第9話 お姫様は自覚が、おあり?

メルが朝目覚めると何故か城内が騒がしかった。


婆やがメルの起床とともに、メルの身の回りのお世話の為に、やってきた。


「婆や〜なんだか城内が騒がしいわぁ。

なにかあった〜?

それによって〜私も動かないと〜。」


婆やは、メルの髪をとかしながら言う。


「姫様は動かないで良いです。

姫様。姫様は、もうこのトーア国の宝でございますよ。

その宝が、やすやすと動いてどうするのですか。

然るべき者達が動きます。

姫様が動くことでは、ございません。」


「婆や〜。

何があったかくらい〜教えてよ〜。」


「姫様が聞いたら、喜び勇んでしまうから言いません!」


「う〜ん。

声が聞こえるのは騎士達よね〜。

騎士が動く。

………他国が攻めてきた?!

そんなはずないわね〜お隣は〜ギース王子とガース王子のラトリシア国だし。

フィリア王国とは〜私がトーアに嫁いだから〜親戚みたいなものだし〜

他国が攻めてきたのは〜ないよね〜

となると……魔物ね!

婆や!魔物なのね〜!

一体どんな〜魔物かしら〜ワクワクしますわ〜!」


「ほら。そうして、喜び勇まれる。

だから、婆やは言わなかったのです。

姫様。行かせませんよ。

騎士の仕事を奪ってはなりません!

王族が、仕事を奪うなんて聞いたことないですから。」


「婆や〜騎士の仕事を奪わないから〜

なんの魔物なの〜?

教えてよ〜。

教えてくれないと〜直接見に行っちゃうんだから〜。」


「もう。仕方ありませんね。

南の森がございますね。

そこの魔物が移動しているのです。

東に向けて。

だから何の魔物が出たとかではないのですよ。

なんの為に移動しているか、騎士達が調査に行く為に朝からバタバタしているのです。」


「へぇ〜。魔物の移動ですか〜?

それは〜なかなか興味深いですわ〜

何か強い魔物から〜逃げているのかしら?

気になりますわ〜。」


「強い魔物から逃げるなんてことがあるでしょうか?聞いたことございませんが。

強い魔物が他の魔物を従えるというのは、聞いたことがありますけど…。」


「まあ〜私達人には〜魔物の気持ちはわかりませんわ〜。

まあ、調査結果を楽しみにしましょうか〜。」


婆やは、内心思った。


(あら?姫様、えらくアッサリと引き下がりましたわね。姫としてのご自覚が芽生えてきたのかしら?)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ゼフィロス騎士団長率いる騎士の調査団は、目を疑った。


森の中を無数の魔物が東に向け移動している。数が異様なのだ。

まるで、スタンピードを彷彿とさせる数だった。


ゼフィロス騎士団長は、早馬を城に報告に送る。


「こやつらが、向かう先に何があるんだ?

先を目指すぞ!」


ゼフィロス団長は、先を目指すよう指示を出し、自身も馬で先を目指したのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


城では、会議室で国王と王子、そしてメルが話をしていた。

メルの側にはシャドウとルリアナ、リリアナが立っていた。


そこに、ジョルノとネネが入ってきた。


「報告します。早馬が来て、現在の様子が明らかになりました。

魔物が森の中を東に向け進行中。

スタンピード級の数の魔物が東に向かっていると。

ゼフィロス団長以下調査団の騎士は、魔物が目指す先を確かめに動くとのことです。」


お茶を持ってきた婆やが呟く。


「スタンピード!それは、大変ですわ。」


皆が深刻な表情を見せる中、メルは、いつもの感じで言う。


「へぇ〜スタンピード級というと数万の数かぁ〜懐かしいわね〜帝国戦争の時の〜マール共和国の切り札が魔笛でしたわ〜あの時も数万の魔物が現れましたわ〜

ねえ〜婆や〜。婆やも見ましたよね〜。」


「姫様。呑気にそのようなことを言われて。

また、創造魔法でとお考えですか?」


「ふふふっ。トーア国に被害を及ぼすなら〜それもありですわ〜。

しかし義父様〜アラン〜魔物が目指している方向〜何がありますか〜町がありますか?

何もないでしょう。森を抜けてもあるのは、海ですよ〜。

これは、スタンピードではありません。」


「メル、では其方はどう考えておるのだ。

国王として、魔物が何もない場所に移動してると言っても、見過ごすことはできん。」


「ふふふっ。わかりませんわ〜魔物の思考は〜人にはわかりませんもの。

でも〜何かに引き寄せられているのは〜確かですね〜

海に何かあるのかしら〜?

とりあえず〜ここは増援を送りましょう。」


アランが言う。


「メル!簡単に増援というが、騎士団長と騎士連中はすでに出てるのだぞ。」


「ふふふっ。わかっているわ〜アラン〜。

ここにいるではないですか〜。

聖獣フェンリルの王シャドウと、その側近ルリアナとリリアナが。

魔物を片付けるなら、脆い騎士より、この3人のほうが頼りになりますわよ〜。

ゼフィロス団長がいくら剣豪だとしても、一人では厳しいですわ〜

魔物と戦闘になるかは、わかりませんが一応保険は必要ですわ〜。

シャドウ〜ルリアナ〜リリアナ〜

お願いできる〜ゼフィロス団長の手伝いを。

ラムを泣かすわけに〜行かないのよ〜。」


「姫様。お任せを!魔物が襲ってきたら〜我らが対応します。

ラムを思う気持ちは、我らも同じ。」


婆やがシャドウとリリアナ、ルリアナに頭を下げる。


「お願いいたします。

シャドウ様。ルリアナ様、リリアナ様。」


「決して〜無理はダメですよ〜障壁があるとはいえ、私がそこに居ないのですから〜。」


シャドウ、ルリアナ、リリアナは礼をしてその場を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ゼフィロス団長は、岬にいた。


「なっなんなんだ!あれは!

あれが!あいつが!魔物を呼び寄せているのか!」


岬の向こうは大海原が広がっている。

そこには、いつもはいるはずもない、居てはいけないものがいたのだ。


海から突き抜けるように、伸びる長い体、体表はまるで宝石の様な青い鱗に覆われる。

そして、頭には二本の角。

口から覗く鋭い牙。

竜がいたのだ。

竜は竜でもドラゴンと言われる物とは違った。どこか、神格というのか気品の高さも見てとれたのだ。


ゼフィロス団長は、後退りをする。目だけはその竜を捉えながら。


目を離し背中を見せると、自分の命を取られる気がしたのだ。


一歩二歩三歩とゼフィロスは下がっていく。


「ゼフィロス団長。

ご無事で何より。

ここは、私達に任せてゼフィロス団長は、姫様に急ぎ報告を。」


シャドウとリリアナ、ルリアナだった。

聖獣化し、聖獣フェンリルの姿で駆け抜けてきたのだ。そして、今また人化したのだ。


「シャっシャドウ殿!

あっあれは!一体!対峙しては、ならんと本能が告げるかのような、神格?オーラを感じるのです。」


「そうですね……

神格は高そうです。

しかし、私とルリアナ、リリアナは奴より高い神格を纏われた方を知っています。

姫様です。

あの竜の神格は、姫様が魔力の枷としている指輪を一つ外された程度。

姫様が枷を全て外された神格のほうがあの竜の数倍凄い。

なので、ここは、私達が見張っていますので団長は姫様をここに来て頂けるように報告に急いで下さい。

あの竜が攻撃してきたら、私達も長くは持たない。

急いでください。」


ゼフィロス団長と騎士達はその場を任せて、退こうとした時だった。


竜が咆哮を放ったのだ。

レーザービームのような光線が岬を襲う。


ゼフィロス団長は、思わず目を瞑った。


肌を熱い風が抜けていく。


数秒続いただろうか。


ゼフィロス団長は目を開いた。


シャドウとルリアナ、リリアナが横一列に並び

シャドウとルリアナ、リリアナの前に障壁が現れていた。メルが掛けていたオート障壁だった。

この障壁のおかげで、ゼフィロス達は守られたのだ。


「時間の猶予はない!

ゼフィロス団長!急げ!」


沈着冷静なシャドウが珍しく叫んだ。


ゼフィロス団長と騎士達は、急いでその場を退いたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


竜と対峙する、聖獣フェンリルのシャドウとリリアナ、ルリアナ。


竜は、口から煙を一度ボアっと吐いた。


すると、竜から声が聞こえてくる。

念話のような物のようだ。


『……私の咆哮をくらってまだ生きているとは……一応聖獣フェンリルと誉めてあげないとダメね。』


シャドウがその声に対して応える。


「我は、聖獣フェンリルの王である!

言葉を念話で送ってくるということは、一応知能はあるようだな!

ただの魔物というわけではないようだな!」


『私を魔物と!貴様〜!愚弄したこと許さないわ〜!

この聖霊竜リヴァイサンを愚弄するとは!』


「聖霊竜リヴァイサン?

知らぬな。

お前は、我ら聖獣フェンリルのことを知っているようだが、我らはお前のことは知らぬ!

一体何用で、魔物を操り移動させている?!」


『…うぐぐぐぐ……知らぬだと……知らぬと申したか!

千年の間に聖獣フェンリルに、私の名前、姿が忘れさられているのか?!

この世界に君臨する聖霊竜4柱が一人だと言うのに!』


「おい!質問に答えていないぞ!

何用で魔物を操っているのだと聞いている!」


『お前……先程から……偉そうに。

魔物?そんなこと、私が食べるからに決まっているだろう!

千年眠りについていたのよ。起きたら食べるに決まっているだろう!

しかし、お前は先程から生意気!

お前から、食べてやろうか!」


聖霊竜リヴァイサンは、そう言うと口を開けて突っ込んできた。


ガ〜ン!


障壁にぶつかる。


『生意気に障壁など張りおって。

ぶっ殺して絶対食べてやる!』


聖獣フェンリルと聖霊竜リヴァイサンの戦いが始まろうとしていた。


シャドウは思った。


(神格は高いが、知能は低そうだ。

まるで幼子のようだ。

しかし、障壁があるから耐えることができるが、障壁を破られると……少し厳しいか。

姫様が早く来てくれると良いが…。)


シャドウに頭が悪いと馬鹿にされているのを知らず、聖霊竜リヴァイサンは大きな体を精一杯更に大きく見せようと、威嚇するのだった。






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