第一章成長しました。

第2話 お嬢様は成長した。

金糸のような綺麗な髪を靡かせ、学園の廊下を颯爽と歩く美女。

遠くからでもわかる存在感。

身長は160センチを超え、体のラインも出るところはしっかりと出ているスタイル抜群の女学生。

メルル・フォン・フォスター。15歳。

公爵令嬢である。


フィリア王国では、彼女を知らない人はもう、居ない。

それだけでなく、近隣の友好国、トーア国、ラトリシア国、シェール国、そして西大陸の西側の大国エタリア国でも彼女を知らない人は居ない。


彼女は、この5年で数々の偉業を成し遂げてきたのだ。

近隣国は、彼女に救われてきたのだ。


そう彼女は魔法の天才なのだ。

父ケイン、元勇者。母ローザ、元フィリア王国第一王女、現聖女。

そんな二人の力を余すところなく引き継いだのが、メルル・フォン・フォスター。


人々は、彼女のことを天使様と呼ぶ。

何故か?それは、魔力を具現化し天使の羽を体に纏って空を飛ぶのだ。


それを見た者は、見惚れ、跪き、祈り、涙を流すのだ。


成長した今では、天使化しなくても神々しいまでの美しさで、他を魅了しているのだ。


今も、すれ違う学生から羨望の眼差しと、感嘆の声が漏れているのだ。


「あっ!メルお姉様〜♪」


メルが颯爽と歩いているところに、駆け寄ってくる女学生。

黒髪を靡かせ、こちらもとても綺麗な女学生だ。

ネネという。13歳。メルをお姉様呼びだが、決して姉妹ではない。



「ふふふっ。ネネちゃん〜ごきげんよう〜

一応上級生として〜注意しとこうかな〜

ネネちゃん〜レディなのだから〜

駆けてはいけませんよ〜

レディは〜何でしたかしら〜?」


ネネは、微笑みながら答える。


「メルお姉様〜レディは〜優雅に振る舞うでしょう〜

でも、メルお姉様〜♪

お姉様も〜今、優雅に〜からほぼ遠い動きで急いで歩いてらしたようでしたわ〜ふふふっ。」


「あら〜おかしいですね〜確かに急いでいたけれど〜優雅に〜は、忘れていなかったのだけど〜。癖で瞬歩が〜時折出てましたか?」


「ふふふっ。はい〜時折〜混ざっておりました〜急に5メートルくらい〜進んでいるのですもの〜ふふふっ。」


「私もだめね〜気持ちが〜先走って〜しまって〜だって〜ネネちゃん〜念願の念願の〜ミーアちゃんの名刀が〜出来上がったんだよ〜

錬金工房に〜ミーアちゃん〜この一週間篭りっぱなしだったのよ〜」


「まあ〜ミーアお姉様。ついに完成させたのですね〜構想から5年でしたか?

凄いですわ〜

メルお姉様♪私もご一緒しても良いですか〜?ネネも見とうございます〜。

皆さん〜そういう事でございますの〜

私は、お茶はまた今度ということで〜。

ごめんなさいね〜」


ネネのお友達が、メルに挨拶して、その場を去っていく。


「あらあら、良かったのかしら〜

皆んなネネちゃんとお茶をしたかったのではなくって〜

ネネちゃんは人を惹きつける力を持っているから〜」


「ふふふっ。メルお姉様♪

おかしいですよ〜そういう事をメルお姉様が言うの〜。

一番〜人を惹きつける方ですのに〜。」


二人が微笑みながら歩いていると、


「ちょっと!そのコンビは、ズルいでしょ。

そのコンビで微笑みながら歩いていたら、男子が全て目がそっちにいくでしょうが!」


「シェリル。貴方、男子に見られたい訳?

いつも、男子なんか!って言ってる癖に!

ねえ、セシルちゃん!そう思わない?」


「ふふふっ。アリスちゃん。それを言うと返ってきますわよ。」


「そうよ!

セシルちゃんは、ガース王子と婚約したし、アリスは、王国でも有数の商家の御曹司と婚約!決まったお相手がいる方は、余裕綽々ですね!」


「ほらね。何回それをおっしゃるのかしら♪

メルちゃん、何処に行ってらしたのですか?

放課後、皆んなで錬金工房に行こうって言ってらしたのに。」


メルの仲良しグループの三人だった。

アリスは商家の娘で、今回フィリア王国でもトップと言われる商家の御曹司と婚約したのだ。

セシルは、ウーゴ伯爵の娘でラトリシア国のガース王子と密かに愛を育み婚約したのだった。

シェリルは、王都の商業街一のレストランフィリア亭の娘である。

この三人は、最近このやり取りばかりである。


「セシル姫〜違うのよ〜レナ理事長が〜呼び出すから〜何事かと思ったら〜旦那様のサイラス商業ギルド長の愚痴を聞かされていたのよ〜ギルドに入り浸りで帰ってこないとか〜

だから〜

言ってやったのよ〜

髭のオッチャンと結婚するから悪いのよって〜こうなることわかってたでしょって!」


ちなみに、レナは、つい2年前まで宮廷魔法士長をしていたのだが、理事を勤めていた王国第二王女マーガレット、いわゆるメルの叔母がエタリア国の王子と結婚した為、入れ替わりで理事を勤めているのだ。


レナは、元勇者パーティの凄腕魔法士だが、そんなレナでも、メルには敵わないのだ。


サイラスは、商売をこよなく愛する仕事人。

髭がトレードマークであり、メルは、幼き頃より髭のオッチャンと呼んでいる。

サイラスも元勇者パーティの伝説の拳士なのだ。

レナもサイラスも伯爵で、伯爵同士が結婚したのだ。


「ふふふっ。そうでしたの。

でも、メルちゃん。一言よろしいですか?

もう、なんか普通にセシル姫と呼んでますわ。

メルちゃんもその気になれば、メル姫ですわよ。どちらを選ぶのか?楽しみでもありますけど。ねえ、アリスちゃん。」


「本当!それね!

昔なら、ギース王子一択だったのになぁ。

アラン王子が、あんなに化けるとは、思いもしなかったわ。」


「アリスお姉様〜セシル姫姉様〜

メルお姉様に〜お二人とも〜

求婚されてないのですよ〜

本当〜何をされているのでしょうか?」


「ネネちゃんも、さりげなく今セシル姫姉様と言いましたわね。

もう。この、メルネネコンビは、自然に弄ってくるのですから。

求婚は、メルちゃん本当にされていないのですか?

メルちゃんが、お気づきになっていないという可能性が、大いにあると思うのです!」


「あっ!そうだよね!メルちゃんなら、ありうるわ!流石セシル姫!」


「セシルちゃん。シェリルにもわざとらしく弄られてるわよ。」


「ねえ〜皆んなして〜私をどんだけ鈍感だと思ってるのよ〜

求婚されたら〜必ず気付くわよ〜」


「‥………メルお姉様………言っていい?

メルお姉様〜よく〜人のお話を〜悪意なく〜丸無視することが〜あおりなんですよね〜

こちらの可能性はかなり高めだと思われますわ〜」


ネネの言葉にアリス、シェリル、セシルが大きく頷く。


「うぐぐぐぐ。皆んなして〜

まあ〜いいわ〜さあ〜皆さん〜錬金工房に行きましょう!」


「「「「逃げたね。」」」」


メルは、スタスタと錬金工房を目指すのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



メル達が錬金工房の前まで行くと、

下級生達が錬金工房の前に集まっていた。


そして下級生に囲まれているのが、トーア国のアラン王子だった。


アラン王子は、魔導システム、魔導動力の素となるシステムを発明し、メルの発明した魔石システムと組み合わせて、魔導動力アランメルと呼ばれる、いわゆるエンジンを生み出した。

錬金術の世界では、英雄となっていた。

アラン王子が作った魔導システムで、生まれた製品は、海を滑走する高速艇。

部屋を温めたり冷やしたりする、温冷蔵風機。

ゴミを吸い取る掃除機。そして、極めつけは、魔導列車だ。

王国中をレールの上を沢山の人を乗せて走る列車を作ったのだ。


これにより、馬車を持たない平民が、快適に王国中を行き来することができるようになったのである。


この発明で、王国を大きく繁栄させたことを認められ、メルの爺様、フィリア王国国王から、特別勲章を授与されたのが、昨年の話だ。


下級生に囲まれているのは、純粋にアラン王子に錬金術を習いたいと思っている者とミーハー気分で、錬金術の英雄に近づきたいと思っている者達のアラン王子の取り合いなのだ。


「うん?あっ!すまない。

開けてくれ。

メル!遅かったじゃないか。

ミーア嬢が首を長くして待っているぞ。

それと、後で少し話がある。」


周りから、悲鳴のような歓声が上がる。


錬金術の英雄が、声を掛けた相手が天使様だからだ。

皆に注目されながら、メルが言う。


「アラン王子〜何よ〜話って〜?!

後でとか〜言われると〜とても気になるじゃない!

昔は、相手の都合も〜考えないで〜自分のことばかり〜言ってたのに〜

その紳士な態度〜なんか〜ムカつくわ〜

ふふふっ。」


昔のアラン王子なら、このメルのツンで狼狽えていたが、今のアラン王子は違う。


「フフフッ。まあ、先にミーア嬢の元へ行ってこい。

メルとミーア嬢の悲願が叶ったのだろう?!

その邪魔をする気はないよ。

後で少し時間をくれたらいい。」


「………ミーアちゃんと喜びすぎて〜

アラン王子の話を忘れるかもよ〜

良いの〜?」


「フフフッ。なんだメル。私の話が、そんなに気になるのか?

じゃあ、忘れないだろう。

早く行っておいで。」


メルは、アラン王子の最後の言葉、"早く行っておいで"の威力に負けたのだ。


顔を真っ赤にして、舌を出してアッカンベーをしたのだった。


これには、付いて来ていたアリス、シェリル、セシル、ネネが湧いたのだ。


「ちょっと、今のは、今のはアラン王子反則ですわ。

あの"早く行っておいで"の破壊力は抜群ですわ。」


「ちょ、ちょっとアラン王子、カッコ良すぎるんだけど!」


「なんで婚約者がいるアンタ達が興奮してんのよ!」


「ふふふっ。メルお姉様〜お顔が真っ赤になっていました。

メルお姉様が素でお喋りになるのも〜アラン王子の懐が広いからでしょうか〜?」


すると、ネネの後ろから声がした。


「フフフッ。微笑ましい光景です。

入学した頃は、このような光景を想像することも出来ませんでしたから。

フフフッ。懐かしいですね。

視界にも入れてもらえていなかった。アラン王子ですのに。」


アラン王子の従者のジョルノだった。

アラン王子がメル目当てで王国に留学すると決めたことにより、アラン王子とともに留学したトーア国宰相の息子だ。

入学当初のアラン王子の駄目っぷりに何度もアラン王子に怒ってきたジョルノなのだ。


「あっ!ジョ、ジョル様!

……………こっこんにちわ。」


ネネの様子を見てシェリルが言う。


「なっ何よ〜!ここにも、花が咲いてるの〜!?

私取り残されてるの〜!」


アリスが言う。

「シェリル。ドンマイ!」


シェリルは、項垂れるのだった。

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