10章

第381話 痛い目に見ずに済むよ?

 晴れ渡る空の下、昇る太陽に向かい街道沿いに歩みを進める。

 陽気に釣られて晴れやかな気分な俺は、いまにも歌い出しそうなほど浮かれている。

 なぜなら……、王都を出て破門の腕輪を外しているからだ!!


 着けてても日常と変わらないのだが、魔力が封じられている演技を続けるのも心の負担になっていたようで、その証拠に腕輪を外した途端、澄み切った空のようにすっきりとした心持になっている。

 リュックサックを奪われ地下牢に押し込められた件も、一応は示談となり解決したようなもので、心も軽く、なんなら足取りも軽い。


 王家は、関連した末端職員の汚職や腐敗の処理があるし、フェルメランダー男爵を唆した黒幕の捜査もあるだろうから完全に終わりではないが、直接関りの無い事だ。


 旅の道連れにノイフェスが隣をあるき、フェロウとマーヴィが足元をちょろちょろと行き来する。サンダは足が遅いのでフェロウの背中に乗っており、シャイフはしばらく影の中で生活してたのもあって、窮屈な日々から解放されたかのように、いまは嬉しそうに大空を飛び回ってる。



 今回の目的地はベネケルト伯爵領にある二つのダンジョンだ。


 女神フェルミエーナ様に捧げたグライムダンジョンコアが、全てのダンジョンを統括するコアだったため、ライマルとノイフェスとなって地上に戻ってきてしまった。

 そこで、代わりとなるダンジョンコアを探しに、新たなダンジョンを求めて王都を旅立ったのだ。



 地方の街から街への移動日数は、徒歩で丸々三日かかる。王都が広いから、東門を出て三日目の昼には次の街に着く予定だ。

 だが……、破門の腕輪を勝手に外している事から、警備兵に腕輪の有無を把握されたく無いから、一つ目の街は素通りする事にした。


 なぜなら王領の街にあたるから、警備関係で定期的に情報共有をしていたら、破門の腕輪を外している事に気付かれる可能性がある。露見したら確実に呼び出されるだろう。国の備品である破門の腕腕の回収も含めて、理由を求められたら面倒事に発展する可能性が高い。


 そんな理由もあって一つ目の街に立ち寄る事無く迂回し、領境を超えたであろう五日目、俺達の目の前には馬鹿どもが、雁首を揃えていきり立っていた。



「おうおうおう! 無駄な抵抗せずに大人しく捕まりな」

「奴隷にはしねえが、いい仕事にありつけるよう斡旋してやるよ」

「大した荷物はもってねえな、有り金と一緒に置いて行きな」

「その女も置いて行け!」

「オレ達が可愛がってやるぜ、へへっ」



 今いる場所は王領と伯爵領の境を超えた街道で、この近辺には魔物が殆ど出没しない。

 要するに、街の外でも比較的安全に野営ができ、盗賊にとっても枕を高くして寝られる場所になる。

 おまけに領境ともなれば、盗賊討伐にどちらの騎士団が動くか微妙なところだ。


 王都の騎士団が動けば伯爵領に逃げ込み、伯爵領の騎士が動けば王領側へと逃げ出す。

 流石に管轄外ともなれば下手に騎士が乗り込む訳には行かず、逃げ果せる盗賊達の背中を、忸怩たる思いで見送り引き返しているのだろう。



 目の前の状況に戻そう。


 思い思いの武器を携えた盗賊達が、俺の足下に居るフェロウ達を警戒して、一定以上の距離を詰めずに降伏勧告を告げている。


 手配書でも回されて街に入れないのか水浴びすらしてないようで、離れていても漂って来る盗賊達のすえた匂いに、フェロウが顔を顰めマーヴィが鼻を押さえて辟易していた。


 どうした物か思案してると、盗賊達の口上はまだ続いていた。



「しっかし親分、良い縄張りを見つけやしたね!」

「騎士団の追っては振り切り易いし、こいつらみたいに呑気なカモばかり通るぜ!」

「はッ、ここの出来が違うのよ! ここがなッ!」

「はっはっはっ、ちげえねぇ!」



 子分に煽てられて盗賊の親分らしき男が、自分の頭を指差しながら得意気に胸を逸らしていた。

 人数差でいかようにも対処できると考えている盗賊達は、余裕の態度を崩さず、むしろ調子に乗ってすらいた。


 ベネケルト伯爵領に入ってから地形にうねりが加わり、森や平原だけでなく丘陵地なども現れ、身を隠す場所が増えている感じだ。

 もちろん彼らが出てくる前からフェロウの索敵に引っ掛かっており、それに合わせて魔力探知で調査済みであるため、道を塞いでる連中で全てだというのも事前に把握している。


 街道脇に固まっていたから、野営地で街道利用者が休憩してるのかと思って、不用意に近づいてしまったってのもあるけどね。



「おじさんたち盗賊でしょ? 俺達は強いから、諦めて降伏すれば痛い目見ずに済むよ?」



 できれば抗ってくれると王都で貯まった鬱憤が晴らせると思いつつ、こちらが女子供と思って舐め切った態度をしている盗賊に対し、親切心から降伏勧告を送る。


 ━━盗賊が出ても、ストレス発散の玩具としか思えなくなっているな。


 それを聞いた盗賊達は、思考が一時停止し一瞬の沈黙の後……



「「「ぎゃーははははっ!!」」」

「じょーだんきついぜ!」

「笑わせてくれる!」

「お前達みたいなのに、何ができるってんだ!」



 明らかに小馬鹿にした様に、揃いも揃って全員が腹を抱えて笑い出した。


 もちろん、命がかかった状況でそんな隙を見逃すはずも無く、すかさず球体の土魔法を作り出し、散弾魔法を連発する。



 ━━ズドドドドッ!!



 笑いすぎて剣を取り落としそうだった盗賊達は、魔法攻撃に一切の回避や防御行動をする事もなく、あっさりと倒されて行く。



「てめ! この野郎!!」

「魔法使いか!! 距離を詰めて魔法を使わせるな!!」



 散弾魔法の範囲外(両端にいて難を逃れた)にいた盗賊は我に返り、武器を握りしめて慌てて距離を詰めるべく駆け出した!



 ━━バリバリッ!! ドスッ!!


「ぎゃぴっ?!」「がはっ?!」



 それも空しく、出鼻をくじかれた盗賊達の移動速度では、フェロウの雷魔法と上空で待機していたシャイフの背後からの突進に対処出来ず、距離を詰める間も無く意識を刈り取られた。



「それじゃ、手足を拘束していくから、それが済んだヤツを街道脇にまとめておいて」

「ラジャーデス」



 ノイフェスに指示を出しながら、倒れてる盗賊達を次々と拘束していく。



「一週間分の魔力を込めれば十分だろう」



 手足に土魔法で枷を嵌めた盗賊を腰の後ろ辺りで片手で掴み上げ、二人同時に軽々と持ち上げ、二メートルほどの穴という盗賊置き場へと放り投げるノイフェス。


 打ち所が悪ければ命が無いかも知れんな……


 ほんの少しだけ盗賊に同情しつつ、生きてても世間に迷惑をかけるだけだと割り切って処理をしていく。



「片付いたから街へ急ごう」

「ラジャーデス」



 盗賊との遭遇など無かったかのように、俺達の旅は続いて行く。



 その後も順調に街道を進み、翌日の夕方には領都ツァッハレートの西門に到達し、検査を待つ列に加わった。


 もちろんウエルネイス伯爵家の騎士メダルを所持しているから、貴族側の列に並び、それほど待たずとも検査の順番がやって来た。



「よし、所持品を預かります」



 ここの警備兵は丁寧に検査をするようで、俺達のリュックを預かり中を開き荷物をあらためていた。



「あ、兵隊さん」



 思い出したかのように、昨日の盗賊退治を伝えようと検査中の警備兵に声を掛ける。



「なんですか?」



 騎士メダルを所持している相手とあって、兵士の態度も横柄ではない。


 子爵家当主として通れれば良いのだが、家名も家紋も未登録で正式に授かるのが来年では、自分の爵位で通るのはまだしばらく先になりそうだ。



「王都との領境付近で盗賊に襲われました」

「なんだと?! だから馬も馬車も無いのか! それで、被害は?!」



 慌てた様子の警備兵は俺達の被害状況を聞き出そうとするが、もちろん被害は一切ない。公害のような臭気に当てられたくらいだ。



「返り討ちにしたので被害はありません。拘束した盗賊は、西に一日行った辺りで放置してあります」

「お前達が……討伐したのか?!」



 それが衝撃的な出来事であったかのように、警備兵の目は限界まで見開かれていた。



「お、応援を呼んで来る!」



 検査中のリュックを放り投げ、何のために応援を呼ぶの不明だが、踵を返して警備詰め所に慌てた様子で駆けだす警備兵。

 しばらくすると上官らしき人物を伴って戻って来た。



「西の街道を荒らす盗賊を討伐したというのはお前達か?」

「ええ、王都方面に一日行ったところで拘束してあります」



 じろじろと不躾な眼差しで、俺達の身体を上から下まで見回す上官。

 その態度は、明らかに軽く見ており、むしろ被害を受けたのではないかと疑ってかかるようだった。



「その形で捕縛できるとは思えないが……、大方、他の冒険者が捕らえて放置したのを見かけて、自分の手柄にしようとしたのだろう。それで盗賊は何人居た?」

「ちょうど10人居ました」


「まあよい、馬を走らせれば分かる事だ。誰か騎士団に人を遣って確認に向かわせろ! 念のため平民側の列で、捕縛した当人が名乗り出ていないか確認しておけ!」



 そう指示を出した上官らしき人は、さっさと踵を返して警備詰め所へと戻って行った。

 俺達の検査をしていた警備兵は平民側へ確認に向かい、他の警備兵も騎士団に連絡に向かう為に駆け出して行った。


(なるほど……、街道沿いの出来事は管轄違いだから、街の外の確認を騎士団に任せる為に連絡に走るのか)



「さてと、宿を探そうか」

「ラジャーデス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」


「シャイフは影の中に頼むな」

「ピピッ!」



 思いがけず無人になってしまったから、検査が終わってない気がするけど、気にせず街に入る事にした。



 街道を利用した人達の中で、欲の皮が突っ張ったやつが俺達より先に盗賊退治の報告をしてるかもしれないが、盗賊狩りで冒険者ギルドの貢献ポイントを増やしたく無い俺は、むしろそういう人物が現れてくれ無いかと期待してたりする。むしろ大歓迎だ!

 そんな気持ちでいるから、警備兵の態度にも反抗心すら湧いてこない。むしろ疑ったままでいて欲しいくらいだ。

 盗賊討伐の手柄を上げた人物が有耶無耶になって、報酬の送り先が分からなくなった方がありがたい。


 Aランクに上がったら、王家からの指名依頼が降り注ぐからね。ランクは上げたく無いから、警備兵が誤解をしてくれるのは大歓迎だ!

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