転生冒険者?~ぼっち女神の使徒に~

黄昏

1章

第1話 異世界召喚?

 ブラック企業に勤める初老も目前のしがないサラリーマンだが、この週末、長らく放置してた部屋の掃除をしようと休日出勤を早めに切り上げて帰路に立っていた所、目の前で信号待ちをしている部活帰りの学生とマネージャーっぽい集団が居た。


 その足元に突如魔法陣が浮かび上がり光に包まれた。


 俺のところまで魔法陣は伸びて来ていないことに安堵しつつ、右端に避けつつ信号待ちをしていたら、突然の衝撃がっ?!


 えっ、トラックにでも跳ねられた?!


 そりゃ交差点で眩い光を見たら目もくらんで、運転をミスるよね・・・。

 そのまま光の中に飛び込んで、俺の意識は途絶えた。





「そこの異世界の魂、いいかげん起きなさいっ」


 真っ白な空間に美しい女性が佇んでいるのが見えた。ふわふわとした長い金髪で欧米人のような顔立ち、すらっとした体型に張りのある腰つき、ついでに言うと胸元もすらっとしてるな。


「ここは・・・」


「ここは神域、私の生活空間ね。あと胸元すらっととか言うな!」


 どうやら魂だけの存在になったから、考えていることが筒抜けらしい。


 殺風景なとこで生活してるのかと周囲を、というより後ろを見ると、っていうか体が無いから周囲を見るように意識すると、後方に椅子やテーブルといった家具があり、なんなら炬燵と食べ散らかしたミカンや煎餅の跡がある。

 俺の背後だけ生活感ありまくりだ。


「ここだけ配信スペースかよっ」


「仕方ないじゃない私だって生きてるのよ。もっと女神らしく厳かな空間で生活したいけど、いまは神力が不足して最低限の生活なの。僅かな神力は人間の為に使ってるし、あんまり余裕が無いの」


 こんなグリーンバック擬きのスペースで神様活動をしているらしい。ついでに力不足の女神様のようだ。


「私だって神力に余裕があれば、配信スペースと生活空間を分けたいわよっ」


 配信スペース言っちゃってるし。


 とにかく話しを聞いてくと、勇者召喚は召喚元と召喚先にはいくつかの世界で隔てられており、世界を渡るたびに何重にもなる魔法陣の障壁が、玉ねぎのように剥かれていき、ようやく召喚元にたどり着くらしい。

 俺はトラックに跳ねられた衝撃で横向きに魔法陣に飛び込み、その防御壁の中途半端なとこに押し込まれ、何重もの障壁に体を刻まれたことで死亡し、魂だけが通過するだけの途中の異世界へたどり着いたらしい。


「死因が障壁ギロチンってどんなだよ・・・」


「大丈夫、頭だけは無事召喚元にたどり着いてるから」


「異世界召喚で混乱してるとこに、俺の生首とご対面とか勇者達にはホラーでしかないわっ」


 すまんな召喚勇者諸君、俺の頭がご迷惑をかけます、合掌。


「可哀相だから私の世界に転生させてあげるわよ。魔法の存在する世界だから地球人心をくすぐるでしょ。それに勇者召喚の魔法陣を通ったから、アイテムボックスが魂に刻まれててもったいないし、輪廻の輪に送るとクリーンな魂になってから地球の何かの生物に転生するからアイテムボックスも無くなっちゃうしね」

 

 どうやら異世界召喚陣の捕らわれると、定番の異世界言語、鑑定、アイテムボックスと個性に合わせた固有能力が魂に刻まれるらしい。その中で俺はアイテムボックスが刻まれるタイミングで通過したらしく、ほかの能力は付与されて無いそうだ。残念。


 前世、いやまだ転生してないからまだ今世のロスタイムか?

 とにかく今世の俺は母親一人、子一人の母子家庭で育って、お金で苦労したから勉強は頑張っていた。その甲斐あっていい企業に就職は出来たが、何年かしたら母親が若年性アルツハイマーを発症して俺しか面倒を見る人が居ないから、やむなく介護離職をして最後を看取った。いい企業に就職してたからその時の貯えで生活は出来たが、さすがに介護と葬儀で貯金もかつかつ、早期の就職を望んでいきつく先はブラック企業だったのだ。


 後ろ暗いことのない人生ではあったが、人生を楽しんだかと言うとそうでは無いと思う。青春は勉強に、就職してからも趣味に時間を使うことも無いし、女性と楽しく過ごすことも無かった。

 介護に時間を取られ、その後はブラック企業に時間を食われ、そのまま人生終了したしな。

 そう考えると魔法の有無を無視しても、新しく人生を始める事はとても魅力的に見えた。


「転生でお願いします」


 これ一択である。


 転生前に世界のあれこれを訊ねたら、有益な情報1割、愚痴や雑談9割の女神トークをかまされた。愚痴交じりの会話だとすごい長い時間に感じられ、まるで愚痴地獄なのか?って思うくらいの体感時間だった。体無いけど。


 この女神物凄いおしゃべりだ。話し相手居ないのかな?


 女神の名前はフェルミエーナ、新米女神で主神から世界を管理する認可を得て、ヘイムラムという世界を創造したそうだ。進化の過程をすっとばして直接人類を創造したから、知恵や技術と言ったものが全く無い状態で放置するわけにはいかず、世界のあちこちに女神神殿を建立し一時的な生活拠点を作り、神託でリーダー的存在に説明や助言を適宜行っていたそうだ。サポートアイテムもいろいろ神力を使って用意してた。


 そりゃ裸で生まれてくるから服やら何やら必要だもんね。


 その後、友人の混沌神から新任祝いにダンジョンの種を蒔かれてしまった。

 ダンジョンは試練でもあるが資源でもあり魔物を排出し、危険ではあるが女神の助けになると混沌神は言っていたそうだ。


 そのダンジョンが芽吹き魔物が世界中に溢れ、人類は一気に数を減らした。


 女神も人類を助ける為に、自分の力で作った女神神殿を起点に魔物を遮る障壁を発生させ魔物から人類を保護したが、人類が減った上に女神を見限る人も現れフェルミエーナは力を大きく低下し、神託すら降ろせなくなった。


「そういう訳だから、転生したら私の神力回復するような活動してねっ。無理にとは言わないけど」


「どういう訳だよっ、女神の使徒ってこと?」


「今の私に使徒を作る神力は無いよ。でも使徒っぽく活躍してね」


 どないせいっちゅうんじゃ・・・


 詳しく聞くと個人で出来ることは魔力を高める事、女神フェルミエーナの名を敬意をもって呼ぶこと。


「簡単でしょ?魔力を高めると私からのご褒美もあるから、無理そうなら自由に生きてもいいけど覚えておいて欲しいな。それじゃがんばってね」


「いや魔力を高める必要があるなら、せめて魔法に適性のある子に生まれさせてくれっ」


「大丈夫、みんなに私を崇めるよう人々を指導出来る立場に転生させるし、魔力の適性のある子に生まれさせてあげる。神力はあまり無くて下界に影響を与える力は弱いけど、神域の中でなら十分な力をふるえるわ」

「器に納まっていないむき出しの魂では、神域内の私の力で保護する前に崩れた部分はどうしようも無いわね・・・綺麗な魂になるよう少しだけ私の力で補ってあげるわ・・・


 最後に何やら不穏なセリフが聞こえた気がしたが、そのまま意識が遠のいていった。





 そんな俺5歳は、いま孤児院で暮らしてる。


 人々に指導出来る立場ってどこいった?

 いやどうしてこうなったか分かってはいるんだが言わせてくれ。


「どうしてこうなった?」

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