4-10
さあ、一芝居を打ってみよう。緊張で全身が硬くなっていたのをなんとか解きほぐし、寝ぼけた演技をして起きあがった。
グァルの人間がすぐに海斗を見つけ、鈴田を呼んだ。通訳するように言ったのだろう。しばらくして、鈴田がやってきた。
「なんですか」
「トイレへ行きたいのですが」
「我慢してください」
海斗は寝ているみんなを見渡し、言った。
「寒さに下しそうです。ここで大をすれば……」
「わかりました。ついてきてください」
鈴田は呆れたように言って、海斗を見つけたグァル人に通訳をする。鈴田を相手に素手で戦えるか。無理だ。大和を襲った時のしぐさひとつ思い出しても、とても勝てる相手ではない。
松葉杖を借り、鈴田についていくと、グァル人もまた後ろからライフルを構えたままついてくる。
海斗の前方、団子状態で寝ている人々の群れから離れたところで、兵士の何人かがウッドデッキに灯を置き、傍に炎を焚いて、酒を飲んで笑っていた。カードゲームをしているようだ。ウッドデッキなど、誰がいつの間に持ち込んだのか。贅沢なものだ。
そうしてふと、酔って某かを話しながら座っている兵士の横に、ライフルが存在を忘れられているかのように置かれているのを見つけた。
あれを。あれを奪うことができれば。
通り過ぎるところにあるのだ。緊張のあまり呼吸が乱れそうになるのを抑え、静かに鈴田のあとをついていく、ふりをする。神経を研ぎ澄ます。みんなが寝ている間に空へ向けて発砲でもすれば、きっと混乱が始まる。
三歩前 二歩前 一歩前
もう、ためらっている暇はなかった。海斗は飛び出し、兵士のライフルを掴んだ。
話し相手をしていた相方の兵士が気づいて叫び、背後からも叫び声が聞こえる。鈴田が振り返り襲いかかってくるが、ライフルでみぞおちを殴った。
海斗の背後にいた兵士がライフルを撃つ。弾はぎりぎりのところをかすっただけだった。
その音で、寝ていたみんなが起きあがった。海斗は兵士の真似をして空に向けて、三発ほど撃った。
しかし、場は想像以上に静かだ。寝ていたトゥアの人々は、さほど動じないのだ。
誤算だった。どうする。最終手段だ。脅して怯えさせ説得させる。
「お前らを撃つぞ!」
ライフルを集団の中に向けた。流石に少しばかり声があがったがそれでもみんな、逃げようとはしなかった。海斗はしかし、集団へ向けて引き金を引くことができない。
そのためらった一瞬、鈴田に背後から頭を殴られ、あっけなく拘束されてしまった。
両腕をまた、後ろに縛られてしまう。何人もの兵士に囲まれた。
「ちくしょう」
そう呟いていた。どうすることもできないのか。
また、どうすることもできなかったのか。
「あなたは一般人です。兵士の真似事ができるわけないでしょう。これ以上わけのわからないことをするのなら、明朝を待たず、ここで死んでもらいましょうか。何森さんからも許可は出るでしょう。見せしめに、ここにいる兵全員であなたを撃っても構わないのですよ」
鈴田は冷酷に言い、ピストルを取り出し海斗に向けた。周りにいる兵士も、銃を向ける。
鈴田の目は本気だ。海斗は嘲笑した。
「撃つなら撃て」
気配が殺気立つ。
殺される。
そう思った瞬間、海斗を囲んでいる兵士の中に、なにか丸くて重量のあるものが飛んできた。
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