11章

第409話 Sランク冒険者?

 シャイフによる飛行移動を交えた移動は、かなりの時間短縮に成功した。

 いよいよグリフォンとしての本領発揮だ!

 徒歩三日で移動する距離を、二日分の距離をあっという間に飛び一日分は普通に歩く。

 影魔法でフェロウ達を収納して無ければ、もっと飛行距離を延ばせるのだろうけど、その検証は改めて行おう。


 そんな訳で王都北門を目指して歩いている。

 東の街道から来たのになぜ北門かというと、途中で王都北東にあるエンダール村に立ち寄って、ミルクとチーズの補充をしたからだ。

 余裕のある時に買い集めないと、いつ何時身動きが取れなくなるか分からないしね。

 ガレンテオより何日か先行してるから、一日くらい寄り道しても待ち合わせに遅れたりしないはず。


 それに、北門ならラナがバーニンググリフォントロンで何度も出入りしてるだろうから、警備兵がグリフォンにも慣れているだろうと予測し、シャドウグリフォンシャイフで降り立つ事になっても大丈夫だろうと確信があるからだ。


 単独で飛行させ上空から北門の位置を視認したシャイフの案内で、徒歩で北門に向け道なき道をひたすら歩く。

 王都付近まで来ると起伏の少ない草原地帯に入り、芝生のような草原は振り出す足に引っ掛かりを覚える事無く快適に歩ける。

 むしろ、硬い地面の街道より、足や膝に負担がかからなくて気持ちがいいくらいだ。


 王都の周囲を囲う外壁が聳え立つ姿が見え、北門に列を成す商隊の馬車が視認できる。


「もうすぐ王都に辿り着くね、もう少し頑張ろう」

「ラジャーデス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」


 しばらく自由に魔法を使っていたけど、そういえば王都に居る間は【破門の腕輪】を付ける必要があった。

 一応、王家側で解除する鍵の捜索をしているところだしね。


「忘れない内にこれ破門の腕輪を付けておこう」

「ラジャーデス」


 俺とノイフェスが素直に差し出す右腕に、着けたくは無いが破門の腕輪を取り付ける。

 この嬉しくも無いブレスレットを已む無く取り付けるけど、早いとこ鍵を何とか見つけて欲しいものだ。


 歩きながら装着した破門の腕輪の装着感を不快に思いながら、北門に並ぶ商隊の列を抜け貴族側で検問を受ける列の最後尾に加わる。

 するとフェロウが何かに気が付いたのか、警戒する時の鳴き声をあげた。


「わふわふっ」


 街道付近に魔物がさっぱり出ない場所なのに、警告の声を上げるなんて不自然さを感じフェロウに視線を向けると……

 その表情には警戒するでもなく、むしろ嬉しそうな雰囲気を出していた。

 念のため魔力探知を行うと、検問の列に並ぶ人たちの魔力以外に、街道上から少し外れた場所に凄い勢いでこちらに向かって来る魔力を探知した。


 そこに視線を向けると、上空に浮かぶ赤い点が見えた。

 みるみるうちに赤い点は大きくなり、次第に高度を下げて行った。

 やがて、ばさりばさりと羽音をたて、ふわりと地上に降りて来たのはバーニンググリフォンのトロンだった。

 もちろん背にはラナが騎乗している。


「エルー!」

「クエッ!!」


 トロンの背から颯爽と地上に降り立つと、俺の名前を呼んで駆け寄って来る。

 そのままの勢いで俺の胸に飛び込んでくるが、体格に差が無いから勢いに押されてたたらを踏む。

 しばらく顔を合わせていない中、久しぶりに会ったラナは、嬉しさが溢れ太陽のように輝いていた。


「エルエルエルーッ!!」


 俺の名を呼んでいるが、酔っ払いがリバースしてるように聞こえるから、連呼するのは止めて欲しい。


 抱き着く腕にも万感の思いが込められ、ひたすら頬を摺り寄せ全身で嬉しさを表現していた。

 周囲の目を気にしなくてもいい場所(?)だからか、自重していたラナの感情も爆発してるようだ。

 取り合えずラナの気持ちが落ち着くまで頭と背中を優しく撫でる。


 その間、トロンが一回り小さいシャイフと嘴をつつき合い、足元にはシャイフを守るようにフェロウ達が並び「わふわふ」と鳴き声をあげている。

 新顔だからトロンがお姉さんぶろうとしてたところに、フェロウ達がシャイフを擁護する構図に見えた。

 明らかにトロンが一番デカいのに、立場は一番低いとはどゆこと?


 テイムモンスターのヒエラルキーが垣間見える一幕だった。


 トロンとシャイフの序列が決まった頃、ようやく落ち着いたラナから解放されると、気付いたら列がかなり進んでいた。


 後ろに並ぶ馬車の御者に向け頭を下げ、ラナの手を引き列からいったん離れ、今までのラナの武勇伝を聞く事にする。


「それでラナはどんな風に生活してたんだ?」

「コスティカの家でお世話になってるよーっ」


 それは知ってるし知りたい部分じゃないしっ。


「トロンに乗ってあちこち飛び回ってるだろ? そこら辺が聴きたいんだ」

「それねー、コスティカに頼まれてミスティオに行くのが一番多いよー。 帰りにもグレムスに手紙を頼まれるから、待ってる間にヘイダルに剣を習ったり、ミスティオの角猛牛亭に泊まったりして、ときどき試作料理を食べてたよー。 美味しかったー!」


 ザックさんが仕切る宿の俺達の部屋は、ラナが時々利用していたのか。

 それよりも試作料理が凄く気になります!

 俺も食べたい。 素直に羨ましい。


「剣の腕前はどれくらいになったんだ?」

「もう少しでBランク冒険者くらいになるんだってー」


 こともなげに言い放つラナ。

 それって凄腕レベルなんじゃないだろうか?

 魔法剣も持ってるし、剣の腕前だけでAランク冒険者を名乗れるんじゃないかな?

 身振りを交えて無邪気に話すラナは、久しぶりにエルとゆっくり話せる機会に、その身から喜びの泉が湧き出てるかのような雰囲気を出していた。


「土魔法は使っても平気だったか?」

「圧縮魔法は一回だけ使えるよーっ。 普通の棒手裏剣ならウルフの群れを二つくらい倒しても平気だと思うよーっ」


 ラナに敵対する者が現れても、魔法剣と土魔法で十分対処できると思えた。もちろんラナの危機にはトロンだって参戦するだろうから、より安全性が高まるといえる。

 同時に、それはラナの魔力は成長限界を迎えた事を意味していた。


「楽しそうに暮らしてて何よりだよ。 そろそろ列に並ぼう」

「分かったよーっ」


 貴族側の列の最後尾に並び直し、順調に列が消化され俺達の番が回って来た時、ラナに先を譲る。


「こんにちはー。検査をお願いしまーすっ」


 警備兵に向け笑顔を浮かべたラナは、胸元から取り出した女神パスケースごと女神カードを提示し、同時にウエルネイス伯爵家の騎士メダルも見せている。

 何度も配達をやってるようで、一人で検査を受けるのも慣れているようだ。


「伯爵位のメダルと……Sランク冒険者?! し、失礼いたしました、荷物をお預かりします」


 貴族側の検査に徒歩で来る世間知らずの子供、しかも女性とみて、露骨に態度がおざなりになる警備兵。それが提示された女神カードを見て、瞬く間に先ほどまでの態度が消え失せる。


 顔色があからさま過ぎて、血色の変化が忙しそうだなっ。


 警備兵にリュックサックを預け一通りの検査を終え、荷物を受け取り北門を通過し、トロンに跨り颯爽と飛び去って行った。


 一人で検問が受けられるようになり、悪しざまな視線を向ける警備兵にも大人の対応をする姿を見て、ラナが大いに成長したのを感じ感動すら覚える。男子三日会わざれば刮目して見よとはいうけど、男性に限らず女性ラナにもしっかり成長の色が見える。

 コスティカ様に預けたのは、ラナの成長に不可欠な要素だったようだ。



 あ、俺達の検査は破門の腕輪を見咎められ、少々難航したとだけいっておこう。


 直前にラナがウエルネイス伯爵家の騎士メダルを提示していたから、俺達もその仲間と思われて、行き成り牢にぶち込まれる事は無かったけどね。

 警備詰め所内の会議室のような部屋に案内され、結構な時間を待たされたが確認作業に手間取って時間がかかっただけのようだ。

 警備兵も横柄な態度ではなく、落ち着き無く恐縮そうに説明していて、面倒な役割を押し付けられたようだ。


 警備兵側で確証を得られた事で、ほどなくして俺達は荷物の返却を受け解放された。

 王都の繁栄を象徴するかのように活気づく大通りを抜け、角猛牛亭へと帰還した。


「おかえり、エルくん」

「ただいま、ゾラさん」


 宿の扉を開けると、いち早く気付いたゾラさんが笑顔で迎え入れてくれた。

 どこか懐かしさを感じるこのやり取りに、帰って来たという郷愁感に包まれる。

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