第405話 街を囲う壁の手前に降りられるか?
絶対騎士に捕らえてもらおう。
「それで、このまま穴に埋めるのか?」
生き埋めかよっ!
元冒険者だけあって、盗賊の命なんて羽根よりも軽いと思ってるんだろうか?
「生きてるから、騎士に引き渡すよ」
ガレンテオが物騒な提案をさらりとするが、即座に否定する。
心胆を寒からしむ恐怖体験をしたのだから、分からなくもないけどね。
「次の街まで、ライサスローに乗っても一日はかかるぞ? 始末しちまったほうが面倒がないぞ?」
ガレンテオの台詞を聞き、何人かの意識を取り戻した盗賊達が騒ぎ出す。
「見逃してくれ!」
「殺すのだけは勘弁してくれ!」
「なんでもするから助けてくれ!」
むさい男に「何でもする」といわれても、ちっとも心に響かないな。
彼らの主張を無視し、シャイフに声を掛ける。
「シャイフ、俺を乗せて行けるか?」
「ピッ!」
翼をバタつかせて身体で表現するシャイフは、「飛べるよ、乗って!」といわんばかりに、地面に伏せの姿勢を取る。
「その前に、みんなを影に入れれるか?」
「ピピッ!」
一声鳴くと俺の影に、頭から入り込むシャイフ。
影から顔だけだし「ピッ!」と一鳴きすると、フェロウ達が俺の足下に集まり影へと吸い込まれて行き、最後にノイフェスの全身が沈み込んだ。
「うぉ?! 何だそりゃ?! 地面に飲み込まれちまったぞ?!」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ俺はシャイフに乗って次の街まで飛んで、騎士団を呼びに行くよ。ガレンテオは見張りをお願い」
目を剥き驚くガレンテオに、騎士が到着するまでの見張りを任せ、俺はシャイフに跨った。
デオベッティーニの街に長期間滞在してる間に、俺を乗せて飛べるほど、影の中でひっそりとシャイフも成長していたのだ。
「オレが行った方が良くないか?」
「かば焼きあげるから、ここで待機してもらって良い?」
「任された! 気を付けて行ってこい!」
あまりにも簡単に買収できた……
かば焼きを手渡すと、途端に上機嫌になるガレンテオ。
タレに何かガレンテオにだけ効くヤバい薬でも入っているのか?
中枢神経を刺激するような興奮薬的な物が。
「一応、騎士団への説明用に、魔法武器を一振り置いておくよ。なんならガレンテオが使うと良いよ」
「エルの戦利品だろ? オレは何もしてないからな。だが有難くもらっておくよ!」
ガレンテオに見送られたシャイフは瞬く間に上昇し、一路次の街を目指し空の人となった。
飛行速度は中々の物で、眼下を望むと地上の景色が滑るように後方へと流れて行く。
上空から一望できる風景を眺めていると、気が付いたら王領側の街が見えて来た。
「シャイフ、街が見えて来たから降りるところを探そう」
「ピッ!」
人目を避けたいところだが、盗賊の捕縛を頼みたいしガレンテオも待たせてる。
早いとこ騎士団に動いてもらいたいから、目立つが仕方がない。腹をくくって警備兵の目と鼻の先に降りる事にした。
「街を囲う壁の手前に降りられるか?」
「ピピッ!」
急降下を見せるもそれまでの移動速度と打って変わって、バサバサと羽音を立て減速しつつ、ふわりと優しく着地するシャイフ。
あまり飛び立たせて無かったけど、本能的に飛び方を理解してるのか、俺を乗せた状態でも随分と余裕があったようだ。
東門近くの空き地に降りたのだが、突如馬よりも一回り小柄だが
「何者だ!!」
「その魔物は何だ!!」
警戒はされているが、行き成り攻撃されるほど慌ててはいないようだ。
黒い飛行型の魔物に跨った少年の金髪は、陽の光を反射し目を引いていた。
流石に人が乗ってるとなれば、一先ず対話を求めて来た。
「お騒がせして済みません。争う意思は無いです!」
距離を開け包囲するように半円に並ぶ警備兵に、両手を挙げ敵意が無い事を示した。
「テイマーか!!」
「何の目的で来た!!」
警備兵の上司と部下らしき二人だけが声をかけ、他の警備兵は穂先を向けたまま緊張感に包まれている。
「こちらは俺がテイムしてる魔物です。テイムの証に首輪も付けてます。ここに来た目的は、盗賊を捕らえたので回収のお願いで急ぎやって来たのです」
こちらの事情を話すと、ある程度納得したのか交渉していた二人は穂先の向きを空へ向けた。
「念のため女神カードを確認する! 確認に一人送るから、攻撃はしないように! 行ってこい」
上司らしき人物が部下に命じているが、魔物に近づくのを躊躇っているようで、はじめの一歩が踏み出せない。
その間にリュックサックを降ろし中から荷物を出す振りをして、女神カードと騎士メダルを取り出し掲げる。
「こちらを確認してください。騎士メダルもあります!」
騎士メダルの存在を知り、ようやく部下が近づいて来た。
シャイフを恐れているのか近づき過ぎず、さりとてギリギリ確認できる距離で足を止めた。どことなく顔も引きつっている。
「手を伸ばして、良く見せてくれ」
「どうぞ」
いわれるまま見やすいように手を伸ばす。
「伯爵位を表す三本線……、恐らく本物だ。低ランク冒険者か……、それで盗賊とは?」
「街道を東に行った領境で盗賊が出ました、現場には元Bランクの冒険者が見張っております」
「分かった。高ランク冒険者が倒したのだな。騎士団に連絡して捕縛に向かうよう手配しよう」
そういって上司の下に戻り話し合い、他の警備兵には警戒を解いて元の仕事に戻るよう伝えていた。
街の治安を守る警備兵たちが解散する姿を見て、緊張を解きほっと胸を撫で下ろした。
いつまでも穂先を向けられては堪らないからね。
一連の指示を出し終えたのか、先ほどの部下の人が戻って来る。
先ほどの引きつった顔と違い、今度は落ち着いた様子を見せていた。
「騎士団に向かわせた。いずれ護送用の馬車を伴って騎士団がやってくる。その前に、どれくらいの規模の盗賊団だったか聞かせてくれないか?」
「構いませんよ。たしか10人規模の盗賊団だったと思います。あと魔法武器を持った人が二人いて、一人の持ってた武器がこれです」
リュックサックから出す振りをして、刀賊が持ってた武器を取り出す。
特徴的な反りと刀身の薄さを見て、一目で誰が持つ武器か分かったようだ。
「こ、これは?!」
ガシッと武器を掴み、まだ近くにいた上司の下へひったくるように持ち去って行った。
「あっ! ちょっと!」と声掛けたが聞く耳を持たないようで、そのまま上司に刀を見せていた。
どうしようかと思案していると、シャイフが力なく鳴いていた。
「ピピー…」
「どうした?」
何やら顔色も悪く(黒い羽毛に埋もれて分からないけど)辛そうに見える。
近付き声を掛けると、俺とシャイフの影の中から、フェロウ達がせり上がって来た。
どうやら飛行で魔力を使った上に、長時間影魔法を維持していたから、これ以上影に沈めておくことができなくなったようだ。所謂魔力枯渇というやつだ。
いっぱい働いたから、シャイフを休ませないとね。
待ち時間の間に軽く食事でも済ませようと、フェロウ達にホットドッグ、俺とノイフェスは冒険者メシで簡単な食事にした。
これでシャイフの魔力が少しでも回復すると良いけど……
この街で合流するには二、三日かかる、それならゆっくり休めて食事も美味しい角猛牛亭まで急ぎたい。
だから、合流場所を王都にしようと、俺達の滞在先を記して届けて貰おうと考えていた。
手紙を書き終えるのを見越していたのか、刀を持った警備兵がやって来た。
「この魔法武器はSランク賞金首【人斬りガルルダーノ】が所持してた物だ。盗賊の中でも大物を倒した証明になったし、騎士団に渡して持ち主に返しておくよ」
あれ? 返してもらえると思ったら届ける?
街の外で盗賊を討伐したら、戦利品は倒した人の物になるんじゃなかったっけ?
俺達では倒せないと思われ、待機地点にいるガレンテオが討伐したと判断したのか。
わざわざ訂正する気は無いし、思い込みと勘違いはそちらの責任。誰が討伐したか確認しなかったわけだし。
「それならこの手紙も一緒に届けてくださいませんか?」
「それくらいなら構わないよ」
その警備兵は快く手紙を預かった。
「よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げると、「街に入るなら並べよ」と捨て台詞を残し、俺が騎士メダルを見せたのも忘れて、東門の警備に戻って行った。
「さあ、まだ日も高いし歩こうか!」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
街に泊まらず迂回し、俺達は一足先に王都を目指す。
騎士団が帰って来たら、討伐者が判明してややこしい事になるのは目に見えてる。
事情聴取はガレンテオに任せた!!
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