第338話 階層ごとに排出しようか?

 ライマルがグライムダンジョンの改変と、他のダンジョンへの改変の指令を出している間、ノイフェスに確認したい事があった。


 それは、グライムダンジョンは実質ダンジョンコアが無い状態なのに、改変ができる。それならば……



「ノイフェスに聞きたいのだが、コアの無いダンジョンでも、現地に直接赴けば、ライマルが改変する事は可能か?」



 ミスティオダンジョンはコアも無く階層も少ないけど、せめて一層目以外からでも脱出できるようになれば、帰路の手間が省けるしね。



「ボス部屋まで踏破する必要がありますが、可能デス」



 やっぱりそこら辺は対処できるようだ。



「それから、ダンジョンカードの再発行は可能か?」

「可能デス」



 今回の改変でダンジョンカードの有用性が証明されるが、一度しか発行されないから紛失した人は困るだろう。

 パーティーメンバーの内一人だけダンジョンカードを紛失して、徒歩移動を余儀なくされたら、その一人だけ針の筵で生活する事になる。

 それを嫌って紛失したメンバーを追放するとか、波乱が巻き起こりそうだしね。



「タダで再発行するのも良く無いし、10層ボスの魔石とか、階層の浅いダンジョンはボスの魔石と引き換えにするとか、何かしらの制限を設けようね。それと他人のダンジョンカードで階層移動はできないようにしておく事」

「本人しか使えないデス」

「あとは……、ダンジョンカードが無くても、一定額を収めればダンジョンカードが無くても脱出可能にするくらいかな?」

「了解デス」



 ダンジョンの難易度変更とか魔物の変更とかもできそうだけど、現時点のダンジョンで産業に活用してたりするから、下手な改変は悪影響を及ぼすね。

 魔物関連やダンジョンその物には、改変を加えないでおこう。


 それに、11層へのショートカット目当てに冒険者間で、10層ボス討伐のパーティーが積極的に組まれたりするだろうしね。

 活気付く事間違いなしだ!



 ただ、10階層のボスであるロックゴーレムの撃破は、Cランクの実力を示す一つの基準になっているため、実力の伴わないCランク冒険者が乱立しそうな気がしてならない。

 そんな奴に限って俺がAランクって事を知ると、倒したらBランクやAランクに昇格だ!とかで、また【昇格試験】と揶揄される日がやってきそうだ。



「マスター。ダンジョン内部に居る人間を強制排出しないと、改変を実行できないと、ライマルからの連絡がありましたデス」



 考え込むようにライマルとの通信を行ってたノイフェスは、現状では不都合があると知らせて来た。



「改変するのに必要なら強制排出もやむなしだけど、排出するのは人間だけだよな? まさか、ダンジョンに住まう魔物も排出しないよな?」



 魔物まで強制排出されたら、それはただの魔物氾濫スタンピードになる。

 流石にそんな事態を招くのは看過できない。

 気持ちが若干焦りつつも、固唾を飲みながらノイフェスの返答を待ち構える。



「排出するのは、ダンジョン内に居る人間とテイムモンスターデス」

「一度に全員を外に出すと、混乱が激しくなるから、階層ごとに排出しようか?」

「かしこまりましたデス」

「深い階層から順に排出するのと、改変の起動を遅延発動にして、ライマルを先に回収しておきたい」

「ラジャーデス」



 ダンジョンから強制排出されるなんて、想定外過ぎて困惑するのは間違いないのに、一度に全員を排出したらダンジョンの入り口付近が混雑し、全員が狼狽を通り越して、大混乱という事態に発展するに決まってる。

 その中に巻き込まれたく無いから、恐らく一番深い階層にいる俺から排出してもらいたい。

 後から出て来た連中が狼狽えてる姿を尻目に、さっさとその場を立ち去りたいしね。


 騎士団の荷物検査があるから、さっさと、って訳には行かないけど、混乱の渦に巻き込まれなければそれで良い。


 しばらくすると、影ができたと思ったら音も無くライマルが現れた。



「作業は完了しました。1分後に強制排出を始めるデス。他の階層は5分経過する毎に排出しますデス」



 けっこう急だなと思いつつ、ライマルとノイフェスをアイテムボックスに収納し、強制排出に備える。



「念のため、フェロウ達も俺の近くに寄っててくれ。シャイフは影から出とこうか」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」



 強制排出という名の転移が、影魔法と何らかの干渉をして不測の事態が起きたら大変だ。

 空間系の魔法が干渉しないよう、使用しない方が良い。


 準備期間が1分とは短い物で、フェロウ達が集合した途端、足元から光が差し込み魔法陣が描かれていた。

 光が一層強くなり、目がくらむようなまぶしさを感じた時、僅かに浮遊感を感じて魔法陣の光量が治まって来た。


 外の明るさに目が慣れてきた時には、ダンジョン入り口付近に立っていた。



「フェロウ達も居るな?」

「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」



 フェロウ達に声をかけるとそれぞれが返事をし、転移の不安を拭うかのように、俺の足に身体を擦りつけていた。

 フェロウ達を一撫でし、一歩踏み出したところで声がかかった。



「な、何だ今のは?!」

「お、おい! 説明しろ!」



 ダンジョン前で冒険者の荷物検査をする騎士団が、俺達が出てくる瞬間を目撃していたのか、先ほどの不可解な現象強制排出について、狼狽した声音で詰問してきた。



「ダンジョン内に居て足元が光ったと思たら、外に出ていたんですよ。どうしてそうなったのか、俺には分かりません。それよりも荷物検査をお願いします」



 さっさと立ち去りたいから騎士団に近づき、検査を始めやすいようリュックの口を開き、無造作に検査台に置いた。

 戸惑いつつも荷物を受け取った騎士は、頭が働かずとも体に染み込んだ動作とばかりに、惰性で荷物検査を始めていた。


 手の空いてる騎士が俺に質問してくるが、荷物に全く関係の無い質問ばかりで、強制排出についての疑問を投げかけていた。


 もちろん「俺に聞かれても分からない」と返事をしており、荷物検査が終わっても更に質問を重ねていた。


 最終的には教えろ!知らない!の押し問答のようになり、そうこうしてたら、魔法陣の輝きと共に次の強制排出の集団が現れた。



「俺以外にも聞く相手が現れたのだから、あっちに聞いて下さいよ」

「よ、よし。行っていいぞ」



 俺一人を引き留めるより、聞く相手が多い方を選んだ騎士団は、すんなりと検査の終わった荷物を返し、受け取ってその場を立ち去った。


 ようやく解放された俺はダンジョンから離れ、人目を避けるように路地に入り、アイテムボックスからノイフェスを取り出した。

 女神フェルミエーナ様が作った人型接続用端末でああるノイフェスは、思考回路を搭載しているだけで、生命体では無いからアイテムボックスに収納できる。



「ようやく出られました。街に暮らす人々を観察するデス」



 どこかの更生施設にお勤めしてた、服役囚かよっ。


 街に出られたノイフェスは、少しだけ口角を上げて、開口一番そんな台詞を口走っていた。

 淡々と受け答えをするノイフェスは感情の起伏が少なく、大きく感情を揺さぶられた時くらいしか、満面の笑みを浮かべたりはしないようだ。


 表情を作るのにも、何かしらのエネルギーを消費するのだろうか?



 ダンジョン脱出時からノイフェスを出していなかった訳は、冒険者ギルドの出張所で入場料金を支払い、名前と人数を記録しているからである。


 一人でダンジョンに潜ったのに、帰りは人数が増えて二人になってたら、入退場の人数が合わなくなるしね。



「観察は好きにしてくれて構わないけど、ちゃんとついて来てね」

「ラジャーデス」



 そう返事をしたノイフェスは、小さく頷き三歩下がって俺に付き従っていた。


 あれか?『三尺下がって師の影を踏まず』を体現しているのかな?

 メイド服を着てるし、その立ち位置を貫くのだろう。……眷属らしいし。


 ラナが伯爵家で居候してるから、ノイフェスの宿泊先は二人部屋を三年間押さえてある角猛牛亭で良いとして、まずは一週間のグリフォン狩りの依頼完了で、冒険者ギルドに報告だな。



 ダンジョンの変化で冒険者ギルドに混乱が齎される前に、さっさと報告を済ませよう。

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