第370話 馬力じゃなくて魔力《まりき》?
20階層のセーフゾーンは、見渡す限りでは無人の空間にしか見えなかった。
以前、ソロ出来た時は【琥珀色の旅団】が野営してたのにね。
クロススピアディアがいる21、22階層が抜けられないし、その先のグリフォン狩りも数を熟せない。更に上の階層のロックゴーレムも、ダンジョンカードの再発行の魔石に代用できないとなれば、狩る意味も薄いし旨味も無い。20階層まで来る意味は皆無といえる。
お蔭で俺達が20階層ボスを独占してても、文句をいわれる事が無さそうで良かった。
「よし! それじゃ周回を始めようか」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
セーフゾーンからボス部屋への扉に手を掛ける。
「あれ? 開かない……」
普段は軽い力で開いてた扉も、施錠されたかのようにビクともしない。
「グライムダンジョンで連続したボス討伐は、10分から60分の時間を空ける必要がありますデス」
「その時間は一定じゃないのか?」
「ランダムに設定されてますデス」
淡々とした口調でノイフェスが告げる。
ボスの連続討伐なんて、今までした事なかったから気付かなかったけど、
「とりあえず昼食にするか」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
屋台で買って来た冒険者メシとホットドッグを全員に配る。
俺とノイフェスが豪勢に冒険者メシで、フェロウ達はいつも通りホットドッグだな。
「ノイフェスはボス部屋の扉に触れなくても、開くようになったか分かるか?」
「分かりますデス」
流石、グライムダンジョンの元ダンジョンコア。
ダンジョン内部の事なら、何でもお見通しだなっ。
「それなら扉の施錠が解除されたら教えてくれ」
「ラジャーデス」
時間停止のアイテムボックスを使わず、普通のリュックに詰め込んだ冒険者メシは既に冷めきっており、それに齧り付きながらそんな打ち合わせを済ませていた。
ガコンッ!
食事を済ませ、食休みとばかりにボーっとしてたら、不意にボス部屋の中から物音が聞こえた。
「ボス部屋の施錠が解除されましたデス」
その物音がボス部屋の扉の解除の印といわんばかりに、ノイフェスがボスの準備が整った事を口にする。
意外と大きな音だったな……
左手の甲を顔の前に運び腕時計の魔道具を見やると、20分ほどで次のボス戦が始まる。時間の振れ幅からすると、今回の再開時間は割と早い方だな。
「よし! ボス戦を再開するぞ!」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
ボス部屋の扉に手を掛け、軽く押すだけで扉が開く。
開錠されてるな……
「それじゃ、打ち合わせの通りノイフェスが戦って見てくれ」
「ラジャーデス」
部屋の中央の魔法陣が光りだし、アイアンゴーレムが姿を現す。
魔法剣と盾を構えたノイフェスが前進し、その姿に気付いたアイアンゴーレムも歩き始める。
互いの手が届く位置まで近づいたところで、アイアンゴーレムが片腕を振りかぶり攻撃態勢に入る。
ゴガンッ!!
振りかぶった腕をノイフェス目掛け振り下ろす。
その腕を真っ向から盾で受け止めるノイフェス。
ゴーレムの拳と盾が奏でる重低音が響き渡り、その音量の大きさが衝撃の強さを物語る。
だが、拳の重さに負けず押し戻されなかったノイフェスは、右手に持った魔法剣を振りかざし、肘関節のあたりでアイアンゴーレムの腕を撫で切りにする。軽く振るった剣は、魔法剣の効果で豆腐のように切り落とされた。
ノイフェスが一撃受けてからの反撃を続け、両腕を失ったアイアンゴーレムは攻撃も防御も封印され、跳び上がり横なぎに振るわれた一刀で頚椎を切り飛ばされ、プツリと動きを止めたアイアンゴーレムは、首への攻撃を回避する為仰け反った姿勢から背中側に倒れ込んだ。
「これじゃ、魔石の回収ができないか……」
「申し訳ございませんデス」
「いや、一度アイテムボックスに収納して、向きを変えて取り出すから問題ない」
そういって収納したアイアンゴーレムをうつ伏せに取出し、背中の魔石ボックスから魔石を引っこ抜く。
これでボスの周回は二匹目か……
待ち時間が長いのが難点だな。
フェロウが回収してきた宝珠を受け取り、ボス部屋を出て21階層へと移動する。
待機時間が経過し、続いてボス部屋に再突入する。
先ほどはノイフェスが魔法剣を使って倒したが、破門の腕輪を嵌めて魔力が封じられてる状態で、魔法武具や魔道具を使用するのはおかしいと思い、魔法剣を使わない状態でノイフェスに戦わせてみた。
正面から殴り合うのは変わらないのだが、剣を持っていた右手が素手に代わっており、アイアンゴーレムの一撃を右腕一本で受け止めていた。
ギギギギ――――ッ!!
耳をつんざくような高い音が鳴り、どこか故障でもしてないかノイフェスの金属ボディを心配したが、逆にノイフェスの指が食い込みアイアンゴーレムの腕に放射状の亀裂が走った。
「大丈夫かノイフェス?!」
「問題無いデス」
ボスの膂力を受け止められるのは分かっていても、思わず声を上げノイフェスの身を案じたが、本人からは、いたって平常な返答だった。
握力で金属の塊を握りつぶすのか……
魔石1個のアイアンゴーレムと魔石6個搭載のノイフェスじゃ、馬力じゃなくて
ノイフェスもアイアンゴーレムも腕は二本。組み合ったまま膠着状態となり、見かねたマーヴィが背後に回り首をはねていた。
マーヴィの攻撃力はどうなってるのか、どう考えてもアイアンゴーレムの首の方がマーヴィの身体よりも太いのに、それを一撃で切り飛ばすのだから、どんな魔法を使ってるのやら。
切断面も鋭利な刃物で切り裂いたかのようにまっ平になっいて、顔が映り込むほど鏡のように反射している。
頭部の方を裏返して使えば、卓上ミラーとしてそのまま販売できそうだな。
破門の腕輪を付けられた俺達の戦い方として、シャイフが影魔法で足止めを狙い、ノイフェスが腕を押さえ動きを完全に封じる。止めにマーヴィが背後から一息で首を刈る。
そんな形の作戦で、危なげなく戦闘回数を重ねて行った。
他の人達が居ないから、先ほどの流れの中で、マーヴィの代わりに俺が土魔法で足場を作って、背中の魔石ボックスから直接魔石を抜き取るという戦法が必勝法になった。
「そろそろ終わりにしよう」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
10匹倒したところで腕時計の魔道具を確認したら、夕方も近いからこの辺りで終わる事にした。
ダンジョンカードの転送機能で一瞬でダンジョンを脱出し、ダンジョン前の騎士にリュックサックを差し出し荷物検査を受ける。
宝珠が数十個と魔石10個。それに加えて冒険者用の道具が少し入ってるくらいだから、二人分の検査もあっという間に完了した。他の冒険者の順番待ちで並んでた時間の方が長かったくらいだ。
「ギルドで魔石を換金したら宿に戻ろう」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
冒険者ギルドに辿り着くと、ノイフェス達をギルドの裏手に待たせ、俺だけで建物に入って換金を済ませて来た。
アイアンゴーレムの魔石が1個当たり6万ゴルドだった。
全部で60万ゴルドの稼ぎになったが、マジックバッグが無く肉や素材を持ち込めない分、普段の稼ぎに比べてかなり少ない。いつもは一度に
こういった機会損失も加えたら、賠償金はもっと高くても良いんじゃないかと思えて来る。
「それじゃ帰るぞー!」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
フェロウ達も頑張ってたし、今夜は豪勢な夕食を食べさせよう。
そう思いながら角猛牛亭へと足早に帰った。
部屋に戻ったら女神様に手紙を出した。
手紙には「俺とノイフェスが嵌めてる、破門の腕輪の鍵を送って欲しい」という内容を書き記した。
いざという時、いつでも取り外せるようにしておきたいしね。
破門の腕輪が効果を発揮してる振りをするのは、相当に疲れるしね。
送ってから瞬きをする程度の時間が経過すると、頭の中に女神フェルミエーナ様からの手紙の着信を告げる音が鳴り響く。
相変わらず手紙の返事は速いな。
すかさずアイテムボックスから女神様の手紙を取り出し読み上げる。
『やっほーエルくん。
地下牢に入れられて災難だったね~。その割には楽しんでたみたいだけど……、私にもアイスクリームとソフトクリームを、お供えしてもいいんだよ?
それで本題の破門の腕輪の鍵を送るよー。エルくんとノイフェスの分の二個あるからね。どっちの鍵で開くかは試してみてね』
地下牢で、ソフト/アイスクリームの魔道具の試運転を何度か行ってたのをいってるのだな。
まあ、ミルキーバッファローの牛乳が濃厚なせいか、牛乳とコッコ卵の卵黄に砂糖を加えただけでアイスクリームができたしな。
そこに果物を加えた試作品をいくつか作ったから、アイテムボックス経由で献上して欲しいらしい。
女神っくパワーで、アイスクリームの自作くらいできないのだろうか?
鍵を送ってもらった分はお返ししないとだから、適当な皿に全種類のアイスクリーム盛り合わせと、コップにソフトクリームをとぐろ状に注いだものをお礼の品として奉納しよう。
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