第11話 死線?

 きょうは特に予定も無いし、フィールズ達とも約束した一緒に行く外の冒険の下見をしておこうと、道具を求めてギルドの売店に向かう。


 冒険者が必要とする道具がだいたい揃っているし、保存食なんかも併せて販売してる。


「こんにちは、東の草原の先に薬草採取に行くにはどんな道具が必要ですか?」

「東の林なら藪を切り開くのに鉈や手袋かな。予算はどれくらいだ?」

「17,000ゴルドです」

「それだとナイフと袋・・・は持ってるのか、ナイフとタオル数枚くらいしか買えないぞ」

「タオルが必要なんですか?」

「藪で肌を傷つけた時に血を拭ったり覆ったり、得物を仕留めた時にロープ代わりに縛れるしな、あれば便利だぞ。ナイフと合わせて15,000ゴルドだ」

「はい銀貨1枚と大銅貨5枚です」

「もっと体格が良ければ剣鉈渡して武器代わりにも使えたんだがな、あんたには重そうだ」


 くそう、ここでも身長のこと言われるのか、早く背を伸ばしたいが何をすればよいのやら。


 支払いを済ませて、品物を革袋に詰め込む。ナイフは大振りなやつだったからアイテムボックスに収納しといた。

 タオルはふわふわしてないやつで、ほぼ手拭いだった。ねじり鉢巻きとかに使えそうだ。


 東の草原にはちらほらといる薬草採取の冒険者を横目に、俺は草原の先の林に向かう。

 ここからは魔物との遭遇が少しだけ増えるそうだが、さらに先の森や山まで行くと圧倒的に魔物に襲われるらしい。一人でそんな奥まで行かないように気を付けないとな。


 林の中に入ると空気が変わった気がした。

 魔物が居る感覚なのか、重いピリついた空気感に自然と緊張が走る。


 昨日やった魔力探知擬きを時折飛ばしながら警戒し、藪を開きつつ薬草を探すと、手つかずの薬草を見つける事が出来、十分育っているから20枚ほどの葉を入手できた。


 1株見つけるだけで、結構集めれるのが分かりホクホクとしながら探索を再開すると、急速にこちらに近づいてくる感触を魔力探知擬きで感知した。


 背後から迫ってきて振り返るとすでに目前にホーンラビットがいた。


「キュッ!」


 一声嘶き角を突き立てようと飛び掛かってきて、必死で体を仰け反り角は躱したが、大きな図体に弾き飛ばされた。


「ぐっ・・・」


 助走の付いた体当たりは、体格差が少ないのも相まって、予想以上の衝撃を食らって息が詰まる。


 痛む体を無視して、追撃をかわすために横に転がりながら立ち上がる。


 予想通り追撃してきたホーンラビットが跳び抜けていく。


 着地を狙って土魔法を打ったが外れてしまった。


 着弾に「ビクッ」と驚いたホーンラビットが一瞬身を竦めたところに土魔法を2度3度と放つ。


「キュウゥ・・・」


 動かなくなったホーンラビットにホッとし、近づかずに首を狙って血抜き用に首筋を狙った棒手裏剣の土魔法を飛ばす。


「ふう。薬草採取に集中しすぎて、警戒を怠ったらダメだな」


 購入したタオルで後ろ脚を縛り、もう一枚を木に括り付けてタオル同士を繋いでホーンラビットを吊るす。


 近い距離で素早い魔物が襲ってくると、単発の土魔法じゃ対処が大変そうだから、ショットガンみたいに散弾を飛ばす土魔法を練習した。


 怪我はしなかったけど、湿った地面で転がったから泥まみれになったし、周囲に人が居ないことを確認して、こっそりクリーンで綺麗にした。


 光魔法は非表示にしてるから、見られないようにしないとね。


 やるべきことを片付けて人心地ついたところで、いまさらながら膝が震えだした。

 遠くから仕留めた時と違い、自身も危険に晒した命のやり取りには、さすがに来るものがあり膝が落ち着くまで相当時間がかかっていた。


 その後こまめに魔力探知をしながら林を出た。

 血の匂いで魔物が寄ってきても困るし、獲物を抱えていては探索しにくいので、このまま街に戻ることにした。


 ホーンラビットの戦う意思、呼吸、気配、命を肌で感じたせいか、地形しか分からなかった魔力探知擬きで魔力を感じられるようになり、地形と命が区別出来るようになった。


 草原で薬草採取する冒険者を見ながら街に向かうと、クールダウン出来たのか鼓動も収まり落ち着いてきた。


 俺に近接戦闘は向いてないかも、なるべく魔物が近づく前に察知して近接戦闘は避けるようにしようと心に誓った。後衛魔術師が俺のポジションだな。



「薬草2束とホーンラビットの買い取りお願いします」


 昼間だとさすがに冒険者も出払っており、カウンターに人気も無く、薬草2束を買い取りカウンターに座ってる査定のおじさんに渡した。


「解体してないホーンラビットは解体場で査定だぞ、裏に持っていけ」


 解体場で査定してもらったら「打撲痕が多いから8,000ゴルドだな」と査定用紙を渡され買い取りカウンターで薬草と合わせて10,000ゴルドの会計をする。


 午前の成果で銀貨1枚、悪くは無いが装備を整える余裕も無い。


「もう一度林に行く気がしないし、とりあえずお昼にするか」


 紹介したサーリナやスキラの様子も見たいし、角ウサギ亭に向かう。


「こんにちは、お昼を頼める?」

「あっ、エルさん来たんですね。肉と野菜の定食どっちにしますか?」

「肉をお願い、サーリナとスキラはよく働いてる?」

「お肉ですね、あちらのテーブルで待ってて下さい。二人とも働き者ですっごく助かってますよ」

「そうなんだ、紹介した甲斐があったよ」


 しばらく待つとサーリナが料理を持って笑顔で近づいてきた。


「おまたせしました肉定食です」

「ありがとう、サーリナの調子はどう?職場には慣れた?」


 少し考えこむ仕草を見せてから


「ここの職場は働きやすいかも、仕事は忙しいけど賄いは美味しいし、夜までの間に休憩時間もくれるしね」

「そうなんだ、正式採用されるといいね」

「うん。紹介してくれてありがとう!」

「スキラもそんな感じ?」

「そうだよ、エルに感謝してるみたいっ」


 と、まぶしい笑顔で給仕に戻る。


 出された肉料理はステーキで、さすがにハンバーグは提供してないか売り切れのようだ。


 まだ湯気の上がる焼きたてのステーキに、ナイフを入れてみると肉汁が流れ出し、断面の中央に赤みを残した焼き加減で、柔らかい食感と口に広がる肉汁からうま味があふれ出し、トロっと粘るソースの甘みもステーキに合って食欲をそそられた。


 チェスターさんの料理はやっぱり美味しいな。


 あっという間に完食し、料金を支払い鍛冶屋に向かう。


 三日後に来てくれと言われてたけど、初めて作るものだから気になっていたのだ。


「こんにちは、ゴッダードさんいますか?」

「おう、角ウサギ亭の使いのやつか、新しいものに挑戦するのはわくわくするな、大方出来たから見てくれ」


 もう出来てるらしい、なんて仕事の早い。


「確認しますね、少し動かします」


 ハンドルを回してみるとスムーズに回り、内部をいろんな角度から確認すると、大体うまく稼働してるようなので、ミンチ肉を作るテストをお願いする。


 変な隙間から肉がはみ出したら困るしね。


「肉持ってくるから待っててくれ」


 ゴッダードさんが肉を取りに行ってる間に、こっそりクリーンとウォーターを掛け、水洗いしたように見せかけておく。


「洗っておきましたから、そのままお肉を入れましょう」


 肉を入れ動かしてみると、スクリューに押し出されカッターで刻まれたミンチ肉が出てきた。途中でソーセージ用のアタッチメントに変えても問題なく稼働した。


「部品の接合部分の隙間から、お肉がはみ出したりしてないですし、予定通りミンチ肉も出来てますから完璧な仕上がりですね」


 持ち上げ気味に完成を伝えると、嬉しそうにしていたが、強面筋肉だから睨みつけて来てるようにしか見えない・・・


「もう一個の方も出来てるぞ」

「ありがとうございます、これは野菜の皮むきに使うやつなので野菜ありませんか?」


 野菜を取りに行ってる間に、ミンサーにクリーンとウォーターを掛けておく。


 受け取った野菜でピーラーを試してみると、刃はいいが野菜の曲線に対応できてないので、刃の角度が自然と変わる様、持ち手と刃の固定部分に遊びを付けてもらいもう一度試す。


「今度は大丈夫ですね、曲面に合わせて刃が動いてスムーズに剥けます」

「この道具は料理に使うんだろ、どんな料理になるんだ?」

「お昼も過ぎてますし、角ウサギ亭で作ってもらいましょうか」

「昼飯もまだだし、店は弟子に任せて食いにいくぞ」


 ゴッダードさんを連れ裏口から角ウサギ亭の厨房に入る。


「こんにちは調理器具持ってきましたよ」

「邪魔するぞ」

「ゴッダードさんどうしたんですかっ」


 裏口すぐの調理台で、ショーナとソーニエともう一人の女性が賄いのハンバーグを食べてた。


「おう、ターニャか元気になったみたいだな」


 知らない女性はチェスターさんの奥さんでターニャさんだったみたい。


「チェスターの料理を食べて元気が出ましたわ」


 薄い水色の髪をしたターニャさんがやさしく微笑む。


「この調理器具で作るミンチ肉の料理を作ってくれっ」

「チェスターを呼ぶわ、あなた、ゴッダードさんが調理器具を持ってきてくれたわ」

「おお、もう出来たのか!まだ手を離せねえ、テト使い方を聞いてミンチ肉を作ってくれ!」

「分かったよ父さん、エルさん使い方を教えてください」

「この上からお肉を入れて、ハンドルを回すとミンチ肉がここから出るよ、ボウルかお皿で受け止めてね」


 テトが早速ミンチ肉を作ってると。


「少し動いちゃいますね、それにハンドルを回すとき本体を支えてないといけないから、お肉の継ぎ足しがやりにくいですね」

「そうか・・・」

「ゴッダードさん、万力みたいなのを付けてテーブルの端に固定できるようにしましょう」

「いまの台座に穴を空けて、ボルトで万力を付けたそう」


 いまの内にショーナにピーラーを渡し、使い方を説明しておく。

 テトは出来たミンチ肉をチェスターに渡しハンバーグの調理に入ってもらう。


「エルさん、この使ってない部品はなんですか?」

「それはミンチ肉の腸詰を作るときに使うパーツだよ、お肉が出るところに付けるんだ」

「腸の中にミンチ肉を入れるんですか?」

「そうそう、腸の皮がパリっとして食べやすくていいよ。燻製にしてから茹でても焼いても美味しいよ」

「エルさんそれの作り方を教えて下さい!あと燻製って何ですか」

「塩漬けの腸をそのパーツの筒部分に通して、一晩塩抜きをしてミンチ肉を中に詰めたら、食べやすい長さで捻って煙で燻すんだけど、燻製器は無いよね」


 ソーセージの手順をざっと説明する。

 ハーブを混ぜたりとか味付けもあるけど、天才料理人のチェスターさんに任せよう。


「エルさん!みじん切りの調理器具もあったらお願いしますよ!燻製器も注文しますし、他にも便利そうな調理器具あったらお願いします!」

「いやそんなに勝手に注文して大丈夫なの?」

「お母さんこのままじゃ本当に大変なんです!調理器具頼んでいいですよね!」

「分かったわ、チェスターもテトも頑張ってくれてたから、借金も返せて余裕も出来たから少しくらいなら大丈夫よ」


 テト君完全にミンチ肉とみじん切りがトラウマになってるよね。


 チェスターさんの代で食堂に改装する計画が上がったが資金が不足してて、お店を担保に借金を少しだけしたそうだ。

 借金があったから家族だけでお店を回してたが、借金の完済と共に従業員を雇うつもりが、忙しくなりすぎて人手を増やす時間も取れず、5人前くらい働いていたターニャさんが倒れてしまったそうだ。


 なので仕事覚えと相性をみて、一週間ほどしたら四人とも正式採用するつもりなんだって。


 朝早いからショーナとソーニエは夕方に帰して、サーリナとスキラは昼前から仕事に入り、夜の食堂が終わってから送っていく形になったみたい。


 ターニャさんは全体の監督と、宿の会計を行うそうだ。

 いままで働きすぎだったから、体を労わってください。


「とりあえず調理器具はゴッダードさんに相談しとくね、出来上がったらまたくるよ」


 料理マニアのチェスターさんに、調理器具マニアのテト君なんだろうか。


 途中、ゴッダードさんの「うーまーいーぞー!」の叫び声が聞こえたけど、食事が終わったところで、一緒に鍛冶屋に戻る。


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