第364話 男爵に何かできると?
やってまいりました、新たな住居!
場所は王国の中でも一等地!
立地も王都の中心と、どこに行くにもアクセスが便利!
そんな部屋は、仕事帰りに身体を休めるには雰囲気も満点!
ぽつりぽつりと掲げられた魔道具の明かりも部屋までは届かず、通路の壁に反射された間接照明となって柔らかな光が届けられ、薄暗い部屋は快適な睡眠を齎すでしょう!
重厚な壁に囲まれ窓の無い部屋は、暗殺や夜盗の脅威に怯える貴族様にも、安心をお届けできます!
それだけでは閉塞感で息が詰まってしまうので、一面は金属の棒を柵のように並べた抜け感のある壁で、格子の隙間から外の景色が楽しめます!
更になんと?!
隣人の居ないこの角部屋は、少々騒いでもお隣さんに迷惑をかける事がありません!
この素晴らしい住居、いまなら敷金礼金0ゴルド、家賃も無料でお届けできます!
何と、食事まで付いてきます!
貴方も是非ともご応募ください!
って、ただの地下牢なんですけどね。
何の罪状か分からないが(看守に聞いても返事すら無し)、俺を収監してるのは正式な手続きに基づいたものだろう。
定期的に看守が確認に来るし、食事もきちんと運ばれてくる。
硬いパンが一つに、ほぼ水のような具なしのスープだけど。
何が入ってるか分からないから、パンはアイテムボックスに収納して、スープは鉄格子に飲ませてあげた。
長年スープを掛けて鉄格子を錆びさせるとか、前世の記憶にあるから試してるところだ。あんな色の薄いスープで効果が出るか不安だけどね。
破門の腕輪を着けていても魔法は使えたから、土魔法で穴を空けて地上に出るとか、ノイフェスや俺の持つ魔法剣で鉄格子を切断して、看守や牢番を倒しながら外に出るとか、力技はいつでも実行できる。
だがしかし、外部からの助けを想定して、しばらくは
俺が収監されてる事が発覚するのを恐れて、一番奥に突っ込まれたのだろうし、隣近所の罪人と示し合わせて脱獄を測らないように、他の罪人と離されてるのだろうが、何故かノイフェスと一緒に放り込まれてるんだよね。
こういうのって、男女別に収監したりしないのだろうか?
荷物と武器は取られたが、腕時計の魔道具を取り上げられたりしていないので、食事の時間や看守が巡回する時間を把握しようと記録に付けていると、三日目にして漸く変化が訪れた。
コツコツと地下牢の硬い床を叩く、複数の足音が近づいて来る。
看守の巡回であれば足音は一つなのだが、複数の足音ともなれば、牢の中の人に用事があるのだろう。
じめっとした淀みのある空気に緊張が走る。
俺とノイフェスが入れられた地下牢の前で、その足音ばピタリと止まる。
まあ、一番奥の角にある牢だから、その先は無く止まるしかないんだけどね。
「ごきげんよう。
現れた人物は、兵士を伴ったフェルメランダー男爵であった。
牢に入れた張本人だが、俺をあざ笑いにでも来たのだろうか?
そう思えるほどの小ばかにしたような笑顔を向け、俺達の暮らしっぷりを質問してきた。
「退屈なのが難点ですが、それなりに快適ですよ。男爵も暮らしてみますか?」
理不尽に地下牢に放り込んでおいて、数日後に顔を出すなんて、不便な生活を強いられた環境から救い出すのを条件に、何かしらの交渉に来たとしか思えない。
「……ぐっ!?」
余裕の表情を浮かべて『こんな事をしてると、何れお前も仲間入りするぞ』との意を込めていい放つと、渋面を作り睨みつけるような視線を向けてくるフェルメランダー男爵。
常日頃から、見下してる平民を相手に仕事をしてるせいか、逆らわれた際の煽り耐性は低そうだ。
「まあ良い。調査したところ、マジックバッグは使用者登録されてるらしいな。解除の仕方を教えたら、ここから出すのを考えても良い」
予想通り交渉に来たようだが、考えるということは、出す気が無いとも取れる。そんな誘いに乗るつもりは無い!
これではっきりした事が一つ。希少肉の確認をしてきた事もあり、男爵の狙いはマジックバッグと中身を己が物にする事のようだ。
ノイフェスが狙われて無かった事に一安心だ。
この質問から察するに、マジックバッグの中身を取り出そうと試みたが、どう足掻いても取り出せない。それもそのはず、ただのリュックサックだしな。
取り合えず、俺のマジックバッグという体のリュックサックは、男爵の下で大切に保管されているようだ。
「俺に聞かずに、魔道具職人にでも聞けばいいんじゃないですか? 男爵様には魔道具職人と知り会う機会も無いと?」
そもそもマジックバッグと中身を確保したら、俺達の事なんか気にも留めないだろうし、むしろ口封じにかかる可能性が高い。
使用者登録について話さない事が、逆に俺達の命を担保してるだろう。
そもそも、ありふれたリュックサックにそんな機能は無い!
「…くッ?! いわせておけば……ッ!! 貴様!! 後悔するぞ!!」
「こんなに安全なところに居るのに、後悔ですか? 男爵に何かできると?」
「フンッ!! 必ず吐かせてやる! 首を洗って待っておれ!!」
ガンッ!!
威嚇のつもりか地下牢の鉄格子を蹴り飛ばし、目を赤くしながら兵士を連れて立ち去って行った。
規則正しい足音だった行きとは違い、帰りの足音は若干乱れていた。
多分、鉄格子を思いっきり蹴っ飛ばした足が痛むのだろう。
痛む足を庇うように歩くから足音が乱れ、感情の高ぶりで目が充血したのでは無く、痛みで涙目になってたと思われる。
小悪党っぷりが板についてるな。
因みにこの時間はお昼頃で、普段は看守の巡回は無い。
昼飯でも食ってるからだろうか?
いまのところはっきりしてるのは、朝の食事の配給を兼ねた巡回と10時、15時、20時に看守が来る。午前中2回と午後から2回だ。夜中も巡回があるかもしれないが、寝てるから把握はしてない。
収監されてる人間には、体力を付けさせない目的でもあるのか、食事は一日一回だ。
因みに、提供された怪し気な食料はアイテムボックスに収納し、手持ちの食材で毎日三食、美味しい食事を済ませてす。
まあ、無実の人間を収監してるくらいだし、本来は二回の食事が提供されるところを、食料の横流しで一回に減らされてるという可能性もあるか?
雇われて権力者のような仕事を任せられているだけで、本人が権力を持ったと勘違いして暴走してそうだ。いや、ただの腐敗か?
詳しいところは分からないが、とにかく管理体制が杜撰すぎて、正常に機能してないのは分かる。
それにしても、監視の隙間時間を囚人に把握させないように、巡回の時間を毎日変えたりしないんだろうか?
フェルメランダー男爵が来たのは、その合間の時間帯だ。
男爵本人も、謁見の事前審査の仕事があって、抜けられるのがお昼の時間帯だけかも知れないけどね。
一週間ごとに巡回の時間を変更する可能性はあるだろうが、期間中の巡回時間は大体把握したから、時間たっぷりある事だし、明日の昼にでも、先導の仕事中に得た宝珠の開封でもしようかな?
宝珠の開封を予定していた明くる日から、ノイフェスに言い寄る男達が、順番待ちでもしてたかのように、入れ代わり立ち代わりやってきた。
「君は僕にこそ相応しい。こんなところから飛び出して、僕と付き合おう!」
地下牢には似つかわしくない、ロン毛イケメンの台詞だった。
「私の愛人に同意すれば、ここから出してやろう」
収入にも余裕があり、家族に使うより己の欲望に資金を投じる、初老といえる年齢の男性が、代わる代わる何人も現れた。
大体いう台詞は似通っていて、愛人が妾だったり側室だったりと、多少の立場が変わる程度だ。
「デュフフ…、ぼ、ボクのいう事を聞けば、ここから、だ、出してあげるんだな。デュフッ」
無精ひげを生やした小太りの中年男性だが、どちらかといったら、
なんせ、彼の顔はノイフェスじゃなくて俺を見てるしね!!
ぞわりと鳥肌が立つし、俺に同性愛の趣味は無いから、愛玩動物に悪戯をしちゃうような視線を向けるのは止めて欲しい。切実に!
そんな感じでやって来た男性達に、ノイフェスが返す言葉は一つだけだった。
「お断りデス」
あっ、俺を見てたヤツにも、ノイフェスがお断りの台詞を吐いていた。
全員揃って、肩を落として帰って行くまでが一連の流れだ。
そんな日々が一週間ほど続いた時に、ようやく救世主が現れた。
「やっぱりここにいたわ!」
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