第5話 勇者?

 王立賢王孤児院はレイアム地方トーアレド地区にあり、ローゼグライム王国でも北東に位置する。

 周囲を山林に囲まれており、西側にしか開けた街道は無い。


 そんな孤児院が賢王にはハーレム要員を暗殺や誘拐から守るのに適した立地となっている。いまは訳あり児童なんかを匿う施設も兼ねているね。


「エルー、そろそろ教会に行く時間だよね。ボク楽しみで仕方ないよ」

「わたしも楽しみ」


 こいつらは赤髪のフィールズと茶髪のメイリア、いつも二人でいることが多く、俺と同い年で将来は冒険者を志望している。慣れるまで一緒に活動しようと約束もしている。


「俺も女神カード貰うの楽しみだ」


 女神カードというのは5歳を迎えたら各個人に配布するもので、女神フェルミエーナの神力で作り出されてる。

 教会の奥に50センチくらいの正方形の箱があり、その中が女神の神域とつながっており、人類誕生当初はその箱を介して様々な支援をしてたようだ。

 その一つが女神カードで、血液を垂らすことで個人を登録し、プロフィールや魔力の適性が表示され証明書として利用できる。

 もちろん強制表示の部分もあるが、見せなくてもよい部分は非表示にすることも可能だ。便利なマジカルアイテムだね。


 王立賢王孤児院では誕生月の分からない子も居るから、前年に5歳を迎えた子が新年の1月に全員で女神教会に行くことになっている。


 ちなみに6日が一週間で5週で一か月、12か月で1年となる。


「エルはどんな魔法属性だったらいい?」

「俺は攻撃と防御に使える属性が欲しいな、欲をいえば回復魔法も欲しいけど・・・」

「光属性は滅多に発現しないんでしょ?」


 フィールズと俺の会話にメイリアも参加する。


「攻撃魔法っていったら、やっぱり属性は火がいいの?」

「いや俺は属性は何でもいい、どうにか工夫して使えばいいし」

「水属性も便利だよ、飲み水に困らないし冒険するのにはいいんじゃない?火属性の適性は発現しなくなるけどね」


 属性には7種類あって、火と水、風と土、光と闇は反発する属性と考えられ、どちらか一方しか発現しない、レアケースだが反発する属性を発現した場合、どちらかが片方ほど上手く使えなかったり、どちらも弱い魔法になったりする。

 7つ目は無属性で、魔力量を増やすと【女神のご褒美】が付与され、その中にその個人しか使えない特殊な魔法が貰えたりする。使い方を説明しても、他人では魔法の発動はしない。

 適性は完全ランダムでは無く、魔力量と共にある程度遺伝の方向性はある。

 なので王侯貴族は魔力量の高い嫁を探したりと、家の魔力量維持に余念がない。嫁を増やしたり愛人が居たりする理由だ。


「考えてても仕方がないよ、なるようにしかならないんだし、カード見てから悩もうよ」


 そうこう駄弁ってる内に、大通りに面した一等地にある女神教会にたどり着いた。


 女神教会は敷地全体が半透明のドームに覆われており、これは魔物の障壁となり魔物が街に入ってきたときの避難所となる。

 平時から使う必要は無い気がするけど、女神も常に地上を監視している訳じゃないから、常時展開は仕方のないことのようだ。


「こんにちは女神フェルミエーナ教会へようこそ。どのようなご用でしょうか。」


 シスターが初めて見る子供たちに丁寧に挨拶する。


「ボク達5歳になったから女神カードを貰いに来ました」

「王立賢王孤児院から来ました」


 フィールズが目的を伝えメイリアが補足する。

 教会も孤児院も大通りに面してるから、子供たちだけで安心できる治安なのだ。一応カタリナが付き添ってるけど自発性を促す方針のようで見守っている。


 二人はいつも一緒だし、阿吽の呼吸で夫婦みたい。


「礼拝堂でお待ち下さい、カードをお持ちします」


 シスターに促され中に入ると、2列に並べられたベンチシートが奥まで続き、奥の壁にはフェルミエーナの女神像が据え付けられてる。

 天井はステンドグラスがはめ込まれ、天窓のように明り取りとなっていた。

 女神の神力が潤沢な時代に作られた建物だけあって、壁や柱に細かな細工が施され、荘厳な雰囲気が感じられた。


 あと女神像の胸は盛ってあった・・・


「お待たせしました」


 トレイにカードと針を乗せたシスターが戻ってきた。


「こちらのカードに血液を垂らしてくださいね」


 フィールズが早速血液を垂らしていたが、針をそのまま使いまわすのだろうかと不安に思ってたら、シスターが「クリーン」と呟き針を洗浄していた。

 さすが光属性持ちを集める教会だけはあるね。


 次にメイリアがカードを受け取り、最後に俺もカードに血液を垂らした。


 手元を見ると、カードの右側3分の1程にエリザリアーナ王妃に似た俺の似顔絵が浮かび、左詰めで上から「名前:エル」「年齢:5」「職業:孤児」「所属:王立賢王孤児院」「登録地:トーアレド地区」が書かれていた。


「数か月ごとに自動で更新されるし、表面は本人確認用だから変更できないけど、属性の書いてある裏面は、本人が非表示と思いながら指でなぞると消せるからね」


 裏面を見ると左半分に「父親:ガリウス・フォン・ローゼグライム」「母親:エリザリアーナ・フォン・ローゼグライム」「保護責任者:ノーマンレイ」「属性:水土光」右半分に「女神のご褒美:美肌(顔)」と書かれていた。

 女神のご褒美は魔力量の増加とともにいくつか貰えるみたいだね、空欄も大きくとってあるし。

 美肌だとニキビを気にしなくても良くなるのかな?それともニキビ跡が目立たなくなるとか?気にはなるけどまだ5歳だから実感がわかないや。


「両親がなくなっている場合、親の項目は表示されなくて、代わりに保護責任者の名前が表示されるからね」


 子供たちは自分のカードに目を向けており、シスターはフィールズの手元を凝視してた。


 見られて無いよね?セーフだよね?!

 俺は速攻で両親の名前を項目ごと非表示にした。あとついでに光属性も。


 フィールズもシスターも裏面をすごい見てたけど、なんだったんだろう。

 ここの教会は賢王時代に聖フェルミエーナ皇国の手勢を排除したから、皇国の息は掛かってないらしいけど、研修の名目で間者が入り込んだりしてたり?

「「「ありがとうございました」」」

「どういたしまして。初回は無料だけど再発行はお金がかかるから無くさないようにしてね」


 シスターにお礼を言い、教会を後にした。


 孤児院に戻った俺たちは、さっそく俺の部屋に集まり属性についての話しを始めた。


「エルは属性なんだった?」

「俺は水と土と光だよ。光は非表示にしたけどね」


 と返答しつつ女神カードの裏面をフィールズに見せる。

 反属性を除いた3属性持ちなら、ほぼ全属性持ちと言っても過言じゃないだろう。適性は優秀なようだ。


「メイリアは?」

「わたしは土と光」


 同じく裏面を見せた。どうやらフィールズは最後に言いたいらしい。


「そんでフィールズは?」

「ボクは全属性!」


 自信満々に言ってきたけど、全属性とか勇者かな?


「三人とも光属性持ちかぁ、俺は非表示にしといたけど二人はどうする」


 王家の血筋は光属性が発現しやすく、この国だけじゃなく他国でもそうらしい。

 三人とも発現したのは、どこかでエロ大王のばらまいた子種から、光属性を引き継いでるのかもしれないな。


「わたしも非表示にする」

「それがいいよ」

「ボクも非表示にしようかな」

「いやフィールズは表示したほうがいいかも」

「どうして?」

「さっきシスターがフィールズのカードすごい見てたし、光属性持ちなのは分かってるだろうから、闇も一緒に表示して大して使えないって言ったほうが良くない?」

「そうだね、ほかの属性はどうしよっか」

「一旦全部非表示にして、うまく使えた奴だけ表示したらいいんじゃない」

「そうしとくよ」

「みんなの属性がかぶってるのは土と光だから、リリアンヌに生活魔法と光魔法を教わろうよ」


 方針も決まったことだし、さっそくリリアンヌにお願いしよう。

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