第356話 はしたないですわ?
【栄光の剣】エウディゴside
クロススピアディアの階層で昼食を済ませてからグリフォンの階層に到着した。
夜にはまだ早いし、多少の戦闘は行ったが体力もまだ十分残っている。グリフォンと一戦交えて敵情視察を行うべきか?
そこにちょうど良いのがいるじゃないか。
「おい、先導役! 僕が直々にお前達のグリフォンとの戦いを見てやろう」
「……は?」
「だから、お前達の戦い方を指導してやろうといってるんだ! 黙って従え!」
「はあ? グリフォンと戦った事ないのに、グリフォン狩りの依頼を受けているのか?(誰もがグリフォン討伐初心者だから気楽に受けられるよう、失敗しても罰則の無い依頼になってるのか?)」
「まあいい、グリフォンはそこら辺にいるんだろ? さっさと行くんだ!」
「断固断る! (そもそも上の階層で何匹魔物を倒して来たと思ってるんだ。一階層当たり10から50匹前後の群れを3グループ以上倒してるんだぞ? 二階層抜けるのに余裕で200匹近く倒してたら、体力も魔力も消耗が激しいっての!)」
先導役の少女と美女は立ち去って行った。
「この僕の誘いを断るとはッ……! 連れてる魔物が強かっただけの癖にッ!!」
巨大なテント?をマジックバッグから出した彼女らは、テントの中に入って行き休憩にするようだ。
その姿を見届け、仲間達に振り返る。
「グリフォンを倒し、僕たちの実力を見せつけるぞ!」
「「「おう!!」」」
グリフォンとどう戦えばいいのか分からないまま、探索に出掛ける。
盾役のアンデリックを先頭に、すぐ後ろに僕、中衛として槍使いのオッグスバート、後衛に女性三人が続く。
「グリフォンって、あれじゃないか?」
アンデリックが指さす方角に視線を向けると、ダンジョンが作り出す青空の中に、小指の先ほどの茶色い点が見え、ゆっくりと横に移動してるのが分かる。
「かなり距離がありそうだが、動いているからアレのようだ」
「あの方角にもう少し進んだ方がよさそうだな」
「いや、気付かれたみたいだ」
アンデリックの声で再び茶色の点を意識すると、横方向に移動するのを止め、空中で静止したかのように、青空に点が固定されているように見える。
「動いてるようにみえないのだが?」
「いや、大きくなってる」
「……近づいてるのか?!」
盾を構え直し、小さく頷くアンデリック。
「総員戦闘態勢!!」
全員に指示し、気を引き締めるよう伝え、後衛の女性たちは弓に矢を番えたり、詠唱を始めたりと、いつでも攻撃できるよう準備を始めた。
陣形を保ったまま注視すると、小指の先ほどの大きさだた物が、非常にゆっくりと上方へ移動し、動かなくなったと思ったら、少しずつその物体の大きさが膨らんでく。
「確実にこちらを狙っているな」
「……ああ、少し離れてろ」
普段なら盾で受け止め、その動きが止まった隙を狙う為、近くで待機しているのだが、受け止める選択肢は無いようだ。
受け流すか回避するか、アンデリックは決めかねているようで、咄嗟の判断でどちらになっても対処可能なように、僕たちを遠ざける指示を出して来た。
見る見るうちに距離を縮め、グリフォンの姿がはっきりと確認できるようになった頃、上空から襲撃してくるグリフォンの速度は、簡単に回避できるほど生易しく無くなっていた。
「どうするんだ? アンデリック」
「あの勢いは止められない、回避は不可能だ。受け流すのも難しい」
「クエェェェッ!!」
咆哮を上げたグリフォンが、勢いの乗った攻撃を仕掛けて来る。
ガギュッ!ギギーーッ!!
翼を広げたグリフォンが、前足を付き出しアンデリックに爪を突き立てようと突撃する。
アンデリックが受け流そうと盾を構えていたが、グリフォンの前足の爪が食い込み、盾ごと身体を持って行かれそうになりつつも、巧みに盾の角度を調節し、爪が突き刺さった場所から盾が斜めに切り裂かれていた。
ガランッ!
盾の切れ端を前足に掴んだまま着地したグリフォンは、前足を無造作に振るい、爪に引っ掛けた盾を振り解く。
「クエェェェッ」
威嚇の声を上げ走り出し、後衛に迫るグリフォン。
「何をしている! 魔法を放て! 弓もだ!!」
「「「は、はい!」」」
慌てふためいた様子の後衛から至近距離で魔法や矢が放たれたが、既の所で空へと飛び上がり回避される。
「アンデリック、次こそは止めろ」
「……この盾じゃ無理だ(あの速度を受けて、弾き飛ばされなかっただけマシだな)」
「お前達は、近づかれる前に魔法を放つ予定だったろ!」
「早すぎて当てられません!!」
女性のうち一人が反論し、残り二人は頷いていた。
ぐんぐんと高度を上げたグリフォンは、反転して再び降下して襲撃する体制に入ったようだ。
「盾が無理なら槍だ! オッグスバート何とかするんだ!」
「……へいへい(どの道あの速度からは逃げられない、何とかダメージを与えないと、活路は見いだせない)」
盾の欠片を拾ったオッグスバートがアンデリックと場所を代わり、足元に盾の欠片を捨て、それに向けて石突を何度も叩きつける。
ガンガンガンッ!!
盾役が盾を打ち鳴らして挑発するように、音を鳴らしてグリフォンの気を引こうと涙ぐましい努力をしていた。
その成果もあり、グリフォンはオッグスバートに狙いを付けたようだ。
石突で地面を突き、そこから槍を斜めに構え、穂先をグリフォンに向ける。
突撃するタイミングに合わせ、穂先を軽く持ち上げるように引き、槍を手放すと同時に横っ飛びに回避する。
ザシュッ!!
グエェェェェッ………
これ以上無い程絶妙なタイミングで神回避に成功し、手元を離れた槍も、穂先がグリフォンに向いたまま突き刺さっていた。
石突が地面に接地してる事で、押し戻される事無く突き刺さった槍は、魔法槍の効果で易々とグリフォンを貫いていた。
(グリフォンが自ら槍に突っ込むようにしたが、目論見通り上手くいったな)
「やればできるではないか、オッグスバート」
「まぁな(あんなの何度も成功する技じゃねぇ!)」
「グリフォン狩りは成功したな、次も頼むぞ」
「何度もできる訳がないだろ、パーティーで戦う作戦を考えろよ!」
「そ、そうだな。次は弓や魔法も打とう。当たらなくても、突撃する速度が遅くなるかもしれないからな」
「「「は、はい!」」」
上方三分の一を斜めに切り裂かれた盾を構え、アンデリックが次のグリフォンを探しながら隊列を組みなおす。
次に発見したグリフォンに魔法や矢を射かけても、当たらないのはもちろんの事、速度が低下するまでも無く突撃を受けた。
アンデリックの盾は拉げて使い物にならず、槍を置き去りにして回避する作戦は辛うじて二度目の成功を見せたが、そうそう都合よく行かず、槍の刺さる角度が悪く首のあたりを貫通した槍は、穂先が突き抜けた位置で柄に不自然な力が加わり、鋼鉄の柄が中ほどでくの字に曲がった。
「アンデリックの盾も使い物にならないし、オレの槍も曲がってしまっては、もうグリフォンを倒せないだろ」
「何とかならんのか?」
「そう思うなら、お前の剣でぶっ倒してくれ」
「いくら僕が剣を振っても、空を飛ぶグリフォンには届かない!」
「(それは俺達も同じだ! 口にしたい台詞はあるが我慢だ…)はぁ……、これ以上はどう考えても無理だろ」
「オッグスバートの意見に賛成だ」
「「「同じく」」」
遠距離攻撃で有効打は無く、辛うじて効果のあった盾も無くなり、致命傷を与えていた槍も失っては、これ以上の戦闘は不可能と思えた。
「分かった。撤収する!」
「はぁ……、ようやくか(お前はグリフォンに一太刀も浴びせてないのに、決断が遅いぞ!)」
「槍はまだ使えそうか?」
「魔石に触れば穂先の効果は発動する。曲がった柄を直せば使えそうだが、……強度が不安だな(魔法槍を失ったら、戦力外通知されちまう。ただでさえ援助が無くなって、次の入手手段が無いってのに……)」
肩を落としながら【栄光の剣】は、ダンジョン入り口にある台座から帰還した。
(エウディゴはやっぱり金を払って転移してたな。その後すぐにダンジョンに入って行ったし、再発行を済ませたか)
【雪花の絆】セルケイラside
体感時間で朝の時間帯になるように、不寝番の役目が回って来るように調整しましたわ。
これにはある目的がありますの。
もちろん魔物の警戒もありますが、わたくしが見てる先は、野営コンテナと呼ばれるテントですわ。
男性冒険者を警戒しつつも、そちらから視線を外す事無く注視します。
狙い通り、野営コンテナからエルが出て来ましたわ。
逸る気を押さえつつも、警戒させぬようゆっくりと近づき声をかける。
「こんにちは。いえ、おはようございますかしら?」
「こんにちは、何か用ですか?」
サラサラの金髪を靡かせ、可愛らしい顔をこちらに向けて挨拶を交わしてくださいましたわ。
ですが、昨日の交渉も失敗しましたし、胡乱げな眼差しでこちらを見ていますわ。慎重に会話を続けましょう。
「お願いがありますの」
「多分断ると思いますが、一応聞きます」
予想通りといえばそうなのですが、彼からはあまり良く思われて無いようですね……
初日の野営で、不躾なお願いをしたのが良くなかったわね。
ダンジョンの中、限られた物資の一つであるテントを、お金にものを言わせて奪い取ろうとしたのですものね。
例え合意の下、野営コンテナを手に入れたとしても、彼らの寝床を奪う事になるのですもの。
高貴なる者として、恥ずべき行いですわ。
「先日は失礼いたしましたわ。その上でお願いがあるのですが、野営コンテナにトイレはありまして?」
「ありますが、何か?」
「そのトイレを使わせていただけないかしら?」
「お断りします(貴族?が野営コンテナに入る。トシュテンの悪夢しか思い浮かばないな)」
にべも無く断られてしまいましたわ?!
「お姉さんは、人目を遮られるトイレの場所を確保したいだけですよね?」
「…え。そ、そうですわ!」
「それならちょっとついて来て下さい」
詳しい説明も無いまま彼の後ろに付いて行くと、わたくしたちのテントの方角へ歩き出しましたわ。
「ここらへんでいいか……。女神フェルミエーナ様に感謝を!(強度は要らんな、一週間持つような魔力を注げば良いか)」
魔力を起動させるための詠唱句を紡ぎ、呪文の詠唱を小声で始めましたわ。
「何をするのかしら?」
彼が操る土魔法で、三メートルほどの高さの壁が出来上がりましたわ?!
それから立ち位置を変え、何度か魔法の行使を終えるとこちらに向き直ります。
「トイレはここで済ませてください。それなりに広くしてあるので、清拭もできますよ(トシュテンと違って女性ならではの現実的な問題だったか。それなら協力するのも吝かではないが、これからは自分たちで対策を考えて欲しい)」
彼が作った壁に近づくと、四方を囲まれた壁に一か所入り口があり、正面に立っても中が覗かれないように、目隠しの役割をする衝立のような壁が一枚あった。
お花摘みをしても外から覗かれないし、気兼ねなく全裸になって身体を拭く事もできそうですわ!!
「感謝いたしますわ!!」
普段は貴族の淑女らしく表情を見せないのですが、きょうばかりは冒険者の殿方に見せる事の無い、笑顔を浮かべてしまいましたわ。
はしたないですわ?!
その日以降、トイレに困る事が無くなったのですが、日に日にダンジョンに吸収されているようで、徐々に壁の高さが低くなるのが難点ですわね。
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