第308話 コッコが進化したのか?

 昨日、ミスティオに到着したばかりで、本日は旅の疲れを癒す為にも、気分転換も兼ねて街の散策に繰り出す予定だ。


 だが、その前に冒険者ギルドに顔を出しに向かう。


 久しぶりのミスティオだし、挨拶回りをする必要はあるだろうしね。




「こんにちは。グゼムさん」


「応、坊主か。久しぶりだな」


 やって来たのは冒険者ギルドの解体場。

 まだまだ持ってる、グリフォンの解体を任せにやってきた。


 手始めにグリフォンを一匹、アイテムボックスから取り出す。


「王都のダンジョンで倒したこの魔物は、解体できますか?」


「これはグリフォンか? 解体の手順は鳥や獣型の魔物と変わらねぇだろう。できない事は無いが、残す素材は分からんな」


 神妙な面持ちで手足を触ってみたり動かしたりと、素材になりそうな部位を目視で検証している。


「欲しいのは前半身の肉なので、他はお任せします」


「それなら単純な解体だけだな。まだ持って来るなら、素材になる部位を調べておく。魔石の買取価格を確認するついでだしな」


 流石のグゼムさんでも、全く扱った事の無い魔物までは、簡単に解体できる訳では無いようだ。


 ついでにラッシュブルも数匹解体に出し、お礼を述べて夕方に肉だけ取りに来ると約束し、解体場を後にした。



 そのままの足で冒険者ギルドへ向かい、混雑が緩和してくる時間とあって、受付に並ぶ列も短くなっている。


 フレデリカさんの列に並び、順番が回って来るのをひたすら待つ。


 ギルドマスターのヘイダルさんによって教育さしごかれた冒険者達は、お行儀よく列が消化されるのを待ち、ほどなくして俺の順番が回って来た。


「フレデリカさん、こんにちは」


「こんにちは、エルくん。ダーリンがお世話になってます」


 ダーリン………。


 フレデリカさんは【大地の咆哮】のロウレスと交際している受付嬢だ。

 以前と比べ、体形が少しふっくらとしてきた気がする。


 ……幸せ太りか?


 仕事の話をすると、会話の終了と共に受付を離れないといけない圧が、後ろの冒険者から掛けられるから、先に雑談から入る事にしよう。



「ロウレスとの交際は順調ですか?」


「ええ、エルくんのお陰もあって、子宝にも恵まれたわ。ロウレスが心配して、『一人だけの身体じゃないから仕事は辞めろ』っていって来るのよ。困ったものよね」


 ふっくらしてるのは懐妊したからか?

 その割にはお腹は目立ってないようだけど……


 体形によってはお腹が目立たない人も居るし、陣痛が来るまで妊娠に気付かなかった人も居るくらいだから、フレデリカさんもそのたぐいの人なのかも?


 安定期に入るまでは無茶は禁物だから、その意見には俺も概ね賛成だが、受付嬢のような事務仕事なら問題は起きそうに無いな。


 ヘイダルさんに教育されたこの街の冒険者なら、受付嬢に暴力を働くようなやつは居ないし、重労働を避けるのとストレスを貯め込まなければ大丈夫だろう。



 というより結婚したのは初耳なんだけど?!



 王都で『お金が貯まったらプロポーズする』、という死亡フラグ的なのは聞いていたけど……


 無事ミスティオに辿り着いてるのだから、ロウレスの悪運は相当強いな!


「ご結婚とご懐妊おめでとうございます」


「ありがとう、エルくん。それでギルドに来たご用件は?」


「ヘイダルさんに面会したいんです」


「ギルドマスターなら居ると思うわ、エルくん一人で行けるかしら?」


 フレデリカさんは身重だったな、何か月か分からないけど階段は危ないかも知れないから、場所は分かるし勝手に行くか。


「大丈夫ですよ。許可も出た事だし、俺は行きますね」


「いってらっしゃい」


 今度ロウレスに会ったら、お祝いを渡さないとな。

 何を渡せばいいのやら?


 赤ちゃんグッズか?


 そういうのは親類縁者が送るだろうから、消耗品か良く使うタオルとかが喜ばれるか?


 でも、一番喜ばれるのは、使い道を自由に選べる【現金】だしな。


 ……味気ない。


 ロウレスの意見も聞きつつ、何か渡すか。



 そんな事を考えながら、ギルド長の部屋への階段を上る。


 扉を叩き来訪を伝えると、室内から了承の返事が来たので、扉を開けて部屋へと入る。


「ん? エルだけか? 久しぶりだな」


 執務に付き、書類の手を止めたヘイダルさんが顔を上げる。


「まだ受付は忙しいから、一人で行けと…」


「そうか。まあ、ご苦労。ただ顔を見せに来た訳じゃないんだろ?」


 無駄な会話は切り上げて、冒険者らしく単刀直入に本題を促す。


「しばらくミスティオに滞在するので、挨拶も兼ねてオークションの出品物を持って来ました」


 執務机からソファーに移動してきたヘイダルさんの目の前に、徴税官から没収した【任命書】や、護衛から買い取った徴税官への【賃借契約書】を並べた。

 ついでに、徴税官が身に付けていた宝飾品も、一緒に出しておいた。


 俺にとっては、いわく付きの品みたいなものだから、この機会に処分しておこうかと。


「おいおい、こいつは徴税官の持ち物じゃねえのか? まさか盗品じゃねぇだろうな?」


 俺が並べた物を一つ一つ確認していたヘイダルさんは、【任命書】を手に取り文面を読みつつ目を細め、威嚇するかのように鋭い眼光を向けて来た。


「まさか、そんな訳ありませんよ。こちらも見てください」


 徴税官は持ち合わせが無かった為、食事代を取りに行くのに担保として預かった。


 質草のような扱いにすると、質流れになるまで一定期間を設ける必要があるから、食事代を取りに戻る間のとして預かった。

 支払いが間に合わなければ、その日の内に俺の物にできるからね。


 俺の主観は抜きで、そういった事情を説明し、その時に徴税官が署名した書類も提示した。


「事情は分かったし、オークションに出すなら、そっちの徴税官のサインが入った書類も一緒の方が説得力があるな」


 今度は徴税官が身に付けていた、貴金属を手に取る。


「こっちは宝飾品か……。宝石の鑑定なんてした事無いから分からねぇが、凝った細工がしてあるから、台座にあたる金属の方もそれなりに価値がありそうだ。

 これらもオークションに出品すれば、それなりの額で入札されるだろう」


「それで、開始価格を【任命書】は大金貨10枚、【賃借契約書】は大金貨7枚で始めたいです」


「【任命書】はどうなるか予想も付かねぇが、【賃借契約書】は額面以上の値を付けても、入札するようなバカはいねぇだろ」


「入札が無ければ俺の手元に戻ってくるのですから、額面通りの金額を相手に請求しに行くだけですよ」


「それもそうか。物は試しで出品するんだな、やってみろ。ハハハッ」


 冒険者ギルドのオークションで、こんなものが出品される事など無かったのか、ヘイダルさんは面白そうに笑っていた。


 上手く宣伝すれば入札も有るだろうし、手数料でサブマスが作った負債を少しでも解消してくれ。


 その為のミスティオ支部からの出品だからね。


「それより、そのデカくて黒いやつは、コッコが進化したのか?」


「いえ、こいつはシャイフといって……」


 ラナ誘拐の一件を説明し、色々あった後、シャイフをテイムした事も説明した。


「飛行型の魔物か。便利そうだな」


「どうでしょうか? 今はまだ乗れないので実感はありませんね」


「少し前から、赤いグリフォンが飛んでくると噂になっていたが、知ってるか?」


「恐らくラナがテイムしているバーニンググリフォンでしょう。ラナはトロンと名付けてました。

 ミスティオまで飛行しているのは、ウエルネイス伯爵家が伝令代わりに、ラナに依頼を出しているんです」


「そうか……。何か対策が必要かと思ったが、テイムモンスターなら問題無いな。ギルド内でも周知しておかねぇと、討伐部隊を編成しろとか言われかねん」


 なんだかラナがご迷惑をお掛けしているようで、申し訳ございません。



 ギルドでの用事が済んだところで屋台広場へと繰り出し、屋台でホットドッグや肉串といった軽食を買い漁り、途中で昼食を挟みつつ、その後は市場で様々な肉以外の食材を買い占めて行った。

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