第9話 先が見えない、終わりなき介護
あれから、数か月
とある廃アパートの一室に、クリオはベッドの上に横たわっていた。
メンバー達が、入れ替わりでクリオの面倒を見ていた。
クリオは、意識が戻ったものの完全に戻ったと言える程ではなく、ましてや
いっこうにリハビリすら進んでいなかった。
「おい、飯だ!」
ルーが、クリオのリクライニングベッドの上半身を起こす。
「大丈夫か? まだフォークも握れないよな?」
「・・・」
クリオは、目が開いているのにも関わらず、心ここにあらずのように無言であった。
ルーは、離乳食並みに、やわらかい料理をスプーンですくって、クリオの口元に運ぶ。
クリオは、口が開かないのか開けられないのか、口を大きく開く事はなかった。
少ししか開いていないクリオの口元へと、ルーは根気強く少しずつ料理を運んで行く。
ルーは、食べさせながらクリオに問いかけた。
「今日は、スプーンやフォークを握る練習でもするか?」
そうクリオに対して話しかけるも、クリオは依然として無反応であった。
ルーが作ってくれた料理を、クリオは完食することはなかった。
ルーは料理を片付け、ボーっとしているクリオの手にスプーンを持たせようとする。
も、クリオの手には力が入らないのか、力をいれていないのか、すぐに手のひらスプーンを落としてしまう。
依然としてクリオの目は、開いているのにも関わらず遠くを見つめ、いつも死んだ目をしていた。
20分ほどスプーンを握る練習を行ったものの、なんの成果も得られないままルーは、クリオのやせ細った全身を温かいタオルで綺麗に吹き始めた。
そして最後にオムツを変え自分の仕事に戻る為、クリオの部屋をあとにした。
さらに数か月後
メンバー全員が、久し振りにクリオがいる廃アパートへと集まった。
「おっさん、全然回復しそうにないな」
「あれだろ?おそらく鬱病だろ?」
「最低でも歩けるようになるまで、3年はかかるって言ってもな、こんな調子じゃ5年経っても、ろくに一人でスプーンも持てやしねー」
「俺だってもう、うんざりだ」
「いっこうに回復しそうにないし」
「いっその事、施設にでも入れたほうが、ええんちゃうか?」
メンバー達が愚痴を叩いていると、ずっと沈黙を守っていたキャプテンのディークが突然、口を開いた。
「ふざけるな、おまえら!」
「いい加減にしろ!」
「俺達がここにこうしていられるのも、あいつのおかげなんだぞ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
キャプテン以外のメンバー全員が返す言葉もなく一斉に沈黙する。
「何がなんでも俺達の命に代えて、あいつを復活させて元に戻してやらないと!」
「施設に入れるなんて言語道断だ!」
「入れたところで、すぐに警察が迎えにくるのが目に見えてる」
「とにかく今は、リハビリもそうだが、受け答えが出来るよう意識をちゃんと戻す事が先決だ!」
「それに意識がないまま、リハビリしたって何の意味もない!」
「とにかく目が開いている、あいつの目を目覚めさせるんだ!」
「リハビリはそれからだ!」
「あとリレオ、おっさんの身分証も偽装しといてくれ。そして年齢や経歴も改ざんしといてくれ」
「まだまだ先だが、いずれ意識が戻り、体が動けるようになったら、自立させ自分で稼いで暮らせるように必ず社会復帰させる」
「それまでは、俺たちも仕事をやりながら、あいつが復帰出来るまで辛抱だ」
「何がなんでも、あのおっさんを見捨てるな」
「だな、キャプテンの言う通りだな」
さらに数か月後
「なぁキャプテン、口の堅い心療内科の院長先生を探して、見てもらわねーか?あのおっさんの事」
「俺もそれは考えたんだが、やはりダメだ。どうしても・・・」
「だよなぁー。せめてチームに医者がいればよかったんだけどなぁ」
「やっぱりキャプテン、今のあいつに会わせて見ないか?」
「いや、危険すぎるだろ」
「でもなぁ、このままならなんも変わんねーぜ」
「一応、俺、探し出して接触してみるよ。何かが変わるかは分からんが、流石にもう他に手の施しようがない」
「わかった。一度だけ会わせてみるか。頼む!」
数週間後
キャプテンとルーは、クリオをエアカーに乗せ都心のとあるところへと向かった。
車の後部座席に車椅子ごと乗せられたクリオは、相変わらず外を見ることもなくボーっと死んだ目をしていた。
そして、とある待ち合わせ場所に到着すると、そこには真っ白なワンピースに身を包んだ黒髪でミディアム風の髪型をした美しい美女が待っていた。
到着するや否や、キャプテン達のエアカーに乗り込み、クリオの横に座る。
「いやー、すまんねー、忙しいとこ」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
そう答えながら、女性は隣にいたクリオに目をやる。
クリオは女性が乗り込んだ事すらもわからなかった。
キャプテンらはエアカーを2時間くらい飛ばして、ある所へと向かい、心当たりがありそうな5か所くらいを見て回った。
だが、依然としてクリオには、何の反応も得られなかった。
「じゃぁ、これで最後だ」
数十分後、とある住宅街に辿り着いた。
女性が
「あそこです」
というとキャプテンがエアカーを地上の住宅街へと下した。
エアカーを物陰に隠しルーは操縦桿がある運転席の方へ移動し、キャプテンはクリオをエアカーから下し車椅子に乗せ、女性と共に指差した家まで歩いて行った。
その家の前でクリオに、その家を見せると、今までボーっと焦点が合わず死んだ目をしていたクリオが、ゆっくりと顔を上げ目から涙をこぼした。
クリオの涙を目にすると、女性も涙ぐみながら車椅子のクリオを正面から優しく抱き寄せた。
「大丈夫、あなたなら絶対、立ち直れるわ、私が言うんだから絶対間違いないわ!」
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