第289話 十分大金だよ?
さあ、帰る前に食事代(サナトスベア肉を含む)を支払ってもらおうか。
因みにオークションで一塊50kgあるサナトスベア肉が、平均
これを250gのステーキにすると、肉単体の原価は
食材の原価を3割と考えると、大銀貨7枚がステーキ代となる。
色々な
それらを踏まえて、一年以上前に討伐されたサナトスベア肉が、当時のままの鮮度を保つ技術を使用し(アイテムボックスで保管)、且つ、オークションで落札された肉が現存していない状況で(二度と出会えない希少性)、絶対に食べられない肉を食べた。
その代金は
徴税官に飲ませた
他の食べ物は皆ステーキ代に含める程度には、心優しく慈悲を見せてあげましょう。
「お会計はお一人様
彼らが席を立つ前に、請求額を告げ数歩下がる。
命じられたり金額に憤って、武装した護衛が暴れ出すかもしれないからね。近くに居たら危険が危ない。
「そんなバカな金額があるか!!」
ぼったくり?
いいえ、
一年以上鮮度を保つ技術と希少性を加味したら、当時の価値にゼロが二つ付いても適正価格といえるし、名声価格として売り出すのなら何ら問題は無い。
うん、一ミリたりとて法外な料金を請求してないな。
「希少である事や高級である事は、お伝え申し上げましたが?
金額を確かめず『それを早くこちらに寄越せ!』と食べたのは、そちらの問題です」
「そんな値段ならば、食べるはずが無いだろう!」
お前は値段関係無しに、間違いなく食うだろ!
それに『値段なぞ気にするか』とか、『徴発の品とするから問題ない』と言ってたよな?
こちらに譲る気が無いのを悟ると、悪態をつく。
「くそっ! ガキの癖に舐めやがって……」
いやいや、徴税官という立場を持ってるせいか、大人の癖に舐めてるよね?
徐々に頭に血が上って来たのか、顔を赤らめながら目尻を険しく吊り上げている。
「お前達も肉を食っただろ、大金貨10枚を支払えるのか?」
護衛達に目を向け、自分の分は自分で払えと、暗示するように言い放つ。
それを聞いて戦闘に備え、俺は更に数歩後退り距離を取る。
護衛達は自分たちで支払うのかと、互いの顔を見合わせながら、顔色を青ざめさせる者、赤らめる者、冷静沈着に剣の柄に手を伸ばす者と、対応も様々だ。
「支払えるのか?」
「どうする?」
「そんなに持ち合わせてる訳が無いだろ」
「半分ベラスコイト様に食われただろ」
「払うにしても半分はベラスコイト様が負担してくださらないと割に合わない」
「あのデブ腹立つ」
「威張りくさった守銭奴め!」
そういえば、ステーキを半分徴税官に取り上げられてたね。
徴税官に煽られた護衛達が、口々に話し出すが後半はただの悪口だな。
一気に空気が変わり、戦闘の予感がひしひしと伝わり、食堂中に緊張が走る。
怒りの矛先が、半分くらい徴税官に向かってそうだけど……
のんびりと食事を済ませていた冒険者達も、動きを悟らせない程ゆっくりと腰を浮かせ、いつでも戦闘態勢に入れるよう予備動作を取り始めていた。
戦いはいつも突然だ。
料金を請求したい店側と、踏み倒そうと目論む徴税官側。
一触即発の緊張感を打ち破り、試合開始のゴングが打ち鳴らされた。
「ぶべらっ?!」
汚いゴングの音色である。
適正価格だが一般人には大金でもある請求を受け、半分取り上げられた恨みを晴らすかのように、テーブルで席に着いたまま俺を直視している徴税官に向け、真横に立つ護衛の一人が拳を振り下ろした。
まさか、護衛に危害を加えられると想像もしていなかった徴税官は、意識外からの衝撃に防衛本能すら働かず、完全なる無防備なまま一撃を食らっていた。
護衛の拳が当たった瞬間顔が歪み、衝撃が水滴の落ちた波紋のように広がり、体中に衝撃が伝わるかのように脂肪を揺らしていた。
「ぴぎゃっ?!」
「へごっ?!」
「ぽぐっ?!」
普段の扱いが酷いのか護衛の恨みを買っていたようで、借金を背負わされた事でタガが外れ、数人から一発ずつお見舞いされた徴税官は、試合開始のゴングと、試合終了を告げる鐘の音を打ち鳴らしていた。
座ったまま燃え尽きたようにテーブルに顔を突っ伏した徴税官を見て、晴れやかな笑顔を見せる四人の護衛。
一発の拳に全ての感情を載せていたのか、徴税官に募らせていた恨みも解消したようで、やり切った気持ちで佇んでいる。
妙なゴングで出鼻をくじかれた好戦的な護衛達は、気を取り直して勢いをつけて立ち上がり、撥ね退けた椅子がけたたましい音を立てながら後ろへ倒れ、戦いの始まりに拳を握りしめる。
中には腰の剣に手をかけスラリと真剣を抜き放つ者や、剣を外し鞘ごと振りかぶる者もおり、明確な敵意を見せていた。
あらかじめ数歩下がっていて良かったと思いつつ、どうやって取り押さえようか思案していると……
「わふわふぅ~」
バリバリバリッ!!!
「「「「ぐぎゃー…ッ?!」」」」
「わふぅ~」
バリバリッ!!
「「げぱッ」」
着弾地点から数人を巻き込むフェロウの雷魔法が放たれ、青白い閃光が護衛を包み四人が倒され、残る好戦的な護衛の二人を、雷魔法で追撃して片付けていた。
倒れた護衛を見やると、黒焦げにならず、時折ピクリと身体を震わせていた。
麻痺程度には手加減されているようだ。
仲間が制圧された様を見て、徴税官を殴った四人の護衛は、素直に両手を上に掲げ降参の意を表していた。
「あっという間に護衛を片付けたぞ」
「白い犬のテイムモンスター、すげえつえぇ……」
「頬ずりして、心行くまでもふりたい」
フェロウは冒険者達にも高評価を受けているね。
だが、最後のヤツ、てめーはダメだ。
アイテムボックスからロープやザイルといった縛るものを取り出し、冒険者達に声をかける。
「護衛達を縛り上げてください。協力者には銀貨一枚を報酬に支払います!
見張りや雑用に残る方には、更に銀貨一枚を追加で支払います!」
無力化している連中を縛り上げるだけで銀貨が貰えるとあって、戦闘態勢の緊張を解いた冒険者から順に、俺の足下にあるロープを掴み、我先にと縛り上げて行った。
徴税官を殴ってすっきりした護衛も、冒険者に抵抗せず大人しく縄についていた。
「気絶してる徴税官は、一応男爵だから縛り上げずに見張るだけにして下さい。
気絶している護衛と、大人しく縄に付く護衛は分けて並べてください」
作業に従事した冒険者に銀貨を支払い、残留を希望する冒険者達には追加で銀貨を渡して、見張りの作業に就いてもらった。
外野から物見遊山でもするかの如く、俺達と徴税官のやり取りを、最後まで見物しようという意思の表れだろう。
徴税官は気絶しているし、護衛達から片付けよう。
徴税官を殴り、大人しく捕まった護衛に声をかける。
「みなさんは高級肉を召し上がりましたが、代金を支払えない借金奴隷の道と、代金を踏み倒そうとした犯罪奴隷の道と、どちらを選びますか?」
大金貨10枚を支払えない前提で話しかけているが、実家がお金持ちでもなければ、男爵の護衛の給金では支払えないだろう。
そもそも、そんな大金を持ち歩いたりしないだろうしね。
この場で支払い可能な人は、普通にいない。
「そんな大金持ち合わせてる訳が無い!」
「払える訳ないだろ!」
「実家に頼み込めばもしかしたら……」
「……美味かった」
全員この場で支払えそうに無い。
最後のお前はただの感想だ。
ちょいちょい変な護衛が混ざってるな。徴税官の趣味か?
「ルドルス、ルドルツ、二人で手分けして、大金貨10枚の借金の証文を作ってくれるか?」
「「畏まりました、オーナー」」
三つ子の二人が声を揃えて返事をして、証文の作成に取り掛かる。
「利息はいかが致しますか?」
赤髪のルドルツから、詳細を確認する質問が来た。
「『奴隷化に同意する事を条件に、無利息とする』とでも書いておいてくれ。同意が無ければ、一般的な利息を上限いっぱいで付けてくれ」
「畏まりました」
借金奴隷になっても利息があったら、奴隷の安い給金で、膨れ上がる借金地獄から一生抜け出せないからね。
警備兵も雇われだし、徴税官の傲慢さでやらされた面もあるから、多少の事は大目に見るよ。
護衛に鞭打つのが目的じゃないしね。
それを聞いた護衛達は、安堵の表情を浮かべていた。
いやいや、大金貨10枚は十分大金だよ?
フェロウの雷魔法を受け気絶させられた護衛達も、先の護衛達と同様に借金の証文【貸借契約書】に署名をさせ終えた。
これで、徴税官から護衛を引き剥がす事に成功した。
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