帰って来て、食材を冷蔵庫に移していたら野菜達が踊り出した。

 非常に生きが良い野菜達。


 踊っているにんじんに、爪楊枝を突き刺してみる。

 多少身もだえして、動かなくなる。

「大丈夫そうだな」


 だがパワーアップをしたせいで、凪海はそれからしばらく、食材に触ることができなくなってしまった。


 滝行と、座禅。

 これを、定期的にデート気分で二人は楽しみ、こなしていく。


 高校に入った頃、美味しいものを食べさせたいと言う雑念を、込めなければ普通に料理が作れるようになったようだ。

 本人は、納得ができないようだが、作った後の美味しくなあれビームでも、駄目だという事が分かり落ち込む。


 その頃、凪海の慰めてと言う台詞からのうっちゃりで、僕たちは大人の階段を上り、僕の力も発動をした。


 まあ、僕の力は凪海が五歳の時に使っていたようなもの。

 物を作り、それに力を乗せることができる。

 プラスティックの物差しで、岩が切れる。


 むろん、土人形のような物を作り、操ることも出来るようになった。

 よく聞く、陰陽師の式と思えば良いと思う。

 燃料が必要なく、かなりの遠距離でも操作をすることができる。

 顔がなくても、式の見る物が見えるし聞こえる。

 考えれば、凄く危ない能力。

 悪用禁止だ。


 ただ、二個から三個を操るだけで、頭痛が始まる。

 僕は新人類ではないようだ。


 ただ、その力がある日、とある事故により凪海にばれた。

 床で操作をしていたら、何を思ったのか家へ来るなり、汗をかいたと言ってシャワーを浴び。

 何故か、バスタオルを巻いただけで出てきたようだ。


 そして操作していた式に気がつき、式の前に座り込みやがった。

「なっおまえ。あっ」

「へー。これ、もしかして見えるの?」

「なっ。なにを?」

「今更、和に見られるのは気にしないけど。悪用しないでね」


 どうも、僕の身体的な反応でばれたようだ。

「音も聞こえるの?」

「あーうん」

「自分で移動ができるの、便利だよね。私のは、自立式だから勝手に行動することはできても、操れないし」

 そう言いながら、いつものスキンシップを求めて来始める。


 凪海は、身体的ふれあいが好き。

 他の子と付き合ったことがないので比較できないが、お家の母さんが言うには、凪海ちゃんは甘えんぼさんだね。そう言って、揶揄われている。


 高校の時には、うまくコントロールができはじめて、事件という事件は起こさなかった。むろん今でも、修行デートは行っている。

 毎晩一緒に、向かい合い座禅を組む。


 こうすると、テレパシー的な単純な意識だけではなく、もっと深くリンクすることができる。凪海の温かな気持ちが優しく伝わってくる。

 凪海にも、僕の気持ちが伝わるようだ。


 あっいや。一度あった。

 カッパ肉、と言うものが存在する。牛肉であり、牛のお腹と脂肪に挟まれた部位ですじ肉である。スーパーで見つけた凪海から連絡が来た。

「カッパ肉だと、カッパになるかな?」


 むろん、調理を始めると、フライパンから角が生え始めて、やめさせる。

「せっかくの、肉が角に変わった」

 そう言って、落ち込む。

「残りの部分をやくよ」


 そう言って薄切りの焼き肉にする。

 うん、うまいけど。堅い。

 これは、煮込みのほうが良いかもしれない。

 味は濃厚なんだよ。

 今度、大根おろしで、みぞれ煮でも作ってみよう。


 そんな事があった。


 遺伝子情報に、多少は影響を受けるのだろう。

 牛肉から、カッパは生まれなかった。


 だが大学に入り、お互いの能力が上がると、そんなことにも左右されなくなった。

 無から生み出せる? いや召喚できるような感じとなってきた。

 ただ、生命を司るのに火が重要なアイテムだということは、後に知ることになる。


 大学に入った、すぐ後。

 新歓のサークル勧誘などがあった中で、陰陽師研究サークルなるものがあった。

 おもしろがった二人は、怪しい雰囲気も気にせず、教室へ入る。


 そこには、雅な雰囲気で部員達がコスプレを楽しんでいた。

 雅だが、どちらかというと妖艶? 顔の上だけ狐っぽい面を着けた女の人が、朱塗りの大杯を持ち何かを飲んでいる。

 酒じゃないよな。学内飲酒は禁止のはずだ。

 そのお相手も、女の人で超ミニな着物。

 

「あーうん。何か違うな」

 二人で俯き納得し合う。

 これは気がつかれる前に逃げるべきだ、そう何かが訴えかけてくる。


 部屋から出ようとすると、狩衣(かりぎぬ)を着た男が立ち塞がる。

「おや? 新入生かい? ゆっくりしてお行きよ」

 そう言っている人の後ろから、もう一人。水干(すいかん)を着た人が入ってくる。


「めずらしい。新人か? 飲みに行こうぜ」

「十八歳なので、駄目です」

 素直に拒否をする。

「ああっ? そうだっけ? そんなのいつから決まったんだ?」


 横の狩衣を着た男が突っ込む。

「面倒な決まりは大体令和だ」

「いや、その前でも二十歳だったでしょ」

 思わず突っ込んでしまう。

 狩衣を着た男がにやっと笑う。

「僕に突っ込んだね。さあ奥へ行こう。きっと楽しいよ」

 そう言って、凄い力で奥のドアに引きずって行かれる。


 何故、凪海は嬉しそうに手を振っているんだぁぁ。


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