第3話 お嬢様の刀

メルは、錬金工房に入った。

そこには、ミーアが待っていた。


「ミーアちゃん〜ごめんね〜遅くなって〜。」


「ふふふっ。いいよ〜

遅くなったのは〜お互い様だよ〜

私も5年も待ってもらったんだもん。」


メルとミーアは、5年前二人が丁度10歳の時に、ある約束をしていた。

ミーアは、ミーア・キャスバル。

キャスバル騎士爵の娘だ。

キャスバル騎士爵は、メルの父である元勇者ケインの名刀斬月と黒刀マサムネの作者である。


ケインが、世界に溢れていた魔竜を討伐したことで、鍛治の腕を見込まれて爵位を得たのだった。


その斬月とマサムネを超える刀を作ることが夢となったミーアは、メルと出会う。

そして、その時にメルが帯剣していた斬月を見せてもらったのだ。


そして、二人は親友となり、いつか斬月を超える名刀をメルの為に作りあげると二人は約束を交わしたのだ。


ミーアは、この5年必死に努力して構想を続け、今日完成に至ったのだ。


「ミーアちゃん〜ドキドキするよ〜」


「ふふふっ。

嬉しいよ〜メルちゃんとの約束を果たせるんだから〜」


そう言いながら、木箱をメルの目の前に置いた。


「開けてみて〜」


メルは、恐る恐る箱を開ける。


木の箱には、赤の布に巻かれた刀があった。


メルは、赤の布をほどいていく。


そして、刀が姿を現した。


金色の鞘に、金色の鍔。そして金色の紐を巻かれた柄。


金色の刀だった。


メルは、美しさに見惚れ、口を半開きのまま固まっていた。


「ふふふっ。メルちゃん〜刀を抜いてみて〜」


メルは、その言葉で正気に戻り頷き、鯉口を切った。


" シャキィィィィィィィィン  "


とても心地よい音が響く。


そして、メルは刀を抜く。


美しい刀身が姿を現す。


メルは、刀身から目を離すことが出来なかった。

輝きが凄いのだ。

刀身がオーラのように輝きをボヤっと纏っているのだ。


メルは思わず呟いた。


「……きっ綺麗だわ〜……」


ミーアは、その言葉を聞き満足気に語り出す。


「刀身は、斬月と同じ直刀〜

メルちゃんは〜ずっと斬月を使っていたから〜直刀が良いだろうと思いました〜

直刀で刃文は、乱れ刃三本杉。

メルちゃん、光を当てて見て〜。」


メルは、刀身に光を当てて見る。

すると、輝きが更に増し、キラキラピカピカしているのだ。

まるで、黄金のようだった。


「ふふふっ。私のこだわり、父様が言うにはこれをしたのは私が初めてだろうと言っていたの〜

玉鋼とヒヒイロカネを錬金術で交わらせて、この刀を作りました〜。

だから、金色に輝いているでしょう〜


何故、ヒヒイロカネを混ぜたか。

それは、メルちゃんが魔法の天才だからよ〜

ヒヒイロカネは、魔力との相性が途轍もなく良いの〜

メルちゃんなら、魔力をこの刀に通して〜

魔法も発動できると思うの〜

私のこだわりは、魔法刀にしたところです〜。


刀の名前は、魔法刀"天翔"〜。

天使様のメルちゃんが〜空をこの刀を持って翔る、…………天翔けるをイメージしたの〜。どうかな〜?」


メルは、刀を見ながら呟く。


「……てんしょう……天翔ける。

魔法刀………天翔………」


呟いた時、メルの頬を涙が一筋流れた。


「めっメルちゃん!……大丈夫〜?」


メルは、ハッと正気に戻り言う。


「ごっごめん!……あまりにも、天翔が美しいから〜天翔に心を持っていかれたよ〜

……とても…良い名です〜

ミーアちゃん。良い名をありがとう。

魔法刀"天翔"……最高です!ふふふっ。」


「良かった〜!メルちゃん〜

是非魔力を通してみて〜!」


メルは、天翔を右手に持ち、天翔に魔力を注いだ。


その瞬間刀身が光に包まれる。


ミーアがそれを見て、納得した表情で言う。


「メルちゃんが魔力を注ぐと〜こんな風になるんだ。

私が注いだ時より、光が凄いよ。

メルちゃんは、多分魔力量が凄いから〜

もっと注ぐことができるのでしょう?

ふふふっ。凄いことになりそう〜!」


メルが、言う。


「ミーアちゃん!

私わかる!わかるよ!

魔力を注げば注ぐほど、刀身も伸びる気がする。

とりあえず、凄い凄い刀だよ!天翔は!

これは、伝説の名刀になるよ!」


メルは、興奮気味に言ったのだ。


すると、その時錬金工房の扉が開いて一人の男性が入ってきた。


レビン男爵だった。


「やあ!メル嬢の刀を見に来たよ!

おっ!それかい!

これは、なんでこんなことになっているんだい?

これが、ミーアの言っていたこだわりなのかい?」


ミーアがとびっきりの笑顔で言う。


「そうなの!メルちゃんと言えば〜魔法の天才でしょう。

だから〜ヒヒイロカネと玉鋼を錬金術で混ぜ合わせたの。

それで作成したのよ〜

魔力を込めれば込めるほど、刀身が変化するのよ〜そして〜ここでは駄目だけど〜

あとで訓練所でやってもらおう!

魔法を纏って斬ることも出来るはずよ〜!」


「そっそれは!それは凄いな!

メル嬢に持ってこいの刀だ。

ミーア!やったな!」


「はい!やりましたわ〜!」


レビン男爵とミーアは、メルの存在を忘れて二人の世界に入りつつあった。


メルは咳払いをする。


「おっほん!

お二人は〜油断したら〜すぐにお二人の世界に入ってしまわれるですから〜」


二人は、顔を真っ赤にして照れていた。


レビンは、メル達の先輩にあたる。


メル達が一年生の時に最上級生の五年生だった。

帝国戦争で、帝国がぶつけてきた凶暴なレッドドラゴンをレビンは、単独で討伐。

自身の剣が折れた際、メルが斬月を貸しその斬月でレビンは、レッドドラゴンの首を斬ったのだ。

その時の斬れ味が忘れられないレビンは、ミーアの父であるキャスバル騎士爵に刀を作成してもらったのだ。

真っ白な刀、名刀三日月を。

その名付けをしたのは、ミーアだった。


その頃から、レビンとミーアは愛を育んでいたのだ。


すでに婚約しており、ミーアの卒業を待っている状態なのだ。


メルは、言う。


「魔法を纏って斬ることが出来る〜

ためしてみたいですわ〜

訓練所に行くとしましょう〜

ミーアちゃん〜レビン様〜

お二人は〜どうされます?

ここで〜お二人の世界に浸りますか?」


「もう〜メルちゃんったら〜

私も見たいに決まってるでしょう〜

レビンも見たいでしょう?」


「ああ!ミーア!当たり前さ!」


二人は、見つめ合う。


メルは、呆れたように言う。


「では、先に〜行っておきますね〜

外でネネちゃん達も待っているので〜

ごゆるりと。ふふふっ。」


「もう〜メルちゃん!ふふふっ。」


メルとミーアは、笑ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メルは、ネネ達を連れて訓練所に行く。

遅れてミーアとレビンも追いかけてきたのだった。


訓練所の扉を開けると一斉に視線が、メルに向いた。


メルは、皆の憧れなのである。


すると、二人の男がメルの元にやってきた。

まあ、片方はセシルの所になんだが。


ラトリシア国のガース王子とギース王子だ。

双子の王子だ。

二人は、帝国にラトリシア国が侵攻されそうな時に、メルが魔法でその侵攻を止めた。

メルに会う為だけに、学園に一年の二学期から留学しているのだ。


ガース王子も最初は、メルに気があったのだが、帝国戦争時にセシルの民への献身的な姿を見て、セシルに恋に落ちたのだ。

そして、それから二人は愛を育み婚約したのだった。


ギース王子は、今もメルに恋をしている。

しかし、メルにはアラン王子という存在もいて、なかなか射止めることが出来ないでいた。

まあ、その前にメルという女性は、なかなか掴みどころがない女性なのだが‥…


ギース王子がメルに言う。


「やあ!メル嬢!

それが、ミーア嬢が作成した刀かい?!

金色で、とてもメル嬢に似合っているよ!」


「ギース王子〜刀ですよ〜ファッションではないのです〜

天翔を誉めてくださいませ!」


「おっと!そらそうだね!

天翔と名付けられたのかい!

天翔けるか!とても良い名前だ!

とても、神々しい!

天使のメル嬢に持ってこいだ!

あっ!また、メル嬢に繋げてしまった。」


「ふふふっ。ギース王子ったら〜

わっるいんだ〜今のは〜明らか〜わざとでしょう〜ふふふっ。」


このやり取りを見ていた、アリス達がざわつく。


「ちょっちょっと、アリス!メルちゃんとギース王子も良い感じじゃない?

アラン王子と、どっちなのよ!」


「シェリル。知らないわよ!

ネネちゃん、どう思う?」


「アリスお姉様〜う〜ん。

これは〜難しいですわ〜。

ギース王子にも〜心を許しておられますわ〜」


メルが、アリス達を睨んで言う。


「さっきから〜何を言っているのかな〜?

ネネちゃんも〜?!」


メルがツンとして、訓練所の空いている的の前に行く。


丸太に藁を巻いてある的だ。


その前で、天翔を抜く。


周りが、騒つくがすぐにシーンとなる。


メルの纏う雰囲気が、変わったからだ。

神々しい、まさに天使様と言われる雰囲気に変わったのだ。


メルは天翔に魔力を注ぐ。


そして、斬る!


太い丸太が、真っ二つに切れる。

その後、追撃するように、激しい雷撃が丸太を襲う。


丸太は、雷撃によって丸コゲだ。

訓練所の床もコゲてしまった。


「これは凄いわ〜ミーアちゃん!

見た〜!

ありがとう!天翔私の愛刀よ!」


ギース王子が言う。


「確かに凄い!

凄いが………メル嬢……

少々やり過ぎでは?

床までコゲているぞ。

まあ〜良いか。私が気合いを入れすぎたと言っておく。」


「まあ〜ギース王子〜流石〜頼りになります〜。


メルは、ギース王子にそう言うと微笑んだのだった。

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