第355話 3匹で良かったよな?

 隊列も決まり21階層の攻略が始まった。


 もちろん先頭を行くのは俺達だが、第二集団の【栄光の剣】がかなり距離を開けている。

 俺達が打ち漏らした、いや、素通りした魔物と戦闘したく無いのだろう。攻撃の勢いで俺達をすり抜けた魔物が、【栄光の剣】に向かわず、引き返して再び俺達を狙うような距離を取っている。


 要するに、隊列が間延びしているのだ。



 普段なら、回避できる魔物の群れは多少の回り道をしても避けるのだが、これだけ隊列が伸びていると、多少の回り道で避けたとしても、追従する【栄光の剣】達のどこかに魔物が食らいつきそうだ。


 普段なら、クロススピアディアの群れとの戦闘は最小限に済ませているが、今回は積極的に群れに向かって進み、討伐しながら進まないと、後ろの連中を引き連れて進むのもままならない。



「わふわふっ」



 さっそくフェロウが群れを発見したから、魔力探知で位置を確認して、そちらに向けて進路を取る。


 しばらく進むとクロススピアディアの姿がはっきりと目視でき、あちらも俺たちを認識したようで、けたたましい足音を鳴らしながら、怒涛のように押し迫る。


 見える範囲で十数匹。その後ろにも居るだろうから2、3倍にはなりそうだ。


 普段なら魔法の最大射程を他人に悟られないよう偽装するのだが、魔物の数が多いし偽装の為に殉死はしたくない。


 魔法の射程に捉えた次の瞬間には、ジャベリンの土魔法をぶっ放す。


 音速で飛翔するジャベリンの土魔法を、見てからジャンプで回避するクロススピアディア。間に合わず魔法を受ける者も居るが、何匹かは難を逃れている。だが、後列に居るクロススピアディアに突き刺さり、魔法の無駄打ちになる事は少ない。


 魔物は数を減らしつつも徐々に彼我の距離が縮まり、肉薄してきたところで、アイテムボックスからトーチカを取り出し壁の中に引き籠る。



 ドガガッ!! ガンッ!



 クロススピアディアは、高く跳び上がり踏みつけるようにトーチカの屋根を攻撃したり、突進して頭突きをするかのように、槍の穂先のような角を突き立てて来る。



「ぬあぁぁぁッ?! 何匹かこっちに来てるぞ?!」



 遥か後方から聞こえる声は、エウディゴが漏らした叫びだろう。

 クロススピアディアの群れに襲われて、何かしらのトラウマでも刺激されたか?



 騒ぐから、余計に魔物を引き付けたんじゃないのか?



【栄光の剣】の健闘を祈りながらエウディゴの叫びを無視し、俺達は目の前の敵に集中する。

 トーチカの狭間からクロススピアディアの動きを見極め、壁の向こうにジャベリンの土魔法を起動し放つ。

 驚異的な瞬発力でジャンプして回避されたりもするが、何度か繰り返してクロススピアディアを殲滅する。


 トーチカを片付け後ろを振り返ると、【栄光の剣】も戦闘が終了したようで、倒した魔物の周囲でしゃがみ込んでる姿を見るに、魔物の解体を始めているようだ。


 どの程度の群れか数えてみたら、ちょうど30匹いた。後ろに逸らした分も含めればもう少し多い群れとなる。


 いきなり大きな群れと鉢合わせたか……、幸先悪そうだな。



 向こうのペースに合わせるつもりは無いので、倒した魔物をアイテムボックスに収納が終わったところで、21階層の攻略を再開する。



 えっ? わざわざ声をかけたりしないよ?


 何せ距離を取り過ぎて遠いからね!




 ある程度進んで後ろを振り返ると、俺達の次に進んでいたのは【雪花の絆】だった。



 何度かクロススピアディアの群れとの戦闘を繰り返し、その度に隊列が入れ替わっていたが、恐らく新鮮な肉を確保する良い機会だと、Aランクパーティーが隊列をローテーションしたのだろう。




 22階層に到着し、巨岩がいくつもある荒野というクロススピアディアの得意な地形で戦った際、数多く後ろに逸らす事もあったが、偶々【琥珀色の旅団】が担当してる時で、盾を駆使するだけでなく、周りのメンバーもクロススピアディアを自由に身動きが取れないような立ち回りで、大きな怪我をすることも無く対処していた。


 やっぱり一番頼りになりそうなのは、おっさん集団【琥珀色の旅団】だな。


【黒鉄の鉄槌】を除くと、【琥珀色の旅団】が一番好感度が高いな。他の連中はゼロ以下だ。

【栄光の剣】はいうまでも無くマイナス評価だし、【雪花の絆】に至ってはゼロフラットってところだろう。最初に勧誘してきたのがマイナスだし、多少のプラスを積み重ねても、マイナス分を払拭するほどでもない。指揮を取るレンツォピラーも、模擬戦前にノイフェスをナンパしてたのがマイナスだし、真面目に指揮を取る姿でゼロまで取り戻した。ってところだ。



 かといって、おっさんとハッピーエンドなんて迎えたくないから、このままいけば誰とも絡まずにノーマルエンドでイベント終了だな。


 いやいや、ゲームじゃ無いんだから、エンディングを迎えたりしないぞ?



 益体も無い事を考えながら足を動かしていたら、23階層へと到着した。




 他の連中が来る前に入り口付近の掃除をしておこうと、少しばかり入り口から離れる。



「わふわふっ」



 フェロウの声で魔力探知を飛ばし、3匹のグリフォンの位置を把握したところで魔法を放つため集中する。

 ここしばらくで癖になったのか、特に声を発する事無く口をもごもごと動かし、一番早く到達するグリフォンに向け、ジャベリンの土魔法を乱射する!



「グェェェッ……!!」



 その内の一つが胸部に命中し、一撃で致命傷を受けたグリフォンが、断末魔を上げながら勢いの付いたまま、錐揉み回転しながら失速し墜落した。



「わふぅ~」


 バリバリバリッ!!


 続いて近づくグリフォンには、フェロウが雷の魔法で対処し、階段型前駆ステップトリーダーの軌跡を刻みながら放たれた閃光が直撃し、気絶したグリフォンは飛行姿勢を保てず頭から墜落し、頚椎を折り絶命した。


 最後の一匹に向け『間に合えと!』祈りつつ、再びジャベリンの土魔法を乱射する。



「グヒュッ……!!」



 ガッ! バキッ!!


 今度は肺に命中したようで、空気が抜けるような呻き声をあげ、落下速度が然程落ちる事無く、間近に落ちて来たグリフォンをノイフェスが盾で受け止めた。その盾の裏から、グリフォンが嘴を覗かせていた。



 青色の宝珠から出た適当な盾じゃ、グリフォンの攻撃に耐えられず簡単に貫通するのか。


 木の盾をベースに鉄板を張り付けた、良くある盾の中でも革の盾よりマシ程度の性能しかない物を、取り合えずで持たせていたが、Aランク冒険者が相手取る魔物に対して、流石に強度が低すぎたようだ。



「壊れたデス」

「見栄え程度の用途で持たせていたけど、流石に実用には耐えかねるか」



 ノイフェスが持つ盾をしげしげと眺め、炭化タングステンをイメージして、土魔法で同じ形状の盾を作りだす。



 ドスッ!



 重量感のある盾が地面に落下し、それを指差しノイフェスに告げる。



「盾はこれを使おうか」

「ラジャーデス」



 長期間使えるように魔力をかなり込めたから、俺の残りの魔力も心許無い。

 その場で引き返し、23階層の入り口に戻ると、先頭集団に続いて後続のパーティーが入って来た。



「はあ~。ようやく着いたぜ!」

「ああ、上の階層はきつかったな」

「無事辿り着けましたわ」

「ようやく一息つける」



 それぞれが笑顔を浮かべながら感想を述べるが、概ね到着した喜びか安堵の台詞を口にしている。



「みな調査任務ご苦労だった! 引き続きグリフォンの依頼を頑張ってくれ! 【最速の番狂わせ】は【先導】の依頼書を出してくれ」

「「「おう!!」」」



 レンツォピラーに依頼書を渡し、ぞんざいな扱いでさらりと完了のサインを書き、それを受け取った。


 もう少し丁寧に扱ってもらいたいが、ダンジョンという危険地帯に居るのだから、警戒もしつつとなると慎重に扱うのも難しいか。



「それじゃ、これでいいな?」

「ありがとうございます」


「オレ達はこれで帰る。【黒鉄の鉄槌】も予定外の護衛、ご苦労だった」

「「「おう!!」」」



 俺に依頼書を渡した後、【黒鉄の鉄槌】に一言声をかけ、背後にある水晶の乗った台座にダンジョンカードを翳し、足元に魔法陣が浮かび上がり光に包まれたと思ったら、レンツォピラーの姿は消えていた。



「ダンジョンから出る時は、あんなふうになるのか……」

「おい、エル。頼みがある!」

「こんなところで頼みって……、一応聞くけど、なんだよキーロン?」



 申し訳なさそうにいって来るキーロンに、胡乱な眼差しで聞き返す。



「ラナの依頼のウォーホースを調達したいんだ。分けてくれないか?」



 たしかにダンジョンに入れない間、ラナがテイムしているバーニンググリフォントロンの食料調達ができない。

 いよいよと思った【黒鉄の鉄槌】は、何とかダンジョンに潜り込もうと、ギルド職員の護衛の依頼を受けていたんだ。


 それなのに、せっかく入れたのに食料が調達出来て無ければ、まるっきり無意味となる。



 知らない仲じゃ無いし、キーロン達に一肌脱ぐか。巡り廻って、ラナの為でもあるしね。



「分かった。ウォーホース3匹で良かったよな?」

「ああ、頼む!」



 ぱっと明るい表情を浮かべるキーロン。だが、むしろ顔に迫力がでている。



「代金は今度奢ってくれ」

「……そんなんで良いのか?」



 ウォーホースの肉を納品するラナの依頼だし、依頼料は【黒鉄の鉄槌】に入るが、代わりにお金をもらうのもなんだか水臭い。

 いまは、食事会の約束をするだけでも十分だろう。


 アイテムボックスから3匹出したウォーホースを、キーロン達はマジックバッグに収納して行く。



「エル、ありがとな! また地上で会おう!!」

「気を付けて帰れよ」

「ダンジョンカードを翳すだけだ、何の心配もねぇ!」



 別れ際に『またな!』とでもいわんばかりにお互い軽く手を上げ、ダンジョンの転移機能を使って、護衛依頼を終えた【黒鉄の鉄槌】は去って行った。



 キーロン達を見送った事で、ようやく【先導】の依頼を終えた気分になった。



 通常の3倍は疲れたよ……




 実際、クロススピアディアの群れに積極的に挑んだ事で、普段の3倍は倒したしね。

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