第5話 命を繋ぐ見知らぬ たくさんの救世主達






 クリオがビルから飛び降りた瞬間、背後から一人の若い青年がクリオのあとを追って躊躇なく飛び降りた。






 そして、ビルの側壁を猛ダッシュで駆け降りるかのように、落下中のクリオを勢いよく追いかける。








 落下中、空中を走行中の車両のボンネットに凄まじい音を立ててクリオが激突し、振り落とされそうなったクリオを若い青年が、ここぞとばかりにクリオに両手を伸ばしクリオを抱き寄せながら、またもや頭から落下する。







 二人は地上に停車中のタクシーの屋根に落下し、それぞれ地面へとバラけた。







 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」







 タクシーを降りた直後と思われる女性が、狂ったかのようにわめき叫ぶ。






 その現場を目撃した通勤中の男性らが






 「おい、人が空から落ちてきたぞ!」







 「しかも二人も」







 「早く救急車を・・・・」






 「二人とも意識がない、誰か早くAEDを!」






 「AEDが来るまで人工呼吸だ!」






 「誰でもいいから手伝ってくれ!」








 数分後








 サイレンを鳴らして、救急車が到着した。







 すぐさま隊員が降りて来た。








 「二人とも意識はありますか?」








 「いえ、見ての通り多分二人とも意識はありません」






 「他に、お怪我をされている方は」






 「むこうに車の所有者が!」






 「そうですか、怪我をされている方の救急車の方は?」






 「はい、もちろん電話で伝えてあります。」







 「ありがとうございます」






 「こちらの、お知り合い方は、どなたかいらっしゃいますかー?」







 「いえ、空から降ってきたんで、多分いないと思います」







 「すぐに病院へ運びます」







 「他の救急車も、それぞれ、まもなく到着するかと思います」






 「わかりました」






 「隊員1名は、現場に残り、救護活動の方を行いますので、ご安心下さい」







 「よろしくお願いします」







 「救命活動、ご協力ありがとうございました」






 たくさんの通行中の人々が、救急車到着まで、救護活動や救急車の手配をしくれた。






 クリオは、一番最初に到着した救急車に乗せられ、サイレンとともに病院へ向かった。






 その後、若い青年も救急車で違う病院へと運ばれた。






 エアカー(自動運転)に乗車していた人は、怪我は、無く無事だった。






 屋根を潰されたタクシーは、無人で怪我人はいなかった。

 しかしタクシーを降車したばかりと思われる女性客は、二人の落下の瞬間を目の当たりにしてしまい、幸いにも怪我は無かったものの、PTSDの要因があり、あとから到着した救急隊員が対応にあたっていた。






 あたり一面には、救護活動を行った人達以外にも、野次馬や動画を撮影している者、心配そうに見守る者や素知らぬ顔で去っていく者もたくさんいた。






 激突された走行中の車両のボンネットとタクシーの屋根は、凄まじいほどに凹んでいた。






 翌日







 スーツ姿の男二人が、救急治療室を訪れ治療室のドアをノックした。







 「どうぞー」






 上司思われる男がノックをし、部下らしき人物が上司と思われる背後から一緒に集中治療室に入ってきた。







 先に入ってきた上司と思われる男は、控えめなリーゼント風の鋭く厳つい目をしていた。




 そしてもう一人は、その部下と思われる七三分けをしている爽やで、優し気な男だ。




 「先生を呼んできますね」




 看護師がそう言うと、イカつい男は何も言わず、クリオの様子を伺う。




 数分後、クリオの担当医になったであろう先生が治療室に入ってくる。




 「容体の方はいかかでしょうか?」





 上司と思われる方の男が、先生にクリオの様態を訪ねた。




 「えー、意識は回復傾向にありますが、まだ骨折や全身打撲で動ける状況ではありません」




 先生が続ける。




 「恐らく完全に動けるようになるには、リハビリ期間も含め、最低でも3年から5年はかかるでしょう」




 「そうですか」




 「ですが、もう意識は回復傾向にあるんですよね?」




 「いえ、回復傾向にあると言っても、今の段階では、はっきりと断言は出来ません」




 「というのも、もし脳に重度の損傷があり障害が出るようでしたら、このまま半身不随、もしくは下半身不随、植物人間になりうる可能性も」




 「いずれにせよ意識が戻った時点で、脳の精密検査を実施する予定です」




 「そうですか、わかりました」




 「それでは先生、もしこちらの患者の意識が戻り次第、すぐにお電話下さい」





 そう言うと、上司らしき男は、内ポケットから名刺入れを取り出し、名刺を先生と看護師に、それぞれ一枚づつ差し出した。




 男二人は、会釈程度に軽く頭を下げ、病室をあとにした。



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