第376話 値下げ交渉からかな?
コスティカ様に王都を出発すると手紙を出した翌朝、朝食を食べていたらゾラさんから声を掛けられた。
「エルくん。日が昇ってすぐに、ウエルネイス伯爵家から手紙が届いたらしいわ。渡しておくね」
「返事が早いな。ありがとうございます」
ここのところ20階層のボスしか倒して無いし、肉関係を全く持ち帰っていないから、最初の頃はズワルトにグリフォン肉のおねだりをされたが(野郎のおねだりなんて、全く嬉しく無いな)、破門の腕輪を見せてやったら、「魔法が使えないのにダンジョン潜ってるの?! あ、危ないよ! エルくんはもうダンジョン禁止だよ!」と、慌てた様子でいって来た。
ダンジョン禁止といった手前、肉を強請るのは無くなり、俺が居ない時の角猛牛亭の日常へと戻って行った。
まあ、ボス周回をしてるから、肉が取れる事は無いと伝えてあるからね。
ただ、グリフォン肉の竜田揚げが食べられなくなった客層からは、ちょくちょく要望が出てるから、客の要望に応えられず、ズワルトも苦い思いをしながら料理してる。
強い魔物肉は美味しいから、王都で良く取れるウォーホース肉に比べたら遥かに美味しいし、竜田揚げという調理方法が味を一層引き立て、エールとの相性も抜群だ。
竜田揚げの愛好家が増えるのも仕方のない事だが、俺から
今では幻の竜田揚げと称されるようになっている。
いや、竜田揚げが提供されなくなってから、そう何日も経ってないだろっ!!
愛好家というより、もはや竜田揚げ
っと、そんな事より手紙を確認せねば……、かき込むように朝食を手早く平らげ、宿の部屋に颯爽と戻り手紙の封を開けた。
コスティカ様からの手紙は、挨拶程度に多少の詩的表現はあるが、簡潔に用件が纏められていて凄く読みやすい。他の貴族の手紙に比べれば…、というだけで教養を知らしめるためなのか、多少なりとも詩的表現は書かれている。
読み終えた内容をまとめると、王城に上がり王家と請求について折衝する事になった。その際、同じ内容で請求を出した冒険者ギルドも参加するそうだ。もちろん俺の参加も必須となる。
王家としても似たような案件だし、同一人物の可能性も考慮して、一度に済ませてしまおうという考えだな。
その前に、ベネケルト伯爵領について説明できることがあるから、迎えの馬車を寄越すそうだ。
はてさて、その折衝の場に顔を隠して登城しても良いものだろうか?
手紙を読み終えたあと、取り合えずダンジョンでボスの周回を済ませ、魔石の換金に冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ギルドのロビーに入ると真っ直ぐに清算カウンターに向かい、魔石を出してお金を受け取る。
用件をさっさと済ませて宿に戻ろうとすると、俺の背中越しにワルトナーさんが声を掛けて来た。
「エル、ちょっと待ってくれ。話がある」
ゆっくりと振り向き、落胆した表情を浮かべて返答をする。
「何か用ですか?」
「あからさまに嫌そうな顔をするなよ。少しは隠せ」
「いやぁ、子供なんで取り繕うのが苦手なんです」
「エル……。それは分かってるヤツがいう台詞だぞ!」
露骨な俺の態度を見て、突っ込みを入れつつ、ため息を一つ吐きながら「とにかく部屋に来てくれ」と、俺の手を引いてギルドマスターの部屋へと連行された。
ギルドマスターの部屋に置かれたソファーにドカリと座り、背もたれに身体を預けて組んだ足をテーブルに乗せる。
「ワルトナーさん、お行儀悪いですよ」
「構やしないだろう、きょうはコーデリアも居ない」
そういえば受付カウンターで手続きをして
「用件は二つくらい予想がつきますが、本題に入りましょう」
「まあそうだな。一つはマジックバッグの代金の請求の件で、王城で交渉する事になったから一緒に来てくれってのだが、知っていたのか?」
ワルトナーさんの問いかけに頷き、冒険者ギルド側で参加しないと説明する。
「それは今朝がた知りました。ウエルネイス伯爵家側で参加する予定ですから、会場には向かってると考えてください」
「エルの身は一つしかないからな、現地に向かってるなら構わない。こちらからは迎えを出さないよう、手を回しておく」
「よろしくお願いします」
ギルドの配慮に、素直に頭を下げた。
全額の一括支払いなんてありえないし、まあ、その前に値下げ交渉からかな?
「あとは、グリフォン狩り……、いや、緑色の宝珠の交渉を持ち掛けられるだろう」
「そうでしょうね。ですが、破門の腕輪を付けられてるので、外されるまでは無理ですね」
それらを回避する為に、自主的にEランクにランクダウンしてるし、受けたとしてもモチベーションが上がらな過ぎて、達成への道のりは遥か彼方だと思う。来る日も来る日も、何週間も掛けてグリフォンを狩り続けるのは、気持ちが続かないからね。
俺の返答を聞いて、ワルトナーさんも同意するように頷いていた。
「オレからの話は以上だ。当日は宜しく頼むぞ」
「分かりました、失礼します」
ソファーから立ち上がり、お辞儀をしてから冒険者ギルドを後にする。
数日後に、ウエルネイス伯爵家の馬車が迎えに来て、今度はコスティカ様に連行されて行った。
もちろん迎えに来たのはいつもの御者さんだが、面会するのはコスティカ様だしね。
伯爵邸に付くと、応接室へと案内を受ける。
お茶の香りを楽しんでいると、コスティカ様がやって来た。
「おまたせ、エルくん」
「コスティカ様、こんにちは」
にこやかに笑うコスティカ様と挨拶を交わし、いつものソファーに腰を下ろす。
ここでも冒険者ギルドで聞いたような会話を繰り返したが、折衝する内容について詳しく検討していた。
「いつもみたいに、魔道具の物納を受け付けてもいいのかしら?」
「有益な権利を捥ぎ取りましょう」
「爵位も買っちゃう?」
「臣下になるつもりは無いので、爵位はいらないです。どうしてもという場合は、王侯貴族の命令を受け付けないとか、そういった事ができるなら、爵位を受けても良いです」
名ばかりの爵位なら構わない。ただし、一切の命令を受け付けないならね。
コスティカ様には明かしてないが、女神フェルミエーナ様の使徒だから、国王程度の命令を受けたりする気は無いんだよね。
俺に命令したいなら、神様になってからどうぞ。ってやつだ。
「エルくんは、本当に命令されるのが嫌いなのね」
コスティカ様が冗談っぽく言い放つ。
嫌いって訳じゃ無い。
命令権の無い奴が、上から目線で指示を出すのが嫌なだけだ。
無難に「そうですね」と答えておく。
実際、ウエルネイス伯爵家の依頼を何度も受けてるのだから、命令を拒否してる訳じゃないのは分かってるしね。
でも、グレムスの命令なら断固拒否だな。多分。
凡その打ち合わせが終わったところで、次の話題としてベネケルト伯爵領についての説明に移った。
以前から交流のあった仲の良い貴族で、ウエルネイス伯爵家が伯爵位に
「ベネケルト伯爵領は、陶器の生産で栄えているデオベッティーニという街があるわ」
「その街に何かあるのですか?」
「以前、エルくんが寄木細工を教えてくれましたわね? その技術の一部が陶器にも応用できると話していましたわ」
「そうですね、そんな説明をした記憶があります」
「それを伝えたのがベネケルト伯爵なのですわ。手紙だけでは上手く行ってないらしく、できればエルくんが直接行って、指導していただきたいですわ」
真剣な表情で話すコスティカ様は、新たな厄介事を持ち込んで来た。
寄せ木細工の説明だけで、試行錯誤して上手く製品化してもらいたいのだが……
なんでも俺に丸投げするのは、どうかと思いますがっ。
とか言いたいが、王家との折衝で力を借りたいのも事実。
「できる範囲でやってみますが、あまり期待しないでくださいね」
と、ため息交じりに返答した。
コスティカ様は満面の笑みで、俺の返事を受け止めていた。
俺を呼んだ目的は、こっちが本命だったかっ!!
貴族こわっ!!
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