第362話 ド真ん中といえる?
どこに連れて行かれるのだろう。そう思いながら呼びに来た侍女について行く。
長い廊下を進みいくつかの角を曲がり、それなりに歩いた先に見える物は、一般的な廊下と部屋を隔てる扉で、とてもじゃ無いが謁見の間へ続く扉とは思えなかった。
扉もさることながら守備する兵士が居ない事も、謁見の間へ続く扉では無い証左といえる。
「お客様をお連れしました」
「通したまえ」
侍女がノックし来客を伝えると、室内から入室の許可を出したのは男性の声で、しかしながら連れて来られたこの部屋は、他の謁見を待つ人達が事前処理?を行う部屋とは別の場所である事に一抹の不安を覚える。
部屋には大き目の机が向い合せに設置してあり、それに合わせた椅子が二脚置いてある。その一つに入室の許可を出した男が座り、背後には護衛らしき兵士が二人立っていた。
「かけたまえ」
「……どうも」
椅子を勧めた男は、焦げ茶色の髪を中央で分け、顎のラインまで伸ばした髪は外側に軽く跳ね、鼻の下には丁寧に切り揃えられた
「なぜ王城に呼ばれたか聞いているかね?」
「いいえ、知りません」
俺の回答を聞き少しの思案の後、机を指で叩きながら値踏みするかのような視線を向け、徐に口を開いた。
「そうか……、では教えよう。私はフェルメランダー男爵である、謁見前の事前審査を行っている。何故その様な役割が必要かというと、くだらない陳情で国王陛下のお手を煩わせないためだ」
「…はあ」
相槌は打つも、何のために呼ばれたのかすら分かっていないのに、国王の手を煩わすも何もないのだが……
「特に平民はその辺りの機微がまるで分かっていない……」
愚痴なのか説教なのか分からない話がしばらく続き、欠伸を嚙みしめながら聞き流していたら、調子よく話していた声音が一転して真剣な眼差しで疑問を投げかけられる。
「貴様は希少肉を所持しておるな?」
この質問には慎重に答える必要がありそうだ。しかし、嘘をつくわけにもいかないし、どうした物かと思案していると……
「まあ良い。謁見にあたって魔法の行使を制限する為、破門の腕輪を装着してもらう」
「破門の腕輪?」
「知らんのか……。破門の腕輪とは、女神教会から支給される物で、女神フェルミエーナ様への祈りが届かなくなり、魔法が使えなくなる物だ」
「奴隷が付けている物と同じですか?」
「愚か者! 隷属の首輪は聖フェルミエーナ皇国で破門の腕輪を参考に開発された魔道具で、破門の腕輪とは全くの別物だ! 国王陛下の安全の為にも、身元を保証する同行者の居ない平民には、必ず装着する決まりになっている」
破門の腕輪の安全性を確かめるため、フェルメランダー男爵は後ろに立つ兵士の一人に装着させ、生活魔法の詠唱をさせた。
「
手を突き出し生活魔法を口にした兵士からは何も起こらず、水晶のような物を男爵が近づけたら腕輪が外れ、再び
「隷属の首輪と違い、破門の腕輪は魔法を使用不可能にするだけだ、分かったか?」
「あ、はい」
「納得したなら、腕輪を装着したまえ」
と、二つの破門の腕輪を俺の前に差し出し、自ら嵌めるように促された。
仕方なく右腕にその腕輪を装着した。
左手には腕時計の魔道具を付けてるから、不要な干渉を避ける為にも右腕しか選択肢が無かったのだ。
だが不安なのはノイフェスだ!
ノイフェスが破門の腕輪を付けると、魔力を封じられ動かなくなるか心配だったが、魔石に内臓された魔力には破門の腕輪の効果は発揮されなかった。腕輪を付けた途端にノイフェスが、『糸が切れたかのように動かなくなる』という事態は避けられたようだ。
俺とノイフェスが破門の腕輪を付けた事で、フェルメランダー男爵から次の指示が出された。
「あと荷物を預からせてもらう。特に、君は大容量のマジックバッグを持っていると報告を受けている、そちらも預からせてもらう。それと腰に下げてる武器もだ」
マジックバッグを持っていたら、中から何が飛び出すか分からない。
ならば手の届かないところで保管するのも当然だろう。
謁見の間に行く前に手続きがあるのは分かるが、よくある物語などでは謁見の間の扉の前で預かる思ってたが、この王城ではかなり前もって預かるようだ。
子供扱いされたり女に間違えられたりするのを回避する為に、出歩くときは腰に剣を佩くのだが、未使用のその剣は抜いた事も無ければ手入れした事すら無い。宝珠からでた数打ちの剣だし、使う予定も一切ない。
錆びついて抜けなくなってそうだが、見た目を装うだけの装備だから、取り上げられても何の問題も無いな。
ノイフェスの方は、街中では魔法剣も盾も内蔵のマジックバッグに収納しているから、手荷物偽装用のリュックサックを預けるだけだ。
それらの荷物を兵士が受け取り、フェルメランダー男爵の机に並べられる。
「それでは彼らを案内したまえ」
フェルメランダー男爵の後ろに控えていた兵士二人が、俺達の前後に着き先導して行く。
長い廊下を抜けいくつかの角を曲がった先には下り階段があり、階下へと降りて行く。
こんな地下に謁見の間があるとは思えないが、一応は王城の兵士(だと思われる)だし、抵抗してお尋ね者になる訳には行かないから、大人しく付いて行く。
行きつく先は、予想した中でもド真ん中といえる?鉄の檻に囲まれた
いや、分かってたよ!
こうなる予感もしてたけども!
だけど、これだけは言わせてくれ!
どうしてこうなったッ?!
俺だけ特別扱いのように列の途中で呼び出されたのは、王国側の優先順いとか何かしらの理由があったとして、それほど不自然だとは思えなかった。
だけど!
事前審査?の部屋を出た後も、控室に来てた平民の誰ともすれ違わなかったし、地下へ行く階段が見えた時点で怪しさ満点だったよ?
それに、牢に入れられる前に牢番やら看守やらとすれ違ったし、兵士が連れて来てた上、破門の腕輪を付けられてたから、如何にも罪人のような視線を受けていた。
途中から気付いてたよ、牢屋に入れられるんだなって。
破門の腕輪のお蔭で、手枷を付けて無くても牢屋までフリーパスだったね!
どうやらフェルメランダー男爵の狙いは、俺のマジックバッグを奪い取るのが目的だったようだ。
容量が大きいとか希少肉の確認をしてきたしね。
どこかで騎士団が王城へ連れて来る情報を聞きつけ、貴族の権威でも使って、事前審査の役にでもねじ込んだのかな?
いや、もともとその役だけど、欲が出て平民の財産を奪ったのかも知れない。
俺の荷物をあっさりと奪うくらいだし、日常的にそんな事をしてるくらいの手際の良さだ。
マジックバッグは登録済みで俺以外には使えないと公言してるが、その情報までは入手できなかったようだ。
男爵の情報収集能力じゃ、その程度という事だね。
俺への被害は、牢に入れられてる事を除けば、偽装用のリュックサック二つと中身、それに数打ちの剣が取られた程度だ。
被害といえるほどでは無いが、リュックサックが戻って来ないと、大っぴらにアイテムボックスを利用できないのが困るかな?
とりあえず、牢屋の中でしばらく様子を見る事になりそうだ。
俺が帰らなければ、騎士に連れて行かれた事を知ってるゾラさんが心配して、コスティカ様に手紙を送るかも知れない。
連行?した騎士にも伯爵家の騎士メダルは提示してるから、コスティカ様から問い合わせがあったら、素直に返答をするはずだ。
その辺りから俺の足跡が繋がるだろうし、即座に処刑じゃ無ければ、待つ方が問題解決に繋がるだろう。
それに……、ノイフェスの美貌に釣られて、いかがわしい交渉を持ち掛けるヤツ等も現れるかも知れないし、待つ事にも何かしらの利点があると思う。
『牢の中は不便だろう? この首輪を嵌めれば、牢から出してやろう』や『妾になるなら自由にしてやろう』とかね。
取り合えず、破門の腕輪がノイフェスには効果が無かったので、俺にも効果があるか確かめる。
無詠唱で魔法を行使するかのように、体内の魔力を動かしてみる。
「……魔力は動くな」
次に確かめるのは魔法の発動だ。
「
生活魔法は問題無し。
それならばと、次の魔法を発動させてみる。
魔力を操作して光魔法を発動させる。辺りに光が広がり明るさが収まると、汚れ切った寝台も薄汚い床も、汚れていた痕跡を残す事なく綺麗さっぱり清潔になった。
「俺の魂を補填した女神の力は、破門の腕輪を嵌めていても通用するようだ」
牢の通路は灯りも乏しく、俺が入った個室が綺麗になっていたとしても、薄灯りの中じゃ看守も変化に気付かないだろう。
魔法の確認が終わったら、念のため
「こちらも問題無しか」
アイテムボックスから荷物の出し入れをしてみたが、破門の腕輪の影響を受ける事無く、支障なく使える事が分かった。
だが、マジックバッグに偽装する為のリュックサックが取り上げられてしまっては、大っぴらに使う事ができない。
看守の目が無いところで、こっそり食べ物を出したりと、便利に使わせてもらおう。
取り合えずの方針は……
ウエルネイス伯爵家が動いて救助を待つ。
黒幕?が接触してくるのを待つ。
アイテムボックスを使うために、看守の巡回時間を把握する。
こんなところか。
因みにフェロウ達は、階段を降りて地下に向かってる最中に、シャイフが俺の影の中にフェロウ達も引き摺り込んでいた。
俺が影に入っていない時なら、フェロウ達テイムモンスター全員が、シャイフと共に俺の影の中に入れるようだ。成長と共に、影魔法に収納できる容量が増加したようだね。
これでシャイフがさらに育ち騎乗できるようになれば、フェロウ達を影に入れて空の旅に出掛けられそうだね。
ライマルはデカくて目立ちすぎるから、俺の立場がしっかりとしてからでないと使えない。
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