第2話 産声?
「陛下、生まれました。安産だったそうです」
「そうか待ちかねたぞ、さっそく見に行こう」
本棚や書類が多数あり、豪華な装飾のされた机に就いた威厳のある銀髪の男はそう言った。
「王妃は無事だったのか?」
「出産を終え、今は休まれておいでです。ただ、問題が一つ・・・」
「なんだ?」
「いえ・・・ここでは何ですのであちらで・・・」
そうかと呟き、国王ガリウス・フォン・ローゼグライムは執務室を後にした。
少し時は遡り分娩室にて。
「エリザリアーナ様、もうひと踏ん張りです、いきんで下さい」
王妃がいきむと助産師の手により赤子が受け止められる。
「産まれました!ですが泣きません!」
へその緒を処理した助産師は、赤子を侍女に預け尻を叩いて泣かせるか、呼吸の有無を確認するよう指示をだす。
「王妃様、おなかの中にはまだ居ます!もう一人の出産を続けます!」
出産と泣かない子、喜びと不安、死産の恐怖を抱え、再び出産の痛みに耐える王妃。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「おめでとうございます。玉のように元気な赤ちゃんです、出産お疲れ様でしたエリザリアーナ王妃」
「初めに生まれた子も呼吸を確認できました、二人とも男の子です王妃様」
「ありがとう、皆のおかげで大義を果たせました、ご苦労さまでした。しかし双子でしたか・・・子供を見せてください。」
産まれたばかりで皺くちゃな顔立ちだが、私に似た金髪の子と陛下に似た銀髪の子がそこに居た。
泣かなかった子、元気な子、愛する陛下に似た子、私に似た子、初産であったが王家を継ぐ子を産んだ喜びと心地よい疲労感、そして双子であった不安。
さまざまな感情に整理をつけ人心地ついていると陛下が現れた。
「エリザ無事か?」
「はいガリウス、元気な子が生まれましたよ」
陛下にやさしく微笑む。
権力で外堀を埋められてはいたが、幼馴染でもあり愛し合い仲の良い一つの夫婦であり、公務でない二人の時間では互いを名前で呼び合う気安い関係であった。
「しかし双子か・・・」
ガリウスが悩ましく呟く。
女神の配信スペースから追い出され転生と相成った俺は、なにやら頭や体を締め付ける窮屈な隙間を通り、明るい空間に出たら尻を叩かれてた。
「先生、この子叩いても泣きません!」
金髪の赤子を縦抱きにしながらお尻を叩く侍女は報告する。
すまんな美しき人よ(まだ見えてない)女神の神域での出来事をどこまで覚えてるか思い出してるんだ、時間が経って忘れてしまわないようにしたいし、状況把握もしたいしで産声を上げるのは少し待ってくれ。
しばらくすると赤子の鳴き声が聞こえ、俺も羊水が口に入ってたのか咳き込んだことで、呼吸をしてることが確認でき尻叩きから解放された。
「エリザ無事か?」
「はいガリウス、元気な子が生まれましたよ」
相手を気遣いお互いにやさしい声で話す夫婦の会話が聞こえてきた。
「しかし双子か・・・」
ガリウスの呟きにエリザリアーナが返す。
「いいじゃありませんか、あなたに似て元気な子ですよ」
俺は泣いて無いけど、かーちゃんフォローありがとなっ。
それよりも双子って拙いの?忌み嫌われるとかある世界観?泣かなかった俺は何かしらの処分されちゃうとか?
「王家には銀髪が相応しいのは理解してるな」
「はい、もちろんです」
「では銀髪の子は第一王子とし、金髪の子は「ガリウス、賢王孤児院へ」」
エリザリアーナが言葉を被せる。
「そうだな、あそこなら王侯貴族のようには暮らせずとも、ほかの孤児院より安心できるな」
二週間ほど経つと周りの状況も少しは見えてくる。
俺たち双子には、それぞれ乳母が付けられ銀髪の弟、名をウイリアムといい、
乳母も高貴な血筋に連なる人が看ているようだ。
ちなみに俺には名前はまだない。孤児院行きが決まっていると乳母も身分の低い人で待遇の違いを物凄く感じる。
おっぱいはちゃんと出てるから食事の差はついて無いと思う。赤子目線だけど。
「カタリナ、あなたはこの子と一緒に賢王孤児院へ行ってもらいます」
「畏まりました」
カタリナとは俺担当の乳母さんだ。
「遠い地になりますので、主人も一緒によろしいでしょうか?」
「そうね、賢王孤児院は王家直轄領。代官に騎士に取り立ててもらうよう書簡を認めますね」
「ありがとうございます。一家で引っ越すことにします。賢王孤児院のことをお聞かせ願えますか」
乳母さんも家族ごと孤児院のある地へ引っ越すことになり、乳母一家は俺のうーばーい・・・おっとこれ以上はいけない。
赤子で放り出されたら食事で詰むと思ってたから、これで俺も一安心だ。
どんなところか分からないけど賢王と名の付く孤児院生活となるなら、衣食住そろっているだろうし当面は大丈夫だろう。
「それとこの子の名前はエルにしましょう」
「何か由来がございますか?」
「気の早いガリウスが、男の子ならウイリアム、女の子ならエルリアーナにするといって指輪まで作っていたのよ」
王侯貴族や有力者の中で、女神フェルミエーナにあやかり何々 ーナと名付ける風習があり、女児全員につけると身内や周囲とも名前がかぶりすぎるので、特に長女に名付けていた。
「男の子だけどエルリアーナからエルを取って名を与えたから、女の子が生まれても女神様にあやかった名付けはしないようにガリウスの伝えておくわ。それにエルならどちらの文字も女神フェルミエーナ様からあやかっているわ、きっとこの子にも幸運が舞い降りるに違いないわ。」
父親はともかく母親は俺のことを大事に思ってくれているようだ。
「だからガリウスの作ったエルリアーナの指輪も、お守り代わりにエルに持たせましょう」
そう言って金糸で縁取りされた小さな巾着みたいな革袋に指輪を入れ、あかないように入り口を縫い合わせ、長さに余裕のある皮ひもを俺の首から下げた。
王立賢王孤児院。
名に薔薇を冠したここローゼグライム王国では、数世代前に賢王と言われる名君が在位しており、賢王の采配により農業改革、内需拡大、国力増大、貴族間の力を削ぎ王家の力を強め、周辺国との難しい関係もローゼグライムに有利な形で決着をつけるなど、名君たらしめる逸話は数多くある。
しかしながら、たった一つ欠点があった。
女性関係にだらし無いところだ。
それは王立学院時代から始まり、婚約者のいる女性を口説き、真実の愛とやらで本人から婚約破棄をさせ自分のものにする。
とうぜん王城に行儀見習いで出入りする貴族子女にも手あたり次第に手を出して、当時の貴族間は大混乱に見舞われた。
王が急逝して若くして王位に就いたため、内政政策などで実績を上げていた事から多少の火遊びは見逃されて、王家の権威が確固たるものになる頃合いには王立孤児院を建立し、婚外子は王族から外し母子とともに孤児院での生活を行わせた。
婚約破棄に見舞われた多数の貴族は、王族から外すという不満を、領地替えや加増など経済的に向上する策で懐柔されていった。
ここ王立孤児院のある僻地もそんな貴族がもともと治めていた領地であった。
そんな名君が没後に。賢王の名が追加され王立賢王孤児院と正式に呼ばれるようになった。
いやそんないい話し風に言われてもエロ王が大暴れしただけのことじゃないの?!
内需拡大とかは見事だけど、外交優位とか子供の残弾が多数あったからだよね?婚姻政策でいっぱい送り込んだとかの落ちじゃないの?
婚約破棄からのハーレムエンドで後始末もそつなくこなすとか、どんなイケメン王だよ。教えてエロ大王。
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