4-12
「この土地は、チェルム人のものではない。我々がチェルムと協力関係を結びに行った時、大和の発案で、チェルムをチェルムごとすり換えたのだ。この世界は、我々がチェルムをそのままそっくり模倣した世界である。見に行くがよい。この地にいるのは、既に我々ツモの軍だけである」
ああ――と、海斗は内心で息を漏らした。まるで気づかなかった。
旅客機がチェルムに入った時はもう、模倣の世界だったのだ。
何森の合図で、何人かの兵士が確認しに行くためか、走りだしていく。
「模倣とはなんのことですかね」
タロウは細かく説明をする。本当のチェルムは、グァルの惑星の人間が見当もつかないような距離の、しかも安全に人が住める宇宙空間の中にテレポートさせたのだという。
周囲にどよめきがまた、起こった。
「本当のチェルムが受けた空爆は、一度だけ。それでも八カ所に被害は出ている。しかし、その次の攻撃はもう、世界が丸ごと変わったあとであった。それを知らずに愚かなことを貴様らはしていたのだ。カリンツェが実質支配していたのだろうが、そろそろグァル惑星の王にも、話がついているだろうよ」
空爆は、一度はチェルムで実際に行われたのだ。だが、海斗のいない間にタロウたちツモの人々がやってきて、こうした手を打った。被害があっても最小限に抑えられたのかもしれない。
鈴田が少年を殴った偉そうな兵士と、走って戻ってきた。グァルの王がツモに降伏し、ツモの条件を全て飲んで、この模倣のチェルムを譲り受けたらしい。偉そうな兵士は狂ったかのようになにかを大声で叫んでいた。それは誰かに向けて言い放ったことではなく、彼自身の、心のはけ口のようであった。
兵士たちはすっかり士気を失ってしまったように呆然と突っ立っている。
「話はついたな。ここで殺し合いをするなりなんなり好きにするがいい。ただし、我々の模倣したこの第二の土地で殺し合いを始めるのならば、貴様らは自動的に土へと還る仕組みにさせてもらった。そう、チェルム人が禁忌を犯せば土になって崩れ去る、その自然現象を、こちらの土地へ丸々テレポートさせてもらったのだよ。では、貴様らの禁忌をこれから説明しよう」
海斗は内心笑った。メモに書いていた時はどうでもよいと思っていたが、きっと、書いたことをアレンジして実行してくれたのだろう。
何森も鈴田も、黙って聞いている。
「さっき言った殺し合いがひとつ。トゥアの人々を支配的に扱うことがひとつ。本来のチェルムと大和、海斗に手を出さないことがひとつ。これらが貴様らの禁忌だ。土に変える仕組みは、この世界の空気に仕込ませてある。それでもなおこの土地が欲しいのであれば、くれてやろう。さあ、世界に命はもう吹き込まれている。この地を好きに使うがよい。我々が半永久的に貴様らを観察している。土になってもチェルム人をまだ殲滅したいかね? ならば我々が相手になろう。かかってくるならいつでも受けて立つぞ」
太陽が完全に昇り、日が景色を照らしていた。かなりの間沈黙が続いていた。
他の地から、合図が起きることもなかった。
タロウの側近がみんなに向けていった。
「話はこれで終わりだ。あなたがたは星へ帰り、王から指示を仰ぐといい」
「待て。カリンツェは。彼はどうなる」
何森が言った。
「じき、地位を剥奪される。王から一般市民に戻れとの命令がいくだろうよ」
タロウはティアを優しく操り踵を返す。
胃が浮くような感覚が起きた。テレポートだ。即座に振り返る。何森や鈴田、他の兵士たちが立ちつくしたまま口を開けぽかんとしているのが、なんだかおかしく思えた。
飛行機で感じた違和感はおそらく、このチェルムが本物ではなくレプリカだったためだろう。
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