第399話 破砕/粉砕の魔道具か?

 南門に出てしばらく歩くと、昨日実験した場所に野生の狼が伏せた姿勢で休んでいた。

 土魔法の檻があるから逃げられないしね!



 朝食代わりにオシトンルカル様の干し柿を、野生の狼がいる檻に投げ入れる。

 ハンマーイールの毒で体力を消耗したのか、野生の狼は興味を示しているのかフンフンと匂いを嗅いでいる。


 だが、匂いを嗅ぐだけでぷいっとそっぽを向き、前足で干し柿を檻の外に押し出した。


「オシトンルカル様と違って食べませんね」

「狼は肉食だから、果物なんて食べないだろ」


 やっぱりそうですよねー。

 ハンマーイールの身は肉に該当したのか。


 取り合えず、野生の狼が無事なのを確認したので、ハンマーイールの毒は半日程度の麻痺?行動不能?の効果があるようだ。


 悪用されないよう、巷に出回らせないのは必須だね。


 フェロウとシャイフに威嚇させながら狼の檻を解除し、尻尾を腹の下に巻き込む様にした狼は、後退って距離を取ったのち、踵を返して住処を目指して走り去っていった。


 残された食べかけの干し柿を、そこら辺に落ちてた棒を使い実を裂いて行くと、細長い茶色の種が見当たらない。

 このダンジョンの木の実は、種無しの品種のようだ。


「何をしてるんだ?」


 干し柿を分解してたのを胡乱げに眺めてたオシトンルカル様は、俺の行動が気になって仕方が無かったのか、率直な疑問を投げかけて来た。


「木の実に種が無いか確認してたんですよ」

「それは大事な事か?」

「大事ではありませんが、食べやすいじゃないですか」

「そ、そうか?」


 俺の返答が腑に落ちなかったのか、納得しかねる様子ではぐらかすように同意していた。



 まさか、果物の種は料理人や侍女に取り除いてもらってるのか?!



 古くから続く伯爵家ともなると、使用人の能力が高いのか?

 そんな事を考えていると、ここに来た理由を聞いて来た。


「ここに来たのは、狼を逃がすのが目的か?」

「もちろんそれだけではありませんよ。オシトンルカル様にハンマーイールの無毒化の作業を見ていただくのと、ちょっとした私用ですね」


 宣言通り無毒化の為の準備を始め、ちゃぶ台やら調理器具を出しハンマーイールを捌き蒸し始める。


「それで無毒化ができるのか?」

「ええ、加熱すると毒が消えるようです。薪をケチって生焼けにならないよう気を付ければ十分かと」

「その程度の事で、毒のある食材が活用できるようになるのか……、それにそんな調理方法、聞いた事が無い」


 フグを実食するという人体実験で、毒のある部位を探し出した食の探求者日本人に比べたら、その程度の事と評されるのは仕方ないが……

 自領に新たな産業が生まれるのだし、もっと喜んで欲しい。



 そして蒸し上げてる間の隙間時間に、女神様に手紙を出してダンジョンコアの回収を頼もうと思ったけど、手紙を覗き込まれて質問されても困るから、デオベッティーニダンジョンのボス部屋で拾った宝珠を開ける事にする。


「宝珠を開けるので、少し離れてもらっていいですか?」


 掌に収まる宝珠でも、開けると予想外に巨大な物も出てきたりする。業務用冷蔵庫の魔道具とかね。

 だから、万が一が起きないように、オシトンルカル様には距離を取ってもらう。「分かった」といって数歩下がったので宝珠の開封を始める。



 デオベッティーニダンジョンのボス部屋で取れたのは、青色の宝珠1個に黄色の宝珠8個だった。



 宝珠の種類が偏り過ぎ!!



 二階層しかなく魔物も弱い。更に二階層自体もかなり狭めの階層。難易度がかなり低いダンジョンだから、ボス部屋とはいえ出てくる物にあまり期待はできないかも知れない。


 一番期待を持てる青色の宝珠を、さっそく開けてみる。


 パカリと開けると、俺の胸元まで高さのある、四角い金属製のような物体が現れた。


 また冷蔵庫の魔道具か?

 そう思ったが上部は取っての付いた蓋のようになっており、蓋を開けると内部は漏斗のような傾斜の付いた形状で、中心には恐らく回転軸に金属板が付いた物が見える。


 取り合えず動かしてみようと魔道具のスイッチに魔力を流すが動かない。

 何かしらの安全装置が働くようだ。


 回転軸の形状からして硬い物を砕くように思えて、取り合えず手元にあった切り落としたハンマーイールの尻尾(尾びれがハンマーのような形状になっており、柄の部分も30センチメートル程が白い鉱石になっている)を試しに投入してみる。それでも動かない。別の安全装置が働いてるようだ。


 スイッチのある側から本体の横面を見て見ると、排出口の蓋らしきものが上下二か所あった。とりあえず上の排出口を開いて魔道具を起動する。

 すると、回転軸が動き出し、バコンッ!バコンッ!とハンマーイールの尻尾が砕けながら吸い込まれ、足の親指のような大きさの石に砕かれて排出口から出て来た。

 それを集めて再び投入口に投げ込み、下側の排出口を開き魔道具を起動する。すると、白くサラサラした粉末になって出てくる。


 詳しく調べてみると、材料を投入し、排出口を開いて砕石か粉末かを選択すると起動すると判明した。

 あと、割れた石の破片が飛んで怪我をしないよう、起動前に蓋を閉めた方が良さそうだ。


 破砕/粉砕の魔道具か?


「これって磁器の材料だったりするかも?」


 デオベッティーニダンジョンは、陶器の素材が出てくる。ならば磁器の素材が取れてもおかしくはない。

 可能性はあるかも知れないと、モルラッキ親方に見せるため白い砂を集めていると……


「それで、その魔道具は何なんだ?」


 興味を引かれたオシトンルカル様が、当然のように聞いて来る。


「恐らく、破砕と粉砕をする魔道具だと思います」

「何に使えるんだ?」

「破砕した石をぬかるみ易い道に敷き詰めれば、道が整備されますね」

「ほう、良さそうだな」


 一瞬眉を上げ、感心したように納得するオシトンルカル様。


「それで、粉末状にした物を焼き物の材料にできないか、モルラッキ親方に頼んで試作してもらいたいのですが……」

「窯場に居るといっていたな、私も行って頼んでみよう」


 こういうときに権力者がいると、話が早い。

 次期領主の威光ってやつだね、なんて素晴らしいんだ!




 窯場に行くと、素焼きか本焼きか分からないが、窯に火が入れられて物凄い熱気を放っていた。

 近付くだけでじっとりと汗が滲んで来る。

 何人もの人が作業をしており、その中の一角にモルラッキ親方の姿も確認できた。


「モルラッキ親方! ちょっと見ていただきたい物が!」

「おう! いま行く!」


 邪魔にならないよう離れたところから声を掛け、モルラッキ親方をこちらに呼び出す。


 近付くと更に熱いからね!!



「何を見て欲しいんじゃ?」

「この白い砂です。粘土のように捏ねて焼き物の材料にできませんか?」

「新たな陶器が生まれるとなると、次期領主としても嬉しい。頼めないか?」


 俺が見せた白い砂に手を伸ばすモルラッキ親方。次期領主様からのご指名とあれば、否やは無さそうだ。


「試してはみるが……、水はあるか?」

湧水ウォーター

「もう少し頼む」


 白い砂の入った器ごとモルラッキ親方に渡すと、水を混ぜて練れないか試し、生活魔法で水を注ぐと、適量を見極めんと真剣な眼差しを向けていた。


「水じゃダメだ。粘り気がちっとも出ん」

「他の物を試してみますか? 二階層の粘土やハンマーイールの泥水とか」

「そうだな、せっかくならこの白さを生かしたいのじゃ。可能性は低いが焼いたら色の消える泥水から試す」


 先ほどの魔道具を取り出し新たに白い砂を作って、モルラッキ親方に渡し、同時にハンマーイールの泥水も用意する。


「少しずつ足してくれ」


 いつの間にか弟子のように手伝いを強制されてるが……、モルラッキ親方の指示に従い泥水を少し入れては止め、少し入れては止めと繰り返すと、そば作りのように小さな塊ができ、更に泥水を加えそれらをまとめると粘土らしさが生まれ、空気を抜くように練り込んでいくと、粘土の塊に菊の花の模様が浮かび上がる。


 たしか、菊の花にちなんだ練る技法だ。呼び方は忘れた。


 それはともかく、ハンマーイールの尻尾を材料にした粘土は、白みを帯びた陶器作りに使えそうな素材となった。


「乾燥させて焼いてみないと分からないが、良い素材になりそうじゃ。さっき見ていたが、ハンマーイールの尻尾で間違いないか?」

「そうですよ。良さそうな材料が見つかって良かったですね」

「だが、その魔道具が無ければ粉にするのは大変じゃ」


 作業性を考えたら人力で石を粉末にするなんて、考えただけでも気が遠くなりそうだ。

 俺なら絶対にやりたくない。

 モルラッキ親方が消極的に意見するのも頷ける。


「そうだな。エル、その魔道具は伯爵家で買い取ろう」

「えっ?! 売りませんよ? ここのダンジョンで取れるのですから、必要なら青色の宝珠を集めて出してください」


 俺だって爵位を貰う予定だから、王都に家を買う必要がある。その際、防犯目的で敷地に砕石を撒きたいし、簡単に手に入るものじゃ無いから安易に魔道具は手放せない。


 交渉の末、【破砕/粉砕の魔道具】は貸し出す事になり、俺が砕石や焼き物が必要になった時には、必要量が提供されるという内容だ。要するに貸出料金が現物支給って事だな。


 俺が加工素材を必要としなければ、タダで魔道具を借り続けられるという事になる。


 ウエルネイス伯爵家と仲が良いという事なので、かなり譲歩した契約だ。因みにベネケルト伯爵家が、魔道具に必要な魔石の負担を担う。



 その後、手持ちにあるハンマーイールで何度か蒸し焼き作りと白い砂作りを行い、その合間に、残りの黄色の宝珠を開封して行った。


 なぜか【星降る丘亭】を支援するかのように、醤油が大甕で3個も出て、更にしっぴき用に使えそうなピアノ線が巻かれた物が、太さ違いで3巻出た。

 残りの2個から、一つは小さい宝石で地面に落ちたものだから、目を皿のようにして探して大変だった。

 もう一つは砂糖が大甕で出た。



 醤油と砂糖で、かば焼きのタレ作りを支援しろって事か?

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