第360話 呼び出されてるんですか?
あれからコーデリアさんからグリフォン狩りの報酬を受け取り(先導の報酬は、追加分が交渉中で保留)ワルトナーさんとの報告が終わり打ち合わせ室をでると、【雪花の絆】と【琥珀色の旅団】が待ち受けていた。
「おう、お前等、雁首揃えて何やってやがる。喧嘩なら外でやれ」
ワルトナーさんは俺を気にかけ守るかのように前に出て、【雪花の絆】と【琥珀色の旅団】と相対して威圧を振り撒いていた。
俺に危害を加えられるのかと思ったのだろうか?
「喧嘩じゃねえよ、エルをメシに誘うだけだ。それが報酬だからな」
「報酬?」
ゴッツファールさんの台詞を聞いて、ワルトナーさんの頭に疑問符が浮かんでいるようだ。
そういえば【雪花の絆】と【琥珀色の旅団】に
それを説明したらワルトナーさんも威圧を解き、「エルが居なければグリフォン狩りは不可能だな……」と呟きギルドマスターの部屋へと戻って行った。
「食事のお誘いはありがたいのですが、テイムモンスターが入れるところじゃないと行きませんよ?」
「そういう縛りがあるのか……、エルは良い店知ってるか?」
「常宿にしてる【角猛牛亭】か、大通りにある薔薇にちなんだ名前のお高い宿なら、テイムモンスターも受け入れてますね。利用した事は無いけど」
「薔薇にちなんだ名前ですと【薄紅色の草原亭】かしら?」
ラナの友達のマルリースの実家だが、聞いての通り店の名前はかなりのうろ覚えだ。
俺の簡素過ぎる説明で、セルケイラさんは良く宿の名前が分かったな。ウエルネイス伯爵家も最初に予約を入れた宿だから、貴族界隈だと著名な宿なのだろう。
「そんな名前だったと思います」
「宿に拘らずとも、食堂でもよろしいのでは?」
セルケイラさんは食事処に心当たりがあるようで、宿以外の選択肢を提示してきた。
「お前さんがいい店を知ってるなら、そこにするか。場所を教えてくれ、あとで集合しよう」
ゴッツファールさんも同意し、セルケイラさんから食堂の場所を聞き出し、後ほど合流する事になった。
俺はノイフェス達と合流する必要があるし、グリフォン肉も受け取って来ないとね。それを角猛牛亭に届けるまでが仕事だな。
これだけ早く
特に【雪花の絆】は、ダンジョン支部の冒険者じゃないから、【琥珀色の旅団】以上に、顔を合わせる機会が乏しい。
Aランクパーティーの尊厳にかけて、報酬の未払いで分かれる訳に行かないのだろう。
その場で解散した後、解体場へと移動する。
「ノイフェスお待たせ」
「待機を終了するデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
「来たか、エル。グリフォンの解体は終ってるぞ」
ノイフェス達と合流したところで、切り分けられたグリフォンの前半身の塊肉を、受け取り易いようにカウンターに並べてあった。
「グゼムさん、ありがとうございます。いつものように一塊は皆さんで召し上がってください」
「おう、気を使わせて悪いな!」
慣れた手つきでグリフォン肉をリュックサックに手際よく収納していく。一塊を残して。
解体場の常連になりつつある俺を、優しい目つきで見送り、ノイフェスと共に角猛牛亭に足を向ける。
「ようやくグリフォン関連の依頼が終わりそうだ」
そうはいっても、王家はまだまだグリフォンが出る緑色の宝珠を欲しがるかもしれないけどね。
今回の依頼は、俺達だけで気楽にダンジョンに潜った訳じゃ無く、先導役として魔物を出来る限り殲滅したり、トイレ作ったり盾作ったりと、いろいろ気を回す方が疲れた感じだ。
人前では土魔法しか使わないとか、できる限り手の内を隠したいから、そこら辺も気を使っていた。
「おめでとうございますデス?」
良く分かってないけど、取り合えず返事をするノイフェス。
この程度では表情が変わらないから、何を考えてるか全く読めない。
「ただいま、ゾラさん」
「ただいまデス」
「おかえり、エルくんとノイフェスさん」
「ダンジョン帰りなので、いつものお土産を厨房に届けますね」
「ズワルトが喜びそうなやつね、届けてあげて」
ゾラさんの許可を得て、受付の奥へ向かい厨房へと入る。
冒険者ギルドも混み出してた事もあり、人気の食堂は既に満席近く埋まってた。
多数の注文を受けた厨房はさながら戦場のようで、近くに立つだけで熱気を感じ、それに伴い美味しそうな匂いも漂っていた。
「ズワルト、グリフォン肉のお土産置いておくぞ」
「エルくん、ありがとう!」
料理好きのズワルトは、
「グリフォン狩りの依頼を受けなくなりそうだから、今後はグリフォン肉の提供は無くなると思うよ」
「ええっ?! そうなの?!」
一応、グリフォン関連の依頼は本部に戻す事を伝え、俺自身も積極的に受けないから、今後の供給について説明しておいた。
平たく言えば、需要はあれども供給無しだ。
王都のAランクパーティーでさえグリフォン狩りがままならないのだから、ギルド本部に依頼を差し戻した結果、王家が依頼自体を取り下げる可能性が高い。
一連の説明を済ませると、ズワルトは落胆したように肩を落としていた。
俺がグリフォン狩りに向かわなくても、依頼を出せば何とかなると思ったとしても、23階層に行ける冒険者は俺以外知らないし、まだ知られていない冒険者に期待しても、成果は得られない可能性が高い。
また野営用の食事を頼むよとズワルトに声を掛けると、「……ああ」と気の無い返事が返って来た。しばらくそっとしておいてやろう。
食堂へ戻るとゾラさんに声を掛けられた。
「昨日の事だけど、エルくんがダンジョンに行ってる間に、また騎士様が来てたわよ。ホントに何もしてないの?」
「騎士ですか……。思い当たる事は……あったとしても、角猛牛亭に迷惑をかけるような事じゃないですよ」
「……あるんだ」
「そりゃ、生きてたら何かしらありますしね。少なくとも、お天道様に胸を張って生きられる程度には、翳りのない生活を送ってると思いますよ」
ラナの首輪を勝手に壊した件とか、盗賊を殲滅したりとか……、人を殺してるのだから罪の意識を感じない訳じゃ無いし、多少の後ろ暗い事はあっても、騎士団に捕らえられる程の事件は起こして無いと思う。
けど、何が貴族の勘気に触れるか分からないし、絶対とは言い切れないのが階級社会の悪いところだ。
……不敬罪とか、お貴族様の気分次第だからな。
「それで俺は、その騎士団に呼び出されてるんですか?」
「留守だといったら、また来るといわれたわ。ただ、『戻って来たら騎士団詰め所まで知らせて欲しいと』言付かってるのよ」
そういったゾラさんは、心配そうな表情を浮かべていた。
何かしらの犯罪に巻き込まれて俺が呼び出されている訳では無いのは理解していても、何の用件で騎士団が来てたのか分からない分、余計に不安なのだろう。
それでなくても宿泊客の情報を売り渡すようで、店を守るか客を守るか、心の中で天秤が揺れ動くのだろう。
「まあ、騎士団からそんな指示がでてるなら、俺の事は連絡して構いませんよ」
「……そう、ごめんなさいね」
平民が権力に逆らえるはずも無く、謝りつつも騎士団の命に従うようだ。
その後、【幸福の安息亭】という食堂で待ち合わせしたのだが、その店は時折貴族も利用するような高級レストランで、【雪花の絆】が飛び込みだが予約を入れていた。店に入る時の雰囲気から、【雪花の絆】が良く利用している食堂のようだ。
店内を煌びやかに飾り立てられ、貴族には日常に近い環境を、豪商などの有力者には、ワンランク上の日常を楽しむ場とした、基本理念を踏まえた店造りがされてるようだ。
その中でも俺達に当てられた席は、広々とした個室が用意され、周囲の客を気にせずとも良い配慮がなされていた。
食事を楽しみながら楽団の生演奏が聴ける雰囲気の良い店で、まるで特別待遇を受けているような幸せな時間だった。広い会場の演奏が聞こえることから遮音性は低いようで、耳からも食事を楽しむ事ができたが、内緒話には向かない部屋だった。するつもりも無いけどね。
それにしても【雪花の絆】の勧誘が無ければもっと良かったのにと、残念でならない。
8割ノイフェスの勧誘だったが、2割俺にも勧誘が来てた。俺なら女だらけの【雪花の絆】に加入しても大丈夫とかいわれても、どういう意味だよ!と小一時間詰め寄りたい。
魅力的な男性だから誘った。っていう理由なら許すが、女顔だからパーティーに居ても違和感が無い。とかなら許さない! 絶対にだ!
因みに食事はそれなりの美味しさで、角猛牛亭と比較すると……高級店に迷惑がかかりそうなので、その先は言うまい。
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