第386話 蹂躙する作戦だったのか?

 変なお坊ちゃんに絡まれたけど、返り討ちにして穴に捨てた!


 先ほどの出来事をまとめるとこんな感じだが、金が無いなら交渉を持ち掛けるなと切に願う!

 あと、貴族風吹かせて強奪しようとは以ての外!

 貴族の風上にも置けん!


 いや、貴族とはそんなもんか?



 ギルド出張所に入ると、早朝の時間帯で冒険者も疎ら。

 受付カウンターには手の空いてる受付俠うけつけきょうも居るようで、入って来た俺達を見かけて声を掛けて来た。



「おう、来たか、昨日ぶりだな。ここで受付を済ませとけ」



 そういって再び声を掛けて来たのは、昨日対応してた迫力ナンバーワンの受付俠うけつけきょうだ。



「ダンジョンに行くんだろ? ダンジョンカードは持っているか?」

「ありますよ」



 ここのダンジョンも、王都のダンジョンと同時期に改変があったようだね。

 連動して変化が起きたのなら、ダンジョンコアが健在だという事だ。

 女神フェルミエーナ様に捧げるためにも、是が非でも攻略しなくてはならない。



「深い階層まで行ったら、帰りはそれを使って簡単に出られるぞ」

「王都のダンジョンと同じですね」


「知ってたか、気を付けて行ってこい!」


 ━━バシッ!!

「痛ッ?!」



 不意に左肩に衝撃が走り痛みを覚える。

 何事かと思うと、どうやら受付カウンター越しに左肩をはたかれ、闘魂注入のような事をされた。

 ここの受付俠うけつけきょうらしい応援エールだろうか?


 肉体言語で語り合う会話は苦手なのだが……


 ダンジョン出張所の受付俠うけつけきょうは、俺の肌に合わないな。

 だから他のギルドは、綺麗処を並べているのか?!


 ダンジョン入場の手続きを済ませた俺達は、攻略目指してダンジョンに突入した。


 王都のダンジョンほど利用者が多くないようで、人が踏み均した獣道のようなしるべは残されて無かった。

 このまま当ても無く階層全域を探索して時間を浪費する訳もいかず、効率よく次の階層へ向かう道筋を発見する為に、テイムモンスターの力を使う事にする。



「良し! 攻略を優先するから、シャイフ!」

「ピッ?」



 突然の俺の呼びかけに、きょとんとした表情を浮かべるシャイフ。

 もちろん鳥の表情が読める訳じゃ無いけど、テイムで魔力が繋がってるせいか、何となくそんな雰囲気が感じ取れた。



「どこまで天井があるか分からないが、上空から次の階層への入り口を探せるか?」

「ピピッ!!」



 元気よく返事をしたシャイフが翼を広げ飛び上がり、高く上空へと跳び上がるかと思ったが、見えない天井でもあるかのように、空を飛んではいるがそれほど高度は取れないようだ。

 王都のダンジョンのグリフォンの階層のように、上空が解放されていないようで、最大高度は高台に生える樹木の高さを二倍にした高さが精一杯のようだ。

 テイムモンスター用に従魔の首輪は付けているが遠目に見て判断できるはずも無い。弓矢が届かない程度の高度は確保されているから、ダンジョンの魔物と勘違いされても攻撃を受ける事は無さそうで安心できる。



「俺達も移動を開始しよう」

「ラジャーデス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」



 シャイフを見送り移動を始めたが、ホーンラビットが相手であれば、フェロウの索敵で十分に対処可能であった。

 先に敵を探知していれば、単体で襲撃してくるホーンラビット程度に後れを取ることは無く、それぞれが順番に戦闘を行いつつ順調な行軍を見せた。もちろんサンダは見学です!


 上空からの探索が功を制し、あっという間に次の階層への入り口を発見したシャイフが戻って来た。



「おかえりシャイフ、次の階層は分かったかい?」

「ピピッ!」


 シャイフの得意気な感情を感じ取った俺は、出口を探し当てたと理解した。


「ご苦労様。どっちにあるか教えてくれる?」

「ピッ!」


 凡その方角を指し示し、そちらを目指して進むと迷う事無く第二階層へとたどり着いた。



「シャイフに乗れるようになれば俺が騎乗し、フェロウ達を影に収納したまま飛んで移動できる気がするんだけどね」



 そうなればダンジョン内の移動も容易になり、地を這う魔物との戦闘も回避でき、ダンジョン攻略がかなりの時間短縮ができる。

 シャイフの体格も徐々に成長しているし、近い将来そんなダンジョン攻略ができそうではある。

 因みにライマルは他人(他コア?)の管理するダンジョンでは階層転移ができず、最深部のボス部屋まで行かなければダンジョンへの干渉はできないそうだ。

 ライマルの機能が使えないのは残念だし、そんな簡単にダンジョン攻略とは行かないらしい。



 再びシャイフに空を飛んでもらい、三階層への入り口の捜索を頼んだ。

 シャイフが飛び去るのを見送り、俺達も行動を開始する。



「それじゃグレイウルフを倒しつつ、移動を開始しようか」

「ラジャーデス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」



 二階層に生息する魔物は街道でもよく遭遇するグレイウルフで、数匹の群れを成し、多ければ十数匹の群れで襲って来る。

 そのような大きな群れは、ひと際強力な上位種が統率個体となって率いている。


 一階層がホーンラビットに二階層がグレイウルフ。

 トーアレドのダンジョンに魔物の構成が似ていて、冒険者になりたての頃のような新鮮な気持ちを思い出させる。

 あの頃は何の実績も後ろ盾も無かったから、高ランク冒険者の勘気に触れないようにとか、他の冒険者達にも実力を抑えながら戦っていた。


 そんな抑制された冒険者活動も、今ではすっかり鳴りを潜め、割と自由に戦っている。ライマルとかアイテムボックスのスキルとか、隠すべき物は隠してる。そこは変わらない。


 そんな思いにふけながら、グレイウルフをフェロウと協力して倒しながら進んでいる。

 魔物が群れを成す場合、近接単体攻撃のマーヴィを単独で戦わせる訳に行かず(何匹も後ろに逸らすから)、接近される前に俺の土魔法と雷魔法の遠距離攻撃で片付けて行く。

 それはノイフェスも同じで、複数相手の戦闘を一人に任せたりはしない。


 魔物と肉薄したくない俺は、ノイフェスやマーヴィに戦闘を任せる事は滅多にない。

 そりゃ、襲い来る魔物が間近に迫れば、その命を狙う迫力と迫りくる恐怖で身が竦む思いをする。だから魔力量を増やして魔法技術を鍛えている。


 二つ目の丘陵地の頂上と思しき地点に到達したとき、シャイフが戻って来るのに気づき、同時にフェロウが警戒の声を上げた。



「わふわふっ」



 すかさず魔力探知で周辺を探ると、シャイフが戻って来る方角に魔物の群れを探知した。

 高台から望めば眼下に群れの姿が目視でき、十匹以上のその群れにひと際大きな魔力を感じ、ウルフ系の何かだろう上位種の存在が確認できた。

 まだこちらの存在には気付いていないようで、こちらから見て左側に群れごと移動している。


 ━━バサバサバサッ! スタッ!


 上位種の群れに気付かれないよう、できる限り静かに移動していたら、シャイフも戻り羽を休めていた。


「シャイフはお帰り。道案内は、あの群れを片付けてからね」

「ピッ!」


 戻って来たシャイフの首筋を軽く撫でて労い、それを気持ちよさそうに目を細めて受け入れていた。

 視線をフェロウ達に移し、作戦指示を伝える。


「このまま距離を詰めて、あの群れに先制攻撃を仕掛けるよ」

「ラジャーデス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」



 そろりそろりと彼我の距離を詰め、そろそろ魔法の射程に収める頃、フェロウが再び警戒の声を上げる!



「わふわふっ」



 すぐさま魔力探知で探ると、俺達の右手方向からウルフの小さな群れが迫って来ていた。



「グルルゥー…ッ!!」

「前方に集中しすぎた、横合いからの襲撃だ!」

「わふわふ~」


 ━━バリバリバリッ!!

「「「ギャンッ?!」」」


 階段型前駆ステップトリーダーに稲光が走り、すかさず放ったフェロウの雷魔法が、横手の魔物の群れに突き刺さり、数匹纏めて感電死させた。



「いいぞフェロウ!」



 フェロウの働きに感謝を込めて褒めたたえ、打ち漏らしたウルフを、個別に棒手裏剣の魔法で仕留めて行く。



「にゃにゃにゃっ?!」



 俺とフェロウで奇襲をかけて来たウルフを片付けている最中に、今度はマーヴィが警戒の声を上げる。

 マーヴィが顔を向けている方角を見やると、暢気に左方向に移動していたウルフの群れが、真っ直ぐにこちらを向いて駆け出していた。


 奇襲で体勢が崩れたところを、本体で蹂躙する作戦だったのか?!


 上位種が率いる集団と、横合いから襲って来た小規模な群れは、まるで連携を取っていたかの如く、絶妙なタイミングで戦闘態勢に入っていた。



「上位種の群れが予想以上に近づいてる?!」



 思いの外、奇襲部隊を倒すのに手間取ったようで、上位種が率いる群れとの距離が詰まって来ていた。



「フェロウ! まとめてやっちゃえ!!」



 フェロウが全力で雷魔法を放つとウルフの素材が駄目になる。けど、ホウライ商会の面々に解体を任せても魔石しか引き取らないから、黒焦げでも何の問題ないと思い、そのように指示を出した。

 範囲攻撃に乏しい俺の魔法より、広範囲に広がりそうなフェロウの雷魔法に頼る。

 気持ちとしては『先生、お願いします!』だな。


 ━━バリバリバリバリッ!!!

「「「キャンッ?!」」」


 全力に近いフェロウの雷魔法で、本体の左側に居た魔物が全て感電して即死したようだ。移動する群れから置き去りになり、脱落しているのが良く分かる。

 俺も負けじと集団の右側に向け、散弾魔法を乱射する。


 俺達の攻撃を跳び越えて回避していた上位種は、赤黒い毛並みをしており、体から刃物が飛び出たような容姿をしていた。


 あの時の恐怖は忘れもしない、初めて遭遇した上位種、ブレードドールウルフだ!

 あの日は壁を作りウルフの攻撃を退けたが、今回は壁を作る余裕も無い程上位種が迫っている。

 すかさずアイテムボックスからトーチカを取り出し、俺達の姿を隠すように上から被せた。


 ━━ドンッ! ビタッ!!


 俺達に襲い掛かろうとしたブレードドールウルフは、目の前に突如現れたトーチカの壁と衝撃的なキスをしたあと、勢いのあまり抱きしめるかのように全身で密着していた。


 その衝撃から立ち直り、目を回しているのかふらふらと足元が覚束ないようだったが、トーチカの壁越しにジャベリンの土魔法を放ち、あっさりと止めを刺した。

 俺が魔法を準備してる間に、足元の動きがピタリと止まってたから、壁越しにシャイフが影魔法で捕捉していたようだ。


 やるな、シャイフ!


 お礼代わりに首筋を撫でると、「ピピ~…」と嬉しそうに鳴きながら、その感触に浸るように目を閉じていた。



「万全の状態だと巧みな跳躍で回避するのに、ひとたび衝撃を受けると一気に崩せるのか…」



 初めて遭遇したときの苦戦を思い出したが、今回は楽に倒せて良かったと捉えよう。

 偶然別の群れが襲って来た可能性もあるが、統率した上位種が的確に冒険者の命を奪おうと、作戦を立てて連携してくるとは思わなかった。


 今後は上位種の居る群れには、細心の注意が必要だな。


 全員無傷で難局を乗り切れた事を喜び、シャイフの先導で三階層へと移動した。

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