第12話 もっふもふ?

「そんで、あの調理器具は特許出願していいか?、それと野菜剥きのやつは実用新案を出したい」

「何ですかそれ?」

「賢王の時代に、新しく作った画期的な物は、開発者の名誉をたたえて、開発者以外が作る場合に特許料を支払うことになっているんだ。実用新案の場合はアイデア料を払うと他の店で作ることが出来るようになるんだ」

「へえー、そんな仕組みになってるんですね」


 完全に前世の特許パクリじゃん!エロ大王何やってんのっ

 やっぱエロ大王は転生者の線が濃いな。


「実用新案のやつは全部お前さんでいいが、特許の方は儂と半々でいいか?」

「かまいませんよ、そんな仕組みあるの知りませんでしたし」

「よっしゃ、申請手数料はこちらで払うから、商業ギルドに口座作っとけ」


 女神カードと連携した、口座管理をする女神謹製のアイテムがあるらしく、大きくお金を取り扱う商業ギルドと冒険者ギルドで口座開設でき、どちらで作っても連携してるそうだ。

 さすが過保護な女神、人に便利なものをどんどん提供してくれてるなあ。


「まあ、お前ひとりで行くと商業ギルドじゃ相手にされないか・・・いまから行くぞ」

「分かりました」


 強面のゴッダードさんが付き添っていたから、軽く扱われるとかの波乱も無く無事口座を開設出来た。


 ついでにゴッダードさんは商業ギルドマスターに面会の約束を取り付けていた。

 特許申請の話しがあるのだろう。そっちはゴッダードさんにお任せだ。



「小僧、あのミンチの器具はなんて言うんだ?」

「ミンサーです、皮剥きはピーラー」

「わかった、そんでテトの言ってたみじん切りの器具はどんなやつだ」


 前世の知識に、紐を引っ張ると刃が回転してみじん切りが出来るやつを思い出し、紐をハンドルに変え刃の回転軸とギア比で回転速度を上げ、全体を大きくすれば業務用になるかと思い、大体の図を描く。


 あとは、ほぼ木箱の燻製器とカンナをひっくり返した形状のスライサーにうどんマシン、卵が滅多に手に入らないからパスタが作れず、うどんになりそうなのだ。


 タジン鍋、無水調理鍋、圧力鍋を制作難易度順に作るよう指定しておく。どんだけ密閉出来るかが大事だしね。


 計量カップにオメガペンとかパスタフォーク・・・うどんフォークになるかな?補助器具なども追加しておく。


「燻製器はほぼ木箱だな、家具屋とか大工に頼んでもいいか」

「中で火を焚くのでいい木材だと勿体ないですし、大工の方がいいかも。本格的にやるなら耐熱煉瓦とかでしっかり作った方がいいです。

 あと香りのいい木材の端切れとかも貰ってください」

「また数日したら見に来てくれ、簡単そうなやつは弟子に作らせるから、すぐ作れると思うぞ」

「わかりました」

「特許申請とか実用新案はこちらでやっとくからよ、アイデア料が欲しいわけじゃないけど、申請せずにいるとうちが作ったのを見て、真似した奴が申請すると後で面倒だからな」

「その辺りは分からないのでお任せします、ありがとうございます、それではまた来ますね」

「おうっ」



 夕方孤児院に戻ると、フィールズ達がすごく嬉しそうにしていた。


「ただいま、何かいい事あった?」

「ボク達、見習い卒業したよ!」

「おお、おめでとう!」

「「ありがとう」」

「それじゃ外の依頼一緒に受ける?」

「うんボクやりたいっ」

「常設依頼の薬草採取か討伐か、ギルドの掲示板を見て決めるかだね」

「ボク武器無いから・・・薬草採取かな」

「それならギルドに寄らなくていいから、朝早めに出て他の冒険者より先に草原に向かおう」


 薬草採取の注意点を二人に説明しておく。



 翌朝門が解放されるとともに、東門を抜け草原に向かう。


「ボク街の外初めて」

「わたしもっ」

「数が少ないとは言え、魔物が居るから油断しないようにね」


 薬草採取に集中しすぎて、後ろからホーンラビットに襲われた経験を話しておく。


 あれは恐怖体験だったな・・・


「草原見渡せば、頭一つ伸びてる草が見えるだろ、あれが薬草だからすぐ見つけれるよ」


 革袋から出す振りして、こっそりアイテムボックスから見本用の薬草を出す


「こんな感じの葉っぱを集めてね、10枚ずつで出すんだよ、小さいのは残してね」


 二人は薬草の葉をじっくり観察してから、楽しそうに薬草を探す。


「うーん、薬草はすぐ見つかるけど、取れる葉は少ないね」

「この辺はEランク冒険者がみんな来るしね」


 薬草は二人に任せて、俺は後ろから魔力探知で索敵しながら付いていく。


「エル、ぜんぜん取れないから、別れて探そうよ」

「仕方ないか、せめて二人は一緒に探してて」

「分かった、そうするよ」

「わたしもそれでいいよ」

「フィールズは危ないと思ったら生活魔法使えよ、でも枯草とかが燃えないようにファイヤは禁止な」

「火以外は練習してないけど、いざという時は使うね」

「気を付けて探すんだぞ」

「エルも気を付けてね」

「お昼前にはまた集まろう」


 念のため、お守り代わりにフィールズにナイフを渡しておく。


 魔力探知の訓練も兼ねて、魔物の多い林の方で薬草を探しに行く。


 魔物を探せなきゃ効果が判らないもんね。


 藪をかき分けながら、日当たりの良さそうなところを探し、時折魔力探知を掛けて周辺の魔物を探す。

 離れたとこに魔物を感知したけど、同時に見つけた薬草の採取をする。

 昨日の失敗を考慮し、採取中も周辺を警戒する。

 手付かずの薬草1株で20枚少々の葉が取れた。


 接近戦は無理!ダメ絶対!


 先ほど見つけた魔物に気づかれないよう、慎重に近づきながら目視できる位置に移動する。


 結構近づいてみたけどホーンラビット自身の索敵範囲はそこまで広い訳じゃないみたい、長い耳があるのに役に立ってないのか?


 気付かれてないうちに土魔法で仕留めて血抜きをする。


 荷物が増えたから一度合流しに行こう。


「きゃああぁっ!」


 メイリアの悲鳴が!草原の方からだ。


 荷物をアイテムボックスに収納して、身軽になった俺は二人の元に急ぐ。


「フィールズ!フィールズ!」


 足を抑え倒れるフィールズと、涙を流し必死に声をかけるメイリアの姿が見えた。


 近くには角に血が付いたホーンラビットも倒れており、致命傷を受けているのか小刻みに痙攣している。


「フィールズ、無事かっ」

「あ、足が・・・」

「怪我をしたとこを見せてくれ」


 傷口からずらす手も、弱弱しく震えている。

 出血もかなりしてるようで、ズボンが血を吸っている範囲も広い。


 二人が見てない内にアイテムボックスからタオルを取出し、傷口を抑える用と血管抑える用に2枚準備する。


 縛ろうと準備しているところで「あっ」っと光魔法あるのを思い出し、傷口が治るイメージをしてヒールをかける。


 俺も慌ててたんだな。前世知識の応急手当しようとしてたし・・・


「痛みはどうだ?」

「もう痛くないよ」

「足を動かして違和感とかは」

「それも大丈夫」


 フィールズに声をかけつつ、こっそりとアイテムボックスに収納していた荷物とホーンラビットを取り出しておく。


「クリーンもかけるぞ」

「ありがとう」

「メイリアは怪我してないか?」

「わたしは大丈夫、フィールズがかばってくれたから・・・」


 フィールズの怪我が治ったからか、安心したメイリアも涙が収まったようだ。


「どういう状況だったんだ?」

「薬草探して移動してたら、急にガサガサって音がしたと思ったら、茂みからホーンラビットが跳びだしてきたの。

 フィールズが前に出てかばってくれたんだけど、足に角を突き立てられて、わたしは必至に土魔法を放ったわ」


 一息ついた時に昨日は襲われたから、あわてて魔力探知をして周囲を警戒すると、4つの魔力を直近の周囲に感じた。


 俺とフィールズ、メイリアの三人と・・・魔物?


 メイリアが仕留めたやつ、まだ生きてる?!


「おいっ、メイリアが倒したホーンラビット、まだ生きてるぞっ」

「えっ」

「止めをさすぞ!」

「待って!」

「なに?」

「止めを刺すのは待って・・・」

「でも魔物を放置するわけには・・・」

「それでも待って欲しいの」


 命を奪うことに対しての拒否感・・・かな?


 戦争に参加した人でも、敵に銃を向けれず明後日の方向に打つ、良心的な兵役拒否者っていう人も多かったらしく、無理に殺人を犯せばPTSDに陥る。


 メイリアはまだ10歳、まだ先の長い人生でここで無理をさせてトラウマを植え付けるわけにはいかないか。


「わかった、メイリアはどうしたい?」

「このまま見逃したい」

「見逃しても、このままじゃ苦痛にまみれたまま死んでいくよ」

「じゃあ、治してから逃がす・・・」

「まあ、そうするしかないか、けど治した途端に襲ってきたら、反撃することは分かってくれよ」

「・・・うん」

「フィールズにまた怪我して欲しくないだろ」

「わかったわ、その時は納得するよ」


 フィールズを引き合いに出すのは卑怯だったか。


「暴れないように、俺とフィールズで抑えるから、メイリアが治療してくれ」


 ホーンラビットの手足を縛って抑え、頭をフィールズが抑えた。


「メイリア、いいぞ」

「いくよっ、ヒール!」


 メイリアのヒールの魔力に包まれ、怪我が治癒していく。


 痙攣は収まったが、まだぐったりとしたままだ。


「重症だったからヒール1回じゃ足らないぞ」

「うん、もういっかいヒール!」


 何度かヒールを重ね、ホーンラビットが仄かに輝く。


「呼吸が安定してきたみたいだぞ、峠は越えた」


 機会があったら言ってみたいセリフってやつだね。


「もう1、2回やったら弱ってる内に逃がそうか」

「わかったわ、ヒール!」


 ヒールの魔力で全身が仄かに輝いていたが、突然ホーンラビットの頭部に光が集中してきた。


「エル、なんか額に光る模様が出てきたよ!」

「メイリア、ヒール一旦止めようか」

「うん」

「多分、テイムされたんだ。額の文様はテイムの証。」

「そうなの?」

「うーん、ホーンラビットを打倒したのはメイリアだし【負けを認めた】のかな?」


 手足の拘束を外し、フィールズにも押さえていた頭を解放させる。


「これで命を奪わなくても良くなったよ」

「良かった・・・」

「回復魔法は消費魔量が多いし、連発もしたから魔力量は大丈夫か」

「だいぶ減ったけど、枯渇まではまだありそう」


 しかし、メイリアに球体を飛ばす魔法しか教えてなくて良かった、不可抗力ならともかく自分の意志で命を奪わせてたら、間違いなくトラウマになってたと思う。


「このホーンラビット連れて行くしかないし、小汚いからクリーンしていい?」


 野外で生活してたホーンラビットは毛並みも埃や油でべったりとしていて、毛色も薄汚れた色合いをしてる。


「わたしがテイムしたんだし、わたしが掛けるよクリーン」


 クリーンの光に包まれると全身の汚れが取れていき、べたっとしてた毛並みも綿毛のようにふんわりとして、スマートな体形だったホーンラビットも、まるで前世のアンゴラウサギのように毛玉状に変化していった。

 心なしかホーンラビットのサイズが縮んだ気がする。なんでだ?


 もっふもふやないかーい!


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