第6話 残念勇者?
「女神フェルミエーナ様ありがとう、いただきます」
「「「「女神フェルミエーナ様ありがとう、いただきます」」」」
孤児院の大食堂では長いテーブルが4列並び、一つは院長と職員達、ほかの2列に子供たちが座って、院長の発声後に皆が唱和する形だ。
パンと野菜たっぷりのスープ、お肉は入ってたらいいほう、っていう豪華では無いが、お腹を満たす程度には十分な食事が朝晩の二食出てる。
農家さんの現物での寄付もあって、たまに果物も出るのが嬉しい。
王家運営だし貴族の寄付も多いけど、費用の大半は光属性持ちや訳あり児童の保護というか防衛力というか、職員も多いから費用が掛かって仕方ないらしい。
以前は無かった風習だが、女神フェルミエーナの名を敬意をもって呼ぶことで、神力の回復を狙った活動の一つだ。
ついでに日本文化の「いただきます」と「ごちそうさま」も付けた。
ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧として云々や、食材や料理を作った様々な人達にも感謝する気持ちが込められていると皆に説明してあり、それを長々と祈らず略式で唱和するけど気持ちは込めましょう。というのを院長にごり押して始めてもらった。
長いと子供たちは覚えられないし俺も嫌だ。
孤児院ではカタリナとリリアンヌが俺に付けられたが専属という訳でなく、一職員として他の孤児の面倒も看て居るから、なにかと忙しいみたいだ。
「「「女神フェルミエーナ様ありがとう、ごちそうさま」」」
食後の挨拶をした俺たち三人は、食べ終わった食器を調理場に運んだ。
「一旦部屋に戻ってから、リリアンヌの手が空いたころを見計らってまたお願いに行こう」
「もうすぐ10歳だし、魔法を教えてくれるといいね」
以前、5歳の時に魔法を教わりに行ったが、俺しか生活魔法のライトを発現出来ず、リリアンヌから「クリーン以降は、もう少し大きくなってから来てください」と断られてしまったのだ。
フィールズとメイリアは自主トレをしてライトの発現は済ませていた。
生活魔法は属性ごとに、「
俺が魔力を多く注いだり、火炎放射器をイメージして
生活魔法は上限が決まってて、攻撃魔法に転用できるほどの力は無いみたい。
光魔法は、初級に
特殊すぎて光魔法は他者から教わらないとなかなか習得出来ないそうだ。
出会った当時のリリアンヌは、成人前だが初級まで取得していたから、相当優秀なのかもしれない。
生活魔法を覚えて以降、魔力枯渇まで毎晩練習してたから、魔力量も増えてるだろうし早く覚えたい。
「エルです、リリアンヌ俺たちに魔法を教えてください」
「分かりました、エルの部屋で待っていて下さい」
「やった!」
すぐ後ろでフィールズとメイリアがガッツポーズしてる。
部屋待機してるとリリアンヌがノックするので、メイリアが中に促した。
「消費魔力の少ないクリーンを先に習得してから、ヒールの説明に移りますね」
「「「はい先生!」」」
楽しみにしてた魔法だから三人の声も明るい。
「クリーンは体の表面にどんな汚れがあるか思い出し、それが綺麗に取り除かれるイメージを浮かべるのが大事です。汗や泥などの汚れ以外で何があるか想像出来ますか」
「皮脂や垢とかですか?」
「正解です。体だけでなくお皿や服の汚れの時も、何の汚れを取れば綺麗になるか想像しながら魔法を発動しましょう」
女神フェルミエーナの名を呼び魔力溜まりを活性化させ、汚れが落ちるイメージを固め自分に魔法を発動する。
「「「
魔力が抜けていくことを感じながら、俺とメイリアの体が仄かに光り、クリーンは発動した。
「二人は発動しましたね、フィールズはもう少しがんばってみましょう」
フィールズはクリーンを何度か挑戦してみるも、どうにも発動までは至らないようが、このままヒールの説明だけでも聞きなさいと中断させられる。
「ヒールは人体の構造を良く理解していると、消費魔力も減るのでしっかりま学んで下さい」
と言い人体の絵が書いてある図を広げる。
骨格標本と人体模型を絵にしたものだね。
「回復魔法は初級でも上級でも、人体のイメージが必要になります、この図を良く見て覚えて下さい」
リリアンヌは徐にナイフを取り出し、左手に軽く傷をつけ俺に向ける。
「早速ですがエル、傷が治るイメージをしてヒールを使ってみてください」
傷のついて無い右手もこちらに向け、よりイメージをさせやすくしている。
「
回復魔法をかけても、流れた血は消えないから「
「綺麗に治ってますね、おみごとですエル」
「ありがとうございます」
「今度はメイリアの番ですよ」
「はいっ、がんばりますっ」
きょうは特に気合の入ったメイリアに両手を向けヒールとクリーンをかけさす。
「メイリアも成功ですね、綺麗に治療されています」
「ありがとうございますっ」
「フィールズもクリーンが出来れば、ヒールもすぐですから練習は続けて下さいね」
「ボク才能ないのかな」
「反属性を持っているから、そうなのかもしれないね」
フィールズとメイリアは同じくらいの魔力量に成長しているから、回復魔法を使う魔力量には到達しているはずなんだ。
女神のご褒美リストが二人とも2個目まで到達しており、ざっくりと魔力量が進んだかは分かるのだ。
ちなみにメイリアの女神のご褒美は「美肌(顔)」「美肌(身体)」でフィールズは「寿命(+5)」「暗視」だ。
メイリアはどんだけ美しさに磨きをかけるつもりなのか、美人というよりあか抜けないかわいらしい尽くすタイプなのに。
「三人のうち二人がヒールを使えるようになったので、ほかの属性魔法を練習しても良いですよ」
魔法の練習で怪我をしても、誰かがヒールを使えれば安心だと言われ、ヒール習得までほかの属性魔法の練習は禁止されていたのだ。
「やっと土属性の魔法を試せるね」
「光魔法はダメだったけど、ボクにもほかの属性なら使えるかな?」
「きっと使えるよ、いろいろ挑戦してみよっ」
メイリアはここでもフィールズを励ましている。ほんと夫婦になっちまえよ。
「明日は裏庭の使ってないとこで土魔法を試してみようか」
俺の提案に二人は頷き、きょうのところは解散する。
「裏庭に出たし、さっそく土魔法の練習をしよう」
「どうすればいいの?」
「回復魔法のように知識とイメージだから、ボールを作る練習をしないか」
「攻撃魔法なら弓矢のイメージじゃないの?」
「わたしもそんな気がするよ」
「矢みたいな形だと、横向きや斜めに飛んで行ったときに刺さらないし、単純な形のほうが咄嗟の時に発動させやすいと思うよ」
二人は納得したようで、せっせと球体作りの練習を始める。
硬さの違うイメージで何個か作ったら、二人から離れて的になるよう土壁を作る。もちろん的が壊れないよう、硬い鉱物をイメージしてある。
球体作りと違って体積が大きい分、結構な魔力を持ってかれた。
的を作ったことを伝えに戻ると、フィールズがまたもや凹んでいた。
どうやら土魔法の適正も無かったようで、球体すら作れなかった。
メイリアと二人で的当てしてフィールズを放置するのもなんだから、俺が水の球体を作って見せて、同じものを作るようやらせてみた。
それもダメだったみたいで、風もやらせてみたけど見えないから出来てるか分からないときた。
闇は光と同じく特殊だから、師匠が居ないと覚えれないし、闇の属性を持っている人は光属性以上に稀だから、闇魔法の習得は無理臭い。
つまり全属性持ちだけど、全属性魔法が使えない事態に・・・
残念勇者かな?
「生活魔法は高いレベルで全部使えるんだからさ、遠距離攻撃は諦めて近接戦闘で生活魔法を活用しようよ」
「どうやって?」
「敵が近づくタイミングで顔に水かけたり、火を浮かべて近づけ難くするとかさ、どれくらい遠くまで生活魔法が発現できるかやってみたら」
「早速やってみるよっ」
ちょっと元気になってよかった。
メイリアに的を見せて、土魔法で作った球を壁に向けて投擲してみる。
「こんな感じで作った球を飛ばせば攻撃魔法になるよね」
「うんうんやってみるよ」
俺も速度を魔力を変化させたりしながら的当てをしてると、フィールズの呼ぶ声が聞こえた。
「エル見てよ。こんなに飛ばせたよ!」
「おぉ、10メートルくらい離れてるね。しかもなんで二つ?」
「フィールズ凄いね、火属性魔法みたい!」
スイカ大ほどの生活魔法の
離れてるのに突然燃えるとか相手を崩すのに十分だし、火力次第で必殺技かもしれないな。
「魔物に効くかわからないけど、対人戦なら十分使えそうだね」
近接戦闘以外の手段が出来てフィールズも嬉しそうにしてる。
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