第7話 戦闘評価?

「新年おめでとう。女神フェルミエーナ様に新しい年を無事迎える事が出来たことを感謝し、健やかに成長してくださいね」

「「「「新年おめでとうございます」」」」


 院長の挨拶と共に新年を迎え、俺たちは10歳となった。

 実際には女神カードでもっと前に10歳になっていたけど、孤児院基準で10歳なのだ。

 メイリアは7月、俺は10月、フィールズは1月でカードが更新されていた。もしかしたら季節ごとの3か月更新かも。

 だとすると俺の誕生日は8月から10月のどこかだろう。


 この歳になると、徐々に働き口を探し始めるのだが、一般家庭だと家業を継ぐために学んだり、親の勤め先に見習いで参加したりと、何かと伝手がないと就職は難しい。


 15歳の成人を迎えるまでに勤め先が決まらない訳あり児童は、孤児院の職員になったり、代官館の騎士や文官へ斡旋している。

 一般孤児は自力で頑張れの方針だそうだ。


「ようやく冒険者登録出来るね」


 フィールズが嬉しそうに話しかけてくる。


「楽しみだけど、俺たちで出来る仕事はあるかな」

「わたしは危なくなければ何でもいいわ」


 冒険者ギルドは大通りに面していて、街の東門からほど近い場所にあり、冒険者や狩人の利用が多く薄汚れた雰囲気のあるエリアだ。ダンジョンもこちらから向かうことになる。


 ギルドの扉をくぐり中を見渡すと、正面に受付カウンターを配置した広い造りになっており、左手に買い取りと依頼表、右手に冒険道具の売店と待合スペースが見える。

 受付嬢とかの非戦闘員もいるから、武装した酔っ払いを産まないように酒精の販売はしていないみたい。

 代わりに大きな酒場が隣にあるけど。これもギルドの運営なのかも。


 中に進むと、待合スペースにいる冒険者たちが目を向けてきたが、すぐに視線をそらし仲間内で会話を始めた。依頼の取り合いになりそうな時間を避けたから残っている冒険者は少なかった。

 素面だからか、そうそうに絡まれる展開にはならなそうだ。


 そんな冒険者集団の中から一人の少年がこちらに向かってくる。どこか懐かしい顔立ちをしている。


「ボクはジェレイミ、君はエルだろ?久しぶりだね」

「カタリナの息子?!」

「そうそう」

「冒険者になってたんだな」

「うん、父さんが騎士を目指すなら、冒険者で一人前になってからだ!って言うから、私塾で友達になった子のパーティーに加わってて、親子でやってるから、ベテラン教わってるんだ」

「そっか、俺達はこれから登録するところだよ」


 親とその仲間、そこに子供たちが加わった6人パーティらしい。

 お互いのメンバーを紹介し軽く顔を合わせしておく。



「あんた達、新規登録だろ。こっちに来な」


 顔立ちに昔は美人って面影はある、恰幅のいい四十過ぎの女性が受付カウンターから声をかけてきた。


「あんた達背も低いし、この時期に登録に来るなら孤児院の子だろ、見習い用にいいの取っておいたよ。女神様のカードを出しな」


 フィールズの背丈は160センチで他の子より高いが、俺とメイリアが110センチと小柄だったから、直ぐわかったのだろう。

 くそう、成人までには追い抜いてやる。せめてメイリアは抜きたい。


「登録済んだからカードは返すよ、Fランクの見習いからスタートだね。依頼を数回こなせばEランクにすぐ上がるよ」


 冒険者ランクは7ランクあり

 Sランク 達人 国に雇われたAランク、国家の拍付け。

 Aランク 達人 昇格試験有り。国家から指名依頼が入る。

 Bランク 一流 昇格試験有り。貴族から指名依頼が入る

 Cランク 熟練 昇格試験有り。商会から指名依頼が入る。

 Dランク 一人前 ダンジョン入場可能、大半はこのランク。

 Eランク 半人前

 Fランク 見習い 依頼数回で昇格

 となっている。


 女神カードの職業欄が「職業:冒険者 Fランク」に変化していた。


「早くランクを上げたきゃ依頼以外で肉や素材を納品しな。ランク上げるポイントが貯まりやすいよ」


 詳しく聞くとギルドの収入には、依頼の仲介手数料や素材の売却益があり、素材を商会に売却されるとギルドの利益にならいから、ポイントを高くつけて優遇しているとの事。


「そういえばあんた達は属性魔法は使えるのかい」

「俺は土と水が使えますよ」

「わたしは土だけ」

「なら戦闘評価を受けていかないかい」

「戦闘評価?」

「どれくらい戦闘力があるか見極めるのさ、今のランクより高い戦闘力があれば、討伐系の依頼に限り評価結果のランクで受けることが出来るんだよ。騎士崩れとかお貴族様の三男坊とかの、冒険者になる前に訓練を受けていた人を優遇する制度だね」

「わたし受けてみたいっ」

「なら俺も受けます」

「ボクも受けたい!」


 フィールズはどうかな、お前属性魔法使えないじゃん。


 騎士崩れも戦闘評価受けれるみたいだし、近接戦闘の評価も出来るんだろう。

 生活魔法を戦闘に使う人は居ないだろうから、フィールズに奥の手だから禁止だと伝えると、絶望の表情を浮かべた。

 命の掛かってない場面で使う技じゃないだろうに。


「戦闘評価できる人を呼んでくるから、あんた達はこの中から依頼を選んでおいて」


 と言い残してカウンターの奥へ行き、数枚の依頼表が残されていた。


「下水掃除にお屋敷の草むしり、農園の収穫と宿屋の水汲みの4件だね」

「一人でもこなせそうな依頼ばかりね」

「ボク農園の収穫やりたい」

「なら俺は宿屋の水汲みにしよう、水魔法で出来そうだし」

「わたしはフィールズと一緒に収穫するわ」


 メイリアはそう言うと思ったよ。


「定員が多いから、人手が必要な広い農園みたいだね」


 三人で依頼のこなし方を話してると、受付嬢?が戻ってきた。


「あんた達、どの依頼にするか決まったかい」

「俺はこの宿屋の水汲みにします」

「ボク達は農園の収穫です」

「ああ、この農園は門の外にあるから孤児院の子は受けれないんだよ、それに背の低い子は高い木の実に手が届かないだろ。こっちの屋敷の草むしりなら二人で受けれるからこっちにしな」


 訳あり孤児の誘拐等を防ぐ為に、自衛の出来る成人や就職するまで外に出られないのだ。

 他の町の孤児なら、冒険者登録前から薬草採取でお小遣いを稼げたのにね。


「依頼の受付は済ませておくから、裏の訓練場に回って戦闘評価を受けてきな」


 訓練場に向かうと精悍な顔つきで筋肉がギッシリ詰まってそうな体つきの人物がいた。


「おう、来たな坊主ども!オレはギルドマスターのダグラスだ。さっそく始めるからこっちに来て魔法を打て」

「じゃあ俺から行きます」

「ちっこいのが二人か」


 女神フェルミエーナの名前を呼び、ごにょごにょ小声で呪文を詠唱してる振りをしつつ、的に向け土魔法をぶっぱなす。


「なかなかいいな」


 メイリアにも詠唱の振りをするよう小声で伝えて場所を変わる。


「二人ともなかなかの威力だ、戦闘に十分使えそうだな。これを何発くらい打てるんだ?」


「わたしは20発くらいかな」

「俺は25発ってとこ」


 もっと打てるけどメイリアに程よく合わせておく。

 優秀すぎると思われて、変なチームから勧誘受けると嫌だしね。


「それだけ打てるなら戦闘評価はDだな。Cでもいいんだが戦闘経験の無い見習いがいきなりCランクというのはまずいだろ、Dあればダンジョンは入れるし。んでそっちの坊主は?」


「ボクも戦闘評価受けさせて下さい!」

「おういいぜ、そっちに訓練用の武器はあるから得物を選んでくれ」


 といいつつダグラスは訓練用の木剣を手にして、フィールズも木剣を持って開始位置についた。


 まったく訓練してないフィールズがどうやって戦うんだろ。


「やああぁぁ!」


 剣を上段に振りかぶり、ダグラスの頭部を狙って振り下ろす。


「よっ」っと剣を右から軽く振り抜きフィールズの剣を弾く。


 崩れた体勢を戻すため一歩引き、構え直そうとしたところを、再度横なぎの一撃で剣を弾く。

 引いていてはやられると思い、がむしゃらに剣を振り回すフィールズだが、軽くいなし躱され最後には剣を弾き飛ばされた。


 圧倒的な技量差で、怪我を負わせないような戦い方だった。


「まだまだだな、これじゃ戦闘評価はやれない」

「父さんみたいにやれると思ったのに・・・」


 フィールズは悔しそうに俯く。


「それじゃ解散だ、依頼に行ってこい!戦闘評価は帰ってきたら変更するよう受付に言っておく」


 俺達は再度受付で詳しい依頼内容を確認し、それぞれの依頼先に向かった。


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