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どうにもならなくて鬱憤が溜まっていく。
マンションを出て周囲を散策することにした。せめて日光に当たりたかった。しかし高い建物が密集しすぎていて、道路はみんな日影である。息が詰まりそうだ。
公園へ足を運んだ。大和の腰の高さまでの煉瓦の積まれた、弧を描いた公園。周囲に樹が植えられ、日も当たる。誰でも入ることを許可されている。
ベンチに座り、コーヒーショップで買ってきたコーヒーを飲んだ。子連れの主婦が大和を見て眉をひそめ、ひそひそと話をしている。
あの人昼間からいるわ――やだ、失業者かしら。きっとブザーが鳴ったんだわ。住所無くして、ここに住みつかれでもしたらどうしましょう? 大丈夫よ、警察がすぐに
追い出してくれるもの。
しっ、明日は我が身かもしれないわ。
雑音を無視して、大和は目を閉じた。
科学で誰もが幸せになる社会。
大和が生まれて数年した頃だ。国がそういうキャッチフレーズのもと、全国民をシステムの管理下に置いた。人口が増えすぎて働く意欲のない者や、会社を転々とする者、社会に馴染めない者、職を失う者が大勢いて治安が良くなかったからという説がある。路面はホームレスで溢れ返っていたそうだ。
そうした人間の排除が目的だったのだろう。よく言えば「誰もが社会に馴染めるように促すシステムを作った」ということになるのだろうが、悪く言えば「科学で誰もが幸せになる社会」というフレーズに、その枠に、人々を無理矢理ねじ込んだのだ。
海外への日本の面子というのもあるかもしれない。緩やかに、でもいびつな形で、日本社会は二十六年の月日を経て、変わっていったという。
噂をしていた主婦たちにも腕輪がはめられている。専業主婦も仕事のうちに入るので、家事や子育ての適性を測られるのだ。主婦の場合、センサーは役所と直結している。
三度鳴ると役所の専用システムに住所と名前が表示されるのだ。だから、専業主婦もそうなると、数か月間更生施設へ入ることになる。それでも適性を認められない場合は、外で働くための仕事を勧められる。その間、子供がいるとしたら、子供は国が選んだ「子供を育てるのにふさわしい人々」のところへ、一時的に預けられることになる。当然、男性も主夫向きの人がいて、その数は若者に増えているそうだ。
以前、兼業主婦が家庭でのブザーと会社でのブザーを気にし過ぎてノイローゼになった、という噂も聞いたことがある。
はたして幸せとはなんだろう。近くで話している主婦たちは、幸せなのだろうか。
確かに国の政策によって、大局的には「幸せに見える社会」になったのかもしれない。
そう思い込んでいる人々も多数いるだろう。けれど、この政策そのものに馴染めない
人間は、どうすればいいのか。
考えすぎるな。そう言い聞かせた。あまり考えると、自分もノイローゼになる。
缶をごみ箱に捨てると、手続きをしに役所へ向かった。
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