第407話 捕縛したという盗賊はどこだ?

 ガレンテオside



 いまオレは、街道脇で二メートルの深さに掘られた穴の脇に立っている。

 エルが討伐した盗賊の見張りをしている。

 手足に土魔法で作った枷を嵌められてるから逃げ出す心配は無いのは良いが……騎士団が来るまで一日以上かかるだろ!


 エルは王都側に飛んで行ったから、王国騎士団が迎えに来るな。

 出発前に仕事と引き換えにもらった、伯爵家の騎士メダルが通用するか不安だ。


「見張りの代金は既に貰っちまったしな」


 かば焼きが依頼料として高いか安いかといえば、産地でもないのに美味しく食べられたのだから高いだろう。


『高性能なマジックバッグなので、鮮度も良いしアツアツですよ』


 そういって渡されたかば焼きは、美味そうな匂いと湯気も立つアツアツの物だったのは間違い無い。


「いつ食べてもアレは美味いな」


 かば焼きの余韻に浸りながら、雑草の絨毯に寝転がり空を眺める。

 青空のキャンパスを漂う白い雲が、形を変えながら流れて行くさまを頭を空っぽにして眺めていると、いつの間にか寝ていたようで馬車が近づく音で目が覚めた。


「騎士団が来たか?」


 そう期待して体を起こすと、馬車が来てる方角はツァッハレートの街からだった。

 見張りがオレの姿に……いや、ライサスローの姿に気付き、視認できる範囲で馬車を停めていた。


 その集団から三人が先行して近づいて来る。


 全員では無いが武器を構えて近づいて来るから、こちらも応戦の必要があると立ち上がる。

 人数で負けているから腰に佩いた数打ちの剣ではなく、エルから受け取った魔法武器を抜き放つ。

 そういえばこいつも受け取っていたな、ただの見張り代にしては大盤振る舞いだな。


 鈍い光を纏う刀身を見て相手の足が止まり、代わりに言葉がやって来た。


「待ってくれ! 交戦の意思は無い!」

「だったら、なぜ武器を抜いて近づく?」


 ガレンテオは当然の疑問を投げかける。


「この辺りは盗賊の出現地帯だ、警戒するのも仕方ないだろ!」

「お前達良かったな、もっと早く来てたら死んでたぞ。盗賊ならそこの穴に居る」


 そう返して穴の場所を切っ先で示す。

 こちらが剣先を外した事で相手も武器を納め、穴の方に興味が湧いたのか、許可取りをしてきた。


「穴の確認をしたい。武器を納めてくれないか?」

「分かった、好きに見てけ」


 魔法武器を納めると、三人が穴に近づき中を覗き込む。


「たしかに盗賊を捕らえてある」

「あんた一人でやったのか? 凄腕だな!」


 盗賊団の一つが壊滅している事に気を良くし、ガレンテオに勝算の言葉を投げかけるが、真実は違う。

 訂正しようとしたガレンテオの言葉を遮るように、三人のうちの一人が大声を上げた。


「あいつは【渦巻く爆炎】のブリドランだぞ!」

「なんだって?!」

「本当だ、ギルドで顔を合わせた事があるな」


 それを聞き、他の二人も顔と名前を一致させていた。


「おい、そいつがどうしたってんだ?」


 三人にブリドランとやらの事を聞く。


「あんたは知らないのか。ちょっと前に有名な盗賊を倒して魔法武器を持つようになったんだが、いつだったか護衛依頼中に逃亡したらしい」

「それがこんなところで盗賊に落ちぶれていたとはな……」

「テメエなんか【裏切りの爆炎】で十分だ! ブリドラン!」


 羞恥のあまり、反論もせず顔をそむけるブリドラン。

 名の売れた冒険者だったらしく、三人ともブリドランの所業を知っていたようだ。


「魔法武器を持っていたのに、盗賊程度から逃げ出したのか?」


 先ほどの戦闘でオレも似たような事をしていたが、この場に居る連中は見ていなかっただから、自分の行いをそっと棚に上げる。


 盗賊を確認したあと、「じゃましたな」といって商隊に戻って行き、休憩を終えた商隊は再出発していた。

 すれ違い様にお辞儀をしていく彼らを見送り、翌日の騎士団の訪問を待つ事にした。



 寝てる間の警戒と盗賊の逃亡阻止をライサスローに任せ、念のため警戒の心構えを忘れず、浅い眠りについた。




 ━━ガラガラガラッ……


 複数の車輪が奏でる音が聞こえ、五月蠅さのあまり目が覚める。

 寝起きとは思えないほど早朝の冷たい空気で意識は冴え、空はほんのりと白み、闇の領域を染め上げていた。


 音の鳴る方を見やると、荷台に檻を乗せた馬車が王都側の街道から走って来る。


「ようやく来たか?」


 盗賊捕縛程度の仕事に相当無理して来たのだろう、野営の時間を短くしなければこんなに早く領境まで来れないはずだ。

 立ち上がり手を振り、到着を待つ。


 反対車線で馬車を停め、小隊長らしき人物が降りて声を掛けて来た。


「見張りご苦労。捕縛したという盗賊はどこだ?」

「そこの穴に捨ててあるます」


 小隊長は一言「そうか」といって穴の確認をしたのち、部下に馬車の向きを入れ替えるよう指示を出し、オレに刀賊が扱ってた武器と手紙を渡して来た。


 封筒の中身はエルからの手紙で、平たく言えば、盗賊は任せた、王都の角猛牛亭で待っているとの事だ。

 王都一つ手前の街はもう出発したのか?


 指示を出し終えて手持ち無沙汰な小隊長に声を掛ける。


「手紙は受け取ったが、この武器はオレのじゃないですぜ?」


 丁寧な言葉は使った事がないから、上手く喋れ無いな。


「そうなのか? まあ今は持っておけ。あとで事情を聞かせてもらうから、我々と同行してもらうぞ」


 着々と護送馬車の準備が整うと、穴の上から盗賊を確認した小隊長が満足そうに頷くと、次の指示を口に出していた。

 それに従い配下の騎士達が手際よく、盗賊達を穴から出し、護送馬車に詰め込んでいた。


「枷が付けられてるから、暴れる事無く楽に放り込めるな」


 感心したように何人もの騎士が「ああ」と同意し、瞬く間に護送馬車が満杯になり、出発の準備が整っていた。


「ライサスロー、出発だ!」


 慌てて相棒を呼び、パカラッと真横に来たライサスローにヒラリと跨る。


 盗賊を乗せた護送馬車は、行きで無理をさせた馬を労わるようにゆっくりと進み、普通なら街まで一日の距離を二日も掛けて到着した。

 ゆっくり過ぎる移動で貯まったストレスを発散させるため、野営が始まったらライサスローを散歩に出さなくては、苛立ちを解消させられなかった。


 護送馬車に続いてベネケルト伯爵家の騎士メダルを出し貴族側の受け付けで街に入ると、そのまま騎士団詰め所まで連れて行かれた。


 取調室のような小さな個室に案内され、当時の状況を詳しく説明する事となった。


「それでエルが魔法で大半の盗賊を倒して、一番強いヤツは仲間の魔物と一緒に倒してたぞ……です」


 はあ……と一つため息をついた小隊長は。


「そんなはず無いだろ。引退した冒険者だからといって、低ランク冒険者に功績を譲る行為は本人の為にならない。感心しないな」


 小隊長にはオレの説明は、不自然にエルを持ち上げた、低ランクの育成行為に思えたようだ。


「オレが説明した事が事実だ!……です」


「分かった分かった」と、分かってない返事をする小隊長。


 なぜかオレの説明は無視された上、騎士団で適当な戦闘結果をでっち上げ、ようやくオレは解放された。


「宿を探すか……」


 ライサスローと合流し愚痴をこぼすと、短く嘶き励まされた。

 騎士団の詰め所を出たところで、堪え切れなかった感情が爆発する。



「なんで盗賊討伐の成果が、全部オレに降り掛かるんだよーーッ!!」


 一人も倒してない上、刀賊を前にして、命を諦めてかけていたのに!


「何でエルはしっかり説明していかないんだ!!」


 当然の如く怒りがこみ上げて来た。

 だがよく考えると「低ランク冒険者に功績を譲るのは……」とかいう連中が、エルが討伐した実話を素直に受け入れるとは思えない。


 エルも似たような感情だったのかもしれない。

 済まなかったと心の中で謝罪をした。

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