第358話 素直に従うのが良い女ですわよ?

 あれから一週間が経過し、グリフォン狩りもようやく終わりを迎えた。


 初日で撤収した【栄光の剣】はともかく、【雪花の絆】も【琥珀色の旅団】も最終日までグリフォン狩りを続けていた。

 日割りの10匹討伐には、至らなかったそうだけどね。


 そんな中、腕時計の魔道具を見ると、15時を回ったところ。

 そろそろ23階層入り口を目指して移動する時間だ。

 野営地であり、ダンジョンから脱出する転移ポイントでもあるから、グリフォン狩りを終えると、どのパーティーも集まって来る。



「おう、エルもきょうは終いか?」

「ええ、ゴッツファールさんも撤収ですか?」



 グリフォン狩りの依頼を受けた同士ということで、【琥珀色の旅団】とかなり仲良くなった。

 まあ、向こうは俺の土魔法での盾作りを期待してるのだろうけどね。


 結局、あれから毎朝、チタン合金の盾を作る事になった。

 最初に盾を作った日の夕方、一応盾の性能を確かめる為にゴッツファールさんに声をかけたら、快く見せてくれたのは良いのだがかなり傷だらけで、1、2回の戦闘なら耐えられそうだったが、1日の使用には耐えきれ無さそうだった。


 仕方なく盾を作り直したら、それ以降、毎朝作る羽目になった。

 俺も朝っぱらから盾二枚分の魔力を消費したくなかったが、あれが無きゃ戦えないとかいわれたらね……

 作らずにグリフォン狩りに出て、人数が欠けて戻って来たら目も当てられない。



 俺が盾を作らなかったせいとかいわれたら、罪悪感が半端ないしね。



 そんな訳で、毎朝盾作りの為に入り口に戻る事になり、23階層を大した範囲を探索出来ないのもあって、緑色の宝珠を見つける事は叶わなかった。

 他のパーティーも、見つけられなかったのは同じだけどね。



「ああ。依頼書通りとは行かなかったな。日に5匹狩れれば良い方だ」

「それなら依頼書の討伐数を調整してもらわないとですね」

「そんな勝手が通るのか?」



 俺が適当に10匹と指定しただけだし、他のパーティーが実際にグリフォン狩りを実行して必要討伐数を満たせないのなら、依頼書の討伐数が実情に合ってないという事だ。


 根拠は無いが、「大丈夫でしょう」と俺は返した。



 入り口に戻ると、別方向から帰還した【雪花の絆】も合流して、仲良くダンジョンを出る事にした。


 俺みたいに腕時計の魔道具を持って無いのに、皆さん体内時計の正確なこと、脱帽するね。



「誰から出ます?」

「【雪花の絆】、エル達、最後にオレ等だ」



 なんだろう……。【琥珀色の旅団】のゴッツファールさんが男前すぎる。


 恐らくだが、【雪花の絆】が一番最初なのはレディーファーストから来るものだろう。それで俺達が次なのは女子供は先に行けと。

 男としても年長者としても、殿を務めるのが役割だといわんばかりに、その順番を強く押して来た。



「では、わたくし達からお先ですわ」



 こういう先を譲られた場合は、素直に従うのが良い女ですわよ?との如く、リーダーのセルケイラさんから率先して転移して行った。


 リーダーなら最後に行きそうだが、【雪花の絆】の場合メンバーの間でお姉さまと呼ばれていたし、セルケイラが先陣を切らないと他のメンバーが遠慮するのだろう。


【雪花の絆】のリーダーの名前を覚える程の付き合いが生まれたのは、彼女たちにトイレ場所の壁作りを頼まれたからだ。

 最初に作った場所が、一日で50センチメートル程ダンジョンに吸収され、3メートルの壁では3日目にして顔の高さに来てしまう。

 なので、二日に一度、トイレの壁を作り直させられていた。


 彼女たちのメンバーにも土魔法が使える者は居たが、魔力操作の技術が拙く、綺麗な壁を形成する事ができなかった。

 たしかにラナも、土魔法での像製作は失敗してたからね。魔力操作は重要だな。



 セルケイラさんが転移すると、【雪花の絆】のメンバーたちも次々と脱出して行った。



「それじゃ、次は俺達の番だな。ノイフェスからどうぞ」

「ラジャーデス」



 紳士的にレディーファーストするかの如く、ノイフェスを先に台座に向かわせるが、対人間接続用端末ヒューマノイドインターフェイスが転移できるか確かめたいのと、万が一転移機能が働かなかった場合に備えて待機しておきたかった。


 転移機能が働かなかった場合、上の階層から順番に戻る必要があるからね。

 そうなったら、時短の為にもライマルで移動する!


 無事転送されたのを見届け、俺もダンジョンカードを翳すと足元に魔法陣が浮かび上がった。

 他の人達と明らかに魔法陣の大きさが違い、近くに居るフェロウ達も囲めるほどの大きさだった。


 はっと気づいた俺は、逸る気持ちを押さえ、咄嗟にシャイフに声をかける。



「念のため影から出ておこう!」

「ピッ!!」



 すかさずシャイフが飛び出し、ほんの少し遅れて光に包まれ、僅かな浮遊感を感じたら、ダンジョンの外に放り出された。


 シャイフを外に出したのは、シャイフの影空間が転移魔法と干渉しないか不安になり、取り合えず外に出しておけば問題無いだろうと、声を掛けたところだった。



「みんな無事か?!」

「無事デス」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」



 ノイフェスも無事外に出れたようだし、フェロウ達も問題無さそうだ。

 シャイフの影魔法も転移に悪影響を及ぼさないか心配だったが、影から出てれば影響を受けないようだ。

 それにしても、ダンジョンを脱出する際、登録してあるテイムモンスターも、一緒に外に出られる仕様だね。


 最悪、フェロウ達が23階層に置き去りになる可能性もあったからね。実体験もしていないし、不安で仕方なかった。



 周りを見渡すと、【雪花の絆】は緑色の宝珠を隠して無いか、検査を受けていた。



「一週間以上ダンジョンに籠っている間に、いつの間にか封鎖が解かれ、騎士団の検査も復活しているね」

「そうデスね」



 揃いの武具を身に付け一列に並び盾を掲げていた騎士団の姿は無く、穏やかな表情を浮かべた冒険者も、検査を受けたりギルドへと歩みを進めていた。

 少し前まで、ダンジョンに異変があったと緊急事態のような、張り詰めた空気は流れていなかった。


 先に帰還したレンツォピラーが齎した報告で、ダンジョンに問題が無い事が証明され、通常通りダンジョンは解放されていた。



「俺達も検査を受けて、ギルドに報告しに行こう」

「ラジャーデス」



 俺がアイテムボックスを偽装するためリュックを背負ってるように、マジックバッグを内蔵したノイフェスにも、偽装用にリュックを背負わせている。


 俺達が検査に向かうと、【琥珀色の旅団】も地上に飛ばされ、聞かされていたとしても実体験すると驚きがある様で、半数以上は目を見開き、口を半開きにした状態で彫像のように固まっていた。


 ゴッツファールさんにどやされ、再起動した彼らも荷物検査の為に移動を始める。



 検査場に立っている騎士も、直近までダンジョンの異変で自由が無かったのか、いまはその重圧から解放されて、朗らかに検査を実施していた。



 ……緑色の宝珠を見逃すなよ?



 俺達は持って無いけどねっ。【雪花の絆】も出なかったらしい。



 先に検査を受けていた【雪花の絆】と同じようなタイミングで検査が終わり、【雪花の絆】に紛れて歩くように冒険者ギルドへと向かった。

 少し遅れて検査を受け始めた【琥珀色の旅団】は、人数が多い事もあって、検査も時間がかかるのだろう。



 冒険者ギルドに到着すると、俺達は真っ先に解体場へと足を運ぶ。



「こんにちはグゼムさん、解体をお願いします」

「おう、坊主、久しぶりだな。時間も遅いから1匹だけならいいぞ」

「ではグリフォンをお願いします。前半身の肉は引き取りで」

「いつも通りだな、任せろ!」



 顔に傷のあるグゼムさんが頬を緩ませニヤリと笑い、任せろといわんばかりに親指を立て、グリフォンの解体を引き受けてくれた。


 うん、いつもながら頼もしい。



「それと、肉を取りに来るまでノイフェス達を預かってもらっていいですか?」

「何故だ?」


「この見た目なので、ギルドの建物に入ったら絡まれそうで……」

「飢えた狼の群れに羊を放り込むような物か……、いいだろう! 大人しく見学してるなら構わないぞ」


「ありがとうございます!!」



 夕方も近いこの時間帯だと、ギルドロビーもそろそろ混雑が始まる。

 列に並んでる冒険者なら、その場を離れられないから、ちょっかいを掛けられる心配は少ないが、待機場所で暇してる連中は必ずといっていい程手を出して来るのは間違いない。


 グゼムさんに預ける事で、そんな心配と無縁になるなら大助かりという物だ。


 絡まれる材料が一つ消えて、安心して依頼の報告にギルドロビーへと入って行った。

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