第357話 消え去るんだぞ?
グリフォンの階層到着時は3匹だけ倒してその日の作業は終了したけど、早めに休んでしっかりと休養を取ったから、きょうから60匹、いや残り57匹狩るまで頑張るか。
起き抜けに【雪花の絆】のリーダーから、文字通り朝飯前の仕事を頼まれたが軽く熟し、朝食を済ませる。
23階層入り口付近を離れる前に装備の最終確認を済ませ、出発前に周囲を見渡すと、テントを片付けた【琥珀色の旅団】が近づいて来た。
「おはようございます」
「おはようさん」
一応挨拶を投げかけたら返事が返って来た。茶髪で髭面の男は、見かけによらず礼儀正しいようだ。
「【琥珀色の旅団】もこれから狩りですか?」
「いや、盾が壊れて戦闘不能だ」
「怪我したとかでは無いのですか?」
「そっちは問題ない(盾役が打撲くらいはあるだろうが、怪我の内に入らねえだろ)」
それなら盾があれば戦えるのか?
「使ってない盾ならありますよ、使いますか?」
「本当か?! ありがてぇ!!」
ガランガランガラン。
リュックサックから取り出す振りをして、アイテムボックスから金属製の盾をいくつか取り出す。
もちろん、グリフォンに通用しなさそうな、木の盾をベースに皮を張ったり鉄板を張ったりしたやつは除外してある。
盾役の人だろうか?
【琥珀色の旅団】の二人が、盾を手に取って使い勝手を確かめている。
「大きさは申し分無いが、重さがなぁ……」
「グリフォン相手に重すぎる盾は、対応が間に合わないな」
二人の盾役のお眼鏡にはかなう盾は無いようだ。どうやら既存の金属盾程度では、お気に召さないようだ。
ノイフェスみたいに、俺の土魔法で作ってみるか……
取り回しを優先するとなると、鉄より軽い金属で十分な強度を確保するなら……、β型チタン合金あたりか?
細かい配合は記憶に無いが、アルミニウムやクロムなど何種類かの元素を混ぜた合金で、鉄の6割の重量と軽く、強度に至っては2倍以上だ。
配合がはっきりしないので、その分消費魔力が増えるなと思いつつ、彼らが手にしてる盾の形状を盗み見ながら、β型チタン合金で作る盾の完成形をイメージして土魔法を行使する。
もちろん圧縮魔法にはしない。
重量がどう変化するか分からないし、盾で防いだ時に爆散効果を発揮して、敵味方双方に致命傷を与えたら困るしね。
……いや、チタン合金の盾に、表面だけ圧縮魔法を張り合わせるのはどうだろうか?
でも、衝撃の方向と盾が直角にぶつかると、効果を発揮しないんだっけ?
その盾を【琥珀色の旅団】がどう扱うか分からないし、無駄な効果になりそうだから、残念ながら、浪漫盾の
「俺の土魔法で作った盾ですけど、試してみてください」
「どれどれ……、軽っ?!」
「本当に軽い!! こんなに軽くてはすぐ壊れそうだな……」
彼らの判断基準では、重い物ほど丈夫な盾と認識されてるようだ。
「一応、軽くても鉄の盾の倍くらいの強度はありますよ」
「それが本当なら使い易そうだが……」
「取り回しやすいが、どことなく頼りない」
二人の盾役にこの程度の説明じゃ、今までの経験と実績を凌ぐほど、固定観念から抜け出せ無さそうだ。
「不安なら、他の盾も予備に持って行って構いませんよ」
「うちの盾役が悪いな、予備に持たせてもらう」
「壊れた分だけお金払ってくださいね」
「本来なら、持って行く時点で金を払うべきなんだがな……。お前さんの好意に甘えさせてもらうよ」
青色の宝珠から出た、アイテムボックスの肥やしになっていた物を利用するだけだし、商売したい訳じゃ無いから、置き薬方式で消費分だけの費用負担で構わないだろう。
チタン合金の盾をメインに、残りの盾を何枚か予備としてポーターに運ばせていた。
前衛の盾が生命線だとしたら、チタン合金の盾2枚だけじゃ不安だったのかも知れない。
予備を渡したら、盾役の二人の表情も和らいでいた。
「そういえば【栄光の剣】は、もうグリフォン狩りに向かってたのですか?」
あのパーティーだけ姿が見えないが、あれだけ先導を押し付けて来たヤツが、殊勝にも早起きして、グリフォン狩りに向かうとは思えないんだが?
「あいつ等は、昨日の内に帰ったぞ?」
「はぁッ?! こんな階層まで何しに来たんだ【栄光の剣】」
「有効に戦える武器も盾も無くなったから、2、3匹倒したら尻尾を撒いて帰って行った」
「着いた初日でリタイアですか……。彼らは本当にAランクパーティーですか?」
一番我儘放題で迷惑をかけて来た連中が、体力も温存してるだろうに、真っ先に戦線離脱とかありえないんだが?
ゴッツファールさんの台詞に驚きはしたが、それよりもこの三日間に被った迷惑が上回り、ふつふつと怒りの感情が湧き上がる。
「ギルドにも、間違いなくAランクで登録してあるぞ」
「知ってるパーティーなんですか? 見た事ないですけど……」
ゴッツファールさんに確認を取る。
「オレも【最速の番狂わせ】なんてパーティー、聞いた事なかったけどな。10階層セーフゾーンに長期滞在する常連に、【栄光の剣】は良く見かけるな。ただ、休み期間を多くとる事でも有名だ」
「それでギルドで見かけないし、名前を耳にしないんですね」
「装備に物をいわせて、Aランクになったところはあるがな」
それならグリフォン相手に、初日で撤退するのも頷ける。
虚勢を張るばかりで、実力が伴わないのが【栄光の剣】の本質だったのか。そりゃ、先導役が居れば、実力不足のヤツらとしては、殆どの階層で露払いを押し付けて来る訳だ。
【栄光の剣】の行動原理は理解したが、それに納得するかは別問題。金輪際関わりたくないパーティーとして記憶に刻もう。
「それじゃ、オレ達は行かせてもらうぞ」
「この盾ありがとう!」
「さっそく盾を手応えを確かめて来る」
ゴッツファールさんと盾役の二人に声をかけられ、【琥珀色の旅団】はグリフォンを探しに出発した。
「俺達も行くか」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
ノイフェスと顔を見合わせた俺達は、先ほど出立した【琥珀色の旅団】とは別の方角に向け歩き出す。
【琥珀色の旅団】ゴッツファールside
息を整えるゴッツファール。
彼の足元には、血を流したグリフォンが倒れている。
「一戦交えて見て、盾の感触はどうだ?」
「最高に使い勝手がいいですね」
「取り回し易いし、グリフォン相手に受け流す事もできる。それに、あり得ないくらいに頑丈だ。グリフォンの爪を全く通さない!」
使い勝手のいい盾を手に入れて、機嫌の良い盾役の二人。
命を預けられる相棒を手にした瞬間は、誰しもああやって有頂天になるものだ。落胆する前に、釘を刺しておくか。
「お前達理解してるか? あのエルって坊主が魔法で作った盾だ、その内魔力を失って消え去るんだぞ?」
「……ッ?!」
「リーダー! 是非あの子を仲間に!!」
「気軽にいうな! 良く考えろ! あの坊主とテイムモンスターだけで、この階層まで来れる実力者だ。隣のえれえ別嬪の姉ちゃんは、戦ってすらいなかったぞ」
「「……ッ?!」」
「そんな実力者が、【琥珀色の旅団】に入るメリットがどこにあるんだ?」
「あっちのパーティーだけで完結していて、俺達は要らないですね」
「そういうこった、盾の件は諦めろ」
そう伝えると、盾役の二人は釈然としないまま、ゴッツファールの説明を渋々受け入れていた。
「次のグリフォンを探しに行くぞ!!」
「「「おう!!」」」
エルの土魔法で作った盾二枚を、つなぎ合わせるかのように横一列に並べ、巨大な一つの盾のように見せかけ、その中央へと誘い込んだグリフォンが突っ込んで来る。
酒場の入り口にあるスイングドアのように、グリフォンの勢いに盾の片側が押され、回転するようにその反対側が前方へと押し出される。
それがグリフォンの広げた翼に盾という金属の塊がぶち当たる事で、翼にダメージを与える。
翼に怪我を負ったグリフォンは、直ぐには飛び立てず地上に縫い付けられ、遠距離攻撃や近接攻撃で弱らせ仕留められた。
そんな作戦が上手く嵌り、順調にグリフォンの討伐数を伸ばして行った。
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