第4話 野営はホワイト?

 意匠は豪華だが家紋の入ってない馬車に、8人の騎士、十数名の冒険者が俺の到着を待ち構えていた。


 そんな中俺はカタリナに抱えられ馬車に向かっていると思いきや、カタリナはジェレイミを抱えて、俺はリリアンヌという光属性に適性のある、おそらく貴族令嬢と思われる子にゆりかごに詰め込まれて運ばれている。


 さっするに俺のオムツ要員なんだろ。


 ライトにクリーンと回復魔法が使えると説明を受けたから、万が一俺やジェレイミが体調を崩した時の回復魔法や、おもらししまくったときのオムツ不足をクリーンで解消する要員なのかと推測している。


 こういう所でもきちんと必要な人員を手配してる母親はやさしい人物なのだろう。


 王都周辺ではダンジョン内部以外で野生の魔物を見ることは無いが、テイムされた魔物はいる。


 それが馬車を引くウォーホースだ。


 軍馬という意味ではなく、魔物の名称としてのウォーホースで王都のダンジョンで卵がドロップし、孵化直後にテイムをしているそうだ。


 ジェレイミも気になるのか、馬車を指さして「あきゃっ」俺も「あー」と目線を向けて、カタリナにあれは何?をしまくって説明を聞いた。

 赤子相手と馬鹿にせずカタリナは丁寧に答えてくれるから、今ではおばあちゃんの知恵袋か生き字引と化してる。


 軍馬のように威圧感のある佇まいで、御者がテイムしている二頭引きの馬車に乗って出発だ。


 御者席に御者と騎士1名ずつ、馬車の中にも騎士1名。

 他の6名は馬車の周囲を囲っていて、冒険者は半数ずつを前後に振り分けて警戒している。


 馬車の中の騎士を指さし「あー」とか「うー」とかカタリナに伝えると、騎士は馬車の最後の砦として2名が乗員しているけど、もっと詳しくと訴えると、野営があった際の、夜番が休憩するポジションだという落ちだった。


 この世界の魔物はダンジョンが明るいため、日中に活動し夜は被害が少ないらしい。

 ただ夜行性の獣もいるため、火を絶やさない程度で良いが、夜の見張りは必要になっている。

 最後の見張り番になった人は馬車で休憩するというシフトを組んでいるみたい。ホワイト?な環境だね。



 すでに王都から離れているが王都はグライムと言い、一部の周囲に薔薇が自生していることでローゼグライム王国となっている。


 いま俺とジェレイミは、持ち上げられ車窓から薔薇の鑑賞をしている。


 相当数が群生しており、一面に咲き乱れる様はとても美しく、枝が複雑に絡まりあって、天然の防壁になっており魔物の被害を減らす一助になっていると感じた。


 生後4か月ごろ、少し早いが俺は離乳食になっていた。なぜならカタリナの母乳が止まったからだ。


 なので俺の食事は、保存食のパンをあらかじめ水に浸して置き、少し塩を振ってパンを崩した薄味パン粥っぽいものと、やわらかい果物だ。


 街や村に立ち寄るたびに俺の食料を買うのに苦労を掛けるね。ありがとうカタリナ、ついでにリリアンヌ。


 多数の戦闘集団に、8人の対人戦のプロフェッショナルを抱えた集団は、盗賊団の襲撃も受けず、散発的な魔物の襲撃は受けたものの大きな被害もなく、無事目的地に到着した。


「エル様、ようやく王立賢王孤児院のあるレイアム地方トーアレド地区に到着しましたね」

「おー」

「あきゃっ」


 カタリナに抱えられた俺は軽く返事をし、カタリナの夫に抱えられたジェレイミもご機嫌の様子がうかがえる。


「リリアンヌも孤児院の職員として、きょうからお世話になりますね」

「はいっ、カタリナさんよろしくお願いしますね」


 出発前は固い印象だったリリアンヌも、カタリナと打ち解けたみたいで表情もずいぶんと柔らかくなっている。


 リリアンヌは茶系で明るめの色合いをした髪で、全体的に小柄なスタイルの華奢な印象だ。

 道中はライトにクリーンと何度も魔法を使ってくれてたので、俺に光属性の適正があったら魔法を試してみたいと思った。

 回復魔法は見る機会が無かったので、ぜひ教えてもらいたいものです。



「では我々は代官殿に挨拶し、領主館で一泊後、翌日には王都に出発します」

「おー」


 ご苦労様の意味も込めて返事をする。挨拶は大事だね。


 カタリナの夫を除く騎士たちは、馬車の返却も兼ねて7名が乗り込んでキツキツだが馬車でささっと帰路につくそうだ。

 俺の体調を鑑みて、騎士だったけど徒歩かちだったのかと思ってたが、帰りに全員馬車に乗るから騎乗してこなかったみたい。


 二頭引きのウォーホースは大人が8人乗っても大丈夫なのか。


 冒険者は片道契約で到着時に門のとこで依頼表にサインをしてたから、今頃は報酬をもらって酒場に繰り出している事だろう。

 王都の護衛を商隊から受けたり、ここにもあるダンジョンの探索をしたりと、それぞれのやり方でこれからの生活を送ると思う。


 カタリナの夫は代官に雇用されるため、今夜は一家で過ごし翌朝の勤務で着任の挨拶をする予定で、ジェレイミを連れて宿舎に向かっている。


 俺を送り届ける責任者は王妃直任のカタリナだから、リリアンヌを連れて王立賢王孤児院の院長に挨拶へ向かう。


 孤児院は教会に併設されたこじんまりとした施設ではなくて、大貴族の屋敷を改良した立派な造りになっていた。装飾は華美ではなく、内部の調度品も質素過ぎない頑丈な物で長期に渡って使えるものが選ばれているようだ。


だだだっだだぁーあこれ絶対エロ大王のハーレムだよね


 叫ばずにはいられないのは仕方ないでしょ。


 今では俺みたいな第一子の双子の片割れとか、侍女のお手付きとかを母子と共に受け入れている。


 貴族の嫡男だと僅かな産まれの差で、当主と予備という大きな格差が生まれるから双子を否定するのはよくわかる。

 年齢に差があれば、努力次第で弟達に次期当主の格の違いを見せつけることが出来るしね。

 俺の場合は王子だから、担ぎ手次第では国が割れるから廃棄王子もやむなしだよね。


 エロ大王の時代じゃないから、王侯貴族の訳あり孤児ばかりじゃなくて、娼館の私生児や、魔物討伐で親が命を落とした孤児とかも受け入れている。

 王家がお金を出して運営している孤児院ではあるが、一般的な孤児院とさほど違いは無いようだ。


 貴族の訳あり孤児を受け入れる場合は、けっこうな寄付金が求められるらしいけど・・・


 そんな考察をしつつカタリナに抱えられて執務室っぽい扉を叩くと、くぐもったバリトンボイスで「どうぞ」と返事が返ってきた。


「失礼します」

「ようこそいらっしゃいました、王立賢王孤児院の院長ノーマンレイです」

「あー」


 一応俺も挨拶をしておく。


「王妃様より依頼を受け、エル様をお届に参りましたカタリナと申します。そしてこちらはシスターとして住み込みで働くリリアンヌです」

「よろしくお願いします」


 カタリナに続いてリリアンヌも挨拶をする。


「シスターリリアンヌは光属性と聞いております、孤児院で働くことは良い選択だと思いますよ」


 やさしい声音で院長が返す。


 回復魔法まで到達している光属性持ちは少なくて、特に市井ではあまり見かけない。せいぜい医療関係に勤める人達くらいだ。


 その為、女神教会を拠点にする聖フェルミエーナ皇国では回復魔法使いをお金稼ぎに使っており、権威を高めるために光属性持ちをあの手この手で勧誘し、ひどい場合では誘拐沙汰にもなったりする。


 王侯貴族には回復魔法まで至る人材は多く、国威と権力で皇国の勧誘を跳ね返しているから安心なのだが、低位貴族や妾や愛人の子までは守り切れず、問題になることが多々ある。


 女神の恩恵を受けるため教会の力を借りる機会が多く、生活に欠かせない面もあるため、勧誘を拒否しずらいのだ。


「カタリナさんは通いになるのですよね?お三方をお部屋に案内致します」


 と告げると、侍女服を着たシスターを呼び、この人もカタリナみたいに訳あり孤児の監視役かなぁ?と思いつつ、俺の部屋まで案内してもらった。


 訳あり孤児を監視するのは最初の就職か婚姻までで、孤児院ハーレムでひとまとめにしたとはいえ、エロ大王の子種がそこら中にまき散らしてあるから、俺の場合は冒険者になるつもりだから冒険者登録したらカタリナもお役御免となる。

 他の貴族が養子にしてお家乗っ取りとか企んだりしないように、言い訳の立つ所まで追跡するためらしい。

 冒険者のエルであって、王家に産まれた人物では無い。とかね。



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