第389話 何が不満なのさ?
【渦巻く爆炎】リーダー ブリドランside
オレ達は商隊の護衛依頼を受け、周辺の警戒をしつつ王都からの復路を進み、拠点としている領都ツァッハレートへ向かっている。
「止まれ!!」
オレは、街道脇に山積みになった武具を見つけ、不審に思い護衛対象の商隊を止めた。
「何があった?」
依頼主に問われ、街道脇の違和感について説明する。
「あそこに武器の山がある。調べて来るからここで待っててくれ。他のみんなは十分警戒してくれ!」
「「「おう!!」」」
武器の山を調べるだけだから危険は無いだろうが、盗賊の仕掛けた罠という可能性もある。気を引き締めて十分な警戒をするべき事態だ。
しゃらりと腰に下げた剣を抜き放ち、周囲に視線を巡らせ安全を確認する。
それが終わったところで武器の山に視線は向けず、周辺を警戒しながら近づく。
罠の類が無いか、持っていた剣で武器の山を突いたり退かしたりしたが、今のところ異常がない。
武器の山に異常はなく、その周辺を探ると……明らかに人為的に作られた大穴があり、そこに近づくと人影が見えた。
相手を確認するのが先かと、声を掛ける前に身に付けてる物などを確認していると、相手に気付かれたようで先に声を掛けられた。
「おい! 助けてくれ!!」
「誰か来たのか?!」
「ここから出られねえんだ! 助けてくれ!」
救助を求める声を掛けられるも、腰に鞘は下げているが、剣の柄が見当たらない。武器を持っていないのは明白だ。
街道脇の武器は、彼らの物らしい。
それに、手足に枷が嵌められており、明らかに捕らえられた人達だ。ざっと数えても10人ほど居る。
身に付けている防具も十分な手入れがされていないようで、酷い匂いを放っていた。
ずぼらな冒険者でも、そこまで手入れを怠ったりはしない。命を預ける大事な相棒だからな。
手入れが行き届いていないのは、街に入れないせいか?
「誰が助けるか! お前等盗賊だろ!」
総合的に判断すると、彼らは盗賊一味と結論付けた。
無慈悲に無辜の民を襲い、積み荷と命を奪って来たような連中だ。
このまま街に向かって通報すれば、騎士団に捕縛されるな。
穴と枷で逃げ出せそうに無いし、万が一抜け出された時の為に、武器だけ回収しておくか。
穴を離れ商隊の下へと戻り、危険は無いと説明し、街道脇の武器だけ回収して行くと伝えた。
「おお、それではここいらを荒らしていた、盗賊団が討伐されたのですね?」
「いや、生きてはいる。騎士団に通報すれば確保してくれるだろう」
商隊に戻って報告すると、商会長は盗賊団が壊滅した報に無邪気に喜びを噛みしめていた。
街道の安全が確保されるなら、別の誰かが捕らえた成果だとしても構わないのだろう。
「再び盗賊の手に渡らないように、武器だけ回収していくから少し待ってくれ」
「荷物になるでしょう、物によっては買取致しますよ?」
商人としてもこんな機は逃したく無いのだろう。
オレ達は荷物を減らしたいから、すぐにでも手放せて嬉しいし、商人としては捨て値で買い取りができる良い機会だ。
完全に足元を見られているが、拾い物が金になるんだ、小遣い程度の金額でも構やしないさ。
商会長に査定してもらった結果、錆が酷くて使い物にならない武器は、盗賊に利用されないよう穴を掘って埋め、それなりの武器は大銅貨数枚の値で引き取ってくれた。街の外での取引なのに意外と高値が付いたと思えた。
その中に、ひと振りだけ魔法剣があった!!
オレ達ではとても手に入れる事ができない武器で、こんなところで売っては勿体ないとすら思えた。今回の護衛の戦利品として、オレ達で有効活用するべく確保する事にした。
誰が使うにしても売るにしても、あとで揉めそうだが……
「魔石交換型ですが、その武器は良い物です。私共に売っていただけたら有難かったのですが、冒険者さまにも実用的ですからね。仕方ありません、諦めます」
商会長も買取を強くは求めず、護衛の冒険者が強化された事を喜んでいた。
依頼料が増えずに強い護衛が付いたと思えば、儲けものだしな。
どちらに転んでも商人には利のある事。無理をして機嫌を損ねたり、契約済みの依頼料に言及されたくは無いのだろう。
一応リーダーとして暫定的にオレが持つ事になり、翌日、領都ツァッハレートに着いた際、盗賊の件を門番をしていた警備兵に報告した。
「おお、あなた方が盗賊を討伐されたのですね! いま騎士が確認に向かってます!!」
放置された盗賊の報告をしただけなのに、なぜか警備兵から手厚い歓迎を受け、更には盗賊の捕縛が俺達の成果としてギルドに報告されてしまった。
勢いが凄すぎて、誤解を解く暇すらなかった……
俺の腰に下げた魔法剣が、より信憑性を高めていたらしい。
オレ達が名うての盗賊から武器を奪い討伐したと噂が一気に広がり、冒険者ランクがCランクに上がり、商会からの指名依頼が一気に舞い込んできた。
商会からの指名依頼が増えたせいで、Dランクだったオレ達に盗賊団【黒狼の牙】討伐の成果を踏まえてランクアップさせたんだ。
積み上がる指名依頼を処理させるという、ギルド側の事情も後押しとなった。
「オレ達の成果じゃないのに……」
「いいじゃないのブリドラン。指名依頼だからって依頼料も弾んでくれて、万々歳じゃないか、何が不満なのさ?」
「Aランク賞金首だぞ? オレ達が倒せる訳無いじゃないか!」
「声が大きいよ。あたい達は正直に盗賊の報告をした。勝手に勘違いしたのは警備兵で、あたい達は悪くない。そうでしょ?」
彼女はアドリアナ。
極端にスキンシップの多い女で、いまも冒険者らしく酒を酌み交わしながら、男っぽく俺の肩に腕を回して、人生の春が来たかのように金回りの良さに浮かれていた。
いくつかの護衛依頼を熟し、時にはAランク賞金首【断指のジャンジャック】を討伐した冒険者という肩書を名乗ると、酒場や娼館で良い思いをしたり、襲って来た盗賊を追い払えたりと、名乗るだけの価値はあると分かり、いまでは自ら名乗るようになった。
そんなある日、いつものように指名依頼を受け、警戒しつつも街道を進んでいると、盗賊達が姿を現した。
比較的少数の盗賊団のようだから、いつものように名乗りを上げる。
「【断指のジャンジャック】を討伐した【渦巻く爆炎】のブリドランだ。命が惜しくば立ち去れ!」
奇襲もせずにご苦労な事だと思っていると、一人の盗賊が名乗りを上げた。
その男は防具も身に着けず、細く薄く反りのある、一見頼りなさそうな不思議な武器を携えていた。
「儂は【人斬りガルルダーノ】、この街道に凄腕の冒険者がいると聞きつけ参上した。当人かは分からぬが、手合わせを願おう」
オレの名乗りに怯む様子も無く、むしろ嬉々として武器を構えて無造作に近づいて来た。
実力差はみれば分かる。
無造作に歩いているようで、油断なく自然体のまま近づいてくる。
剣を極めた達人のような佇まいの、人斬りガルルダーノに慄き身が竦む。
人斬りガルルダーノに気を取られているその間に、他の盗賊達が包囲を狭めて来る。
「ブリドランさん、お願いします!」
焦る護衛対象である商会の御者が、たまらず声を掛けた。
「全員応戦! 人斬りなんとかはオレとアドリアナの二人で当たる! 他は任せた!」
「あいよ!」
「「「おう!!」」」
一番腕の立つオレとアドリアナの二人掛かりなら、なんとか対処できる可能性に賭け、最悪、時間稼ぎをして他の連中を仕留めるのを待つつもりだ。
こんなところで命を投げ打つつもりは無い!
「儂の相手は二人掛かりか、楽しませてくれよ」
ふふと笑みを浮かべ、命の削り合いが楽しみだといわんばかりに、喜びの表情を崩さない人斬りガルルダーノ。
近付くガルルダーノに駆け足で詰め寄り、アドリアナと同時に左右から武器を振り下ろす。
「二刀同時なら、一つは防げてももう一方は躱せまい!」
こちらの攻撃の初動を見て、ガルルダーノの刃が一瞬煌く!
「ぎゃああぁぁッ?!」
左に立つアドリアナが女性らしさの欠片も無い悲鳴をあげ、左肩から右わき腹にかけて、いつ斬られたのか認識できないほどの速度で、一刀の下切り伏せられた。
これで分かったのは、ヤツの剣の腕が途轍もない事。
振り抜く速さが目にも止まらず、一人で当たっても時間稼ぎすらできない事。
右側から振り抜いた事で、ヤツが右利きだと分かった事。
ガルルダーノがアドリアナに踏み込んだ事で、振り抜いたオレの剣は躱された事。
このままではオレが死ぬのは確実な事。
「うわあぁぁぁぁ!!」
恥も外聞も無く、人斬りガルルダーノに背を向け逃げ出した。
商会の積み荷の略奪を優先したのか、人斬りという割に逃げる者は追わないようで、俺達は命辛々逃げ果せた。
人斬りだろうがなんだろうが、霞を食って生きてる訳じゃ無いのだから、食料の確保は重要だろう。
アドリアナは死んだ(恐らく致命傷)が、仲間の数人も一緒に逃げ出して来た。
元々Dランク程度の実力しかないのに、Aランク賞金首討伐者に祭り上げられたオレ達には、手に負えない相手だった。
このまま街に戻っても、事情を聞かれて冒険者資格剥奪され、護衛を放棄した責を負わされ、積み荷の代金分の補償として借金奴隷になるのだろう。
正直に生きれば、そのような憂き目に合うのは明白だ。
ああ、こうして盗賊は生まれるのか……
魔法剣を手に、新たな人生を歩み始める事を決意する。
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