第9話 見習い卒業?

「ショーナ、いま話しいい?」

「・・・いいけど」


 俺が声をかけた娘は二つ上のショーナ、ほにゃららと付いてるから、おそらく貴族の訳あり令嬢だ。


「ショーナはまだ見習い先、決まって無かったよね」

「・・・うん」

「水魔法は使えないけど、ウォーターは使えたよね」

「・・・そうだけど」

「ならウォーター使った仕事があるけど、明日一緒に来てくれない?」

「・・・行く」

「あとサーリナ姉を見かけなかった?」

「・・・いつもの三人で食堂に居た」

「ありがとう、行ってみるよ」


 水属性は持っているけど、攻撃魔法は使えない子で性格も攻撃向きじゃないけど、魔力量はそれなりに持ってるから水汲みには十分でしょ。


 食堂に行くとショーナが言ってたように、三人の女性が雑談してた。


「もうすぐ孤児院を追い出される歳になるのに、まだ仕事が見つからないよぉ。それもこれもエロい目で見てくる男どもが悪い!」

「そうそう、「ずっと雇って欲しかったら俺の女に~」とかいうやつでしょ、どこの見習いに行っても大体それでダメになるよね~」

「スキラはまだ13歳だから余裕はあるでしょ」

「サーリナは来年成人の14歳だもんね、15歳で成人だから今年中に見つけないとね~」

「このままだと行きつく先がぁ・・・」

「女は娼館、男は冒険者だもんね~」

「エロい目で見てくる男どもが嫌なのに、そんな連中しか来ない職場じゃないの!」


 仕事が見つからない不安と異性関係のストレスが、ずいぶん溜まってるみたい。荒れてるなぁ。


「そんな二人に朗報です!宿屋で給仕の仕事する気ある?」


 いつもは明るく元気で赤髪ショートカットのサーリナと、サーリナを真似てるけどちょっと違う茶髪ショートのスキラの二人が賛成すれば、両手でコップ抱えてののほんと二人を見てる黒髪パッツンロングのソーニエも釣れるはず。


 サーリナとスキラは、普段は人当りもよく笑顔で接してくるんだけど、そのせいで勘違い男がわんさか引っ掛けるみたいで、採用はされるけど続かなくて転々としてるのだ。

 ソーニエはまだ12歳だし余裕があるから、単純にのんびりしてるだけ。


「明日、ショーナをお試しで連れていくんだけど、人手不足だから良かったら三人も一緒にどうかな」

「どこの宿屋?」

「角ウサギ亭ってとこ。料理が評判だから給仕の募集なんだ、他にも人手は足りてないから三人一緒に紹介出来そうなんだ」

「悪くは無さそうだけど給金はどうなの」

「それは聞いてない、押しかけ給仕になるから、採用も給金も三人の働き次第かな?」

「うーん、でもエロい目で見てくる人は居るんでしょ」

「職場の同僚にずっと迫られる訳じゃないから、食事の短い時間だけじゃないの」


 もう一押しかな。


「宿屋だから住み込みで働けるし、賄いも出ると思うよ」

「一度行ってみるわ」

「わたしも行くわ~」

「ソーニエもいいよね」

「うん」

「それじゃ明日の朝食後に、出掛ける準備しといてね」

「「「わかったわ(~)」」」


 四人の勧誘を済ませた頃に、フィールズとメイリアも戻ってきた。


「依頼どうだった?」

「ボクたちは1日で終わらなかったから、また明日も行くよ。そっちは?」

「お昼をごちそうしてもらって、とっても美味しかった」

「こっちも継続。明日はショーナ達も連れていく予定」


 宿屋での働きと、人手が足らないことを説明しフィールズ達の仕事ぶりを話し合った。



 翌朝、四人を連れて角ウサギ亭に行き。


「おはようございます」

「「「「おはようございます(~)」」」」

「助っ人連れてくるって言ってたけど、大勢連れてきたな」

「いやこの宿には、これくらいの人手は必要ですよ」

「誰が何をするんだ?」

「サーリナとスキラの二人は明るいし人当りも良いから給仕で、空いた時間は食堂の掃除かな。ソーニエはのんびりしてるから、自分のペースで出来る宿の掃除と洗濯をやってもらって、ショーナは水汲みと皿洗いとかの厨房の補助だね」

「水汲みはエルが指示してくれ、給仕と掃除は食堂に行ってツーリアから聞いてくれ」

「それじゃ三人は表から入って、受付にいるツーリアちゃんから仕事を聞いてね、ショーナは大きい水瓶から水汲みしようか」


 水汲みは順調に進み、大瓶をいっぱいにしたとこで手を止め


「いま魔力量はどれくらい残ってる?」

「・・・半分くらいだと思う」

「それなら一度休憩してから続きをやろうか」


 残量見誤って魔力枯渇で倒れたら大変だしね。


「・・・あれ」


 ショーナの視線の先にはテトが野菜の皮むきをしてる。


「興味あるならやってみる?」


 視線を感じたテトが声をかける。


「・・・うん」


 ショーナもここでやっていけそうだね。


「それよりもエルさん!昨日は父さんがハンバーグを夜の食堂で販売したら大人気だったみたいで、ミンチ肉やらみじん切りやら散々やらされましたよ、どうにかなりませんか?」

「手間が掛かってるから値上げして注文数を少なくするとか、限定10食とかの、事前にタネを仕込める分だけの提供にするしかないんじゃない?

 調理器具を用意すればもっと増やせるだろうけど」

「調理器具?!エルさん用意して下さい!今すぐっ」


 テト必死だな。


「用意しろって、鍛冶屋とかで作ってもらわないと無理だよ、俺金ないし見習いだし」

「エル、その器具を鍛冶屋で急いで注文して来てくれ、紹介状は書くし支払いは角ウサギ亭でだ」

「分かりました、どこの鍛冶屋ですか」

「職人街の裏通りにあるゴッダード鍛冶店に行ってくれ、業務用の調理器具とかの注文を受けてくれるところだ」


 ミンチ肉作りから解放されるかもとほっとした表情のテトが、皮むきを丁寧にショーナに教えていた。


 チェスターさんから紹介状を受け取り、ゴッダード鍛冶屋に向かう。


「こんにちは」

「おう、何のお使いだ」


 強面筋肉の前掛けをしたお爺さんが工房から出てきた。


「角ウサギ亭の使いです、紹介状をどうぞ」


 紹介状を読んでゴッダードさんが


「ミンチ肉を作る器具なんて無いぞ、どうするんだ」


 上から肉を入れ、ハンドルを回したらミンチ肉が出来る図面を、前世の知識から引っ張り出し、ハンドルの反対側に出口を作り、ついでにソーセージ用のアタッチメントに付け替えれる様に部品を追加しておく。


「見たことねえし初めて作るから、三日後に一度来てくれや」


 ついでにショーナの為にピーラーも注文しておく。

 これも初めてらしく三日後に仕上がりを見ることになった。


 ピーラーの代金は俺の手持ちで足りたから払っておいたよ。残金はゼロだ。



 説明に時間がかかり、昼過ぎに角ウサギ亭に戻ると。


「ショーナ、水瓶いっぱいになった?」

「・・・うん」


 野菜の皮むきでテトと随分打ち解けてたみたいだけど、水汲みの仕事は忘れて無かったようで安心した。いまは皿洗いを手伝ってる。


「チェスターさんミンチ肉の調理器具の件ですが、初めて作るから三日後に仕上がりを見てからになります」

「そうか分かった、三日後も頼む」

「三日後かあ・・・」

「手直しあったらまだ先に延びるよ」

「ええええぇぇっ」


 テトに止めを刺す。


「エル、賄い出すから食べていってくれ」

「そういえば俺、水汲みの依頼で来てたんですが、ショーナがやっちゃったしどうなるんです?」

「エルのメンバーってことで依頼は達成でいいだろ」

「なら依頼料はショーナに渡すよ」

「いやカミさんと相談して、ショーナ達は見習いとして一日働くから、大銅貨5枚を渡すぞ。依頼料の方はエルが受け取っておけ」

「おお、ショーナ見習い採用おめでとう」

「・・・ありがとう」

「夜の食堂が終わったら、四人を孤児院までチェスターさんが送って下さいね。夜遅くなりますし。」

「わかっている」

「それじゃ俺行きます、三日後にまた来ますね」

「おう、ご苦労さん」



 ギルドで依頼完了の処理を行うと、水汲みの人員を雇ったから依頼が終了したことも告げる。


「角ウサギ亭の女将さん、調子良くなったのかい」

「まだ顔は見てないですよ、見習い先として孤児院の子を紹介したんですよ」

「あんた自分の仕事が無くなるのにそんなことをして・・・」


 依頼料の大銅貨1枚を受け取った。


「これで見習い卒業さね、カード出しな」


 登録の済んだカードを見ると「職業:冒険者 Eランク 評価D」と変化していた。


「そのカードなら門の外に出られるし、ダンジョンだって入れるさね。何か依頼を受けるかい」

「薬草採取を受けます、繁殖地帯と気を付ける魔物、薬草の見本はありますか」

「東門を出てそのまま進み、東の林付近で採取するといいよ、ホーンラビットが出るけど滅多に遭遇しないさね。北のダンジョン側に近づくほど遭遇しやすくなるから注意するんだよ」


 ギルドの在庫から薬草の見本を見せてくれて、シソの葉のような、ギザギザした葉っぱで、表面の葉脈が力強く浮き上がっていた。


「葉っぱだけでいいんですか」

「そうだよ、最低これくらいの大きさの葉っぱを10枚ずつ納品しておくれ。次も取れるように、若い葉と下の4枚は必ず残すよう気を付けるんさね」

「ありがとうございました」

「あんた何にも持ってないじゃないか、この革袋あげるから使いな」



 革袋を受け取り外に向かう。

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