第337話 名前を付けても良いか?
飛行能力のある船を模した形状の乗り物だから飛行船と呼ぶ事にして、その飛行船の検証を終え、女神フェルミエーナ様に手紙を認める。
内容は便利な移動手段のお礼と、飛行船を制御しているグライムコアと、もう少し話しやすくならないかという相談だ。
無機質な空間で独り言を話してるみたいで、グライムコアとの会話に慣れないんだよね。声もどこからともなく聞こえて来るし。
女神フェルミエーナ様宛にアイテムボックス経由で手紙を送ると、速攻で頭の中に着信音が鳴り響く。
相変わらず返事が早いな……
『やっほー、エルくん! こんな短期間で手紙くれたのは初めてだねー!
それで、グライムコアちゃんを調整するから、一旦引き取るね~。それと、エルくんの要望に応えるには素材が必要だから、アイテムボックスにある素材で使っていいやつを教えてねー!』
ダンジョンコアという素材を使って飛行船を作ったように、端末を作るのにも材料が必要になるんだね。
アイテムボックスの中だと、食材や調味料と魔道具以外なら、好きに使って構わないだろう。
いつか剣でも作ると思ってミスリルのインゴットも用意してあるけど、魔法剣を手に入れた事で、わざわざミスリルの剣を打たなくても良くなったから、余ってるし使って欲しい。
持ち運びやすくて片手で簡単に操作できる、スマートな携帯端末だと有難いかな?
音声入力で使うなら、インカムと耳掛けのイヤホンが一体になってたり、ヘッドセットとかの両手が空く物とかも便利そうだ。
そんな内容で女神フェルミエーナ様に連絡しておいたら、明日まで待って欲しいと返信を受けた。
まあ、グリフォン狩りも明日には60匹に到達するから、それまでに一週間分のノルマを終わらせておこう。
引き取るといわれている
翌日は一日かけてグリフォン狩りを終え、23階層の入り口付近の安全な場所に戻ると、頭の中に着信音が響き渡る。
「女神フェルミエーナ様からの手紙が来たね。
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
俺の独り言に、返事はしなくてもいいんだぞ?
この階層に他には誰も居ないと思うと、周囲を気にしなくて良い分気も緩んで、思わず独り言も出てしまうね。
アイテムボックスの脳内リストを検索すると、【使徒エルの眷属】グライムコアと【人型接続用端末】が送られて来た事を確認できた。
たぶん
まずは添付されている手紙を取り出し読み上げる。
『やっほー、エルくん! 話しかけ易いヤツを作ったから送るねー!
ミスリルのインゴットとアイアンゴーレムの身体、それに魔石をいくつか使わせてもらったよー。あとエルくんが使わなそうな魔法剣も使ったからね~。中々の出来栄えだよ!』
グライムダンジョンのボスであるゴーレム系は、俺の倒し方が露見しないよう、冒険者ギルドに売らずに貯めてるから、いくらでも使ってくれて構わない。
……ん?
魔法剣も使っただと?!
アイテムボックスから魔法剣を探すと、王家から貰った派手な装飾が付いた魔法剣が無くなってた。
派手過ぎの魔法剣を俺が使うと、美容魔法使いとの関連を嗅ぎつけられるから、アイテムボックスの肥やしになってたやつか……。
宝珠から出した魔法剣は残ってるし、使わない物を利用しただけなら問題無いな。
「取り合えず、二つとも取り出してみるか」
飛行船を取り出す際、巨大な建造物だからドンッ!と大きな音を鳴らすかと思ったが、飛行能力があるのだから自ら優しく地上へと降り立った。
どんな形状の端末か気になっていたから、もう一方も取り出すと、こちらはドスッ!と重量物が落下したような音を立てて現れた。
「マスター、おはようございますデス」
そう声を上げたグライムコアは、以前までの機械の合成音声のような声から打って変わって、人間の女性と変わらない声質になってた。
ふわふわとした緩やかなウェーブが付いた長い髪を靡かせ、スラリとした体形と美貌は、女神フェルミエーナ様の生き写しといっても過言では無い。
まさかの人型、それも女神似だ。
ただ……。
本人と違って、胸はしっかりボリュームがあるけどね!!
どちらかというと、本人より女神教会に祭られてる、女神像の方が似ている。
きっと、女神フェルミエーナ様なりの拘り……、いや願望あるのだろう。
今度、神力の回復と共に胸の成長でも祈ってあげよう。
それ以外の違いとなると、女神フェルミエーナ様が金髪なのに対して、こちらの端末は銀髪になっている。
あとは、衣装がメイド服でホワイトブリムまで着けていて、シンプルな拵えの魔法剣を佩いていた。
女神様が魔法剣の装飾を取っ払ってくれたようだ。
見た目は女神様似で、戦闘メイド且つ人型接続用端末で、ダンジョンコアの機能も残ってる。
属性盛沢山だな!!
髪の色が本人と違うのが救いだな。
完全に女神様と似ていたら、人型接続用端末を見た良く知らない人から、『女神フェルミエーナ様を連れ歩くとは、なんたる不敬!』とか言われそうだしね。
「肌に触れてみてもいいか?」
「マスターでしたら構いませんデス」
許可も取れたので、人型接続用端末の頬に触れてみると、女性の肌のように柔らかできめ細かい。
腕に触れても同様の柔らかさで、力を込めて握ってみると、あり得ない程の硬さを感じる。
アイアンゴーレムを素材に使った影響か?
人の骨格というより、骨格と筋組織をかたどったアイアンゴーレムの土台に、皮下脂肪と皮膚を張り付けたような感触だ。
「殆どアイアンゴーレムで作られてるよね?」
「マスターの仰る通りデス」
「ちなみに
先ほど取り出した時に、ドスッ!って音を立ててたから、かなりの重量がありそうだな。
「乙女の秘密デス」
秘密かよっ!
俺にまで秘密とか、眷属じゃなかったのかよ!
………ああ、ただの端末だったわ。
「確認したいんだけど、ダンジョンコアの機能って、どんなことができるんだ?」
「本機は、この星のダンジョンを統括するマスターコアになります。ダンジョンの改変、及び他のダンジョンへも改変の指令を出せるデス」
ダンジョンの改変か……。毎回1階層から始まるのが面倒だから、その辺りが解消されるような改変ができると有難いのだが……
「ダンジョンから簡単に脱出できる方法とか、前回の到達階層へ一気に移動出来たりしないのか?」
「登録地点とマーカーがあれば可能デス」
「それなら、マーカーはダンジョンカードを使って、登録地点は各階層の入り口付近に作ってくれないか?」
ダンジョンカードは、各ダンジョンの入り口付近にある、台座に固定された水晶から一人一回のみ発行されるカードで、ダンジョンの攻略状況が自動的に記録されるアイテムになる。
「ダンジョンから出る場合はマスターの希望通りですが、入る場合はボス部屋の次の階層への移動しかできませんデス」
詳しい説明を聞くと、ダンジョンカードの発行装置のような登録地点を作り、そこにダンジョンカードを翳せば、どの階層からでも脱出ができる。
深い階層への移動は、ダンジョンカードに記録された突破したボス部屋の次の階層までならショートカットが可能らしい。
20階層のボスを倒してる俺は、11階層と21階層へのショートカットなら可能になる。
ウォーホース狩りをしてる人達は、今まで通り1階層から歩いて7階層に向かうか、10階層のボスを倒して11階層へショートカットしてから9階層に向かうか、選択肢が生まれる。
いままで往復にかかっていた時間が片道だけに短縮されるのだから、遥かに便利になるに違いない。
ただ、10階層を超えるダンジョン以外には、行きのショートカットができず、ダンジョン改変の恩恵も少ない。
「じゃあ、その変更をやって欲しい」
「かしこまりました。ですが、ダンジョンコアの無いダンジョンは、改変を受け付けないのでご留意くださいデス」
各地のダンジョンコアは、そんな役割があったのか。
ダンジョンに入る人間から知識を読み取り、経験を蓄えて混沌神の元に帰って眷属化するだけじゃなかったのか。
「構わないからやってくれ」
「では行ってきますデス」
そういったグライムコアはダンジョン内を瞬間移動でもしたのか、魔力の残滓を残して飛行船が一瞬で消え去っていた。
「あれ? なんでグライムコアは残ってるんだ?」
「わたしは端末で、本体は
「そういえばそうか。どっちもグライムコアだから、呼び方を分けないとややこしいな。飛行船と端末に名前を付けても良いか?」
「マスターの呼びやすいように、名称を付けて構わないデス」
飛行船の名前はどうするか……
なんとか丸と付けるのが前世の国での作法みたいな物だったし、世界的にもマルシップと呼ばれるくらい、知名度が高かったはずだ。
それを踏まえてなんとか丸と付けるか。
グライムコアだし、飛行船は【ライマル】と呼ぼう。
物凄く目立つ存在だし、俺以外にも日本からの転生者がいたら、ライマルの名前を聞いたら名乗り出て来るかも知れないしね。
人型接続用端末は、ヒューマノイドインターフェイスと言い換えられるだろうから、そこから取った女性っぽい名前となると、それぞれの単語から少しずつ取って【ノイフェス】と名付けよう。
女神フェルミエーナ様と名前が近すぎても、名前を聞いた人が女神様を連想して俺が困る事になりそうだし、【フェ】だけでも入れれば十分だろ。
「グライムコアの飛行船は【ライマル】、そして人型接続用端末は【ノイフェス】と名付ける!」
「ラジャー。以降は本体を【ライマル】、本機を【ノイフェス】と呼称しますデス」
そういえばノイフェスに聞きたい事があったんだ。
「ノイフェスはダンジョンコア時代の記憶はあるのか? ライマルの方でも良いけど」
「ダンジョンコアとして活動していた記憶も、ライマルに記録されているデス」
「それなら聞きたかったんだが、ダンジョンコアなのに外に出てお茶を飲んでいたのは何故だ?」
グライムダンジョンコアを捕獲した時、街の喫茶店でお茶をしてる瞬間を目撃したしね。
俺から目線を外し思案するかのように目を瞑り━━いやライマルと通信でもしてるのかも知れないが━━、少しの間を置きノイフェスは口を開いた。
「人々が笑顔で生活している姿を見るのが好きなのデス。ダンジョンで人々の記憶を読み取り、憎しみや悲しみ、怒りや喜びを知り、人についてもっと知りたいと思ったのデス」
「そうだったのか……。それならせっかくの人型だし、アイテムボックスに収納したままでなく、ずっと外に出たままにしておくか?」
「マスターがお望みなら、そのように……」
「いや、俺の指示じゃなくて、ノイフェスの希望を聞いてるんだ」
「外に出ていたいデス。街の人の表情や会話、いろいろな風景も見たいデス」
「それなら、ノイフェスの女神カードも用意しないとな」
「ありがとうございますデス」
ノイフェスは目に力を込めて、満面の笑顔で返事をした。
始めからそういってくれればいい物を……
それにしても、ダンジョンコアを統括する存在だけあって、意思や感情を持ち、そして表情も作れるんだな。
流石は女神製のアイアンボディだ。
ミスリルのインゴットは何に使ったか分からないが、魔石はノイフェスの動力だろうな。時々魔石集めをしないといけないかも知れない。
その辺りも後で確認しておこう。
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