第359話 買取価格が上がりますか?
絡まれる材料が一つ消えて、安心して依頼の報告にギルドロビーへと入って行った。
受付カウンターの列に並ぶ冒険者も増え混雑が始まっていた。
その中からコーデリアさんを探そうとするも見つからない。
奥の方で階段を降りて来るギルド職員の制服が見え、良く見るとそれがコーデリアさんだった。
先行してギルドに着いた【雪花の絆】と【琥珀色の旅団】を打ち合わせ室に案内しててのかな?
「コーデリアさん、いま良いですか?」
「おかえりなさい、エルくん。強制依頼の件かしら?」
「そうです」
「それなら2階に案内するわ」
俺の用件はコーデリアさんの想定通りだったようで、階段の途中で踵を返すと先導して歩き出した。
「歩き姿も凛として素敵ですね」
「……えッ?!」
背筋がピンと伸びた佇まいで、目的地を見定め迷いのない足取りは、見られることを意識したお手本のような、堂に入った歩き方だった。
「もうっ、エルくん。揶揄わないで」
「コーデリアさんが素敵な女性なのは、揺るぎない事実ですよ」
「……だから。……もうっ」
チラリと後ろを向いて視線を合わせたコーデリアさんが、はにかみながらそっぽを向いて、空き部屋になっていた打ち合わせ室の扉を開いた。
「こちらでお待ちください」
少し頬を染めたコーデリアさんに案内され、椅子に腰かけ討伐部位のグリフォンの尻尾を取り出す。
俺を案内したコーデリアさんは、他のパーティーとも同時進行で打ち合わせしていたのか、俺の居る部屋を出て扉を閉め、短い距離を歩く足音を残して、別の部屋の扉を閉める音が聞こえた。
ダンジョンが解放された事で、滞ってたギルドの業務が再開し、受付嬢も何かしら忙しいのかも知れない。
強制依頼を受けた3パーティーの処理を一人でしてるしね。
コーデリアさんが部屋を出る前にテーブルに置いたシートの上に、討伐部位であるグリフォンの尻尾を並べて行く。数えやすく10本一束まとめた物を6束だ。
ノイフェスと一緒にフェロウ達も置いて来てしまったから、もふもふしながらの時間潰しができず、1匹だけでも連れて来るんだったと後悔をしながら欠伸を噛みしめていると、ようやくコーデリアさんが戻って来た。
「おまたせしました、討伐証明部位の確認致します」
普段なら俺にはもう少し砕けた話し方をするのに、事務的な喋り方でテキパキと仕事を片付けている。
真剣な眼差しで一束を手に取り、別の魔物と間違いが無いか確認しながら、一本一本数えている。
「コーデリアさん、他のパーティーはどれくらい倒してましたか?」
「【雪花の絆】と【琥珀色の旅団】の討伐数ですか?」
可愛らしく小首を傾げて疑問を浮かべるコーデリアさん。あどけなさの残る美人顔だからか、あざとい仕草が様になっている。
「そうです」
「わたしにも守秘義務があるのよ?」
「ダメですか」
「教えられません!」
きっぱりと断られてしまった。
「待たせたな」
何の前触れも無くガチャリと扉が開き、室内に人が入って来た。
その人物に視線を向けると、ノックも無しに扉を開き、部屋に入って来たのはワルトナーさんだった。
いや、待たせたなも何も、来る予定すら聞いてないけどね!
「何かご用ですか?」
「他のパーティーには報告を受けたのだが、念のためエルにも確認しておきたくてな」
3パーティー全員に確認するような事があったっけ?
ああ、調査の依頼を受けているから、それの確認かな?
「まずは、異変の調査について報告を聞きたい。事前に受けているレンツォピラーの報告とのすり合わせだ。気になった事があれば、気兼ねなく意見を出してくれ」
その比較が必要なのかは疑問だが、恐らく嘘の報告があったかの確認と、冒険者側の視点で感じた事を伝えて欲しいのだろう。
今回の調査を俯瞰した視点からの第三者の意見では無く、俺が感じたそのままを順を追って説明して行く。
「それで、魔物の強さに変化はあったか?」
「大抵の魔物は一撃なので、以前との差が分かりません。そこは俺の意見よりも【琥珀色の旅団】の報告が一番正確だと思いますよ。近接戦闘だけで、丁寧に戦ってましたから」
「はあ~……。エルもその程度の報告か…」
「何か問題が?」
「……問題も何も、【栄光の剣】が嘘の報告を並び立てて、レンツォピラーの報告に差が有り過ぎたんだよ! 【琥珀色の旅団】の報告を聞いた後だから、嘘だとはっきり分かるがな」
知らない内に帰っていたけど、すぐバレるような嘘を並べ立ててどうしたいんだ?
俺達が戻るのは一週間後だから、すぐバレる訳でも無かったか?
「あいつ等、大げさな報告しやがって……ッ!!」
……あれだな。
酒場で自分の冒険譚を聞かせるかのように、盛に盛りまくった報告をしたのか。
そりゃ、その報告を真に受けたら、間違いなく異変発生となるし、確認の為に俺達の報告を、今か今かと待ち侘びていたのか……。
「虚偽の報告に加えて、報酬の吊り上げ交渉でもして来ましたか?」
「まあ、その通りだ。あとエルの事をボロクソに報告してたな」
「そうですか、【栄光の剣】と共同戦線を張る依頼は、金輪際お断りしますね」
「……お前もか。他のパーティーからも似たような事をいわれてる」
ワルトナーさんは眉間に皺を寄せ頭を抱えるように手を当て、少し俯いた顔からため息を吐いていた。
あんな奴らに背中を預けるとか絶対にできないし、輪を乱されて下手したら命の危機に発展しそうだからね。
俺の事をボロクソにいうって事は、向こうも俺に命を預けられ無いのだから、お互い様だろう。
しかし、散々ナンパするように絡まれていた【雪花の絆】が断るのは当然として、あの温厚というか真面目そうな【琥珀色の旅団】までもが断りを入れるとは、よっぽと嫌われてるんだね。
「レンツォピラーさんの報告を受けているなら、事後依頼についても聞いてますね?」
「まあな。エルの口からも詳しく説明してくれ」
俺は【栄光の剣】が言い出した追加の先導について説明し、それについて追加報酬を受けられると、ギルド職員と口頭で約束を取り付けた事を話した。
「報酬については取り決めていなかったので、今決めましょうか」
「金じゃないのか?」
「働かなくて生活できるだけの貯えのある俺が、今さら金を欲しがると思いますか?」
疑問を浮かべるワルトナーさんにそんな台詞を口走る。
どんな報酬を口に出すか不安になったワルトナーさんは、一気に苦虫を噛みしめたような渋面を作りだす。
「ま、まあ聞かせてもらおうか」
「俺が報酬に欲しいのは【飛行許可証】ですね」
「無理そうですか?」
「無理なら金に変えてくれるのか?」
「いえ、多少は交渉してくださらないと!」
「どれだけ【飛行許可証】が欲しいんだよ! まあ、交渉してみるが、無理だったら【先導】の報酬を倍にするから、それで手を打ってくれ」
「分かりました。できる限りの交渉は試みてくださいね」
俺の答えに満足したように、険しい表情を緩めたワルトナーさんは、たった今思い出したかのように、新たな情報を俺に齎す。
「そういえば、ロックゴーレムの魔石だが、10層ボス以外でダンジョンカードの再発行はできなかったぞ」
「そうですか、残念です。それならボスの魔石の買取価格が上がりますか?」
「利用価値のある魔石だから、そうしたいのは山々だが……。隣に並べて比較してもボスの魔石と判別がつかないから、買い取り価格を上げるのは不可能だな」
冒険者ギルドも支援団体であって、慈善団体じゃないから利益を追求したい訳で、騙される可能性のある買い取りはしないは当然か。
【琥珀色の旅団】のポーターに渡した魔石も、買値が増えずに残念だな。
「それと聞きたかったんですけど、他の2パーティーは、グリフォン討伐は上手くいってましたか?」
「達成するには、程遠い討伐数だな」
「それは当然でしょう。俺と違って現地で解体もしてますから、それに時間を取られて討伐数が伸びないのは当たり前です。依頼書の討伐数が実情に見合ってない証拠です!」
グリフォン狩りの討伐数は、俺が戦った場合に無理の無い数字だが、地上に戻ってから何日もかけて解体をしてるのだから、それを加味したら討伐に一週間以上かけているのが実情だ。
だがまあ、エルが言い出した討伐数だろ!とかいわれそうだな。
「お前が言い出した討伐数だろっ」
予想通りの返答をありがとうございます!
現地で解体をするという事は……
グリフォンを倒したら入り口付近に移動し、安全な場所で解体をする。解体が終わったら次のグリフォンを探しに行く。
という手順で狩りをしているから、探索範囲が入り口付近の狭い範囲に限られ、とてもじゃ無いが緑色の宝珠を見つける事は叶わないと思われた。
そんな説明をして、グリフォンが出る緑色の宝珠の依頼は現実的じゃないと、本部に突き返すよう進言した。
「まあ、エルのいう通りだな。実際に4パーティーを投入して緑色の宝珠は出なかったしな。今回を機にグリフォン関係の依頼は本部に戻そう。【雪花の絆】が本部所属みたいなもんだから、あいつ等も似たような報告を上げるだろう」
ギルド内の事情を聞いてみると、【雪花の絆】は護衛任務を主な仕事にしていて、近づく敵を遠距離攻撃で薙ぎ払うのが基本戦術らしい。
飛行モンスターであるグリフォンに対抗するのに、遠距離攻撃主体の【雪花の絆】は有効な手段だと考えたワルトナーさんが、今回の依頼に本部から引っ張って来たらしい。
俺以外のダンジョン支部の冒険者でグリフォン狩りが達成できないのなら、依頼を本部に戻せと進言してたから、それの為の布石として本部の冒険者を呼んだそうだ。
俺の戦い方と似たような冒険者を連れて来ても、俺の支援(先導とトイレの確保)が無いと戦えない冒険者じゃ、緑色の宝珠を狙うのは不可能だしね。
グリフォン狩りの依頼を差し戻した上で【飛行許可証】の交渉を持ち掛ければ、有利に交渉できるのではなかろうか?
「先導の追加報酬はゆっくりでいいので、【飛行許可証】が捥ぎ取れるまでじっくり交渉してくださいね」
「任せておけ」
ワルトナーさんも、グリフォン関連の依頼が無くなり本部から催促されなくなると思って、肩の荷が下りたように朗らかな笑顔を見せていた。
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