第334話 攻略しないのですか?
王都に到着した翌朝、ミスティオからの移動で疲れが残っていたのか、朝というには遅い時間に目を覚ます。
自分とフェロウ達に
寝すぎたのか疲れが残ってるのか、気怠さを感じながら冒険者ギルドに顔を出す。王都への到着を報告しに行く為だ。
曲がりなりにもAランク冒険者だし、冒険者ギルドとしてもCランク以上の高ランク冒険者は、所在を把握する方針だからだ。
もちろん依頼中の移動であれば、報告する必要は無い。
依頼を受諾しているギルドが把握してるし、依頼主から直接依頼を受けたとしても、所在の報告から移動先が把握できるから、依頼主を守る為にも情報開示できないからね。
俺の場合はキャロル様の護衛依頼も終わった事だし、王都に滞在する旨の報告だな。
寝坊したのが功を制して、冒険者ギルドも朝の忙しい時間帯が過ぎた頃合いで、ロビーにいる冒険者も疎らだった。
いつものように、フェロウ達を連れて受付に向かう。
馬車の移動中でも俺の影の中で休んでいたシャイフは、街中に居る時は影の中で過ごす事にしたらしい。
昨夜の宿で確認したし、その時のやり取りがこれだ。
「ずっと影の中にいるけど、大丈夫か? もう宿の部屋だし出て来ても大丈夫だぞ?」
「ピッ!」
「ずっと影魔法を使ってると思うけど、疲れ無いのか?」
「ピピピッ!」
「…疲れないのか。むしろ居心地が良かったり?」
「ピッ!!」
力強い返事からして、影の中の方が居心地が良いらしい。
影空間?を作る魔法は、シャイフに負担が少ないのかな?
受け付けに並ぶ人たちも少なく、いつものようにコーデリアさんが受付してる列に並ぶ。
ギルドの受付嬢は、疲れた顔も見せずに次々と冒険者が提示してくる依頼書を処理している。
大抵は、ダンジョンで取れる肉や素材そして魔石の納品が殆どだが、極稀に特定の魔物の生態調査のような依頼や、研究者の護衛なんかもあるらしい。
俺は依頼掲示板を見ずに魔物の解体を任せた際、そのままギルド側の配慮で依頼が処理されているから、詳しい依頼内容は知らないし興味もない。
「いらっしゃい、エルくん。久しぶりね。きょうは何の御用かしら?」
業務用の張り付いた笑みを浮かべて、コーデリアさんが接客に入る。
「きょうもお綺麗ですね、コーデリアさん。王都にしばらく滞在するので、報告に来ました。滞在先はいつも通りの角猛牛亭です」
「所在の報告ありがとうございます。受けて欲しい依頼があるから、ギルドマスターの部屋に行きましょうか。スカラ、ここお願いね」
「分かったわ。コーデリアの列に並んでる人は、他の列に並んでくださーい!」
隣に座る仲の良い
……まだ依頼を受けるともいってないのにね。
ギルドマスターの部屋の扉を軽く拳で二度叩き、コーデリアさんが来客を伝えると、中から『入れ!』と声が聞こえる。
徐に扉を開けると、了承も得ずにソファーにドカリと座り込む。
「エルくんを連れて来ました」
「おう。そっちに行くから少し待て」
部屋の主であるギルドマスターのワルトナーさんは、執務机に齧りついて忙しそうに書類を書き上げているようだ。
その間にコーデリアさんが、部屋の片隅の来客用に用意してあるお茶の準備を始めていた。
お茶を飲み終わる頃にようやくワルトナーさんがガンマペンを置き、ソファーセット側に移動してきた。
すかさずコーデリアさんがティーポットから新たなカップにお茶を注ぎ、ワルトナーさんの前にカップを置いた。
「おう、スマンな。それでエル、ここに連れて来られたなら分かると思うが、依頼を受けてもらいたい」
「そうだと思いましたが、どんな依頼ですか?」
「王家というか国が依頼主である、グリフォンが出る緑色の宝珠の納品依頼だ」
ワルトナーさんの告げる依頼内容に鼻白む。
緑色の宝珠が出るまで、あの大変な作業のような日々を過ごすのかと思うと、胸の内が鉛のように重くなり、気分が一気に沈み込む。
「……またですか」
俺が渋面見せながら呟くと、想定通りだといわんばかりに、眉間に皺を寄せて弱り顔を見せるワルトナーさん。
「まあ、そういうな。冒険者ギルドに依頼を出せば、緑色の宝珠が手に入る実績ができたもんだから、更に納品せよと本部からせっつかれてるんだ」
「俺以外の高ランク冒険者に、依頼を任せたりしないのですか?」
「他の連中じゃ、グリフォンの階層まで到達しねぇんだよ! 魔法武器があれば20階層のボスは簡単に終わるんだが、21階層の群れを成すクロススピアディアを突破できねぇらしい。一戦交えると数に押されて消耗が激しく、その時点で撤退を決めるパーティーが殆どだ」
確かに群れるクロススピアディアは厄介だった。
戦闘を回避できるなら大回りでも迂回する事を選択するけど、平野だから割と簡単に見つかって戦闘になるんだよね。
できる事なら受けたくないから、別の案を提示する。
「複数の冒険者を組ませて、大規模パーティーで攻略しないのですか?」
「それもやったが、21階層で消耗が激しいのは変わらない。それに、Aランク冒険者を含めた高ランクパーティーを集めるのも大変なんだぞ」
確かに、自由を売りにしている冒険者を、複数のパーティーを集めて統率しようとしても、高ランクともなれば実力に裏付けされた自信もあって、我が強くて指示を聞かなそうだね。
どうしても俺に受けさせたいようだが、グリフォン狩りはやりたく無いし、できる事なら回避したい。
食べる分を確保するだけなら、狩ってもいいと思える程度だ。
「クロススピアディアの階層が問題なんですよね?」
「……そうだな」
「それなら、俺達が先導して21、22階層を抜けるというのは?」
グリフォン狩りだけなら俺とフェロウ達で十分だが、緑色の宝珠が出るまで狩るとなると、やはり人海戦術しかないだろう。
俺達が倒した分のグリフォンをダンジョンが補充するのに、緑色の宝珠を落とす。
大半はその場でグリフォンが生まれるのだが、極稀に卵の宝珠が落ちる。
俺の近辺でそれが落ちればいいが、遥かに離れた場所で落ちた場合、三日以内に発見・回収しないとグリフォンが生まれてしまう。
それを回避するためには、広い範囲を網羅する様に冒険者を散開させなければならない。
ようはウォーホースの階層と同様、階層全域で捜索するのが一番だ。
「まあ、エルは突破出来てるのだから、それなら何とかなるか……? だが高ランク冒険者を集めるのに時間が必要だ。それまでに一度でいいから依頼を受けてくれ」
「はあ、仕方がないですね。一週間のヤツでいいですよね?」
「ああ、悪いな。頼む」
本部からの圧力に、ワルトナーさんもほとほと困り果てているようだ。珍しく弱り切った表情を浮かべていた。
ランクダウンの罰則を受けた時に色々と動いてもらった恩もあるし、ワルトナーさんには世話になっているのも事実だから、依頼を受けて良いとは思うが……。不承不承、一週間でグリフォンを60匹狩る依頼の受諾を了承する。
先ほどまで執務机で書類仕事に勤しんでたのも、そのせいだったとか?
王家はグリフォンを集めて何に使うつもりなのか?
「地元の冒険者じゃないので、あんまり当てにしないでくださいよ」
「分かってる」
「他の依頼を終えたばかりなので、しばらく休んでから依頼に取り掛かりますね」
「…ああ」
「あと、【飛行許可証】の追加を注文してください」
「分かった……、ん? おい! 流石にそれは無理があるだろ!」
「そこを何とか、ワルトナーさんのお力で!」
「二枚しか発行しないと、いわれてただろうが!」
そうなんだが、俺とラナ用の二枚しか持って無いから、商会用にも【飛行許可証】があったら嬉しいからね。
「交渉するだけしてみてくださいよ、じゃないと受けませんよ」
「はあ……、分かった分かった。こっちも無茶を押し付けてるしな、やるだけやってみるか」
「よろしくお願いします! 無理そうなら本部が受けた依頼なのだから、本部に差し戻せば良いんじゃないですか?」
「それもそうだな。ダンジョン支部で必ず達成しなければならない依頼では無いし、返答次第ではそうするか。なんだか気が楽になったぞ、ありがとな、エル!」
方向性が見えて来た事で、ワルトナーさんの気力も戻って来たようだ。
嫌々受けた依頼だが、ご褒美があると思うと沈んでた気分も一気に上がるね!
キャロル様の護衛を昨日終えたばかりだし、2、3日休んで体調を万全に整えてからダンジョンに潜ろう。
コーデリアさんと共にギルドマスターの部屋を後にし、静寂に満ちたロビーで、依頼の受注だけは済ませておいた。
長々とした打ち合わせを終えて角猛牛亭に戻ったら、ウエルネイス伯爵家の馬車が待機していた。
御者と目が合うと、ラナがグリフォン便の依頼で来れなくなった事と、コスティカ様がお呼びだからと、馬車に押し込まれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます