第8話 お姫様は、作る

「義父様〜義母様〜おはようございます〜♪

お祖父様〜お祖母様〜おはようございます

♪」


「「「「メル!おはよう!」」」」


王妃である義母がメルに言う。


「メル、アランはまだ寝ているの?

あの子は何してるのかしら!

情けない。寝坊をするなんて。」


「義母様〜今日は〜勘弁してあげて欲しいの〜

昨日遅くまで〜なにやら資料を作っていました〜。

それも、朝方まで〜。」


「そうなのですか。なんの資料かしら?

メルわかる?」


「それが〜教えてくれないのです〜

覗こうとすると〜隠すし〜

でも、アランのことだから〜とても素敵なことだと〜思いますわ〜」


「あらあら、メルはアランをえらく信用しているのですね。

まあ、私も7年前のあの子とは別人だと言うことはわかりますわ。」


「ではアランは、ほっといて朝食をいただくとするか!

爺、婆や頼む!」


爺と婆やが配膳していく。

料理長が料理し、爺と婆やが配膳するのだ。


そして、メル達は楽しく会話しながら朝のひと時を過ごすのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


朝食が終わったメルは、爺と婆やを連れて

城を歩いていた。


「爺〜婆や〜それで〜どうなの?

それなりの人は集まったのかしら〜?」


婆やが言う。


「ラムが言うには、希望者は山程いるが、本当に志しが強い者は少ないかもと言っておりました。」


爺が、手元の書類を見ながら言う。


「まあ、頭を張れる人物がいれば、なんとかなるでしょう!

何もポーションを作れとは言ってはないわけですし。

症状を見て、姫様が作られたポーションやキュアポーション、お薬などを処方するだけなんですから。

人の事はラムに任せておけば大丈夫でしょう。」


「まあ、そうなのだけど〜。

症状を見るのが難しいわ〜。

そこが、一番のポイントだもの〜。

症状を見誤って違うお薬を処方してしまうと〜治るものも〜治りませんもの〜

私が全て見れたら〜よろしいのでしょうが。

そういうわけに行きませんからね〜」


「姫様。姫様は、すぐご自分でなんでもされようとする。そこは、姫様の悪いところですよ。

人を育てること!これも、王族の務めでございます。」


「は〜い。婆や。わかっております〜。

それで場所ね〜。何処が良いかしら?」


「フフフッ。それは、別件でもう動いております。姫は、人の育成を考えて頂ければ良いのです。」


メルは、フィリア王国時代に出来なかったことをこのトーア国でやろうとしていたのだ。


民の為の薬屋だ。


この世界、魔法で全て解決してしまう。

魔法世界だ。

しかし、病を治す魔法は、それなりに高位の魔法、それか希少性の高い神聖魔法と限られてくる。

フィリア王国時代も、神聖魔法、そして、高位の白魔法となると、使えるのはメルとメルの母様聖女ローザだけであった。


なので当然トーア国には、そんな物使える者など誰一人居ないのである。

だから、メルは錬金術で医療用の薬をトーアに嫁いで2年間開発を進めたのだ。


それがある程度形になって来た為、薬屋を経営出来る、回せる人材をさがしているのだった。


ラムは、近衛騎士団長ゼフィロスと結婚し幸せに暮らしている。

しかし、ラムのメル好きは衰えず何かにつけ城に顔出してメルの用事をこなしているのだ。

騎士団長ゼフィロスの妻という立場を大いに利用して城に顔を出すのだ。

そして、今日ラムが薬屋の人材を城に連れてきているのだ。


メルは、面談の為今城の中を移動しているのだった。


メルは城の一室、会議室に着いた。


この辺りは文官達のエリアだ。

ここに着くまでそれはもう、沢山の文官に頭を下げられた。


爺が扉を開け、メルが入室する。


すると、メルの目の前にスッとラムが現れる。

"影"を引退して2年だが、全く動きは鈍っていない。


「姫様〜!ラムは〜姫様からのお仕事をやり切りましたわ〜

褒めてくださいませ〜」


目を輝かせながら、言うラム。


「これ!ラム!他の者がいる前で!やめなさい!」


「ふふふっ。婆や〜いいわよ〜。

私とラムの〜関係性は〜

今日来てくださってる〜方達にも〜

知っておいて〜頂いたほうが〜良いもの〜。

ラムのほうが〜薬屋に〜近しい者になるのだから〜。」


ラムがメルの援護を受け、胸を張って言う。


「ふふふっ!母様!

姫様のお許しが出ました〜

わ〜い。わ〜い。」


「姫様……。ラムを甘やかしすぎですよ。

大丈夫かしら?この子は昔からすぐ調子に乗ると失敗する子でしたのに。」


「母様〜

ラムをいつまでも子供扱いは〜違います〜

私も〜結婚したのです〜」


「ふふふっ。何を言っているのですか!

いつまでたっても、ラム!貴方は私の子です!」


「お前達は何をしているんだ。

姫様を立たせたまんまで!

姫様、さあこちらへ!」


「父様に怒られましたわ〜。

母様に怒られ慣れていますけど〜

父様に怒られるのは〜久しぶりです〜」


ラムは、怒られて喜んでいた。


メルは、爺に促され席につく。


婆やは、メルのお茶の用意をしていた。


「姫様〜始めて良いですか〜?」


「ラム〜どうぞ〜初めてください〜」


ラムが立ち、集められた人達の前に立つ。


「皆さんよく来てくれました。

皆さんは、私が選びに選んだ方達です。

いずれ、出来る姫様の肝入りの薬屋で働いて頂く方々です。

この後、姫様よりお言葉を頂きます。

心して聞くように!

良いですね!では、姫様、お願いいたします。」


メルは、その場を立つ。


「皆さん〜よく来てくれました。

ありがとう。

薬屋を作ろうと思ったのは、民の皆さんの病をなんとか、治したいという思いからです。

私が、7年前のように魔法で治せば良いのですが、私も一人一人を対応するのには無理があります。

そこで、考えたのがお薬です。

これなら、民一人一人の病を治すことができます。

皆さんのお仕事は、民の症状を見極め、その症状にあったお薬を処方すること。

とても、重要なお仕事です。

誇りある仕事となるでしょう。

よろしいですか?!

病を抱えた民に寄り添う気持ちが必要です。

それが出来ないと言う方は、去ってもらって結構です。」


すると、一人の男が手を挙げる。


「よろしいですか!姫様!」


「はい。発言を許可します。」


「私は、白魔法士です!

このトーアで医者をしていました!

そのお薬という物の効力は、どうなのでしょう?

魔法のほうが効果は高いのではないでしょうか?!」


「白魔法士ですか…。医者をされていたと。

成程。

それでは、聞きますが患者が来ました。

熱もあり、ぐったりとしています。

貴方はどのような措置と、どのようなお薬を出されますか?」


「熱があるというなら、風邪でしょうな。

風邪なら、精力強壮剤を飲ませて、しっかり汗をかかせることが重要ですな。」


「本当にそれで治るのでしょうか?

熱を取るのに、汗をかかせるのは良いかも知れませんが、グッタリした状況なのです。

それでは不十分だと思いませんか?

貴方は、白魔法士とのことです。ヒールは使えますね。

何故ヒールを掛けることを省いたのですか?」


「姫様。お言葉ですが、ただの風邪ですよ。

ただの風邪ならば、精力強壮剤だけで大丈夫というのが、通例です。」


「私は、最初の話で病を抱えた民に寄り添う気持ちが必要だと言いましたよ。

それに、貴方は最初に自分で言われました。

魔法のほうが効果が高いのではないかと。

しかし、貴方は風邪なら魔法は必要ない。

精力強壮剤で汗をかかせれば良いといいました。

ご自身が矛盾していることを言っていることがわかりますね。

これが現状なのです。

たかが風邪。しかし、その風邪で命を落とす方は、どれだけいるのか。

元医者と言うなら、把握しているでしょう!」


男は、苦虫を潰したような表情をみせる。


「熱があり、ぐったりとしている。

明らか、体力を消耗しているのです。

熱のせいで、水分が不足している可能性もあります。

そんな中、精力強壮剤を飲ませて汗をかかし、さらに水分を奪う。

体力のない者は、そりゃ亡くなります。

患者に寄り添い、見極めることが大事なのです。

たかが風邪というならば、風邪で亡くなる人を出さなくなってからです。

今の話を聞いて、もう一度貴方に問います。

どういう処置をされますか?」


男は、言葉を絞りだす。


「……熱があり…グッタリして体力が消耗している状態と判断し、私は白魔法士なのでまずヒールを掛け、体力を戻し、精力強壮剤を処方します。そして、水分補給をしっかりするよう言います。」


「そうです。

それで風邪の場合は、治るでしょう。

貴方は貴重な白魔法士です。

病を抱えた民に寄り添うという気持ちを忘れないでください。

では、その処置をしても治らなかった。

そもそも、風邪では無かったという状況もありますよ。

熱があれば、風邪と決めつけるのがダメなのです。

最初のアプローチから、間違っているのです。


嘔吐はなかったのか?体に湿疹はないのか?

目の色は?

ここまで言えば、元医者の白魔法士の貴方ならわかりますよね。」


「……失礼いたしました。

中毒で、ございますね。

……中毒と診断し、安易に毒消草を処方するのではなく。

……神聖魔法キュアは姫様しか無理。

姫様のキュアポーションを使っても?」


「はい。良いですよ。」


「では、キュアポーションをすぐさま処方し、毒気を抜きます。

そして、ヒールを掛けるか、ポーションで体力を回復し、精力強壮剤を処方します。

そして、水分補給を促します。」


「はい!お見事です。

流石元医者で白魔法士です。

しっかりと向き合えば、病が見えてきます。

それをして頂きたいのです。

すれば、たかが風邪となるでしょう。」


男は、とても清々しい表情をしていた。


すると、パチパチと拍手をしながらアラン王子が入ってきた。


「マルク。どうだ?

姫は凄いであろう?」


白魔法士の男は、マルクという名であった。


「アラン〜?貴方の知り合いなの〜?」


「ああ!昔、この城の医者をしてた男だ。

あの、7年前の呪術問題の際に自信を無くして、城を離れたがな。

ラムに言って見つけ出してもらった。

メルのやろうとしていることの力になるであろうと思ってな!」


「そうだったのね〜!

貴重な白魔法士。マルクさん?でしたか?

是非力をお貸し頂きたいわ〜」


マルクは背筋を伸ばして言う。


「姫様!感服いたしました。

患者に寄り添う。アプローチが肝心!

心に刻みます!

マルクとお呼びください!」


アランが他の者も含めて言う。


「この後、皆には資料を配る。爺、後でこれを配ってくれ。

この資料は、メルが今回のことを考えた時に、色々アプローチの話を私が聞きだしたのだ。

それを纏めたものだ。メルまず、確認してくれ。」


アランは、一部メルに渡す。


「メルのオッケーが出れば、皆に配る。

そして、一週間この資料で勉強をしてくれ。

一週間後、試験を行う。

八割以上答えられたら、トーア国から薬医師資格を与える。

国が認めた薬医師ということだ。

爵位みたいなものだな。

陛下と王妃にも、先程話をしてきた。

薬医師の予算も組み込まれる。

資格を得れば、安定した生活が保証されるということだ。

それと薬医師となった者は、国が設立するメルは、薬屋と言っているが、私はこれは薬屋で済ましてはならんと思った。

病を治す場所、病院としたい。

そこで薬医師として、働いて貰う!

賃金も、資格手当と別にしっかりと出るぞ!

今すでに、王都のど真ん中に建設中だ。」


ここに集まった者が歓声をあげる。


メルが資料を確認して、言う。


「もう〜アランったら〜これを昨日作っていたのね〜。

ふふふっ。やはり素敵なことでした。

アラン、この資料完璧です。

配ってください。

そして、資格の話と病院?の話〜とても素敵です。

爺も婆やもラムも知っていたのね〜ふふふっ。」


アランがマルクに言う。


「マルク!其方には、病院の院長をお願いしたいと思っている。

だから、一週間後の試験は当然、満点を期待しているぞ!」


「はい!ご期待を裏切るようなことは、いたしません!

姫様!精一杯努力させてもらいます!

風邪をただの風邪にしてみせます!」


「ふふふっ。マルク〜頑張ってください。

共に、ただの風邪にしましょうね。」


一週間後試験が行われ、20名が薬医師の資格を得た。

マルクは、無事満点で合格したのだ。


後にトーア国病院は、民の病を確実に治す病院として、西大陸で有名になる。

そして、西大陸に病院とメルの病へのアプローチが広がっていくのである。

先の話にはなるが。





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